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環境技術 2017


環境技術学会・月刊誌「環境技術」 2017年 特集概要
       目 次 総目次-分野別-
 1月号  2017年 環境行政展望
 2月号  嫌気性菌による原位置での環境修復への展望
 3月号  環境・エネルギーから考えるこれからの建築
 4月号  珪藻類が指標する様々な環境
 5月号  琵琶湖淀川水系における地下水資源の持続可能な利用を目指して
 6月号  海外の廃棄物処理の動向
 7月号  室内空気汚染の低減対策と規制の動向
 8月号  東アジアの環境研究動向 ー大阪市・ソウル特別市・北京市の研究者の協働を例として
 9月号  防災と情報通信・ロボット技術
10月号  浅場機能の復元・再生・創出を目指した環境配慮型構造物
11月号  人工湿地による水環境保全
12月号  生物分布調査における環境DNA 分析の可能性



1月号    2017年 環境行政展望
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2月号    嫌気性菌による原位置での環境修復への展望
編集 名古屋大学・片山 新太、高見澤 一裕

 大気汚染や水質汚濁と比較して、健康被害が生じにくいことから土壌地下水汚染の浄化が最も遅れており、今後も多くの汚染サイトの浄化が必要と考えられている。微生物の触媒能力を用いた土壌地下水汚染浄化技術は、掘削除去が難しい地下水帯を原位置で浄化することができる安価な浄化技術として期待されている。特に、嫌気性菌による有害有機物の分解は、一般的に酸素がほとんど含まれない地下水帯に酸素を供給することが不要であることから浄化技術として期待が大きい。
 微生物浄化技術は、(1)地下水帯に土着の微生物群による汚染物質の分解(自然減衰)、(2)栄養源注入による土着微生物の活性化による促進分解(バイオスティミュレーション)、(3)栄養源注入とともに分解微生物も加える促進分解(バイオオーグメンテーション)の3つのタイプに分けることができる。汚染化学物質を浄化する微生物に関する研究は、好気性菌・嫌気性菌とも数多く実施され、微生物の分類学的位置、化学物質分解経路と関与遺伝子、分解活性に必要な条件等が明らかにされてきている。嫌気性菌は増殖に時間を要することから、嫌気地下水帯の浄化にバイオオーグメンテーションは有効と考えられる。しかし,浄化技術としては栄養源注入を行うバイオスティミュレーションによる浄化技術が広く用いられつつある一方で,現位置に機能微生物を補填するバイオオーグメンテーション技術は実施例も少ない。
 本特集では、嫌気性菌による原位置での環境修復におけるバイオオーグメンテーションに着目し、原位置での環境修復に有利な嫌気性細菌の利用を巡り、有用菌の取得安全性評価大量培養浄化速度予測およびバイオオーグメンテーションの事例に関して、現状を解説するとともに、今後の嫌気性菌による原位置環境修復技術の展望をまとめた。

(執筆者) 大阪大学・池 道彦〜微生物によるバイオレメディエーション利用指針/(独)製品評価技術基盤機構・山副 敦司、他〜メタ16S解析によるバイオレメディエーションの微生物動態把握/東京大学・栗栖 太〜メタン生成条件におけるベンゼンの嫌気的生物分解 /(独)製品評価技術基盤機構・内野 佳仁〜嫌気性脱ハロゲン菌の取得/名古屋工業大学・吉田 奈央子、他〜嫌気性菌の大量培養と浄化期間の予測/大成建設技術センター・高畑 陽、他〜ベンゼン汚染地下水を対象としたバイオレメディエーション技術/栗田工業(株)・奥津 徳也、他〜塩素化エチレンを対象とした嫌気性バイオレメディエーション技術

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3月号    環境・エネルギーから考えるこれからの建築
編集: 元(国研法)産業技術総合研究所・本庄 孝子

