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クロム・マンガン・鉄


<目次>

はじめに

 Cr(最外殻電子:3d54s1)・Mn(3d54s2)・Fe(3d64s2)などは遷移元素で、自然の水環境の条件(好気・嫌気または酸化還元電位)によって、金属イオンの価数が容易に変化する。

Ⅰ.クロム

 クロムは、銀白色の光沢を持った硬くてもろい金属である。クロムは地殻中に100mg/kg程度含まれており、重金属の中では鉄、マンガンについで多い物質である。クロム鉱物は、主にクロム鉄鉱(FeO・Cr2O3)及びベニエン鉱(PbCrO4)等が知られているが、単体で産出することはなく、大部分は不溶性の形で存在するため自然水中に含まれることはまれである。
 用途として、耐食性が高いためメッキや不動態を作る性質及び合金にすると硬度を増す性質のためにクロム鋼・ステンレス鋼の原料として利用されている。また、金属塩は、種々の色があるために顔料、うわぐすりとして使われており、皮なめしにも用いられている。
 主なクロム化合物は三価及び六価である。天然の存在形態は、ほとんどが三価のクロムで、六価のクロムは、人為的起源によるものとみられる。
 六価クロムは三価クロムより毒性が強く、ラットに対する経口投与のLD 50は、20~250mgCr(Ⅵ)/体重kg、185~615mgCr(Ⅲ)/体重kgである。また、重クロム酸カリウムの水生生物に対する24時間TLmは、コイで140~150mg/L、フナで705mg/Lである。多量のクロム酸塩や二クロム酸塩の誤飲以外の毒性は、大きくないと考えられていたが、昭和50年クロムメッキ工場排水が新興住宅地の井戸水を汚染(0.05~2.54mg/L)し、これを飲用したり、浴用にして、100名もの人が消化器障害や皮膚疾患をはじめ、全身症状を呈し、低濃度の場合でも亜急性~慢性中毒のおそれがあることがわかり、注目を集めた。慢性毒性としては、職業病として知られている鼻中隔穿孔、呼吸器障害等がある。これは、六価クロムを含む空気やダストを吸引することによる。六価クロムに暴露された者の調査結果から、肺ガン、呼吸器系ガンとの相関性があるといわれている。
 汚染のない河川水中でクロムは0~0.1μg/L、海水で0.04~0.07μg/L程度含まれているといわれている。


表Ⅰ-1 クロム、マンガン、鉄の水質基準
Cr_Mn_Fe-water-quality-standards

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1.クロムの水中での化学的性質

 第一クロム塩(Ⅱ)もあるが、最も重要なのは第二クロム塩(Ⅲ)であって、Al(Ⅲ)やFe(Ⅲ)に似た性質を示す。クロム酸塩や重クロム酸塩はⅥ価である。

1.1 Cr(Ⅲ)

(1)pHの影響

 第二クロム(Ⅲ)イオンは、酸性では6配位八面体構造の[Cr(H2O)6]3+(以下、Cr3+と略称)として存在し、pHの増加にともなって[Cr(H2O)5OH]2+(以下、CrOH2+と略称)(青または紫色)を経て、pH 5付近からCr(OH)3(灰色)の沈殿を生成する。なお、[Cr(H2O)5OH]2+は、ヒドロキソブリッジによる2量体と平衡にある。
 Cr(OH)3沈殿は、pH 12.5付近で緑色の[Cr(H2O)2(OH)4](以下、Cr(OH)4またはCrO2と略称)を生じて再溶解するが、溶液を沸騰させることにより難溶性のCr(OH)3が完全に沈殿する。
 Cr(OH)3はコロイド状になることが多く、鉄(Ⅲ)やアルミニウム(Ⅲ)が大量にあって、その水酸化物が沈殿するときには凝集する。反対に、Cr(Ⅲ)が多いときには他の水酸化物の凝集が遅くなる。

Cr3+ + H2O = Cr(OH)2+ + H+  pK1 = 3.95
[Cr(H2O)5OH]2+ ⇄ [(H2O)5Cr=(OH)2*=Cr(H2O)5]4+
(=(OH)2*=:ヒドロキソブリッジ)
Cr(OH)2+ + H2O = Cr(OH)2+ + H+  pK2 = 5.5
Cr(OH)2+ + H2O = Cr(OH)3(aq) + H+  pK3 = 5.9
Cr(OH)3(aq) + H2O = Cr(OH)4 + H+  pK4 = 11.0
Cr3+ + 3OH = Cr(OH)3(s)  pKsp = 30

Cr-pH
図Ⅰ-1 Cr(Ⅲ)水溶液の溶解度とpHとの関係
詳しくは、別ページを参照、自動計算MS-Excel事例(ダウンロード

(2)難溶性化合物

 難溶性塩は多くない。緑がかったCrPO4は酢酸に可溶、無水の硫酸塩と塩化物を塩化物は非常にゆっくりとしか溶解しない。


表Ⅰ-2 M(Ⅲ)塩の溶解度積
trivalent-metal-salts _solubility-products

(3)錯体

 塩化物イオンとの錯体はかなり不安定で、CrCl2+は緑色である。SO42-との錯体CrSO4+、Cr(SO4)2は相当安定である。酢酸イオンとの錯体と紅紫色アンミン錯体いずれも溶液を沸騰すると分解する。シュウ酸、クエン酸、シアン化物イオンとの錯体は安定で、またフッ化物イオン、チオシアン酸イオンとの錯体もある。これらの錯体の多くは平衡に達するのがおそい。

表Ⅰ-3 Cr(Ⅲ)錯体の解離定数
Cr3+_complex-stabilities

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1.2 Cr(Ⅵ)

(1)pHの影響

 CrO3 (深紅色)は水に非常に可溶性で、濃いHClO4やH2SO4にはあまり溶けない。pH 1以下の酸性では4面体構造のH2CrO4として存在する。pH 2~6ではHCrO4および重クロム酸イオンCr2O72-(2量体、橙赤色)が平衡状態にあり、pH 6以上のアルカリ性ではCrO42-(黄色)として存在する。なお、重合したイオンものは2量体Cr2O72-が大部分であるが、極めて小部分が3量体Cr3O102-(赤)や4量体とCr4O132-(褐色)として存在する。

H2CrO4 + H2O = HCrO4 + H+  pK1 = -1.0
HCrO4 + H2O = CrO42- + H+  pK2 = 6.5
Cr2O72- + H2O = 2HCrO4  pK = 1.5

