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環境技術 2012


環境技術学会・月刊誌「環境技術」 2012年 特集概要
      目 次 総目次-分野別-
 1月号 2012環境行政展望
 2月号 情報通信技術(ICT)による二酸化炭素の削減
 3月号 研究論文特集
 4月号 シックハウス問題は過去のものか?―現在のガイドラインの限界を考える―
 5月号 特集「PM2.5の環境基準設定後の動向」、緊急特集「辺野古アセスを総括する」
 6月号 原発放射能汚染水の浄化技術
 7月号 国を越えての物質・生物の移動とその影響
 8月号 東日本大震災-研究者はどのように取り組んでいるか-
 9月号 日本の利用可能風力エネルギー―乱流と洋上風・上層風測定技術―
10月号 第6回世界水フォーラムの成果と課題
11月号 グリーン社会の構築に取り組む高専の技術
12月号 浄化槽の近年における技術革新


1月号  2012環境行政展望



 2月号情報通信技術(ICT)による二酸化炭素の削減
編集: 2012-02-00 藤田環境技術士事務所・藤田 眞一

 温室効果ガス削減のための有効な対策の一つに情報通信技術(ICT)の有効利用がある。ICTの利活用により、人や物の移動の適正化を図ることにより移動によるエネルギーを削減する。また、ビルエネルギー管理システム(BEMS)や家庭用エネルギー管理システム(HEMS)など、家庭やビルのエネルギー最適制御を行うシステムの活用、さらには、道路交通システムの高度情報化により適切な交通誘導や渋滞等の解消を行うなど、エネルギー使用の最適化による削減を図る等である。
 ICT利用には、もうひとつの側面がある。即ち、ICT関連機器の使用により、電力等のエネルギーを消費することで二酸化炭素を排出するという側面である。ICT利用により消費されるエネルギーの削減を図っていくことは、ICTを普及していく上で重要な事項である。

2012-02-01 ICTによるCO2削減の環境影響評価手法の動向
 ICTによる環境負荷(CO2)削減に対する考え方には、(1) ICT 自体の環境負荷を低減すること(Green of ICT)、(2) ICTサービス利活用により社会全体の環境負荷を低減すること(Green by ICT)の2つがある。これらの定量評価手法として、統計資料等を用いたマクロ的な推計方法と、個々のICTサービスのライフサイクルアセスメントに基づいたミクロ的な評価方法がある。本稿では、その評価方法と評価事例、国際標準化の動向について紹介する。
2012-02-02 ICTを利用した小口で簡易な排出権取引
 CO2を含む温室効果ガス排出削減にはコストがかかる。そのコストを小さくし、さらに同ガスの削減または吸収活動に対する経済的インセンティブとして排出権取引は有効な手段とされる。しかし、既存の排出権取引は煩雑であり、その取引単位も大きい。そこで本稿では小口の排出権決済手法を提案した。これは商品管理などに利用されるバーコードやICタグを、あたかも排出権(または排出枠)に関する有価証券または貨幣のように扱えるようにすることで、排出権取引を簡単化するものである。その有効性を検証するためにイトーヨーカドー店舗において、排出権付きの商品及び簡易な排出権取引の実証実験を行った。
2012-02-03 新しい省エネルギー手法への期待
 東日本大震災後の原子力発電停止を受け、節電が喫緊の課題となっているが、節電とはあくまで省エネルギーの一部に過ぎない。つまり、今後のエネルギー問題を考える上で、エネルギーの合理的な使用について、徹底的に分析することが最も重要である。
 ここでは、省エネルギー促進に向けた世界の最新の動きとして、スマートメータおよびZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の動向について紹介する。
2012-02-04 高度道路交通システムのCO2排出削減効果
 高度道路交通システム(ITS)は、情報通信技術を用いて、事故と渋滞という自動車交通問題を解決するシステムである。ITSが省エネルギー化CO2排出削減に有効なのは、交通流を円滑化し走行方法を効率化して低燃費走行を可能にし、また公共交通機関の利便性向上や物流の効率化によって自動車の総走行量の削減を可能にするからである。自動車利用の需要管理が前提であるが、ITSによるCO2削減効果は5~15%と推定されている。

<執筆者> 2012-02-01 NTT環境エネルギー研究所・染村 庸/2012-02-02 国立情報学研究所・佐藤 一郎/2012-02-03 ㈱住環境計画研究所・中上 英俊/2012-02-04 名城大学・津川 定之

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 3月号研究論文特集
編集: 2012-03-00 福永 勲

環境技術学会の機関誌では、「環境技術」に関する特集研究論文等から構成されている。前者は、あらゆる分野の最新の環境技術についてくまなく特集しており、これ一誌でおおむねの環境技術がすべてわかるように編集されている。後者については学位論文等を目指して投稿されたものを速やかに査読し、できる限り早く掲載するように、努めている。近年その研究論文等の投稿が多くなっている。そこで、年1回、「論文特集号」を編むこととなり、本年は、昨年と同様、3月号とした。