  パリ協定で日本は2030年までに、2013年比26%二酸化炭素削減を約束し、その中で民生部門は約40%のCO2排出量の削減が割り当てられた。省エネルギーはオイルショック以後、産業や交通では様々な検討がなされてきたが、住宅では太陽光発電等装置などに限られてきた。住宅関連(以下、住宅)の消費エネルギーは現在、以前に比べ2割ほど増加しており、この省エネ化は緊急の課題である。住宅の省エネ基準が、2013年に変更され、以前よりも厳しくなった。新築の場合2015年度から完全施行となり、2020年には義務化になるといわれている。本特集では、住宅・建物の省エネ対策の提案や事例を紹介している。
 (1)建築分野の低炭素化を促進する世界的枠組みとして、SDGs とパリ協定を指摘。環境負荷L(CO2排出量)の削減と同時に環境品質Q の向上を図るべき。日本の場合住宅の断熱水準の改善が喫緊の課題である。これを進めるための方策として、断熱水準の向上がもたらす健康面の改善というコベネフィットに着目することが有効。
 (2)近年、日本国内において、ネット・ゼロ・エネルギー住宅の普及促進が図られている。経済産業省の補助事業として、大学と民間企業の連携によって実際にZEH を建築・展示する「エネマネハウス・プロジェクト」があり、次世代住宅を体感する稀有な機会として、次代を担う学生教育という観点からも優れた試みとして評価されている。
 (3)環境配慮住宅の提案、整備に対する取り組み事例は多い。一方、住まいを考えるとき、暮らし方、居住文化との関係を考えることが重要であり、関西では伝統的な暮らしをベースにした施策展開も図られている。さらに、琵琶湖は広範な下流域の水資源として活用され、水質保全の意識の高さにつながっている。居住文化と水資源の保全という観点で環境配慮の取り組み例を紹介。
 (4)スマートコミュニティの事例として、街全体でのエネルギー自給自足に取り組む晴美台エコモデルタウンについて紹介。2015年度において街全体のエネルギー創出量が消費量の1.28倍であり、エネルギー自給自足を達成。
 (5)エアコンの設定温度を緩める、不要な照明を消すなどといった家庭での住まい方に係る「すぐにできる行動」による節電効果を指摘。気象条件、家族構成、住宅の断熱性能、部屋の広さ、エアコンの性能といった電力需要に影響を与える様々な条件を考慮したシミュレーションモデルを用いて、世帯間の節電効果の差異を明示。

(執筆者) (一財)建築環境・省エネルギー機構・村上 周三/芝浦工業大学・秋元 孝/立命館大学・近本 智行/大和ハウス工業㈱・大槻 卓也・藤本 卓也/大阪大学・下田 吉之・松岡 綾子

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4月号    珪藻類が指標する様々な環境
編集: 龍谷大学・根来 健  

 様々な微生物が水質浄化に大きな役割を果たしている。しかし、水中の微細な藻類の一群である珪藻類が、様々な環境指標として用いられていることは、一般に、あまり知られていない。本特集では、環境指標としての珪藻類の事例や研究を紹介する。
 (1)河川の汚濁度を判定する手法の一つとして、河床の石礫に付着して生育する珪藻類が注目され、アセスメント等で利用されている。
 (2)地層から検出される珪藻化石を用いて古環境を再現することが可能となっている。過去の地震や津波の影響を解明する研究も進められている。
 (3)法医学の分野では、例えば、大阪湾に浮かんでいた水死体に飲み込まれていた珪藻類を調べることで、海で水死したのか、淀川の上流で水死した後流れてきたものであるのかを判定することができる。
 (4)水道事業で生物試験を担当する職員は、毎日原水中に含まれる珪藻類の種類と数を調べて、その動向を把握し、適切な水処理方法を選択・反映している。

(執筆者)東京学芸大学・真山 茂樹/滋賀県立琵琶湖博物館・大塚 泰介/(国研法)産業技術総合研究所・澤井 祐紀/東京大学・中嶋 信、吉田 謙一、槇野 陽介、岩瀬 博太郎/神奈川県企業庁水道水質センター・北村 壽朗

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5月号    琵琶湖淀川水系における地下水資源の持続可能な利用を目指して
編集: 京都大学・藤川 陽子