(2)難溶性化合物

表Ⅰ-4 クロム酸塩の溶解度積
Chromate-solubilities

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1.3 Crの酸化還元電位

<金属Cr>
 金属は硝酸酸性では速やかに酸化物被膜で蔽われて反応しにくい状態になる。式(Cr-E1)に示すようにHClには溶ける。
<Cr(Ⅱ)>
 5N-HCl溶液ではEo’= -0.41 V、1-2N H2SO4ではEo’= -0.40 V。酸性では第一クロム塩Cr2+は極めて還元性があり、空気中で速やかに酸化される。H+イオンとゆっくり作用し、式(Cr-E3)のようになる。
 この反応は白金のような触媒があるとさらに急速に進行する。Cr2+イオンは他のほとんどの全ての系を還元し、ClO4-を還元したり、NO3-をNH4+に、Sn2+をSnに還元する。
<Cr(Ⅲ)>
 Cr3+は酸性で亜鉛または亜鉛アマルガムによって還元されCr2+になる。強アルカリ性では水酸化物はまず黒褐色に酸化される。
<Cr(Ⅵ)>
 酸性では、式(Cr-E4)に示すように、強い酸化剤となる。強酸性では酸化反応はかなり速く進行する。pH 2での反応はおそく、Fe2+、HAsO2やSn2+、Fe(CN)64-がその反応の触媒として作用する。pH 4.5では反応は一般に非常におそく、クロム酸はもはや強力な還元剤によっても還元されなくなるが、一方、Cr3+の酸化される早さも酸性溶液では非常におそく、強力な酸化剤たとえばMnO4を過剰に加えて熱する場合にのみ酸化が起こる。CrO2はアルカリ性の溶液中にのみ存在するが、式(Cr-E5)に示すように、このものはより早く酸化される。中間物質として難溶性の酸化物CrOHCrO4、またはCr2(CrO4)3が生成する(図1-2)。
 アルカリ性ではCr3+は塩素、臭素、過酸化水素、過酸化鉛、過酸化ナトリウム、ペルオキシ二硫酸塩によって容易に酸化される。塩素はpH 4.5以上ではCr3+を酸化する。

Cr2+ + 2e = Cr(s)  Eo = -0.91 V   (Cr-E1)
Cr3+ + e = Cr2+  Eo = -0.41 V   (Cr-E2)
2Cr2+ + 2H+ = 2Cr3+ + H2(g)   (Cr-E3)
Cr2O72- + 14H+ + 6e = 2Cr3+ + 7H2O  Eo = 1.33 V   (Cr-E4)
CrO42- + 4H+ + 3e = CrO2 + 2H2O  Eo = -0.12 V (pH 14)   (Cr-E5)
Cr(CN)33- + e = Cr(CN)64-  Eo = -1.14 V   (Cr-E6)

Cr-E-pH
図Ⅰ-2 Crの酸化還元系の近似的な見かけの電位とpHとの関係

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2.クロムの除去

(1)発生源

 クロムは製錬工場、無機顔料製造業などの無機工業製品製造業、有機顔料または合成染料の製造業などの有機化学化学工業製造業、医薬品製造業、皮革工場、染色工場金属製品製造業、機械器具製造業、酸またはアルカリによる表面処理施設、電気メッキ施設などからの廃水、または冷却水の循環使用にさいしてクロム酸塩を腐食抑制剤(インヒビター)として加えた場合のブローとして排出されることがある。

(2)処理法

 処理法に1)沈殿法、2)イオン交換法、3)その他がある。
1)沈殿法
 沈殿化合物はCr(OH)3が一般的である。
 廃液中に存在するCr(Ⅵ)イオン(CrO42-やCr2O72-など)は還元し、Cr(Ⅲ)の陽イオンにしたのち、アルカリを加えてpHを8前後にし、生成したCr(OH)3を凝集沈殿と清浄ろ過で分離する。
a) Cr(Ⅵ)の還元には還元剤を加える方法、電解還元による方法がある。
b) 還元剤としては一般に硫酸第一鉄、亜硫酸水素ナトリウム、その他が用いられる。
c) 硫酸第一鉄によるCr(Ⅵ)の還元はpHが低いほど反応速度が大で、pH 4以下、一般に 2~2.5で行われる。
d) Cr(Ⅲ)の水酸化物沈殿には、アルカリとして一般に石灰類(生石灰、消石灰)が用いられる。
2)イオン交換法
 希薄濃度のCr(Ⅵ)イオンの除去に強塩基性陰イオン交換樹脂を用いるイオン交換法が応用される。Cr(Ⅵ)イオンは酸化作用が大であるのから耐酸化性の大きいイオン交換樹脂を選ぶ。また、溶離性がよくないので再生に留意する。

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Ⅱ.マンガン

 マンガンは、灰白色で、もろい金属である。軟マンガン鉱(MnO2)、サイロメレン鉱等として産出される。自然界においては広く分布しており、陸上では古い熱水鉱床に由来する黒鉱がある。海底でも熱水鉱床が次々に発見されているが、その他に深海底にはマンガン団塊の存在が知られている。用途として、特殊鋼、乾電池、ガラスの着色、染色等に使われている。
 マンガンには、Ⅰ価~Ⅶ価の7つの原子価状態が知られているが、Ⅱ、Ⅳ、Ⅶ価のものが普通にみられる。そのうち、Ⅱ価(Mn2+)とⅦ価(MnO4)は、水中で安定しているが、Ⅳ価のマンガンは、不溶性の酸化物MnO2になりやすい。水中では、イオンやコロイドの他、懸濁粒子や有機物と結合した形態等で存在している。河川中のマンガンは、主に天然由来のものであるが、鉱山廃水、工場排水等の混入により、希に高くなることがある。
 天然水中では、通常、鉄と共存することが多い。地下水中では、遊離炭酸が多く、溶存酸素が少ないとき、還元状態のMn2+の形で溶存している。表層水では、酸素と接触することにより酸化され、Mn(Ⅳ)として存在する。湧き水や鉱山排水口の水路底の砂礫が黒い被膜で蔽われていることがあるが、これは地下水中のMn2+が地表でMn(Ⅳ)に変化し、黒色のMnO2の生成によるものである。他方、湖沼や貯水池では、水温成層期に深・底層部分が還元状態となり、不溶性MnO2は、還元されて可溶性のMn2+となりマンガンの溶出が起きる。
 マンガンは、生体の微量必須元素であるが、多量のマンガンを摂取すると、急性中毒を引き起こす。人におけるマンガンの生物学的半減期は、13日である。水生生物への影響については、淡水中ではほとんど問題にならない。
 一般に、自然水中に溶解性マンガンは0.1mg/L以下のオーダーで、1mg/Lになると異常値とみなすことができる。

マンガンに関する基準 → 表Ⅰ-1

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1.マンガンの水中での化学的性質

 Mn(最外殻電子:3d54s2)は、(3d6) ~ (3d0)までの全てが知られている。元素が種々の酸化状態をとり得る場合はその酸化の程度が高いほどイオン半径は小さくなる。電荷もちろん同時に大きくなるから、元素の陽イオンの酸性は酸化数とともにより強くなる。そのため、陽イオンの存在範囲は非常に酸性の溶液中だけに限定される。このような高い酸化状態では、一般に、陰イオンの状態として存在し、かつそれに対する水酸化物は強酸の性質を帯びる。

Mn-valence-states
図Ⅱ-1 マンガンの価数と酸化物および水酸化物

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1.1 Mn(Ⅱ)

(1)pHの影響

 Mn2+は、Fe2+、Ni2+、Co2+の化合物と類似している。
 陽イオンMn2+は淡桃色、白色のMn(OH)2は、pH 8.5(0.01M)から沈殿する。この沈殿は非常な強アルカリ性溶液に極めて少量溶解してHMnO2-(または、6配位八面体の[Mn(H2O)3(OH)3])を生じる。NH4+が存在すれば、6配位八面体構造の安定なアンミン錯体を形成[Mn(NH3)6]2+を形成し、全く沈殿しない。また、空気中で酸化されて、MnO2に変化し褐色になる。