2012-03-01 低炭素社会に向けた地域連携による食料・エネルギー自給構造分析-北海道の第一次産業バイオマスによるポテンシャル評価-
 低炭素社会に向けた地域連携による食料・エネルギー自給構造を定量的に分析した。北海道を対象とし、バイオマスを基盤として、各振興局における食料・バイオマスによるエネルギー生産CO2削減ポテンシャルと2030年の人口から導いた食料・エネルギー消費、CO2排出を評価した。そして、各振興局のそれら需給関係から連携構造の特徴を整理するとともに、北海道の自給ポテンシャルを推計し、低炭素社会に向けた食料・エネルギー自給構造を考察した。
2012-03-02 夏季における沿岸レクリエーション用水域のふん便性細菌の調査
宮崎市の沿岸レクリエーション用水域を中心に、ふん便汚染の指標細菌であるふん便性大腸菌群(FC)および腸球菌(ENT)の実態調査を行った。調査期間は、梅雨期間と海水浴場開放期間を含む2009年6月~9月とした。沿岸水中のFCおよびENTの細菌数は、調査日および調査地点によって大きく変動した。いずれのふん便性細菌についてもUSEPAの水質基準値を超えて検出される場合があった。両ふん便性細菌ともに前日降水量と高い正の相関を示した。塩分とは負の相関を示した。降雨時には、沿岸レクリエーション用水域の数地点は、人畜を起源とするふん便汚染を受けていることが示唆された。
2012-03-03 セルロース系バイオマスを用いた水素発酵菌叢のスクリーニング
 廃棄物中の未利用資源“セルロース系バイオマス”に着目し、セルロースを多く含む有機物から60℃において高効率で水素ガスを生産できる実用的な微生物菌叢を得ることを目的とした。Ball-Milled Cellulose(BMC)を炭素源として加えた培地を用い、環境試料からスクリーニングを行った結果、水素ガス生成能の高い菌叢C-2を得た。3LジャーファーメンターによるpH および攪拌速度の至適化を行った結果、菌叢C-2は至適条件下(pH 7.2、200rpm、60℃)で1.37mol-H2/mol-hexoseの水素ガスを生成した。至適条件下での有機酸分析では、酢酸生成経路から水素ガスが生成していることが示唆された。菌叢C-2の16SrDNAクローンライブラリー法による解析では、Clostridium stercorariumが55.2%を占める主要菌株であった。
2012-03-04 有明海底泥への細胞外ポリマー吸着によるレオロジー特性変化
 有明海干潟底泥から回収した水溶性細胞外多糖類様物質(EPS)を有機物分解処理した底泥の懸濁液に添加した。回転粘度計のスリーブの中で人工海水懸濁液では非ニュートン挙動を示して、ずり速度に比例してずり応力が増加した。底泥の粒子径は約1.3倍に増加した。これは底泥に吸着したEPSが海水中のカチオンにより、底泥間にネットワークを形成するためと考えられた。
2012-03-05 ガス状ホウ素化合物及び硫黄酸化物の1形方式による同時採取法
工場排出ガス中のガス状ホウ素化合物と硫黄酸化物の同時採取法の検討を行った。石英繊維ろ紙の含浸溶液として0.005~0.01%五酸化バナジウム-5%炭酸カリウム水溶液及び0.03%PTIO-5%炭酸カリウム水溶液の2種類を用いた煙道内排出ガス採取法(1形方式)小型採取器により、両ろ紙法とも同時採取に有効であることが明らかとなった。
2012-03-06 伊賀市菜の花プロジェクトを通じた地域活性化について―交流効果額の推定法―
 菜の花プロジェクトに基づく、地域活性化の効果を交流効果額として試算した。イベント参加者の自宅から会場までの距離と同伴者数を求め、車両単価、平均時速、労働賃金を仮定すれば、これらを用いて、車両寄与(円)=台数×補正往復距離×車両単価、人件費寄与(円)={参加人員×移動時間+平均参加時間×参加人員}×人件費とすれば、交流効果額=車両寄与+人件費寄与から推定が可能であると思われた。燃費の仮定から、イベント参加車両のCO2発生量を推定でき、CO2発生量を価格換算して差し引いても効果額は大きく減少しなかった。

<執筆者> 2012-03-01 北海道大学・佐藤 寿樹、辻 宣行、田中 教幸、大崎 満/2012-03-02 宮崎大学・古川 隼士、川畑 勇人、鈴木 祥広/2012-03-03 芝浦工業大学・成田 尚宣、粟冠 真紀子、森本 兼司、木村 哲哉、粟冠 和郎、大宮 邦雄/2012-03-04 県立広島大学・原田 浩幸、三村 泰介、横山 勝英、川喜田 英孝、大渡 啓介、天野 佳正/2012-03-05 富山高等専門学校・鳥山 成一、堀田 里佳、川島 巧真、天坂 光男、森川 裕太、近藤 隆之、木戸 瑞佳、中谷 訓幸、田中 敦、西川 雅高/2012-03-06 三重大学・加藤 進、奥西 将之、紀平 征希、小林 康志、大原 興太郎

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 4月号シックハウス問題は過去のものか?―現在のガイドラインの限界を考える―
編集: 2012-04-00(株)日吉・広瀬 恢

<法規制の現状>室内空気汚染による様々な健康障害は、シックハウス症候群と呼ばれる。これまでのシックハウス対策関連の法律や指針は化学物質対策を進めるために作られ、2002年までに室内空気中化学物質濃度の指針値が設定された。当時の厚生労働省の予定は、40~50の化学物質について順次設定することになっていたが、その後追加されてはいない。現在の健康指針値は毒性評価に基づくホルムアルデヒドなどの13化合物について設定されているが、毒性評価によらないTVOC(揮発性有機化合物、暫定値)は室内空気中の揮発性有機化合物(VOC)の濃度をコントロールするために運用されている。
<法規制の効果>健康指針値が設定されたのち、2003年までにシックハウス規制関係法が整備され、13物質については、濃度が激減した。特に、ホルムアルデヒドは劇的に改善された。その結果、これらの化合物によると思われる被害の相談件数も減少した。(財)住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「相談統計年報2010」によると、シックハウス相談件数は、2003年度の546件から年々減少し、2009年度には129件になっている。
<近年の課題>このような傾向を反映してか、シックハウス問題は過去のものであるという社会風潮が現れてきている。果たしてそうであろうか?シックハウス対策材が開発され、健康指針値設定化合物由来の健康被害の相談件数は改正建築基準法施行前の数分の一に減少したとはいえ、ゼロになったわけではない。相談内容についていえば、テキサノールや2-エチルヘキサノールなどの未規制化学物質による新たな被害の相談が報告されており、むしろ拡大が見られる。現行のガイドラインでは安全な室内空気質を確保することは困難であることを示す。さらに、近年シックハウス症候群による健康相談を受ける中で気が付いたことであるが、入居を急ぐあまりに新築住宅の竣工を待って、すぐに入居した方が多いということ、施工者と施主の間に室内空気質と健康の関わりについてのコミュニケーションがほとんどないということである。
<特集の内容>今回の特集では、前回のシックハウス特集(2004年)との連続性を考えて、2004年以降2011年までのシックハウス問題の対策と課題について、下記に記載のシックハウス医療汚染の実態建築及び建材関連業界の分野における取組の執筆をお願いした。