 大阪・京都地域では、水道水源として琵琶湖ー淀川水系を利用してきた。しかし、この地域でも、上記水源と並行し、地下水を利用している市町も、京都の南山城や大阪の北部地域に存在する。地下水利用は、水道水源を多様化して災害時のリスクと水道料金を低減化する点で重要なな方策である。加えて、ほどほどの揚水は帯水層の水交換率を高め、過去に人為起源の汚染のあった地下水を浄化する作用もある。
 今回の特集では、大阪・京都地域の地下水利用の事例について紹介している。
 (1)地下水利用の盛んな高槻市について、地下水利用状況の推移の紹介、地下水涵養源は淀川ではなく芥川と考えられること、三河川に囲まれた12地域の水収支から流入と取水・流出水はほぼ均衡していることを示している。
 (2)大阪平野の地質地形学的特徴の解説の後、大阪の地下水を浅部・深部・高深度地下水にわけ、それぞれの水質の特徴と賦存量・停滞度について紹介している。
 (3)京都水盆の地質地形学的特徴の解説、井水の主要な陰・陽イオン成分分析から、地下水を山地丘陵型、市街部地表水涵養型、市街部深井戸型、郊外型深層地下水に分類している。
 (4)大阪・京都における地下水利用状況を紹介するとともに水質上の問題のある地下水の物理化学的・生物学的処理方策等について論じている。

(執筆者)高槻市・谷口 雅樹・山村 浩之/大阪市立大学・益田 晴恵・新谷 毅/京都教育大学・向井 浩/京都大学・藤川 陽子

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6月号    海外の廃棄物処理の動向
編集: 元 川重環境エンジニアリング㈱・守岡 修一

 わが国は高度成長期(1960~70年)に廃棄物量の増大に伴い東京都ごみ戦争などを受け、廃棄物処理法(1970年)で一般廃棄物と産業廃棄物を区別し、一般廃棄物は市町村が処理計画とその処理をすることが定められ、廃棄物処理は確実に進められてきた。現在、官から民への委託が目立つようになった。わが国の廃棄物処理は3R循環型社会を目指している.本特集では、海外の廃棄物処理とその方向を解説している。
 (1)「世界が目指す方向」として,ライフサイクルアプローチの必要性と循環型社会の構築のための廃棄物マネジメントの必要性を述べ、地球温暖化対策として埋立を抑制し、廃棄物からエネルギーを回収し低炭素社会の実現を指摘している[㈱廃棄物工学研究所・田中 勝]。
 (2)「英国」では、埋立量減少,リサイクル率向上には成果が見られるものの、廃棄物量の抑制には課題がある[ジェトロ・アジア経済研究所・吉田 暢]。
 (3)「ドイツ」では,廃棄物管理を処分からリサイクルへと進める中で脱公営・民営化が生じており、容器包装令改正でその溝が深まりつつある。インフラは官民の垣根を超えた構築が必要である[(公財)日本生産性本部・喜多川 和典]。
 (4)「中国での動向分析」で、急増している都市生活ごみについて、中国国家統計局の統計データの解析と政策行政管理問題の現状を解説し、今後の中国の進むべき方向を示している[城西国際大学・張紀南]。
 (5)「東南アジア」では、ベトナム、カンボジア、マレーシア、タイ、インドネシアの動向を紹介している.各国共通のこととして収集サービスのカバー率が低く、インフォーマルセクターによるごみ収集・資源化が一般的であり、公共の関与は低い。都市化・工業化が進み処理施設導入を図る機運もあるが、資金問題がネックとなっている[岡山大学・藤原 健史]。

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7月号    室内空気汚染の低減対策と規制の動向
編集: 武庫川女子大学・福山 𠀋二

 我が国では1990年代に室内の内装材や生活用品から放散される化学物質汚染が注目され、居住者の健康被害が社会問題となった。厚生省(当時)は検討会を立上げ、2002年にホルムアルデヒド等13物質について室内濃度指針値を策定した。また、WHOでは室内空気汚染を3つに分類し、①湿気とカビ(2009年)、②個別の汚染物質(2010年)、③室内燃料の燃焼(201年)の各ガイドラインを公表している。
 その後の実態調査のデータや個々の化学物質の毒性の新たな知見が蓄積され、ガイドラインの改定に対して、厚生労働省では「シックハウス問題検討会」(2016年~)が開催され、規制項目や指針値の審議が行われている。
 そこで、本特集では室内空気汚染の規制の動向、未規制の室内汚染物質の室内濃度、行政部局の対応、車室内のVOCの低減策、生物系アレルゲンの汚染実態と健康被害等について、各分野の専門家が最新情報をまじえた解説を行っている。