Mn2+ + H2O = Mn(OH) + H+  pK1 = 7.8
Mn(OH) + H2O = Mn(OH)2(aq) + H+  pK2 = 9.9
Mn(OH)2(aq) + H2O = Mn(OH)3 + H+  pK3 = 11.0
Mn(OH)3 + H2O = Mn(OH)42- + H+  pK4 = 15.4
Mn2+ + 2OH = Mn(OH)2  pKsp = 15.9

Mn-pH
図Ⅱ-2 Mn(Ⅱ)水溶液の硫化物と水酸化物の溶解度とpHとの関係
自動計算MS-Excel事例(ダウンロード

(2)難溶性化合物

 数多くあるが、溶解度が極めて小さい塩はまれである。硫化物MnSは最も難溶性で、ピンク色であるが、空気中で酸化されて、MnO2(aq)になる。硫化アンモニウムの過剰の存在下で煮沸するとさらに水和の少ない緑色の硫化物が得られる。MnNH4PO4も難溶解性化合物である。


表Ⅱ-1 M(Ⅱ)の難溶性塩の溶解度積
bivalent-metal-salts _solubility-products

(3)錯体

 不安定な錯体が数多くある。リン酸塩、シュウ酸塩、アンミンおよび有機ヒドロキシ化合物の錯体など、シアン化物イオンとの錯体は緑色でより安定である。フッ化物イオンとの錯体も同様に安定である。

表Ⅱ-2 Mn(Ⅱ)錯体の解離定数
Mn_complex-stabilities

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1.2 Mn(Ⅵ)

 Mn(Ⅶ)(4s24p6 | 3d0)はその外殻電子(価電子)の状況から、クロムCr(Ⅵ)(3s23p6 | 3d0)、モリブデンMo(Ⅵ)(4s24p6 | 4d0)、タングステンW(Ⅵ)(5s25p6 | 5d0)および硫黄S(Ⅱ)(2s22p6 |3s23p6)に類似している。ただし、(内殻電子 | 外殻電子)である。
 Mn(Ⅶ)は溶液では、マンガン酸イオンMnO42-(四面体構造、図Ⅱ-3)としてのみ存在する。この溶液は緑色で、イオンは溶液が強アルカリ性の場合にのみ安定である。アルカリ性が弱くなると不均一化する。
permanganate-structure
図Ⅰ-3 MnO4の四面体構造

2MnO4 + MnO2(s) + 2H2O = 3MnO42- + 4H+
Ba2+ + MnO42- = BaMnO4(s)  pKsp = 9.6

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1.3 Mnの酸化還元反応

 金属Mnは強力な還元剤でH2Oに作用する(Mn-E1)。
M(Ⅱ)/Mn(0)系

Mn2+ + 2e = Mn(s)  Eo = -1.17 V   (Mn-E1)

Mn(Ⅲ)/Mn(Ⅱ)系
Mn3+ + e = Mn2+  Eo = ~1.5 V   (Mn-E2)
Mn3+ + e = Mn2+  E = 1.5 V (9N-H2SO4)   (Mn-E2-1)
Mn(CN)63- + e = Mn(CN)64-  E = -0.24 V   (Mn-E2-2)

Mn(Ⅳ)/Mn(Ⅱ)系

 6N-HCl(クロロ錯体を形成)では見かけの電位1.47 Vである。7.5M-H2SO4中では1.64 Vである。MnO2は熱濃硫酸HClを酸化するが、Mn2+は濃HNO3によってMnO2に酸化される。MnO4はMn2+をMnO2に酸化し、この反応は加熱により速くなる。
アルカリ性では、Mn(OH)2は空気中では沈殿するとすぐに酸化される。この反応は、ClO、H2O2、S2O82-などの酸化剤が共存すれば、なお速い。その結果、順次にMn2O4、Mn2O3およびMnO2のような化合物の水和物が得られる。
 10N-NaOH中では酸化の結果、まず褐色のMn2O4、次にMn2O3が生成し、最後にMnO2が生じることとなる。H2O2の分解はこれらの酸化還元によって触媒作用を受ける。

MnO2(s) + 4H+ + 2e = Mn2+ + 2H2O  Eo = 1.23 V   (Mn-E3)
Mn3O4(s) + 2H+ + 2e = 3MnO(s) + H2O  E = -0.4 V   (Mn-E3-1)
3Mn2O3(s) + 2H+ + 2e = 2Mn3O4(s) + H2O  E = -0.2 V   (Mn-E3-2)
2MnO2(s) + 2H+ + 2e = Mn2O3(s) + H2O  E = -0.05 V (pH 14)  (Mn-E3-3)

Mn(Ⅵ)/Mn(Ⅳ)系

 見かけの電位は8M-NaOH中では0.5Vである。したがって、MnO2はマンガン酸に酸化される。

MnO42- + 4H+ + 2e = MnO2(s) + 2H2O  E = 0.5 V (8M-NaOH)   (Mn-E4)

Mn(Ⅶ)/Mn(Ⅵ)系
MnO4 + e = MnO42-  Eo = 0.56 V   (Mn-E5)

Mn(Ⅶ)/Mn(Ⅳ)系
MnO4 + 4H+ + 3e = MnO2(s) + 2H2O  Eo = 1.68 V   (Mn-E6)

 過マンガン酸塩は非常に強い酸化剤で、pHが増すと電位の値は小さくなるが、なお非常に高く、酸性では急速な酸化作用がある。
 Mn(Ⅶ)/Mn(Ⅳ)系およびMn(Ⅳ)/Mn(Ⅱ)系の電位は互いに非常に近い。したがって、MnO4-は一般にMn2+まで直接還元されるが、一方このMn2+はMnO4と反応してゆっくりとMn(Ⅳ)を生じる。酸性溶液ではMnO4はFe(Ⅱ)のο-フェナント錯体(図Ⅲ-2)を赤から薄青に変化させる。反応を起こし、またFe2+、濃HCl、Cl(熱時)、Sn2+、CeO42-(熱時)、H2O2、S2-、As(Ⅲ)、N3などを酸化する。酢酸緩衝液中では、BrとIは酸化されるが、Clは酸化されない。
 酸性の弱い溶液や中性またはアルカリ性の溶液では強力還元剤のみが過マンガン酸イオンをMn2+にまで還元するが、一般に反応はMnO2でとまる。しかし、Mn2+と錯体を生成するようなイオン(例えばF)が共存すると還元はMn(Ⅲ)の段階で止まる。

Mn-E-pH
図Ⅱ-4 Mnの酸化還元系の近似的な電位の見かけの電位とpHとの関係

<不均一化による分解>

 式(Ⅱ-1)のようにMn2O3(aq)は酸性でMnO2とMn2+に分解する(図Ⅱ-4)。
 MnO42-はpH 13.5以下では存在しない。それ以下のアルカリ性溶液では、式(Ⅱ-2)のように不均化する。同様に、MnO43-も強アルカリ性溶液中のみに存在する(図Ⅱ-1参照)。

Mn2O3(s) + 2H+ = MnO2(s) + Mn2+ + H2O   (Ⅱ-1)
3MnO42- + 4H+ = 2MnO4 + MnO2(s) + 2H2O   (Ⅱ-2)