2012-04-01 シックハウス問題の対策と課題
 前回の特集(2004年)以降の室内空気中化学物質対策とその課題を概括した。通観した分野は、健康の保護測定法法規制関係業界の取り組みと被害事例である。健康の保護分野ではシックハウス症候群、化学物質過敏症の保険適用、測定法の分野では濃度測定法及び放散測定法のJIS 規格制定、法制度化の面では学校保健安全法による学校保健衛生における対応・管理強化、地方公共団体教育委員会によるシックスクール対応マニュアルの作成、ならびに建築等関係団体における自主管理基準等に焦点をあててシックハウス対策と課題を取りまとめた。
2012-04-02 シックハウス症候群および化学物質過敏症の現状と治療
 ますます困難になってきた。規制のかかっていない新しい化学物質が使われるようになったからである。
治療に関しては家族の理解を得ることが最も大切で患者を孤立させてはならない。化学物質だけではなく食物や衣類に到るまで患者を取り巻く環境すべてに関してのサポートが必要である。不安と恐怖を取り除く心のケアが鍵となる。
2012-04-03 未規制化学物質による室内空気汚染の事例―汚染物質及び発生源の探索と低減化対策―
 最近発生しているシックハウス症候群は、指針値がある13物質については指針値を十分に下回っていて、原因物質を特定できない例が多い。
このような“新たな”シックハウスの事例について、汚染物質の原因究明や発生源の探索、低減化対策を紹介する。また、この新たなシックハウスを防ぐために、(1) TVOC暫定目標値の活用、(2) 指針値が設定してある化学物質の安全な使用、(3) 臭気を考慮した規制の必要性、についても議論した。
2012-04-04 揮発性有機化合物による乗用車室内空気の汚染
 現代の車社会では、乗用車の室内で長時間過ごす人も多く、車室内は生活環境の一部として位置づけられる。したがって、住宅室内と同様に、車室内の空気質は人の健康に大きな影響を及ぼすと考えられる。しかし、車室内の内装品等から放散される化学物質による車室内空気の汚染に関する情報は少ない。本稿では、車室内空気汚染に関して、我々が実施した調査の結果と、自動車産業界の取り組みについて紹介する。
2012-04-05 接着剤工業会、家具業界等建材関連業界におけるシックハウス対策
 シックハウス対策としての建材からのホルムアルデヒド放散規制が業界で定着して以降も、VOC放散による室内空気質汚染への対応が建材関連業界の関心事として注目された。そして、民主導の自主的なVOC放散対策として、建材からのVOC放散速度基準の制定や建材からのVOC放散自主表示制度の運用が導入された。これらの制度は現在では市場で安定的に運用されている。主としてこれらの建材からのVOC放散対策の経緯と現状について記す。
2012-04-06 住環境ソムリエの取り組みと効果
 今もなお、増え続けている化学物質過敏症、環境省が取り組むエコチル調査の基本的な考え方は? 室内空間を含む暮らしの環境が与える子どもたちへの影響は? 消費者の健康を守るために今必要な行動とは何か? 消費者の立場で取り組む建築士はなぜ建材メーカ等に嫌がられるのか? 顧客は個客であり、彼らのひとり一人は異なるニーズを持つという認識や自覚が建築士には必要だ。健康重視の住宅づくりを進める“住環境ソムリエ”の家づくりのコンセプトとその事例を紹介する。

<執筆者> 2012-04-01 (株)日吉・広瀬 恢/2012-04-02 ふくずみアレルギー科・吹角 隆之/2012-04-03 北海道立衛生研究所・小林 智/2012-04-04 大阪府立公衆衛生研究所・吉田 俊明/2012-04-05 (社)日本建材・住宅設備産業協会・藤田 清臣/2012-04-06 (株)ケイ・ワタベ・渡邉 公生

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 5月号PM2.5の環境基準設定後の動向
編集: 2012-05-00 武庫川女子大学非常勤講師・福山 丈二、芳川 一宏、山本 光昭

<大気汚染の経緯>我が国の大気汚染問題は、2000年以降では2002年の改正自動車NOx・PM法や2003年10月から東京都をはじめ八都県市で実施されたディーゼル車の運行規制などが、浮遊粒子状物質(SPM)等の大気中濃度の低減に大きく寄与した。2004年度以降SPMやNOxの環境基準達成率が大幅に改善されてきている。また、2006年から実施された揮発性有機化合物(VOC)の法規制により、各種発生源でのVOC排出削減の自主的取組みが積極的に行われ、VOC排出量インベントリー調査ではこの5年間でVOC排出量が約2/3に低減された。
<PM2.5の状況>このような状況の中で、さらに国民が健康に生活できる大気環境を目指して、2009年に新たに微小粒子状物質(PM2.5)の大気環境基準が設定された。PM2.5は、「大気中に浮遊する粒子状物質であって、粒径が2.5μmの粒子を50%の割合で分離できる分粒装置を用いて、より粒径の大きい粒子を除去した後に採取される粒子をいう」と定義されている。したがって、測定上からも種々の難題があり、それらの構成成分、大気中での複雑な二次生成メカニズム発生源の寄与割合の推定、効果的な低減対策等の多くの解明すべき点が山積している。これらの問題を前進させるには、多角的で地道な実態解明のための調査研究が必要である。
<特集の内容>PM2.5に関する現状での研究の進捗状況、行政の取組みや諸課題について最新の情報を提供した。PM2.5の問題解決には、広く産官学一体となって取り組む必要があり、また、研究者間の情報交換も重要である。本号がそれらの研究や環境行政の推進に役立てることが期待できる。

2012-05-01 環境基準設定後のPM2.5対策に関する国の取組みについて
 PM2.5は、2009年9月9日に環境基準が定めら、大気汚染防止法第22条に基づく常時監視として測定されることとなった。2010年度の常時監視結果から、多くの地点で環境基準が達成されていないことが推測された。今後は、早急な測定体制の整備や成分分析を実施し、これらのデータを活用した発生源の把握や生成機構の解明等を進める必要がある。
2012-05-02 PM2.5規制の歴史と国際的動向
 PM2.5に係る大気環境基準の設定に至る疫学調査やPM2.5測定の経緯日本・欧州・米国における環境基準値と規制実施の状況、環境基準設定後の基準改定の経緯等を紹介する。特に、米国EPAが現在実施中の基準見直しの最終報告書の内容を詳しく解説する中で、基準値の適合性判定のプロセス等を解説する。また、今後PM2.5の規制を行うに当たって検討すべき課題に関しても述べる。
2012-05-03 PM2.5の成分から見た汚染実態と濃度推移
 PM2.5の濃度低減には、質量濃度と同時に化学成分も明らかにする必要がある。関東内陸部の埼玉県加須市に位置する埼玉県環境科学国際センターでは、2000年から週単位のPM2.5濃度と主要化学成分の測定を10年以上継続してきた。PM2.5濃度には微減傾向が見られるが、成分では明瞭な減少傾向が見られるものと、そうでないものとがある。また、2008年から開始した、関東甲信静における夏季のPM2.5合同調査から、化学成分の地域毎の特徴が明らかとなった。
2012-05-04 越境大気汚染によるPM2.5の日本への影響
 日本では、アジア大陸からの越境大気汚染が増大し、PM2.5の環境濃度にも大きな影響を与えている。離島山岳域での観測、流跡線解析、地上観測ネットワークデータや衛星観測データの解析などによって汚染の由来を解析するとともに、化学輸送モデルを使って越境汚染影響を評価することによって、その実態の一部が明らかになりつつある。
2012-05-05 PM2.5の健康影響:最近の知見から
 わが国の微小粒子状物質の環境基準設定後も、長期ならびに短期の健康影響について、観察期間を延長したり、PM2.5構成成分との関連を検討するなど、各国からPM2.5の長期、短期健康影響に関する疫学知見が報告されている。今後、より低濃度域での健康影響の有無についての情報が増えてくると期待される。
2012-05-06 PM2.5自動測定機の現状と今後の課題
 PM2.5の自動測定機は標準測定法と等価であることが求められる。環境省による評価試験では、2012年3月現在8機種が等価性を有すると認められている。これらの自動測定機を使用して行われた常時監視測定局での測定結果によると全国で約3分の2の測定局では環境基準が未達成であったとされている。自動測定機には種々の課題があるが、これらを解決し今後の測定体制の整備が進められることが望まれる。