(執筆者) 近畿大学・東 賢一/しがシックハウス対策研究会・廣瀬 恢/名城大学・神野 透人・田原 麻衣子・酒井 信夫・香川(田中) 聡子/(社)自動車工業会・石橋 正人/ ㈱エフシージー総合研究所・川上 裕司/北海道大学・アイツバマイ ゆふ・荒木 敦子・岸 玲子

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8月号     東アジアの環境研究動向 ー大阪市・ソウル特別市・北京市の研究者の協働を例として
編集: 岐阜大学名誉教授・高見澤 一裕

 国連統計によると、都市部人口は30%(1950年)、54%(2014年)、66%(2050年、推定)と増加しており、とくにアジアとアフリカの都市化の進捗が著しい。
環境問題は、地球全体に広がり、ローカルな地域でも形を変えて見過ごせない状況となっている。越境する大気汚染は、自国のみでの解決は困難で国際的取組が必須である。今回の特集では、大阪・ソウル・北京の研究者を中心にはじめられた国際フォーラムで、メガシティを中心とする都市における環境・公衆衛生に取り組んでいる協働研究例を紹介する。
 廃棄物から分別回収する金属と焼却灰からの回収元素のグループ分け、浄化槽の運転条件と処理水質(以上、日本)、黄砂と真菌群集の関連、移動発生源からの揮発性有機物排出(韓国)、人の心拍変動への交通関連の大気汚染と騒音の影響(中国)、同フォーラムの今後についての誌上座談会が掲載されている。

(執筆者) 岐阜大学・髙見澤 一裕・山本 攻・丁 権・兪 栄植・金 旻永/大阪市立大学・水谷 聡・阪井 幸太・貫上 佳則・長谷川 浩/岐阜大学・石黒 泰・藤澤 智成・Yenni TRIANDA・安福 克人・奥村 信哉・玉川 貴文・Joni Aldilla FAJRI・李 富生/ソウル特別市保健環境研究院・全 恩美・金 銀淑/ソウル研究院・崔 裕珍・梁 惠蘭/北京大学公共衛生学院・Jing HUANG・Furong DENG・Henry LU・Yu HAO・ Xinbiao GUO・Shaowei WU

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9月号    防災と情報通信・ロボット技術
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10月号     浅場機能の復元・再生・創出を目指した環境配慮型構造物
編集: 大阪工業大学・駒井 幸雄

 高度成長期における日本沿岸海域の水質汚濁の進行に対して、水環境の回復と保全に向けた様々な施策が講じられ、閉鎖性海域の水質は全体としては改善されつつあるが、生物の回復に至っていない。一方で、沿岸海域には、安全確保の防波堤や産業活動の埋立地などの人工構造物は、海洋生物の生息域を奪っている。社会的に必要な人工構造物に生物生息環境の機能を付与し、豊かな海を取り戻すことも重要である。
 本特集では、海辺の環境配慮型構造物について、現状と課題、港湾での取組、沿岸防災と環境保全の両立、港の直立護岸での環境教育などについて、大学・行政・企業・NPOの関係者が執筆している。