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Ⅲ.鉄

 鉄は、光沢があり、展延性に富んでいる金属である。主に赤鉄鉱(Fe2O3)、磁鉄鉱(Fe3O4)、褐鉄鉱(Fe2O3・nH2O)、黄鉄鉱(FeS2)などに含まれて産出する。地殻中には酸素、ケイ素、アルミニウムに次いで多い。用途として、自動車、パイプ、建材、鉄道、機械等であり、広範囲に使われている。
 水中の溶解性鉄は、鉄(Ⅱ)イオン、鉄(Ⅲ)イオン及びそれらの各種錯イオンである。また、不溶解性鉄の主な形態は、水酸化鉄(Ⅲ)(Fe(OH)3)、酸化鉄(Ⅲ)(Fe2O3)、有機鉄(鉄のフミン錯体)、ケイ酸と結合した形である。
 水に溶けている鉄(Ⅱ)イオンは、無色であるが、水中に酸素があるときは酸化されて、赤褐色の水酸化鉄(Ⅲ)の沈殿を生じる。その結果、無色透明の水が赤色に変わって見える。地下水中では、有機物が溶存酸素によって酸化分解されて、二酸化炭素を生じる一方、酸素が消費されて還元状態にあるとみられる。このような地下水中では、鉄は鉄(Ⅱ)イオンとしてかなり高濃度で、かつ安定に溶けている。その地下水を汲み上げ地表に持ってくると、二酸化炭素が大気中に揮散し、水中の鉄イオンと炭酸との平衡が崩れ、他方、大気中の酸素が溶け込み酸化が起こり、その結果、赤褐色の水酸化鉄(Ⅲ)が沈殿することとなる。無色透明な温泉水が瞬く間に真っ赤に濁るのは、同じ機構によるものである。
 地表水の溶解性鉄の濃度が一般に 1mg/L(場合によっては 1μg/L)以下と極めて少ないのは、自然の酸化と水酸化鉄(Ⅲ)または酸化鉄(Ⅲ)の溶解度が小さいことによる。逆に、富栄養化が進んだ湖沼、貯水池では、水温成層期に深・底層部が還元状態となり、鉄やマンガンの溶出が起こる。
 鉄分のある水は、布地や器物などを黄褐色に着色(0.3mg/L以上)したり、臭気や苦味(0.5~1.0mg/L)を与える。また、製紙、染色、電子工業等の製品の品質に影響を与えることから、水道水としても、工業用水としてもできるだけ少ないことが望まれる。したがって、用水中の鉄の含量は、どんな目的に使用するとしても 0.3mg/L以下、理想的には 0.1mg/L以下が望ましいとされている。
 鉄は、ヒトの必須元素(7~48mg/日)であるが、血液中の遊離鉄イオンは、有害である。塩化第二鉄をウサギに静注した場合、急性致死量は、7.2mg/kg体重の値が示されている。魚の毒性としては、24時間半数致死濃度は2.4mg/L(コイ)~25mg/L(ハゼ)である。しかし、環境の濃度レベルでは、人への健康影響は少ないと考えられる。むしろ、用水としての利用面、上水の性状の面で重要と考えられる。
 鉄について環境基準値は設定されていない。

鉄に関する水質基準 → 表Ⅰ-1

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1.鉄の水中での化学的性質

 第一鉄Fe(Ⅱ)(外殻電子:3d6)は亜鉛属に属する。第二鉄Fe(Ⅲ)(3d5)はアンモニア属である。鉄酸塩(Ⅵ)(3d2)はマンガン酸塩やクロム酸塩に似ている。

1.1 Fe(Ⅱ)

(1)pHの影響

 Fe(Ⅱ)は、Mn(Ⅱ)、Zn(Ⅱ)、Ni(Ⅱ)、Co(Ⅱ)に似ている。NaOHを加えるとはじめに塩基性塩が得られ、ついで水酸化物が得られる。アンモニア溶液における硫化物の溶解度は一般に小さい。水酸化物より難溶性の化合物が多数あり、特に硫化物は難溶である。錯体も多数であるが、CNとの錯体を除けば一般に不安定である。いくつもの酸化状態があり、Cr、Mn、Feなどが類似している。

表Ⅲ-1 金属(Ⅱ)イオンの水酸化物沈殿のpH
M(OH)2_precipitation-pH

 水に溶解したFe2+(6配位八面体、[Fe(H2O)6]2+)は、うすい緑色で、酸性であるが、Fe3+より酸性は弱い。白色のFe(OH)2はpH 7.5くらいで沈殿しはじめる。Fe(OH)2は空気中で急速に酸化されて、はじめは緑色、次に黒色Fe(Ⅱ)・Fe(Ⅲ)が混合した水酸化物を生じ、最後錆色のFe(OH)3になる。Fe(OH)2は極めて強アルカリ性の溶液にもほとんど溶けない。

Fe2+ + H2O = Fe(OH) + H+  pK1 = 10
Fe(OH) + H2O = Fe(OH)2(aq) + H+  pK2 = 7.9
Fe(OH)2(aq) + H2O = Fe(OH)3 + H+  pK3 = 14.8
Fe(OH)3 + H2O = Fe(OH)42- + H+  pK4 = 19.5
Fe2+ + 2OH = Fe(OH)2  pKsp = 15.1

Fe2+-pH
図Ⅲ-1 Fe(Ⅱ)水溶液の溶解度とpHとの関係
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(2)難溶性化合物

 Fe(Ⅱ)塩には、炭酸塩、シアン化物、シュウ酸塩、リン酸塩など難溶性のものが多い。黒色の硫化物FeSはpH 4から沈殿しはじめ、空気中でゆっくり酸化を受ける。コロイド状態では溶液は濃厚な緑色である。

Fe(Ⅱ)の難溶性塩の溶解度積 → 表Ⅱ-1

(3)錯体

Ni2+、Zn2+などのようにFe2+はアンミン錯体を生成するが、空気中では速やかに酸化される。有機のヒドロキシ化合物、次亜リン酸、シュウ酸イオンとも錯体を生成する。また、1,10-フェナントロリン(phenanthroline:phen)やCNと安定な錯体[Fe(phen)3]2+や[Fe(CN)6]4-を形成する。

o-phenanthroline
図Ⅲ-2 1,10-フェナントロリン

表Ⅲ-2 Fe(Ⅱ)錯体の解離定数
Fe2+_complex-stabilities

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1.2 Fe(Ⅲ)

(1)pHの影響

 酸性ではFe3+が常に存在する。Fe3+の溶液は無色か淡紅紫色(過塩素酸または硝酸溶液)である。塩酸や硫酸の溶液では黄色い錯体が生じる。錆色の水酸化物はpH 2(10-2 M)から沈殿するが、中性付近までコロイド状になって溶液中に分散していることがある。強アルカリ性では少量の水酸化物がさらにコロイド状になる。
 Fe(Ⅱ)があるときには水酸化第一・第二が沈殿する。緑色:Fe3(OH)8;黒色:Fe4(OH)10

Fe3+ + H2O = Fe(OH)2- + H+  pK1 = 2.3
Fe(OH)2- + H2O = Fe(OH)2 + H+  pK2 = 3.4
Fe(OH)2 + H2O = Fe(OH)3(aq) + H+  pK3 = 4.3
Fe(OH)3(aq) + H2O = Fe(OH)4 + H+  pK4 = 15.0
Fe3+ + 3OH = Fe(OH)3  pKsp = 37(無定形)

Fe3+-pH
図Ⅲ-3 Fe(Ⅲ)水溶液の溶解度とpHとの関係
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(2)難溶性塩