<執筆者> 2012-05-01 環境省水・山本 陽介、芳川 一宏、山本 光昭/2012-05-02 愛媛大学・若松 伸司/2012-05-03 埼玉県環境科学国際センター・米持 真一/2012-05-04 (独)国立環境研究所・大原 利眞/2012-05-05 慶応義塾大学・武林 亨/2012-05-06 (社)日本環境衛生センター・高橋 克行

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 6月号原発放射能汚染水の浄化技術
編集: 2012-06-00 京都大学・藤川 陽子

<原発汚染水の経緯> 福島第一原発の1-3号炉では、2011年3月11日の東日本大震災の津波に起因する全電源喪失により、原子炉の冷却機能が失われた。
 この出力クラスの原子炉は、核分裂反応停止後の時点でも、燃料中の放射性核種の崩壊熱に起因する熱を数十MW程度発生するため、本来、冷温停止に至るまで炉の冷却を続ける必要がある。福島第一では結局、熱の捨て場を失った3つの炉が炉心溶融を起こす重大な事故となった。
 高温の燃料から発生する水素ガスや閉じ込められた水蒸気に伴う原子炉格納容器の大規模な損傷を避けるため、政府・東電は格納容器への海水注入による冷却に踏み切り、その後、淡水注入に切り替えたが、高塩分かつ高放射能濃度の汚染水が原子炉建屋からタービン室にかけて多量に滞留する結果となった。
 海水中の塩分は炉を構成する金属材料の腐食や配管の目詰まりを招き、また高濃度の放射性物質は周辺の空間線量を上昇させ作業困難をもたらす。汚染水を浄化して原子炉の循環冷却水として使用し、現場での放射線線量を低減しつつ炉を安定化することが至上命題となった。
<汚染水中の放射性物質> この汚染水は放射化生成物のCs-134、核分裂生成物のCs-137、Sr-90を多く含むことがわかっている。またその他の核分裂生成物や放射化生成物、核燃料物質も含有する可能性はある。一般的にはZr-98、Nb-93m、Nb-94、Tc-99、Se-79、Sn-126、Cs-135、I-129、Sm-131などの半減期の長い核種、年オーダーの半減期のCo-60、Sb-125、Eu-154やアクチノイド系列のPu-239、Pu-240、U-235、U-238、Cm、Amなどが列挙できる。
<汚染水処理の難しさ> 一般に発電用軽水炉で核燃料に触れる一次系の冷却水は、純度の高い水である。そのため、発電所の冷却水浄化の日常作業においては、海水(高塩分水)中に存在する放射性物質を処理するという枠組みはない。また、そもそも通常運転時の原子炉では、放射性物質は核燃料中に封じ込められているもので、水中に多量に存在するものではない。そのため、福島第一の炉心などに存在する塩分と放射性物質を含む汚染水処理に採用する水処理手法については、様々な工夫が必要となった。しかも汚染水には燃料油も含まれるなど、処理困難が予想された。
<海洋汚染の懸念> 福島第一からの汚染水の海洋への流出も海洋汚染の点から懸念される。この点については、大気中核実験由来の放射性セシウムによる広域的な汚染についての既往の研究が参考になる。また、もともと欧州の再処理工場等からは、1993年第16回ロンドン会議において放射性廃棄物の海洋投棄が全面的に禁止されるまで、低レベル廃液の管理下での海洋放出が行われていた。またロシア政府の1993年の報告書によりソ連時代の海洋への放射性物質放出実態が明らかになった。そのため北方のKara海を中心とした海洋環境での放射性物質の挙動は欧州諸国にとって重要な関心事となり国際共同研究も盛んである。
<特集の内容> 本誌の読者は、放射性セシウムを含む水の処理については馴染みがない方が大部分と推察する。今回の特集では、このような汚染水の浄化にかかわる基礎的な化学・物理学的な解説から始め、実際に汚染水浄化について現場での利用技術や発生した問題、最後に汚染水浄化に伴って発生する各種の固体廃棄物の処理処分に関する技術的検討の途中経過を、それぞれの専門家・担当者から解説してもらうこととした。

2012-06-01 化学共沈操作による放射性汚染水処理の基礎化学
 Cs-137およびCo-60等を含む高塩分汚染水の化学共沈操作による処理素材の例として、フェロシアン化金属錯塩沈殿を取り上げ、発見経緯と沈殿への取り込み機構の概要、さらに、そのニッケル錯塩を使用する場合の沈殿生成と適応pH範囲、及び高濃度のNa+を含む廃水への適応性などについて基礎化学の立場から検討解説した。
2012-06-02 高塩分水中の放射性セシウムの吸着現象
 水中の放射性セシウム、特にCs-134やCs-137は、放射能の濃度としては高くてもその質量濃度は極めて低いことから吸着時も特異な挙動をとることがある。セシウムの固相への吸着を決める要因としては、まず、固相のセシウム吸着特性がある。すなわち固相の荷電状態(これは液相のpHにも依存する)、吸着座の硬軟、吸着座がchaotropeかkosmotropeか、粘土鉱物が吸着対象である場合は吸着座の大きさとセシウムの相性はどうか、等である。また、液相中の担体(安定・放射性セシウムの総濃度)、共存イオンの種別も放射性セシウムの吸着を大きく左右することになる。セシウムは概してアルカリ金属の中では鉱物等に吸着しやすいほうであるが、高塩分水中では吸着は低下する。低下の程度は共存塩の種類にも依存すると考えられる。
2012-06-03 SARRYTMによる福島第一原発の排水処理
 福島第一原発のタービン建屋地下に発生した高濃度の放射性物質を含む滞留水について、タンクへの貯蔵と原子炉の冷却水に使用するための水処理設備、通称SARRYTMを適用した。その結果、滞留水を安定に処理することが可能となり滞留水の減少による環境汚染リスクを低減できた。また、処理により得た淡水を原子炉冷却水として使用することで原子炉の温度制御が可能となり冷温停止状態の達成に貢献した。
2012-06-04 福島第一原発の汚染水からの塩分除去処理
 福島第一原発事故で発生した放射性核種を含む汚染水は海水由来の塩分を含むため、機器腐食抑制を目的として塩分除去を行っている。本稿では、原子炉建屋やタービン建屋内の汚染水及び使用済燃料プール水からの塩分除去装置について、装置概要とこれまでの処理実績を述べる。
2012-06-05 汚染水処理に伴い発生する廃棄物の処理処分へのアプローチ
 福島第一原発事故収束へ向けた取り組みの中で、原子炉建屋およびタービン建屋に溜まった汚染水の処理で発生する二次廃棄物の処理・処分の研究開発が東京電力から求められて機構として開始した。その後、政府・東京電力中長期対策会議の下の研究開発推進本部で、福島第一原発の廃止措置のために実施すべき研究プロジェクトの1つとして設定された。これまでに実施した成果を報告する。