1.海辺の環境配慮型構造物の現状と課題
 海辺の環境配慮構造物とは、人が海辺の生き物に気を遣い、生き物と人とが「居り合う」ための構造物と言える。しかし、実際の直立型構造物の生物相をみると、以前そこは砂浜や干潟であって、生息していたであろう魚やカニなどの姿は今は見られず、全く「配慮」がなされていなかったことがわかる。本稿では、「配慮」とは何かを技術に加え、制度的、費用的な面も踏まえ概観する。具体的には、まず構造物の配慮のポイントの概要を、次に環境配慮の課題に着目し、これからの配慮の在り方について述べる。
2.閉鎖性海域の水環境保全における環境配慮型構造物の位置付け
 環境配慮型構造物の環境保全施策上の位置付けについて報告する。瀬戸内海では、1960年から1990年の間に約7割の藻場(アマモ場)が、1898年から2006年の間に約5割の干潟が消失したと推計されている。
藻場は、窒素・りんの吸収による富栄養化の防止や魚介類の産卵や仔稚魚などの生息の場の提供、酸素の供給の機能、干潟は、二枚貝等による有機物の分解・除去、窒素・りんの吸収による富栄養化の防止や脱窒による窒素の除去に加え、渡り鳥等の餌場や中継地としての機能など生態系の中で非常に多くの役割を果たしている。また近年は、CO2の吸収・貯留といった機能も注目されている。
 瀬戸内海ではこれらの藻場・干潟などが大きく減少し、藻場・干潟が担っていたこれらの重要な機能も失われ、生態系が大きく変化した。このような状況を受け、瀬戸内海環境保全臨時措置法に基づき、埋立てを厳しく抑制する施策が講じられ、法施行後の沿岸の埋立てのスピードは大幅に抑制された。一方で、その事業の必要性や水質への影響などの一定の要件を満たす場合は許可されたため、1898年から2006年の間に埋め立てられた海面30、000ha のうち、約半数は法律の施行後に失われている。また、高度経済成長期には、備讃瀬戸、備後灘、伊予灘などを中心に建設工事に使用する海砂利の採取が行われた。これは、産卵、夏眠等の場として海砂利に依存するイカナゴの資源量を大きく減少させた要因としても指摘されている。
3.港湾における生物共生型港湾構造物の取り組み
 自然再生水質の総量規制ヘドロ浚渫および覆砂等の努力・技術によって、内湾域の水質は1970年代と比較すると良くなった。しかし、赤潮貧酸素水塊は依然として発生し、生物は十分には回復していない。この赤潮や貧酸素水塊の発生要因として、底泥に蓄積された過去の負荷や自然浄化能力の低下が考えられている。例えば東京湾では、1920年頃には湾を取り囲むように136の干潟が存在していた。しかし、1960年頃から埋立が顕著になり2002年の時点で干潟の面積は10(残存率は7%)となった。東京湾に生息する魚類種の97%が干潟を生育場として利用することから、この干潟の減少の影響は内湾生物の生息に大きな影響を与えたと考えられている。
 湾内の生物の生息場は消失や劣化により大きく減少した。この状況を改善する目的で、“自然再生”の考えが生まれた。しかし、港湾における自然再生は、場を元の状態に戻すことを必ずしも目指していない。状態は異なっても、機能が再生され持続されることを目指している。
4.浅場機能を有する環境配慮型構造物の設計思想と実例
 高度経済成長期以降、海岸線の多くが直立型構造物となり浅場機能が低下している。一方、我が国では既存の港湾・海岸・漁港施設の多くが老朽化してきている。また、気候変動大規模災害の発生に伴い、設計基準の見直しが進められている。このため、全国的にこれらの改修・再整備が進められているなか、このような直立型構造物に効果的な環境配慮機能を付与することは閉鎖性海域の環境の保全・修復を図るうえで重要な課題である。直立型構造物への環境配慮技術としては、浅場の有する生物生息機能、水質浄化機能、生物生産機能、親水機能に着目した多くの取り組みがなされている。
 ここでは、浅場機能を有する環境配慮型構造物として、直立型構造物に人工浅場を導入した「エコシステム式海域環境保全工法」について紹介する。本工法は、2000年から2004年まで徳島県の徳島小松島港において実施された小規模な実験構造物を用いた仮説・検証・改良の研究開発過程を経て、貧酸素化が生じる愛媛県の三島川之江港の防波堤で事業化されたものである。本事業は「エコシステム式海域環境保全工法適用マニュアル」としてとりまとめられている。事業の計画・設計・施工と5年間にわたるモニタリングの成果を示すとともに、施工後10年経過した2016年のモニタリング調査結果を紹介する。
5.生物の生息・生育空間としての緩傾斜護岸の有効性と課題
 護岸の傾斜が緩やかであれば海底の日射量が多くなるとともに、海藻・海草の生育可能な浅い範囲の面積も大きくなるので藻場形成に有利である。また、浅海域、特に潮間帯付近の底生生物は水深に従って顕著な帯状分布を示すので、これも海岸断面の傾斜が緩いほど、生物種の生息可能基盤面積が大きくなる。緩やかに傾斜した断面構造を持つ海岸構造物(緩傾斜護岸)は、垂直に切り立った海岸構造物(垂直護岸)に比べて、生物量が多くなることが期待される。
