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バイオ燃料ー微細藻類と油脂生産

Biofuel-Algal oil
大沼みお・岸 拓真(広島商船高専),村上定瞭(水浄化フォールラム)

1.はじめに

 微細藻類の機能とその利用に,注目が集まっている.第1に医薬品,健康食品や化粧品などの医療・健康・生活の領域,第2に食料や飼料の農畜水産の領域,第3にバイオ燃料などのエネルギー・環境の領域で,それぞれの利用が進みつつある[1].特に,藻油燃料については,2050年のカーボンニュートラルへ向けて大きな期待が集まっている.
 本ページでは,微細藻類について基礎と応用について概説し,藻油燃料を中心に現状と今後の課題について述べる.
 なお、次章を除き、特別の場合以外には、藻類とは微細藻類を示すこととする.

2.藻類とは

藻類とは,光合成を行う生物のうち ,コケ植物,シダ植物,種子植物を除いたものの総称である.水中はもちろん,地球上のあらゆる環境に生息している.ノリ・ワカメ・コンブなどが身近な大型藻類であるが,多くは顕微鏡でしか見ることができない小さな生物(微細藻類)である.

2.1 藻類の誕生と進化[2]

地球誕生は46億年前といわれ,38億年前になって海の中で生命が誕生し,それは単純なもので,嫌気性環境下で化学反応エネルギーを利用して,生命を維持していたといわれる.
 32億年前になると,光エネルギーを利用し,H2Oを分解してO2放出するとともに,CO2を還元して有機物を生産する原核生物であるシアノバクテリアが出現した.その後,有機物とO2の反応を利用して,生命を維持する好気性生物が出現した.
 21億年ほど前になると,最初の真核生物が出現し,ほどなくして真核細胞にシアノバクテリアの一種が取り込まれ(一次共生),色素体として定着し,植物の祖先細胞ができたといわれる.この植物祖先は進化を経て,灰色植物,紅色植物,緑色植物に分岐した(図1表1).
 4億5000 年ほど前に緑色植物が陸上へ進出し,以後コケシダ種子植物といった陸上植物が進化した.
 2億5000年ほど前には,紅色植物または緑色植物が,従属栄養性の真核生物に取り込まれて色素体となり(二次共生),二次植物が出現した.
以上のように藻類と植物は進化し,食物連鎖の一次生産者とする現在の生態系ができた.
表1 藻類に含まれる生物種
species-including-algae

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図1 一次共生、二次共生による藻類の進化

2.2 微細藻類の活用[1,3]

 微細藻類は,木質などの生体を支える成分が不要であり,体内に糖質,タンパク質,脂質,繊維.ミネラルが栄養学的にバランスよく含まれている.糖質合成の副産物として菜種や大豆の数十~数百倍の油分を産生するものもいる.また,人間にとって有用な様々な成分を作り出すものもいる.微細藻類は,食や健康,飼料,環境,工業,燃料など多方面での利用が期待できる.
 現在,商業化されている微細藻類は,スピルリナ(シアノバクテリア),クロレラドナリエラヘマトコッカス(以上,緑色植物),ユーグレナ(ミドリムシ,ユーグレナ植物)などである.
 例えば,へマトコッカスは,生育に適さない強いストレスの条件下では,防御反応として色素の一種であるアスタキサンチンを合成・蓄積する.アスタキサンチンには強い抗酸化作用があり,疲労回復や美肌,アンチエイジングなどに効果があるとして機能性食品などに利用されている.
 また,ユーグレナは水田や池・湖沼などの淡水に生息している.光合成を行い,鞭毛で動くことができ,植物と動物の両方の性質を持っている.これは一定の条件で体内に油脂を貯める性質があり,化石燃料に代わるものとして注目されている.
 さらに,石油の代替燃料源として期待されている微細藻類として,オーランチオキトリウム(オクロ植物に近縁のビギラ),シュードココミクサクラミドモナスボトリオコッカス(以上,緑色植物),海洋珪藻(オクロ植物)などが挙げ られる.
 微細藻類は飽和・不飽和の油脂類や炭化水素油類を産生する.特に限定しない場合には,これらを「藻油」または「藻オイル」と略称する.