<執筆者> 2012-06-01 大阪薬科大学名誉教授・木村 捷二郎、山沖 留美/2012-06-02 京都大学・藤川 陽子/2012-06-03 (株)東芝・電力システム社・豊原 尚実、小林 正彦、芝野 隆之、市川 長佳、畠澤 守/2012-06-04 日立GEニュークリア・エナジー(株)・玉田 愼/2012-06-05 (独)日本原子力研究開発機構・中村 博文

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 7月号国を越えての物質・生物の移動とその影響」特集のねらい
編集: 2012-07-00 大阪工業大学・駒井 幸雄

<越境汚染> オゾン、酸性物質、PM 2.5物質、黄砂などさまざまな大気汚染物質が他国から国境を越えて輸送され、地球環境全体にも影響する事象に対して広く使われている。
 しかし、大気汚染物質に限らずさまざまの物質や生物が、人間活動に伴って大気海洋、そして国際河川を介して、一国の範囲をはるかに越えて広範囲に拡散や移動を通して環境に大きな影響を与えている。
<特集の内容> 国を越えての物質・生物の移動に焦点をあてた。その代表事例として重金属化学物質漂着ゴミおよび海洋生態系について、それぞれの専門家が、現状と問題点および将来の課題を論じている。

2012-07-01 水銀の広域汚染―インドネシアを中心として
 水銀は地球規模で汚染が広がり、海洋中の大型哺乳類や魚介類へ濃縮されており、世界各国で食べ方の注意事項が決められている。このため、UNEP(国連環境計画)では水銀管理のための水銀条約の策定を目指しており、水銀の環境中への放出量についても推計している。しかし、インドネシアの各地では、小規模金採掘が盛んであり、その精錬時に使用する水銀の放出量がUNEPの推計以上に多くなっている。これまで実施してきた河川水、底質、魚、毛髪中の水銀濃度の調査結果を紹介する。
2012-07-02 化学物質の長距離移動と広域汚染
 地球上のあらゆる場所から化学物質は検出されるが、その要因は大気を経由した化学物質の長距離移動性にある。本稿では、約50年前に南極のペンギンから農薬のDDTが検出された例をはじめ、化学物質の長距離輸送に関するこれまでの知見を整理、紹介した。加えて、近年新たな環境負荷が明らかになった「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤」に関する環境情報を紹介し、POPsとの類似性やPOPs条約への追加登録の可能性を探った。
2012-07-03 日本沿岸に漂着するごみの特徴とその対策
 日本の海岸に漂着するごみの起源とその行方を明らかにするため、2003年からディスポーザブルライターを指標漂着物として、国内だけではなく、東アジア近隣諸国や北太平洋島嶼部で採取調査を行ってきた。その結果、日本の東シナ海および日本海沿岸には、日本のみならず、中国・台湾・韓国などから流出したごみが大量に漂着することが明らかになったが、同時に日本から北太平洋へ大量のごみが流出していることがわかった。
2012-07-04 エチゼンクラゲの大発生と越境回遊
 エチゼンクラゲは渤海・黄海・東シナ海の沿岸部を発生源とし、海域環境や生態系の変遷により2002年以降大発生を繰り返し、越境回遊して本邦沿岸漁業に甚大な被害をもたらしている。中国近海に出現する若いエチゼンクラゲを初夏にフェリーから目視調査することにより、クラゲが日本に来襲する1~3ヶ月前に大発生の有無が予測可能となっている。この早期予報により漁業者は時間的余裕をもってクラゲの来襲に備えることができる。
2012-07-05 船舶を介した海藻類の越境移動とその早期検出に向けて
 海洋生物の船舶を介した越境移動は、バラスト水に関わる部分については、IMOによる規制が準備されているが、船体付着に関わる部分についてはさらに拡大することが危惧される。海洋外来種のうち海藻類では、代表的なイチイヅタ、ミル、タマハハキモク、ワカメなどについて遺伝子マーカーを用いた起源や移入経路の解析が進んでいる。外来種の沿岸への移入を早期に検出するため、港湾に標準化された付着基板を用いたモニタリングを行い、また移入種の分布情報をデータベース化する試みがなされている。

<執筆者> 2012-07-01 豊橋技術科学大学 井上 隆信/2012-07-02 熊本大学・中田 晴彦/2012-07-03 鹿児島大学・藤枝 繁/2012-07-04 広島大学・上 真一/2012-07-05 神戸大学・川井 浩史

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 8月号東日本大震災-研究者はどのように取り組んでいるか-
編集: 2012-08-00 神戸学院大学・古武家 善成

 現在、わが国の科学者集団を代表する日本学術会議は、「東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会」(現在 30学会)を組織し、震災への対応を強めている。そして、国内の多くの学協会も、それぞれの分野からこの大震災について検討・考察し、対策の方向性をまとめつつある。このような検討・考察は、わが国のあらゆる分野の個人・団体から政府までにおいて行われている。とりわけ研究者集団である学協会の活動は、専門性が極めて高いがゆえにその結果を注視し、歴史に残していかねばならない。
<特集の内容> 本特集では、そのような基本的考え方から、なるべく多くの学協会の震災対応活動について掲載することを意図した。個々の学協会の活動内容は、それぞれの雑誌、ニュースレター、ホームページ等に目を通せば知ることができるが、多くの学協会の活動概要を“一目で”展望できるところが本特集の特徴と考えている。
 誌面の都合上、学協会の掲載数は限られることから、地震・津波など今回の大震災に直結する分野や原発事故に関係する原子力の分野については、それぞれ単独で膨大な情報を有することから別の機会に譲り、当学会の活動分野に近いまたは関連する分野の学協会に焦点を当てた。