 大阪湾の関西国際空港島は、周囲の護岸の大部分に石積みの緩傾斜護岸を採用した人工島として知られている。緩傾斜護岸の理由としては、前面海域の利用状況から見た反射波低減の必要性や護岸施工期間短縮の必要性などが挙げられる。さらに、その形状特性から海藻類など海域生物の生育・生息空間となることが期待され、人工的な種苗移植による藻場造成が行われるとともに、生物生息状況のモニタリング調査が実施されてきた。筆者らもここをフィールドにして、護岸生物を対象とした様々な調査や実験を行っている。本稿では、それらの結果から、生物の生息・生育空間としての緩傾斜護岸の有効性と、現時点での課題について考察したい。
6.貧酸素化する水域での生物共生護岸の生態学的評価
 閉鎖性水域では、特に水温の上昇する夏季に躍層が発達し、底層貧酸素化する。水深が浅い運河域でも、水深1m~2m 以深になると急激にDO が低下し、底層は貧酸素状態が続き、夏季には無酸素状態となる。これらの沿岸域環境は、生態系にとって貴重な空間となるが、現状の運河域の多くは、直立護岸に囲まれた閉鎖性水域となっている。運河域の底層の貧酸素水は、水温・塩分躍層の形成により、広域に影響が及んでおり、局所的な底質改善では貧酸素水塊の改善策としての効果は期待できない。自然再生には、浅場造成生物共生護岸と組み合わせて考えていかなければならない。これまでは、主にカニ類や貝類等の底生生物を対象として、護岸表面に凹凸をつける等の工夫がされてきた。
運河域あるいは直立護岸に出現する魚類相に関する報告は非常に少なく、東京湾の京浜運河や平潟湾などの数例、あるいは大阪湾や東京湾に関する報告しかない。魚類にとって、都市臨海部の運河域は静穏な水域であり、餌生物も豊富で、大型魚も少ないため、魚類の生活史の一時的な通過場所としてだけではなく、仔稚魚の成育場および汽水域に生息する魚類の主要な生息場として機能する。底層の貧酸素水からの避難場所となる構造物を酸素の豊富な表層に設置し、既設を通じた魚類の出現状況を調査し、運河域を利用する魚類相の特徴を明らかにするとともに、魚類を対象とした生物共生護岸の機能とその役割について明らかにする目的で、現地試験を実施した。
7.沿岸防災と環境保全を両立させるコンクリート構造物の開発
 高度成長期、わが国の社会基盤整備は利便性や生産性向上、国土保全等を主眼に進められたが、その画一的な構造は、ときに環境破壊の象徴とも指摘された。1990年代には環境基本法や改正河川法、改正海岸法等において環境配慮の考えが組み込まれ、構造や形状の面でさまざまな工夫が施されてきた。
 港湾等の沿岸域においては、これまで人工干潟や藻場の造成等の事業が実施されてきたが、その多くは環境の再生・創出を目的としたものではなく、航路浚渫土砂の有効利用や埋立て等による環境影響のミティゲーションであった。その背景には、港湾法が「交通の発達及び国土の適正な利用と均衡ある発展に資するため、環境の保全に配慮しつつ、港湾の秩序ある整備と適正な運営を図るとともに、航路を開発し、及び保全すること」を目的としており、環境保全を主たる目的として実施することが難しいという側面がある。
 一方、2015年に改正された瀬戸内海環境保全基本計画では、目標達成のための基本的な施策の一つとして「環境配慮型構造物の採用」が掲げられ、「海岸保全施設の整備・更新など、防災・減災対策の推進に当たっては、自然との共生及び環境との調和に配慮するよう努めるものとする。」と記された。
 これは、港湾等の沿岸域における環境配慮が従前の「開発」対「環境」の対立関係から生まれる配慮ではなく、「防災」や「強靭化」、「老朽化対策」と一体となった新たな配慮の方向性として示されたといえる。ここでは、港湾における「防災」と「環境」の両立を実現した事例を紹介する。
8.港の直立護岸を活用した環境教育の取り組み
 2015年10月に改正された瀬戸内法(瀬戸内海環境保全特別措置法)では、沿岸域の良好な環境保全、再生、創出と併せて、地域の多様な主体による活動を推進するための措置を講じるとしており、市民による活動が期待されている。大阪湾再生行動計画(第二期)においては、人と海の関わりの増大が掲げられ、体験学習等による機会創造により豊かな人材を育成する、市民や企業が積極的に関わる海、といった目標のもと、多様な主体の協働による環境教育が推進されている。特に、大阪湾に関心のある個人や団体からなる緩やかなネットワークで繋がる「大阪湾見守りネット」を中心とした協働の推進は、施策の一つでもある。
 このような背景から、干潟や海浜などの浅場を活用した環境教育活動は、数多くみられるようになり、それに参加する市民も増加傾向にある。しかしながら、人間活動と密接に関わる港湾のように、人工構造物で囲まれた海域では、環境問題や経済活動など、海の環境や利用を理解する上で適した場であると考えられるものの、未だ汚い、危ない、臭いといった悪印象が拭えておらず、そうした場での環境教育活動はわずかしかみあたらない。
 本稿では、著者らがこれまで行ってきた、過剰な栄養塩を循環させることにより、環境改善や地域課題の解決を目指す協働の取り組みを紹介し、大阪湾湾奥に位置する尼崎港内の直立護岸を活用した環境教育活動について報告する。