3.藻類の生産[4,5,6,7]

 藻油生産を例に示すように(図2),藻類を活用するには多くの課題がある。特に培養は,生産段階の培養だけでなく,新種の探索,育種など開発の初期段階から重要な技術である.

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図2 藻油燃料の生産工程の例

3.1 培養液

 藻類の培養液は対象種の特徴に合わせ,一般的な培地リストから選択し,それを基本に具体条件を検討する.


3.1.1 栄養源

 独立栄養性藻類は光合成を行うので,植物の三大栄養素であるN,P,Kと微量金属を添加した最小合成培地で増殖する.色素体を失った従属栄養性藻類は炭素源が必要であり,糖や酢酸塩などを添加する.また必要に応じてビタミンなどを添加する場合がある.


3.1.2 pH

 対象の藻類によって至適pHが異なる.至適pHから外れても,酸性またはアルカリ性に偏らせることで,開放系培養でも他種藻類のコンタミネーション(以下.コンタミと略称)を防ぐことも可能となる.

3.1.3 培養水

 実験室では,脱イオン水か超純水を用いて培地を作成することが多い.大量培養や野外培養では,上水や浄化淡水を用いる.また,下水を用いることもある.海産藻類では天然または人工の海水を用いるが,淡水藻類でも生育可能であれば,海水利用でコンタミを防ぐことができる[8].ただし、天然海水中には競生種や捕食種など様々な生物が存在するので、これらの生物除去にはコストを要する。

3.2 探索・育種

 自然界の微細藻類は,数十万種といわれる.遺伝子改変されたものを含め,目的に沿った藻種を検索し,その最適な培養条件を決定する.
 以前には,試験管やフラスコを使って多大な人力と時間を要していたが,現在では,マイクロプレートを用いて,有望な候補藻類をスクリーニングし,さらに,その藻種の最適環境を決定する.
 次に,屋内での試験管・フラスコ(mLレベル,以下同様),容器(L),屋外でのプール(m2),池(ha)と拡大する.

<探索・育種~屋外培養の事例>

 四国・鈍川温泉から採取した微細藻をプレート培養し,その核ゲノムを抽出し,PCRにより増幅した18S rDNAの塩基配列を決定した.この塩基配列を最尤法およびベイズ法により解析した結果,本藻類は緑藻Chlorococcumの新種であること,また,油脂高生産性藻類Chlorococcum oleofaciensの近縁種であることが分かった.これを著者らはChlorococcum sp. Nibukawa HS-Aと命名した(略称:C.Nibukawa).本藻は,P濃度制限条件下で,細胞内に多量の油滴を形成し,同時に増殖性も良好であり,沈降性にも優れており,低コストである沈殿池による藻体の濃縮収穫が可能である.
 現在,本ページ・ボトムに記載のグリーンエネルギー生産モデルに沿って,社会実装化に向けて、基礎研究および技術開発を行っている.
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写真7に示す海上培養装置は基本的なデータを収集するもので、社会実装化に向けた自然現象を活用した低コストの海上培養モデルを参照されたい.

3.3 藻類培養法

3.3.1 閉鎖系

 閉鎖系フォトバイオリアクター(PBR)は,選定藻類の安定培養(水温・pHなどの制御,他種藻類・雑菌・捕食者の増殖やウイルス感染などの防止)ができる点で優れている.そのため開放池に比べて細胞密度や生産効率も高い値が得られる.
 閉鎖系の課題として,温度上昇,内壁への生物膜付着,酸素蓄積,スケールアップの困難さ,剪断応力による細胞破壊などが挙げられる.
 これまで様々なPBRが提案されているが,光照射法の特徴により4つの事例を挙げる.
(A) 平板型 最も単純な形状で,エアレーションによりCO2供給と攪拌を行う.太陽光にあわせて設置角度が調整可能である.
(B) 円筒型 水平型,らせん型など多くの形状が提案されている.透光性円筒内に藻類を保持し,エアーリフトもしくは送液ポンプにより培養液を循環させる.円筒中心部まで太陽光を到達させるためにその内径は10cm以下とする.円筒内壁に付着する生物を定期的に除去する方法を考慮した上で装置設計を行う.
(C) 太陽光集光型 太陽光を集光・制御し,藻類の光利用効率を上げる.
(D) 人工光利用型 光強度・照射時間を人工的に制御して,藻類の高率的な生産を行う.