2012-08-01 東日本大震災後の下水中病原微生物管理に向けた取り組み―日本水環境学会 水中の健康関連微生物研究委員会―
 日本水環境学会は「東日本大震災対応タスクチーム」を発足させ、衛生管理に関係するテーマと湿地・沿岸域に関係するテーマを調査している。水中の健康関連微生物研究委員会は、下水処理場および放流水域での汚染実態の把握と生物処理が不十分な下水の消毒技術(塩素、オゾン、UV消毒など)の実験的検討に重点を置いて活動を行っている。本稿では、その概要を報告している。
2012-08-02 東日本大震災と海洋研究者の活動―日本海洋学会の取り組み―
 日本海洋学会は震災後、海洋における放射性物質の分布を把握し、それらの情報を迅速に発信する目的で、「震災対応ワーキンググループ(WG)」を設置した。WGでは、行政に対する提言、観測航海情報や放射性物質の挙動に関するQ&A、モデル結果の解説などの情報発信、市民向けシンポジウム開催などの活動を行った。NHKと共同で、原発20㎞圏海域内における観測を行い、テレビ番組の制作に協力した。
2012-08-03 災害廃棄物への対応は復旧・復興の第一歩―廃棄物資源循環学会の取り組み―
 発災直後、研究者の現地入りは難しいと考えられていた。阪神淡路の経験からも、不眠不休の現地に訪ねることは許されなかった。そのような中、初期の段階で支援に入ったのが廃棄物資源循環学会である。信頼関係の上で、仙台市に拠点を置き、支援活動を始めた。現在その成果は書籍となり、今後来たるべき災害に備えるものとして出版された。
2012-08-04 東日本大震災から1年間―土木学会の取り組み―
 津波現象や構造物設計から交通や都市の計画まで極めて幅広い分野をカバーする土木学会(会員数4万人)は、東日本大震災の直後から津波の痕跡調査や建造物の被害調査、地域復興調査などをはじめ多くの調査研究活動を行い、安全方策の改善と被災地域の復旧・復興に向けて努力し、国際シンポジウムなどを通じてそうした成果を社会に発信してきた。本稿では、発災後1年間のこれらの活動の概況を報告している。
2012-08-05 日本下水道協会の取り組み
 震災地における下水道の復旧活動の状況、地震・津波対策に対する全国ルール、下水道施設の耐震対策指針と解説、下水道の地震対策マニュアルについて記載している。
2012-08-06 日本水道協会の取り組み
震災地における水道の被災状況と復旧支援活動の状況を記載している。
2012-08-07 農業農村工学会の取り組み
被災地域の農業農村における災害状況と今後の農村復興計画、農地の塩害・除染対策の状況を報告している。
2012-08-08 社会貢献学会の取り組み
震災地域のボランティア支援活動、被災状況調査、被災者調査を報告するとともに、今後の津波伝承の情報発信に努めている。
2012-08-09 阪神・淡路大震災水環境影響調査結果からの教訓
 東日本大震災の環境や生活への影響解明の基礎情報として、1995年1月の阪神・淡路大震災後に実施された日本水環境学会特別研究委員会の調査結果概要をまとめるとともに、今回の震災への教訓について考察した。阪神・淡路大震災の調査では、陸水や土壌への影響、被災住民の確保水量や水源の変遷、下水処理場や水環境研究・分析機関の被害等が示され、東日本大震災の調査において比較検討すべき課題が明らかになった。

<執筆者> 2012-08-01 京都大学・田中 宏明、片山 浩之、山下 尚之/2012-08-02 東北大学・花輪 公雄/2012-08-03 京都大学・浅利 美鈴/2012-08-04 東京大学・家田 仁/2012-08-05 日本下水道協会・片桐 晃/2012-08-06 日本水道協会・羽根田 卓一/2012-08-07 農業農村工学会・菊辻 猛/2012-08-08 神戸学院大学・前林 清和/2012-08-09 神戸学院大学・古武家 善成

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 9月号日本の利用可能風力エネルギー―乱流と洋上風・上層風測定技術―
編集: 2012-09-00 兵庫県立大学・河野 仁

<風力発電の動向>福島原発の事故を受けて、原子力、火力に代わる自然エネルギーの導入推進が強く求められている。世界的には、風力発電が実用技術面、発電価格において最も高く評価され、風車は、最近、陸上だけでなく海上にも積極的に建設が進められている。しかし、日本はドイツ、デンマーク、スペイン等、ヨーロッパの風力発電導入先進国と比べて大幅に導入が遅れている。
<国内の状況>従来、日本は山国で乱流が多く風力発電に適さないという、単純な議論があった。しかし、日本はヨーロッパと同様に、上空に強い西風が吹く偏西風帯に位置し、また、島国であり、長い海岸線を有している。そのため、日本は世界の中では風が強いほうに属している。海上は陸上と比べて、地表面の摩擦抵抗が小さいために風が強い。また、陸上と比べると風の乱れ(乱流強度)が小さい。そのために、日本の風車の多くが、海岸線に建設されている。また、山頂は平地と比べると、風が強い。そのために、山頂にも多くの風車が立てられている。
 日本が島国で長い海岸線を持ち、山が多いという地形の特徴を有効に活用すれば、現在の消費電力量を上回る風力エネルギーの開発が可能である。最近の日本の風力エネルギー調査研究はこのことを裏付けており、陸上だけで日本の消費電力を上回る、さらに、陸上・洋上を合わせると日本全体の消費電力約7倍の利用可能な風力エネルギーが存在すると推定されている。

2012-09-01 風力発電をめぐる最近の動向と風力発電の導入ポテンシャル
環境省では、再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電、中小水力発電及び地熱発電)について、全国の賦存量、導入ポテンシャル及びシナリオ別導入可能量を試算するとともに、地図情報を公開している。本稿では、風力発電をめぐる最近の動向を紹介した上で、風力発電の導入ポテンシャル等の試算方法とその結果を詳述する。
2012-09-02 日本の風力エネルギーポテンシャルの推移と長期導入ロードマップ
 わが国の風力発電のポテンシャルの推移と2011年版の最新結果の比較を行い、各報告でも既存発電電力設備の約6.7倍の1,362GW程度の存在があることが判明している。同ポテンシャルの一部の50GWを開発すると、エネルギー基本計画で発電量の目標とする風力発電の国内電力需要量の約10%(900億kWh)の電力導入比率割合を定量的達成できることを明らかにした。
2012-09-03 日本列島の風速分布および地形と風速・乱流の関係
 日本列島の風速分布地形と乱流の関係について検討を行い、北海道から沖縄までの、日本の広い範囲で風力発電に必要な風が吹いていること、また、海岸線、山頂等では乱流は小さく、風力発電に有効であることを、野外観測データに基づいて解説する。
2012-09-04 洋上風力エネルギー賦存量の推定とその技術的課題
 欧州に遅れること十数年、ようやく日本でも洋上風力エネルギーの開発の機運が高まってきた。洋上では現場において風車ハブ高度の風速を観測することが非常に困難であるため、人工衛星によるリモートセンシングや数値モデルによるシミュレーションによって洋上風力エネルギーを正確に推定する技術の獲得が喫緊の課題となっている。本稿では、洋上風力エネルギー賦存量を推定する際に必要となる海上風況の推定手法を紹介するとともに、現時点におけるそれらの技術的課題について述べる。
2012-09-05 風況調査におけるリモートセンシングの利用と技術的課題
 リモートセンシング装置を用いて風力発電のための風況調査を行う取り組みが進められている。本稿ではを利用したドップラーソーダとを利用したドップラーライダの測定原理、特徴と仕様を紹介した。また、リモートセンシング装置の観測結果を示し、従来風力発電において風況調査に使われてきた風杯式風速計と比較した。