 水酸化物より難溶性な化合物は少ない。FePO4は酢酸酸性では難溶性である。塩基イオンCO32-、BO2などは一般に適当なpHになると水酸化物の沈殿を生成させる。
 硫化アンモニウムは黒色のFe2S3を沈殿させ、これはアルカリ性でのみ安定である。H2S は 2FeS + S を沈殿させる。

Fe(Ⅲ)の難溶性塩の溶解度積 → 表Ⅰ-2

(3)錯体

 Fe(Ⅲ)錯体は非常に多い。塩化物イオンとレモン黄色、硫酸イオンと黄色、チオシアン酸イオンと濃紅色の錯体を生成するが、いずれも不安定である。酢酸イオンとはFe(CH3COO)2+のような赤い不安定な錯体を生成するが、熱する分解して水酸化物を沈殿する。フッ化物イオンとの錯体は無色FeF2+などがある。ピロリン酸、リン酸、有機のヒドロキシ化合物とも錯体を生成し、シュウ酸との錯体は緑でかなり安定である。非常に安定な錯体はフェリシアンイオンFe(SCN)62-とニトロプルシッドイオンFe(CN)5NO2-でいずれも橙黄色である。

表Ⅲ-3 Fe(Ⅲ)錯体の解離定数
Fe3+_complex-stabilities

(4)有機溶媒

 ペクロンとオキシンはクロロホルムや四塩化炭素で抽出される化合物を生成する。Fe(SCN)3あるいはFe(SCN)6Feは多くの有機溶媒に溶けて赤くなる。塩化物は強塩基酸性でエーテルやケトンなどに抽出され、この際の過防物は黄色のHFeCl4およびFeCl3である。

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1.3 Feの酸化還元反応

(1)Fe(Ⅱ)/Fe(0)系

 金属鉄は非常に還元性が強く酸化されやすい、特に希酸に侵されやすい。しかし、反応はいずれの方向にもおそい反応である。水の存在下で、酸素に侵され、Sb、Ag、Pbなどのイオン水溶液から金属を析出させる。アルカリ性での見かけの電位は-0.8 ~ -0.9V(水酸化鉄を飽和した10N-NaOHの溶液)であり、この電位はほぼ水素が発生する電位に近い。そこで鉄は熱時には割に速く水素を放って水に侵されていき、その際に主としてFe3O4の黒色化合物が生成する。
 Fe2+ + 2e = Fe(s) Eo = -0.44V
 Fe(s) + 2H+ = Fe2+ + H2(g)

(2)Fe(Ⅲ)/Fe(Ⅱ)系

Fe(Ⅲ)/Fe(Ⅱ)系の標準酸化還元電位を次に示す。
 Fe3+ + e = Fe2+  Eo = -0.77

1)酸性溶液
 1N-HClO4の溶液中では見かけの電位はpHに関係なく 0.75Vである。0.01M溶液中ではpH 2のときのFe(OH)3が沈殿し、それからpHが増すとともに見かけの電位は急速に低くなる(図Ⅲ-5)。
〇各種の酸性溶液中での見かけの酸化還元電位:
 1N-HCl:0.70V、1N-H2SO4:0.68V、1N-HNO3:0.73V、
 2N-HClO4:0.75V、5N-H3PO4:0.44V(pH = 0)
 酸性溶液中で起こるFe3+による酸化やFe2+による還元の反応の多くはFe(Ⅲ)/F(Ⅱ)系のpHによって説明できる。
<Fe(Ⅲ)イオンの酸化性>
〇H2Sに対する作用:
 2Fe3+ + H2S = 2Fe2+ + S(s) + 2H+
〇ヨウ化物イオンに対する作用:
 2Fe3+ + 2I = 2Fe2+ + I2
〇第一スズ塩に対する作用:
 2Fe3+ + Sn2+ = 2Fe2+ + Sn4-
〇チオ硫酸塩に対する作用:
 2Fe3+ + 2S2O3 = 2Fe2+ + S4O62-
<Fe(Ⅱ)イオンの還元性>
〇空気の緩慢な作用:
 4Fe2+ + O2(g) + 4H+ = 4Fe3+ + 2H2O
〇過マンガン酸の作用
 5Fe2+ + MnO4 + 8H+ = 5Fe3+ + Mn2+ + 4H2O
〇硝酸塩の作用:
 2Fe2+ + NO3 + 2H+ = 2Fe3+ + NO2 + H2O
 Fe2+ + HNO2 + H+ = Fe3+ + NO(g) + H2O
2)アルカリ性溶液
 pH14で見かけの電位は -0.7Vである。中性またはアルカリ性ではFe(Ⅲ)の酸化力はなくなり、逆にI2はFe2+を酸化し、NO3はFe(OH)2によってNH4+にまで還元されるようになる。銀、水銀、ヒ素、ビスマス、アンチモンの塩は金属まで還元される。Fe(OH)2は急速に酸素を吸収して酸化し、まず緑色になり、次に(1-x)Fe(OH)2・xFe(OH)3(0 < x < 1)が生じて黒くなり、それから錆色のFe(OH)3へと移行する。
 10N-NaOH溶液ではFeO22-(またはFe(OH)42-)は空気中で急速に酸化され、水溶液ではゆっくりと酸化されて、Fe(FeO2)2の黒色沈殿を生じる。次にClOのような酸化剤を作用させるとFe(OH)3になる。
 Fe(OH)3(s) + e = Fe(OH)2(s) + OH  E = -0.7V (pH 14)
3)シアン化鉄(Ⅱ/Ⅲ)
 フェロシアン化イオン(ferro:第一鉄)およびフェリシアン化イオン(ferri:第二鉄)は極めて安定な錯体で、図Ⅲ-4に酸化還元電位とpHの関係を示す。pH 4以下では、フェロシアン化物水素酸HFe(CN)62-が生成し、見かけの電位は増加する。フェリシアン化物はしばしば酸化剤として働くが、その強さは生じたフェロシアン化物が不溶性塩を形成して系外に除かられるのに比例して増大する。
 Fe(CN)63- + e = Fe(CN)64-  Eo = 0.36V
Fe-cyanides
図Ⅲ-4 シアン化鉄(Ⅱ/Ⅲ)イオンの酸化還元系の見かけの電位とpHとの関係

Fe-E-pH
図Ⅲ-5 Feの酸化還元系の近似的な電位の見かけの電位とpHとの関係

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Ⅳ.鉄・マンガンの除去

(1)鉄・マンガン除去の意義

 ここで示す水中の鉄・マンガンとは水中に溶解性だけでなく、コロイド状の鉄およびマンガンを含む。鉄・マンガンを並べて扱うのは両者が共存することが多いばかりでなく、用水への影響、由来および化学的性質、処理法などが類似しているからである。
 鉄・マンガンは人体に必須菜成分であるが、水に金属味を与えたり水に黄褐色~黒色の色を着け、いわゆる赤水・黒水の原因となる。この場合、鉄が多ければ黄赤~赤褐色を呈し、マンガンが多ければ黒褐~黒色を呈する。このような水は飲料に適しないばかりでなく、製氷・繊維・染色・クリーニング・醸造・清涼飲料・食品などお多くの工業にとって障害となる。そこで、鉄 0.3mg/L、マンガン 0.05mg/Lを採っている国が多い。もっとも、我が国ではマンガンの基準が 0.3mg/Lとなっているが水道法では 0.05mg/Lを基準としている。このようにマンガンの基準が厳しいのは、たとえ微量のマンガンでも塩素消毒によって酸化され、パイプ内付着蓄積したのち水流の急変によって流出するからである。
 商業用水に対する鉄・マンガンの限界値は業種によって大きく異なるが一例を示すと表Ⅳ-1のとおりである。
 また、鉄・マンガンの多い水には、鉄バクテリアが発生し、管壁に鉄・マンガンの酸化物をスケール状に蓄積して、通水能力著しく減少させる他、これが流出して赤水や異臭味の原因となる。一方このような水をイオン交換樹脂に通水すると樹脂をコーティングして交換能力を劣化させる。