3.3.2 開放系

開放池は主に円形もしくはレースウェイ型培養池(図3)が主流である.クロレラやユーグレナをはじめ,大量培養は野外開放池で行われる.
 藻類自体による遮光を抑えるため,水深は浅い(最大で50cm程度).移動性を有しない藻類は、発生酸素による浮上や重力沈殿によって,池の表面と底面に分離する.水中のすべての藻類が均一に,昼間に受光し,CO2や塩類(夜間にはO2)を吸収できるように,パドルホイールで攪拌と水流を生じさせる.
 開放池のメリットは建設費が少ないが,一方で,大容量を確保するには広大な面積が必要となる.
 また、原水,飛来胞子,昆虫・鳥の糞などが原因で, 他藻類の混入や藻類を捕食する微細動物などが繁殖する.特殊な条件(例えば,高または低pHや高濃度塩分など)で生育する藻類を選択することもある.開放系の場合,外気との熱交換や培養水の蒸発量が大きい. 日照や温度は藻類の増殖にとって第一の制限要因となる.環境変化は藻類の増殖速度に影響するため,生産性は季節により変化し ,年間を通した安定生産は難しい.
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図3 代表的な開放型野外培養池

3.4 藻類の回収

 藻類の細胞サイズは10μm前後が一般的であり,群体を形成する種であってもミリ単位に達することはまれで,大量の培養液中の藻類をいかに回収するかは大きな課題となる.一般に藻類の回収工程(固液分離)は,バイオマス生産コストの約1/3を占める.代表的な4つの回収法を示す.


3.4.1 ろ過

 金属または合成繊維の微細網を用いて粒子を補足・回収する.マイクロ・スクリーンろ過は,小・中容量培養での回収に適している
ドラムスクリーン(微細目50μm程度)は目合いが細胞サイズほど小さくないため,群体を形成しない単細胞浮遊性の藻類には適さない.
ベルトフィルターは,一定速度で走行するベルト状ろ過膜上に培養混合液または一次濃縮液を供給し,ベルトの走行とともに出口方向に移動しながら培地水分を除去する.出口に到着した回収物はスクレイパーで掻き取られる.


3.4.2 浮上/沈殿分離

 一部の藻種は自然に水面に浮かぶ、または、沈降する.多くの藻種はゆっくりと浮上したり沈降したりする。後者については、次に示す浮上または沈降の操作を行って回収する。空気などを散気した気泡を微細藻の粒子に吸着して浮上させ,水面上の泡沫粒子を回収する.凝集剤として界面活性剤を用いることもある.
 KAl(SO4)2・12H2O,FeCl3,キトサンなど凝集剤を用いて、凝集沈殿させた後,沈殿物を回収する.


3.4.3 遠心分離

遠心分離は効果的な回収方法であるが,培養液そのものに対しては効率が悪いので,他の方法による一次濃縮の後,遠心分離を行う.

3.5 回収藻の乾燥

 水分は,下記に示す藻油の抽出効率を低下させるので,回収藻を乾燥して水分を除去する.この工程は多大なエネルギーを消費する.乾燥方法には,(1) スプレー乾燥,(2) ドラム乾燥,(3) 凍結乾燥,(4) 天日乾燥などが主な方法である.

3.6 藻油の抽出

 藻類細胞内の油分の抽出方法は,(1) 有機溶媒による抽出と (2) 細胞を破砕し,細胞懸濁液の相分離に大別できる.
 油分を抽出するにはクロロホルム-メタノール系が適し,炭化水素などの低極性油分を特異的に抽出するにはヘキサンが適している.
 細胞を破砕しやすい微細藻類では,細胞破砕が溶媒抽出よりコストが低い.強固な細胞壁を有し細胞破砕が容易でない場合には,溶媒抽出を使わざるを得ない.