<執筆者> 2012-09-01 環境省・平塚 二朗/2012-09-02 日本大学・長井 浩/2012-09-03 兵庫県立大学・河野 仁/2012-09-04 神戸大学・大澤 輝夫/2012-09-05 (株)ソニック・伊藤 芳樹、早﨑 宣之、前田 太佳夫

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10月号第6回世界水フォーラムの成果と課題
編集: 2012-10-00 立命館大学・仲上 健一

第6回世界水フォーラム(主催:フランス政府、世界水会議)が2012年3月12日から17日まで、フランスのマルセイユで開催された。3年に1度開催されるこのフォーラムは、水分野で最も重要な国際イベントの一つで、今回も世界173ヶ国から約2万人(日本関係約100人)が参加した。
 今回のフォーラムは「Time for Solutions:問題解決の時」という主題で、国連持続可能な開発会議「リオ+20」に向け、この決定的なステップのためにマルセイユ閣僚宣言において明確な政治的優先課題を示そうという意図が明確であった。会議は、閣僚会議国別会議セッション(約250ヶ所)、ハイレベルパネル地域プロセス等が開催された。また、各国のパビリオン・ブースでも、積極的にそれぞれの水問題の重要性・ネットワークの必要性を訴えていた。
<キックオフ会議>水フォーラムに先立って、2010年6月2日に、フランス・パリで第6回世界水フォーラムキックオフ会議が、主要関係者の参加のもとに行われた。テーマプロセスとして、2012年3月までの限られた時間と空間の中で、成果を最大限に上げることの工夫が必要という前提の下、次の10テーマについて解決策を導くための課題と目標をグループ形式で意見集約するという方式が採用された。すなわち、①ガバナンス、②アクセス、③気候変動、④権利、⑤バランシング、⑥キャパシティビルディング、⑦越境、⑧水と食糧、⑨リスク、⑩イノベーション等々である。
<日本パビリオン>日本の技術、経験の共有を通じて水ビジネスに関する情報を発信、東日本大震災を踏まえた復興状況等について情報発信を軸として、そのアピールは「巧み(洗練と先進)」「和み(調和)」そして、「絆」である。
<特集の内容>本特集では、、第6回世界水フォーラムに参加した人間文化研究機構総合地球環境学研究所関係のサイドイベントの報告を中心に、会議の成果と課題を整理して、水問題解決への道のりを見据える議論を深めることをねらいとしている。

2012-10-01 水土の知」―「統合的水資源管理」に向けての再定礎―
 近年ますます深刻さを増してきたと理解されている世界の水問題に対して、解決への具体的な道筋と、その実践を求める世界的な潮流の中で開催されたのが、2012年3月の第6回世界水フォーラムである。ここでは、このフォーラムのねらいや、世界の水問題の解決に向けてのプロセスとして検討が重ねられてきた「統合的水資源管理」の課題を踏まえて、水問題に取り組むための「水土の知」の再構築の基本的な考え方を整理してみたい。
2012-10-02 水管理のニュー・パラダイム―水の安全保障、ガバナンス、統合的管理
 本稿は、水管理における新しい概念である水の安全保障(WS)や水のガバナンス(WG)と統合的水資源管理(IWRM)との相関関係を検討し、今後の展望を提示することを目的とする。まず、IWRMの概念に関する今日までの発展の経緯をまとめ、批判を含めた議論を概観する。次に、WSおよびWGに関する知見を整理し、IWRM の相関関係の記述を試みる。それをもとに、最後にIWRM の今後の展望を描く。
2012-10-03 参加型灌漑開発管理の成果と課題―水問題解決への重点課題―
 世界は今、食料価格危機再燃の前夜にある。世界の穀物価格決定構造が変化し、食料インフレが常態化している。世界の次世代を養う穀物生産力の向上と安定化のためには、地球上で最大の水資源利用者である灌漑農業の一層の開発が不可欠だ。しかし、世界の灌漑開発は、今世紀に入り急ブレーキが掛かっている。経済的動機づけを超えたアイデンティティー志向の共有資源管理を実現するため、農民参加型の灌漑開発管理に注目したい。
2012-10-04 水災害リスクの管理についての国際的議論の展開
 世界各地で大規模な水災害が生起し、大きな被害を与えている。人命や財産を失うだけでなく、各種生産活動への影響も少なくない。本報告では、第6回世界水フォーラムにおいて、我が国が関わった水災害、水環境に関するいくつかのイベントをレビューするとともに、近年の水関連災害の動向について概説する。最後に、統合的水資源管理とそのなかでの洪水管理の重要性を示すとともに、国際協力における我が国の貢献についても触れる。

<執筆者> 2012-10-01 総合地球環境学研究所・渡邉 紹裕、加藤 久明、田村 うらら/2012-10-02 総合地球環境学研究所・濱崎 宏則、仲上 健一/2012-10-03 (独)国際農林水産業研究センター・山岡 和純/2012-10-04 京都大学防災研究所・寶 馨