表Ⅳ-1 産業用水中の鉄・マンガンの制限値の事例(mg/L)
industrial-water-Fe_Mn-limits

(2)由来と形態

 鉄・マンガンが比較的多量に溶存している水は、地下水・貯水池や湖沼の底層水・鉱山廃水や酸性河川・泥炭地の水・都市近傍の汚濁河川などに見られる。また、鉄管内に対流した水にも鉄が検出されることがある。
 自然水の鉄は元たどれば岩石や土壌からきたものである。すなわち鉄はマグ寝た井戸(Fe3O4)、ヘマタイト(FeO3)、リモナイト(2Fe2O3・3H2O)、パイライト(FeS2)、シデライト(FeCO3)などから、またマンガンはマンガナイト(MnOOH)、ピロルサイト(MnO2)、ハンスマンナイト(Mn2O3)、ロドクロサイト(MnCO3)、アラバンダイト(MS)が還元されて溶出したものと考えられる。たとえば、雨水は地下浸透する際に、土壌中の有機物分解によって酸素が奪われ、反対に生じた多量の炭酸ガスが与えられるが、このような無酸素条件下において有機物や硫化水素による還元作用が働くと土壌中の鉄・マンガンの酸化物は還元されてFe2O3 → FeCO3 → FeCO3となり溶存するようになる。貯水池や湖沼の底層水中の鉄・マンガンもこのようなメカニズムで溶出するものと考えられる。
 また、鉱山廃水や酸性河川の鉄・マンガンは硫酸などの強酸によって鉱石中の鉄・マンガンが溶解されたもので硫酸第一鉄の形で溶存する。
 一方、都市河川近傍の汚濁河川や泥炭中の鉄・マンガンは有機物と結びついた錯塩で、いわゆる有機鉄・有機マンガンとよばれている。存在状態は十分明らかでないがいずれも安定したコロイドでフミン酸やフルボ酸とキレートを形成していると思われる。
 鉄管内の水にみられる鉄はいうまでもなく鉄管から溶出したものであるが、炭酸の多い水やアルカリ度が小さくpHの低い水など特に溶かしやすい、また水温の高い水を鉄と接触させると大量の鉄が溶出する。最近の国内では、水道管にはダクタイル鋳鉄管、ステンレル鋼管、樹脂ライニング鋼管や樹脂管などが用いられ、このような赤水・黒水のような事例は極めて少なくなっている。

(3)処理法

1)酸化・沈殿・ろ過法

 酸化にはpH調整(アルカリ添加)、エアレーション、塩素添加(塩素ガス、次亜塩素酸ナトリウム)、過マンガン酸化カリウム添加などの中から1つまたは2つを選択・併用する。ただし、ケイ酸の多い水(Si:50mg/L以上)にエアレーションを行うとコロイド状の微細粒子となり、沈殿・ろ過で除去できなくなるので注意を要する。沈殿は普通沈殿の他、硫酸アルミニウムなどを注入する凝集沈殿法が用いられる。なお、有機鉄を除去するには酸または大量の凝集剤を注入してpHを下げる必要がある。また、水中の鉄・マンガンが少ない時は沈殿工程を省くことができる。ろ過は通常急速ろ過であるが、特殊ろ過が用いられることもある。

2)接触ろ過法

 特殊なろ材、たとえば、オキシ水酸化鉄(FeOOH)やマンガン砂などを用いてろ過する方法である。この場合、ろ材は一種の触媒としての働きを発揮し空気や塩素などの酸化剤を併用するとことによって、連続的にマンガンを除去できる。大量の水を確実かつ経済的に処理することが可能となる。

3)鉄バクテリア法

 鉄バクテリアを用いて鉄・マンガンを除去する方法である。薬品が要らず、また機能が安定しているので管理が容易であるが、大規模な水道や地表水の処理には向かない。

4)イオン交換法

 イオン状の鉄・マンガンをイオン交換体で除去することができる。イオン交換体としては無機ゼオライト、炭質ゼオライト、イオン交換樹脂などがある。ただし、除鉄だけの目的で用いられることはほとんどなく、硬水軟化や純水青銅などの工程において用いられる。
 なお、ゼオライトにマンガンの高級酸化物を付着させた、いわゆるマンガンゼオライトを用いて鉄・マンガンを除去する方法があるが、これは接触酸化法とイオン交換法の中間で本法の一変形と見なせる。

5)鉄・マンガンの封鎖

 これは除去法ではないが、ポリリン酸塩(ヘキサメタリン酸塩)を注入すると鉄・マンガンは酸化されがたい錯塩を形成するので赤水・頃水の障害を防ぐことができる。この場合縮合ポリリン酸塩は鉄・マンガンが溶解している時点で注入し、よく混合する必要がある。空気や塩素酸化されたのちに注入したのでは効果はない。注入率は鉄・マンガンの約10杯程度を必要とする。

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Ⅴ.定量測定法

 クロム・マンガン・鉄の公定測定方法には、吸光光度法原子吸光法ICP発光分光分析法およびICP質量分析法の4方式があり、さらに、原子吸光法はフレーム原子吸光法電気加熱原子吸光法の2方式がある。
 これらの公定測定法の概要と特徴の特徴については、カドミウム・鉛・亜鉛についてのページで説明したので省略する。しかし、上記カドミウムなどの金属は水中ではⅡ価状態であるのに対し、クロム・マンガン・鉄は環境条件(pHおよび酸化還元電位)により価数が変化するとともに共存成分の影響も大きいので、測定方法も煩雑となる。
 なお、学生さんや初心者は、検水の前処理や濃縮操作を記載した別ページを参照して、本解説を読んでいただきたい。