3.7 藻細胞の水熱液化

 水を密封容器入れて加熱すると,臨界点(22MPa,374℃)以上では気液界面が消失する.臨界点以下の近傍領域を亜臨界域といい,加水分解力が極めて高く,藻細胞の生体高分子を分解・液状化すると,油成分と水溶性成分に区分できる.培養混合液の濃縮液を水熱液化する.

4.藻油燃料

 藻油の石油代替燃料への改質経路は様々である.ここでは,ディーゼル燃料およびジェット燃料に求められる特性についてのみ述べる.

4.1 ディーゼル燃料[9]

 油脂は粘度が高く,ディーゼル燃料に適さない.藻油脂からグリセリンを取り除き ,軽油(C:12~22個)に近い物性である脂肪酸メチルエステル(C:16~22個)へ変換しディーゼル燃料とする.現状では,軽油との混合物が使用される.

4.2 ジェット燃料

 ジェット燃料には厳しい基準があり,主な項目は次のとおりである.
 ①高い発熱量(約1万kcal/kg以上),②燃焼性がよい,③適度な揮発性,④凍結しにくい(凝固点は-40~-58℃),⑤腐食性がない,⑥引火点と発火点が適度に低い,⑦電気伝導度が高い(耐電防止剤の添加),⑧化学的・熱的安定性が高い.
 上記条件の燃料として,石油中の沸点170~250℃の留分を,炭素数9~15個の枝分かれパラフィン系へ改質した灯油が,ジェット燃料として使用される(ASTM D1655)10).藻油はクラッキングと水素化により,灯油に近い成分へ改質して精製する(ASTM D7566)[11].

5.藻油燃料の国内外の動向

5.1 米国[12]

 米国では,1970年代の2度のオイルショックを背景に,1987年にエネルギー省(DOE)がバイオ燃料に研究費を投じ,その一部を「藻類研究プログラム」(ASP: Aquatic Species Program-Biodiesel from Algae)に当てた.その後,原油価格の急落と財政の制約により,1995年にASPは終了し,約20年間の取り組みをまとめた[13].当時の藻油燃料は63ドル/Lであった.
 一度は下火になった藻油燃料であったが,2004年からの世界的な原油価格の高騰に加え,2007年に「エネルギー独立安全保障法」が制定された.これを受けて,2008年になると多くの起業家や投資家が藻油に関心を示した.20ほどの新興企業が資金を探し,投資家・財団・政府が対応し,大手石油会社も参入した.屋内培養から野外培養へ移行したとき,様々な困難に直面したが,これらを克服し,例えば,S社は2013年には3,780 kLの藻油燃料を生産し,米海軍へ納入した.ある大手石油会社は購入契約に署名した.
 しかし,2014年,水圧破砕法が開発され,米国の原油生産量が急増し,原油価格が2015年には18セント/Lまで低下した.藻油燃料が50~60セント/Lであれば,石油と競争できる準備はできていたが,不可能となり,藻油燃料事業を閉鎖した.
 藻油関連企業は,人員を削減し,少量で価値の高い製品である色素,タンパク質,栄養補助食品,魚や動物の飼料などの生産に切り替えた.小規模企業の多くがこの方法で生き残った.
 一方で,官主導のもと,力のある大学・機関・企業は地に足を付けた研究開発を粛々と進めている.DOEは2030年までに,「50億ガロン/年,3ドル/ガロン(= 3.8L)」を目標に掲げている.

5.2 日本

 科学研究費(2018年3月時点)を見ると,90近い藻類研究(大型藻類も含む)が進められている.各省庁の藻類関係プロジェクトについては,文献[14]を参照されたい.国内の藻類関連企業は,高付加価値のある商品を生産して経営基盤を構築しながら,藻油燃料の開発を進めている.
 現在,バイオジェット燃料については,5つの企業グループ(大学も含む)が微細藻類からのジェット燃料の開発を行っている.2021年8月現在まで,2つのグループが,ジェット燃料の国際規格「ASTM D7566 Annex7」[11]を取得するとともに,石油由来との混合燃料による飛行実証試験が実施されている.