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11月号  グリーン社会の構築に取り組む高専の技術



12月号浄化槽の近年における技術革新
編集: 2012-12-00 龍谷大学・竺 文彦

 浄化槽とは、下水道のない地域で汚水を処理する設備をいうが、下水道とは別の日本独特の制度であり、英訳においてもJohkasouという言葉が使用されている。
<浄化槽の法改正> し尿のみを処理する単独処理浄化槽では、台所排水などの雑排水は未処理で放流されるが、汚濁負荷量としてはし尿より雑排水の方が大きいため、雑排水を処理することが必要と考えられるようになった。そこで、し尿と雑排水を共に処理する合併処理浄化槽が開発され、2001年には、単独処理浄化槽を設置することが禁止され、新設する場合は合併処理浄化槽のみが許されることとなった。現在、法的には、合併処理浄化槽を「浄化槽」と呼び、単独処理浄化槽を「みなし浄化槽」と呼ぶこととなっている。単独処理浄化槽の新設は禁止されたが、水域の汚濁の改善には既存の単独処理浄化槽を合併処理浄化槽に入れ替えていくことが必要である。
<浄化槽の技術> 技術的には、浄化槽では毎日維持管理が行われるわけではないため、汚濁負荷の変動に対して強く安定した処理方法として、接触ばっ気法が多く採用されてきた。接触ばっ気法は、生物膜を付着させる材料(媒体あるいはろ材と呼ばれる)をばっ気槽に浸漬する生物膜法の一種であるが、世界的なレベルで見ても、接触ばっ気法は日本の浄化槽において開発、発展してきた処理技術であると言うことができる。
<規模の大きい浄化槽> 一般的には浄化槽と言えば戸別の浄化槽を思い浮かべるが、宿舎や住宅団地など規模の大きな浄化槽もあり、数百人~数千人、最大規模の関西国際空港では7万人規模のものもあって、処理方法も標準的な活性汚泥法、硝化液循環活性汚泥法、生物膜法として接触ばっ気法、散水ろ床法、回転板接触法などが用いられている。したがって、規模の大きな浄化槽は小規模の下水道と同様であると言えるが、法的な体系は異なっている。
<海外の状況> ヨーロッパにおいては、50人以下の汚水処理設備を英語で decentralized facility(分散型設備)と呼び、日本と同様に国によって処理設備の認可などが行われている。ヨーロッパの戸別の浄化槽は、形は円筒形で、上部が細くなっていきマンホールとなっているものが多く、これをいくつか連結させていくシステムとなっている。処理方法は、活性汚泥法や接触ばっ気法が用いられる。ドイツでは放流の際、塩素消毒は行われず、UVを用いるか膜ろ過が用いられる点も異なっている。
<性能評価型浄化槽> 浄化槽の制度としては、「構造基準」によって、処理する人数に対して槽の大きさや処理設備に対する規定が設けられており、流入状況が変化しても安定して良好な放流水質が得られるような仕組みとされてきた。しかし、「構造基準」によって容量や技術を固定する役割はほぼ終了し、社会的ニーズの変化、建築・設備技術の進歩・多様化への対応および、国際調和の実現を図ることを目的として、技術基準の見直しが行われることとなった。2000年に従来の「構造基準」における国土交通大臣認定の枠を超え、さらに新しい技術が開発されるように、性能評価を受けて大臣が認定する「性能評価型」の浄化槽が認められるようになり、窒素、リンの処理やBODの高度処理、あるいは、全体の容量を小さくした小型浄化槽などさまざまな新しい技術が開発され、次々に実用化されてきている。
<特集内容> 本特集においては、これらの最近の浄化槽における「性能評価型」の処理技術の発展について紹介する。以前、浄化槽は下水道が普及するまでの一時的な施設と考えられていたが、現在では恒久的な施設として位置付けられており、経済的な理由や地域の河川の水を豊かにするため下水道をつくらず、浄化槽によって生活排水を処理するとする地域も増えてきており、より優れた技術が開発され、定着していくことが望まれる。

2012-12-01 浄化槽技術の特徴と維持管理の重要性
 浄化槽は単独処理浄化槽(みなし浄化槽)から合併処理浄化槽(浄化槽)に移行し、生活排水対策の柱と位置付けられ、その処理技術は構造基準の性能規定化に伴い飛躍的に進歩した。その歴史的な変遷、大臣認定制度補助制度の関係を解説するとともに、近年の性能評価型浄化槽の開発動向と特徴を示した。さらに、設置された浄化槽が所期の性能を発揮するためには、関連業界への情報伝達と適正な維持管理が不可欠であることを示した。
2012-12-02 接触ろ床法を用いた浄化槽
 接触ろ床法は、従来の接触ばっ気法により進化した構造と機能を付加し、処理能力を高めた生物膜法である。一般的な接触ばっ気法に近いため、構造が比較的単純で運転状況の判断や調整操作も分かりやすく、二次処理(生物処理)に採用しやすい方式である。従来の接触ばっ気法と比較して、最近の接触ろ床法の構造、機能および特徴について解説する。
2012-12-03 担体流動法を組み込んだ浄化槽
 近年、浄化槽に対する社会的ニーズは、コンパクト化、省エネ化、高度処理化を求めるものとなっている。本稿では、二次処理として担体流動法を組み込むことにより、効率的、かつ高性能な処理を実現することができた浄化槽の構造・機能と処理性能について紹介し、さらに維持管理のポイントについてまとめる。
2012-12-04 担体流動生物ろ過法を用いた窒素・リン除去型浄化槽
 日本のBOD、CODに関する環境基準の達成率は、湖沼、内湾等で低く、その主な原因は家庭から排出される生活排水であり、特に窒素とリンの除去が必要とされている。筆者らは、平成14年に家庭用浄化槽として世界で初めて窒素、リンを同時に除去できる浄化槽を開発した。本稿では窒素・リン除去型浄化槽に採用した担体流動生物ろ過法やリン除去法である鉄電解法を中心にその概要と特徴、維持管理について紹介する。
2012-12-05 沈殿分離・嫌気ろ床・好気循環方式による浄化槽
 浄化槽は下水道と並立する恒久的な生活排水処理施設として位置付けられているが、浄化槽法改正以前に設置されたし尿のみを処理する「みなし浄化槽」を「浄化槽」(生活排水すべてを処理)へ転換することが望まれている。そこで、「みなし浄化槽」の設置場所への入替えが容易となるよう、従来の浄化槽に対し約70%にコンパクト化し、さらに、処理水質はBOD15㎎/L、T-N20㎎/L、SS10㎎/L以下と高度処理型で、低炭素社会構築に寄与できる沈殿分離・嫌気ろ床・好気循環方式の浄化槽を開発した。
2012-12-06 膜分離活性汚泥法を用いた浄化槽
 膜分離活性汚泥法の浄化槽は、コンパクトで高性能であることから、近年、高度処理が必要な地域を中心に広く普及してきている。また、処理水の再利用ができる方式としても活用されている。本稿ではその特徴と課題について紹介する。

<執筆者> 2012-12-01 (財)日本環境整備教育センター・岡城 孝雄、櫛田 陽明/2012-12-02 アムズ(株)・足立 清和/2012-12-03 ニッコー(株)・大沼 進/2012-12-04 フジクリーン工業(株)・手塚 圭治/2012-12-05 (株)ハウステック・古市 昌浩、日比野 淳、手塚 圭治、市成 剛/2012-12-06 (株)クボタ・北井 良人

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掲載日:2018年01月26日
更新日:2018年08月07日

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