表Ⅴ-1 クロム、マンガン、鉄の測定条件
Cr-Mn-Fe_analysis-wavelength

1.クロムの定量測定

 環境水など通常の酸化還元状態・中性付近の水中の元素Crは、化学的性質の図Ⅰ-2に示すように、CrはCr2Cr72-またはCrO42-としてCr(Ⅵ)の形態で存在する。中性水中では、図Ⅰ-1に示すようにCr(Ⅲ)は水酸化物を形成し、水中に溶存しているその濃度は極めて低い。しかし、Cr(Ⅵ)は健康項目に指定されており、環境や水道水中の水質基準は厳しく(表Ⅰ-1)、0.05mg/L(1μmol/Lレベル)である。この基準濃度は、中性水中のCr(Ⅲ)水酸化物の溶解度レベルであり、さらに、この水酸化物はコロイド状で存在するケースが多く、これを無視できない測定領域である。
Cr(Ⅵ)の公定測定方法として、全Cr(以下、Crと略称する)と同じ方式が採用され、測定原理や定量範囲も同じである。Cr(Ⅵ)測定方法はCr(VI)をだけを対象としているのに対し、Cr測定法はCr(III)とCr(VI)の合計量を対象とする。Cr(Ⅵ)だけを測定する場合には、吸光光度法では検水を直接発色させればよい。しかし、CrおよびCr(Ⅵ)を測定する場合には、Cr(III)を酸化してCr全量をCr(Ⅵ)の形態にして測定するとともに、Cr(Ⅲ)を除去してCr(Ⅵ)のみを測定する2つの操作が必要となる。Cr(Ⅲ)の除去にはアルカリを加えてその水酸化物としての沈殿分離のみでは不十分で、Fe(Ⅲ)との共沈法が適用される。元素Crの測定原理と定量操作は複雑であり、その水中での化学的挙動を十分に理解する必要がある。
 環境水・水道水あるいは工場排水についてのCr測定方法においては、その調査目的とその濃度レベルから選定する。コスト等の観点からは、多元素同時測定を行うことが望ましい。
Cr(Ⅵ)のみを測定するには、①ジフェニルカルバジド吸光光度法を用いる。他元素との同時分析の場合は、②ICP発光分光分析法を用いる。高感度が必要な場合は、③ICP質量分析法を用いる。妨害物質が少ない試料の高感度測定を行う場合は、④電気加熱原子吸光法を用いてもよい。特定事業場や最終処分場など、比較的濃度が高い場合は、操作の簡便な⑤フレーム原子吸光法を用いる。
 いずれの測定法においても、検水の適切な前処理が必要である。特に、上記②~⑤法によってCr(Ⅵ)測定をする際に、Cr(III)が共存すれば、その除去操作が必要となる。環境水や水道水などで、Cr濃度が低く妨害成分が共存する場合には、溶媒抽出などの分離・濃縮操作が必要となることがある。

表Ⅴ-1-1 全クロムの法定測定方法と定量範囲
Cr-analysis

表Ⅴ-1-2 クロム(Ⅵ)の法定測定方法と定量範囲
Cr(6)-analysis

(1)検水の保存と前処理

1)保存

 検水は、無処理で0~10℃の暗所に保存

2)前処理

 ① 別ページ重金属-定量分析の前処理)の1.金属成分溶出(1)/(2)または2.有機物の分解(2)に沿って前処理を行う。
 ただし、塩酸及び過塩素酸は使用しない。塩化物イオンとCr(VI)が共存すると加熱処理中に二塩化二酸化クロム(VI)(塩化クロミル、CrO2Cl2)となり、揮散するおそれがある。
 ② Cr濃度が低く、有機物や懸濁物質がほどんどない検水中のCr(Ⅵ)を測定する場合には、Cr(Ⅲ)の除去にFe(III)共沈法を適用する。
 このCr(Ⅲ)除去法を用いた場合は、ジフェニルカルバジド吸光光度法で測定する。
 ③ Fe、その他の妨害元素が多い検水には、クペロンによる抽出法を適用する。
 この抽出法を用いた場合は、ジフェニルカルバジド吸光光度法で測定する。
 ④ Crの濃度が低く、Na、K、Mg、Caの濃度が高い検水には、トリオクチルアミンによる抽出法を適用する。
 この抽出法は、ICP発光分光分析法または、フレーム原子吸光法の前処理に用いることができる。

diphenylcarbazide
図Ⅴ-1-1 ジフェニルカルバジド(1,5-ジフェニルカルボノヒドラジド)

cuferron
図Ⅴ-1-2 クペロン(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアンミンアンモニウム塩)
 Al(Ⅲ)、Fe(Ⅲ)など、多くの金属(Ⅲ)イオンと安定な錯体M(クペレート)3を形成して水に不溶となるが(表Ⅰ-2)、有機溶媒に溶解する。Cr(Ⅵ)は酸性ではCr2O72-と、中性・アルカリ性ではCrO42-として存在し(図Ⅰ-2)、クペロンとは反応しない。

tri-octylamine
図Ⅴ-1-3 トリオクチルアミン(N,N-ジオクチルオクタンアミン)

(2)ジフェニルカルバジド吸光光度法

 Cr(Ⅵ)の定量測定には、前述した他の4方法に加えて、ジフェニルカルバジド吸光光度法が規定されている。Cr(Ⅲ)とCr(Ⅵ)が混在する場合には、① Cr(Ⅲ)を酸化してCr(Ⅵ)としてCrを測定し、次に、② Cr(Ⅲ)を水酸化物沈殿として取り除き、Cr(Ⅵ)を測定する。

1)概要

 ① Cr(Ⅵ)の測定は、前処理した検水に直接発色液を加えて、その吸光度を測定する。
 ② Crの測定においては、上記の方法で前処理した試料を硫酸酸性とし、過マンガン酸塩KMnO4を加えて加熱酸化してCr(Ⅲ)をCr(Ⅵ)にする。次に、加熱液を冷却した後、過剰のMnO4を尿素 (NH2)2CO の存在下に亜硝酸ナトリウムNaNO2で還元してMn2+として無色の溶液とする。この溶液にジフェニルカルバジドを加えてCr(Ⅵ)と反応・発色させ、波長540nm付近の吸光度を定量する。

2)Cr(Ⅵ)の定量操作

 ① 検水の適量、Cr(Ⅵ)として 2∼50 μgを含む、例えば、25mLを 2個のビーカー(A)・(B)にとり、試料が酸性の場合には水酸化ナトリウム溶液(40g/L)で、また、アルカリ性の場合は硫酸(1+35)で中和する。
 ② ビーカー(A)の溶液(測定液用)は、全量フラスコ 50 mL(A)に移し入れ、硫酸(1+9) 2.5mLを加える。
 ③ ビーカー(B)の溶液(対照液用)に硫酸(1+9) 2.5mLを加え、次にエタノール(95%)を少量加え、煮沸してCr(Ⅵ)をCr(Ⅲ)に還元し、過剰のエタノールを追い出す。放冷後、全量フラスコ 50mL
(B)に移し入れる。
 ④ 全量フラスコ(A)・(B)を約 15℃に保ち、それぞれにジフェニルカルバジド溶液(10g/L)1mLずつを加え、直ちに振り混ぜ、水を標線まで加え、約5分間放置する。
 ⑤ 全量フラスコ(A)の一部を測定セルに、全量フラスコ(B)の一部を対照セルにそれぞれ移し、波長540nm付近の吸光度を測定する。
 ⑥ 同様な上記の操作によりCr標準液を用いて作成した検量線から、検水中のCr(Ⅵ)濃度を求める。

3)Crの定量操作

 ① 検水(2~5μgを含む)をビーカーにとり、硫酸(1+9) 3mLを加えて、加熱し白煙が生じたら、冷却して水30mLを加える。さらに加熱して溶液中の残留物を溶解する。
 ② 静かに加熱し、過マンガン酸カリウム(3g/L)を1滴ずつ滴加する。溶液の赤い呈色が消えそうになったら、さらに過マンガン酸カリウムKMnO4を滴下し、常に赤みを保つようにして数分間煮沸する。[Cr(Ⅲ)を酸化してCr(Ⅵ)とし、全CrをCr(Ⅵ)とする。 ]
 ③ 数分間煮沸して、冷却する。冷却溶液には、MnO4が赤みが残っていること。
 ④ 尿素 (NH2)2CO (200g/L) 10mLを加えた後、亜硝酸ナトリウムNaNO2(20g/L)を激しく掻き混ぜながら、赤みが消失するまで、1滴ずつ滴下する。(過剰のMnO4をMn2+に還元する。)
 ⑤ 全量を50mLメスフラスコに移し、冷却して15℃に設定する。ジフェニルカルバジド(10g/L) 1mLを加えて直ちに振り混ぜる。
 ⑥ 標線まで水を加えて全量を50mLとして5分間静置したのち、一部の溶液を吸収セルに移して吸光度の測定を行う。
 ⑦ 空試験液として水約30mLをとり、硫酸(1+9) 30mLを加えた後、上記⑤の操作を行って吸光度を測定し、検水の測定値を補正するか、または、これを対照セルに移して検水を測定する。