6.今後の課題

 日本政府は,「2050年カーボンニュートラル」に挑戦し,脱炭素社会を目指すことを宣言し,グリーン成長戦略が提案されているが,その達成には,様々な高いハードルがある.カーボンニュートラルへの取り組みの一つとして,輸送車・航空機へのバイオ燃料の利用に大きな期待がある.航空各社も,2050年までにバイオ燃料への切替えを宣言している.このバイオ燃料候補の一つとして藻油燃料があり,そのジェット燃料への生産技術は確立されている.しかし,現状での藻油燃料費は石油燃料費より 一桁高い.今後の課題は,生産コストの削減である.
 一方で,温暖化に伴う様々な社会・経済の損失を考えると,化石燃料の価格を基本とするエネルギーコストの評価を見直す必要があろう.その一つとして,化石燃料への炭素税の強化などが検討されている.

参考文献

 1) 鷲見房彦:微細藻類が開く未来―有用性とその利用―,科学技術動向,9月号,pp.11-22, 2009 .
 2) 井上勲:藻類30億年の自然史―藻類から見る生物進化・地球・環境(第2版),東海大学出版部, 676p., 2007.
 3) 渥美欣也,笠井宏朗,林京子:藻類の燃料以外の用途の取組み. 生物工学会誌, Vol.95, No.4, pp. 199-202. 2017.
 4) Andersen, R. A. (ed.): Algal Culturing Techniques, Elsevier Academic Press, Burlington, 592p., 2005.
 5) 本田正樹,他:藻類からのバイオ燃料生産に関する調査報告,電力中央研究所報告, V09025, 32p., 2010.
 6) Ferrell, J ., Sarisky-Reed, V.: U.S.Depertment of Energy, National Algal Biofuels Technology Raodmap, May 2010.
 7) Barry, A, et al., Editors: National Algal Biofuels Technology Review, U.S.Depertment of Energy, June 2016.
 8) Hirooka, S., Tomita, R., Fujiwara, T., et al.: Efficient open cultivation of cyanidialean red algae in acidified seawater, Sci Rep 10, 13794, 2020.
 9) 国立環境研究所HP:環境技術解説「バイオディーゼル」(https://tenbou.nies.go.jp/science/
description/detail.php?id=7) , 2021-09-20.
 10) ASTM INTERNATIONAL:
https://www.astm.org/Standards/D1655htm.
 11) ASTM INTERNATIONAL:
https://www.astm.org/Standards/D7566.htm
 12) Kassinger, R.: Slime-How Algae Created Us, Plague Us, and Just Might Save Us, Shanthi Chandrasekar, 430p, 2019.
 13) Sheehan, J., et al.: A Look Back at the U.S. Department of Energy’s Aquatic Species Program-Biodiesel from Algae, July 1998.
 14) Modia:国内藻類関連の助成金一覧(2018年3月時点), https://modia.chitose-bio.com/articles/grant-7/, 2021-09-20.