(執筆者) 1.上月 康則・中西 敬・大谷 壮介(徳島大学)/2.坂口 隆(環境省)/3.岡田 知也(国土交通省国土技術政策総合研究所)/4.山口 奈津美・山本 秀一((株)エコー)/5.日下部 敬之((地独)大阪府立環境農林水産総合研究所)/6.竹山 佳奈・岩本 裕之・山中 亮一(五洋建設(株))/7.西村 博一・松下 紘資(日建工学(株))/8.中岡 禎雄・三好 順也・森 紗綾香(尼崎ネイチャークラブ)

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11月号    人工湿地による水環境保全
編集: 立命館大学・惣田 訓

 湿地とは、淡水や海水に冠水する低地のことで、湿原や湖・沼・水田・ため池・干潟・マングロープ・藻場・サンゴ礁なども含み、水生生物にとっても重要な生息環境である。
 人工湿地とは、それを人工的に再現し、微生物や水生生物などの浄化機能を利用する水環境の保全を主な目的とする。人工湿地では、維持管理が容易で機械類・化学薬品・エネルギーの使用が少ない。また、メタン発酵技術などとの組み合わせも可能である。
 本特集では、人工湿地の浄化機構と普及への課題、人工湿地の国内事例として畜産排水や学生食堂排水の処理、海外事例としてベトナムでの畜産排水やタイでの埋立地浸出水の処理が紹介されている。

(執筆者) 東北工業大学・矢野 篤男/(国研法)農研機構・加藤 邦彦・井上 京・家次 秀浩・辻 盛生・菅原 保英/(株)たすく・家次 秀浩・加藤 邦彦/日本大学・中野 和典・大附 遼太郎・中村 和徳・橋本  純/(国研法)国立環境研究所・尾形 有香・石垣 智基・蛯江 美孝・山田 正人

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12月号    生物分布調査における環境DNA 分析の可能性
編集: 神戸学院大学・古武家 善成、 立命館大学・惣田 訓

 DNAによる犯罪捜査・血縁鑑定や作物・家畜の品種鑑定に威力を発揮していることは、一般市民にも広く知られている。
 環境DNAとは、主に水環境中に存在する生物由来DNA断片のことである。1980年代から微生物群構造の解析に用いられ、その後、マクロ生物の在・不在、外来種・希少種の検出やバイオマス推定に環境DNA分析が利用されるようになった。
 本特集では、水域生態系での環境DNAモニタリング手法開発の現状、環境DNAによる外来種・希少種の迅速な検出、水生生物の生物量や季節分布と移動の推定、生物群集の解析、環境DNAモニタリングの課題と展望について、それぞれの専門家が解説を行っている。

(執筆者) 神戸大学・源 利文/大阪大谷大学・内井 喜美子/島根大学・高原 輝彦/兵庫県立大学・土居 秀幸/神戸大学・源 利文・内井 喜美子・高原 輝彦・土居 秀幸

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掲載日:2018年01月25日
更新日:2018年07月28日

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