余談

 金価格は2022年6月現在,8,700,000円/kgである.砂金1kgを厚さ25cm2×1haの砂浜に散布してブルトーザーで均一に混ぜたとき,その砂金の価値はいくらになるのだろうか.
 ある文献によると,オイルの1haあたりの年間生産量は,パーム 5,950L(野外データ),ある藻類 58,700L(実験データ)だそうである.これは一体何を示しているのであろうか.具体的に収穫したオイル量/haやその価格/Lの比較は示されていない.ギブスの自由エネルギーは, G = H – T・S で示される(H:系のエネルギー,S:その状態,T:絶対温度).利用できるエネルギーは,G(収穫物/ha)であって,H(存在量/ha)ではないのである.G は,系の状態 Sに大きく依存するのである.
 著者(村上)は,35~22年前に,ある単藻を開放系で連続培養(通年を通して,文献1文献2文献3)したことがある.そのとき, 42トン/ha/year(実験データ) の乾燥バイオマスが得られた.日本米の生産量は約5トン/ha/year (水田データ)である.ただし,半年間の育成期間とわら・根を考慮すると,一日あたりのバイオマス増殖量はほぼ同じとなる.
 現在,著者らも油脂生産性の微細藻を培養している.家庭用プールによる屋上での開放系培養実験においては,夏期の晴天日午後には60℃を越える水温となる(太陽熱温水器と同じ原理).冬期の夜間には0℃付近まで低下する.屋内での人工気象器(光量子密度一定,温度一定)内でのプレート・試験管・マリンフラコ・水槽とは,全く様子が異なるのである.実験室培養系で育った「お姫様」は,現実社会(自然現象)の厳しい環境に曝されるのである.
 お米は,用水路の整備,種苗の育成,水田の耕耘,田植え,施肥,雑草・昆虫・スズメ・イノシシからの被害対策,秋の収穫,脱穀・乾燥と保管,輸送・販売を経て,家庭や飲食店で食される.その年の天候によって,豊作もあれば,不作もある.お米つくりには,数千年の歴史がある.
 微細藻類のオイルも同様である.オイル生産量/ha(屋内実験データ)の比較だけで単純に評価すべきではない.将来,エネルギーの一翼を担う微細藻類オイルが実装化されるまでには,多くの課題(National Algal Biofuels Technology Review, US Dept Energgy, 2016)を乗り越えなければならい.
 地球上の地殻や海水には,貴重な資源が膨大に存在する.これらの資源を採取・採掘,分離・濃縮,加工,製品化するには,多岐にわる分野の基礎科学と応用技術が求められる.藻細胞(探索・遺伝子改変を含む)油滴の顕微鏡写真と屋内の実験データは,単なるスタート点でしかない.


微細藻を活用したグリーンエネルギー生産モデル

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図4 微細藻類を活用した完全リサイクルによるグリーンエネルギーの生産モデル

 本生産モデルで最も重要な要素は,沈降性および油脂生産性の両特性を有する微細藻を用い,収穫・濃縮工程のコストを削減することにある.本モデルの特徴は,この微細藻を活用することで,水熱反応によるオイル(藻原油)抽出と抽出残渣(水相成分)のメタン発酵の効率を高め,微細藻の生産エネルギーを総合的に回収することにある.また,藻類エネルギーの回収後の培養液を環境へ排出することなく,リサイクルすることを目指すシステムである.
 上記システムにおいて、原理的には、水および窒素・リンを含む化合物は系内を循環し、系内外を移動するのは炭素(投入:CO2,放出:炭化水素化合物)と酸素(放出)のみである。わずかに系外へ流出する量の成分を補給する。

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図5 連続式水熱反応装置の概略構成

 本装置の運転コスト削減に極めて重要な要素は,本図に記載の熱交換器による熱回収の効率を高め,加熱および冷却のエネルギーを最小化することにある.
 水熱反応(HTL)による微細藻類のオイル抽出には、(1) 300℃前後の条件で藻原油(biocrude oil、脂質成分および炭水化物・タンパク質の分解物と反応物を含む)を得る方法(DHTL)、および (2) ①160℃前後の条件で、炭水化物とタンパク質(オリゴおよび単分子状を含む)を水相に移行し、②次に固相成分を250℃前後の条件で藻油原料(脂質成分に富む)を得る方法(SEQHTL)がある。DHTLによる藻原油には、多量のNおよびSが含まれているが、SEQHTLによる藻源油では、これらの含有量は大幅に削減される。
 いずれの藻原油も輸送液体燃料として利用するためには、高温・触媒の条件での水素による改質(O、NおよびSの除去)が必要である。水素は、メタン発酵からのCH4を精製し、shift反応(CH4 + H2O → CO + 3H2, CO + H2O → CO2 + H2)によっても調達できる。

掲載日:2022年07月01日
更新日:2022年07月28日,「グリーンエネルギー生産モデル」を加筆した。
更新日:2022年11月01日,写真7(海上培養装置)を追加した。

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