4)共沈によるCr(Ⅲ)の除去

 検水中にクロム(Ⅲ)が含まれるときは,次の操作により、Cr(Ⅲ)を水酸化物としてFe(Ⅲ)の水酸化物とともに共沈させ、ろ過して取り除く。
 ① 試料の適量(500 mL以下)をとり、硫酸アンモニウム鉄(Ⅲ)溶液(5mg/L)[鉄アンモニウムみょうばん:Fe(NH4)(SO4)2・12H2O 5gを硫酸(1+1) 1 mLに溶かし、水で 100 mLとしたもの。] 1mLを加えてかき混ぜる。
 ② アンモニア水(1+4)を加えて微アルカリ性とした後、アンモニア臭がほとんどなくなるまで静かに煮沸する。沸騰近くの温度に保って沈殿を熟成させ後、ろ紙5種Aでろ過し、温硝酸アンモニウム溶液(10 g/L)で洗浄する。(沈殿に付着したCrO42-を完全に洗い出す。)
 ③ ろ液と洗液とを合わせ、塩酸又は硝酸を加えて 0.1∼1 mol/Lの酸性溶液にして、測定液とする。
 この酸性溶液は、吸光光度法のみでなく、他の方法によるCr(Ⅵ)の測定にも適用できる。

5)留意事項

 ① 前処理で多量の硫酸が添加されている場合には、加熱蒸発し、硫酸の白煙を発生させて硫酸を除去した後、硫酸(1+9) 3mLを加える。この硫酸白煙の発生の際には強熱してはならない。硫酸クロム(Ⅲ)の無水物が生成して、不溶化する。硫酸ナトリウム 20mg程度を加えておくと、不溶化を防ぐことができる。また、過塩素酸と硝酸で有機物を分解する方法は使用しない。塩化物イオンが共存するとクロムが二塩化二酸化クロム(CrO2Cl2、塩化クロミル)をとして揮散するおそれがある。
 ② 発色時の硫酸濃度は、0.1mol/L程度が適当である。
 ③ 発色時の液温は約15℃に保つ。発色は 2~3分程度で最高になり、その後、徐々に退色するが、5~15分程度ほとんど一定である。
 ④ ジフェニルカルバジド溶液の調整にはアセトンが用いられている。ジフェニルカルバジドを溶液を添加したら、直ちに振り混ぜて、高濃度アセトンによるCr(Ⅵ)の還元を防止する。
 ⑤ モリブデン、バナジウム、水銀などが妨害する。モリブデンは 0.1mgまで影響しない。水銀は塩化物イオンを添加することによって妨害を回避できる。また、バナジウムは発色後、10~15分経過してから吸光度を測定すれば、その影響は無視できる。
 ⑥ 検水が鉄を含む場合には、鉄が増えてくるにつれて吸光度は低下するが、発色液50mL中約1mgで一定となる(約 20%低下する)。このことから、あらかじめ一定量の鉄を加えて、検量線の作成および検水の測定を行う。
 あるいは、ジフェニルカルバジド添加前に、二リン酸ナトリウム溶液(同水和物Na2HPO4・12H2O 5gを水に溶かして 100mLとする)2mLを加えると、鉄 2.5mgまでは影響しない。鉄がクロムより少ない場合には、無視してよい。
 鉄、その他の妨害が多いばあにはクペロン抽出法によって鉄などを除去する。
 ⑦ クロムの濃度が低く、有機物および懸濁物がほとんど含まれていない場合には、500mL以下の検水をとり、検水 100mLにつき硫酸 2mLを加えて加熱し、煮沸して放冷する。これに硫酸アンモニウム鉄(Ⅱ)(5mg/L、FeNH4(SO4)2・6H2Oの3.5gを硫酸 5~7滴を加えた水 100mLに溶かしたもの)1mLを加えてよくかき混ぜ、さらに硝酸 2mLを加えて、煮沸して鉄(Ⅱ)を酸化する。この溶液をしばらく放置した後、アンモニア水(1+4)を加えて中和し、アンモニア臭を認めなくなるまで煮沸し、約 80℃に約 20分間保ち、水酸化鉄(Ⅲ)の沈殿を熟成する。
 沈殿をろ紙 5種Aを用いてろ別し、温硝酸アンモニウム溶液(10g/L)で 5~7回、ろ紙上の沈殿を洗浄する。残存する沈殿に硫酸(1+5) 5mLを加えて溶かし、ろ紙は温水で洗い、以下、3)Crの定量操作-②に示す過マンガン酸化リム滴下以降の操作を行う。ただし、検量線を作成する場合には、標準液にそれぞれFe(Ⅲ) 5mgを加えておく。

(3)フレーム原子吸光法

1)概要

 前処理した検水をアセチレン-空気フレーム中に噴霧し、クロムによる原子吸光を波長357.9nmで測定して定量する。
 Crを求める場合には、上記(1)ジフェニルカルバジド吸光光度法で記載した硫酸酸性で過マンガン酸によりCr(Ⅲ)をCr(Ⅵ)に酸化して測定する。Cr(Ⅵ)は、上記(2)4)共沈によるCr(Ⅲ)を除去した検水を原子吸光測定して、Cr(Ⅵ)を定量する。

2)操作

 前処理した検水を 0.1~1mol/Lの塩酸または硝酸酸性の一定量の溶液として、原子吸光分析装置のフレーム中に噴霧する。

3)溶媒抽出―原子吸光法

 Cr(Ⅵ)は第4級アンモニウムイオンと安定なイオン対を形成し、MIBKや酢酸ブチルに抽出される。
 Cr濃度が低い検水に抽出を妨害する物質が含まれていない場合には、Cr(Ⅲ)は酸化剤によってCr(Ⅵ)に酸化した後、トリオクチルアミン-酢酸ブチル溶液による溶媒抽出を行ってCrを濃縮した後、原子吸光を測定する。
 ① 検水の適量を 100mLのビーカーにとり、硫酸(1+2) 2mLを加え、過マンガン酸カリウム溶液(3g/L)を 5~7滴、滴下して加熱する。過マンガン酸イオンの色が消えそうになったら、さらに上記過マンガン酸溶液を滴下し、常に検水溶液の色が微赤を保つように 5~7分間煮沸する。
 ② 流水で冷却し、これを分液漏斗に移し、水を加えて約 100mLとする。トリオクチルアミンの酢酸ブチル溶液(30g/L) 20mLを加え、約10分間激しく振り混ぜた後、放置してブチル相(上層)と水相(下層)に分離させる。
 ③ ブチル相を取り出し、そのままフレームに噴霧して、原子吸光度を測定してCrを定量する。
 抽出溶媒として酢酸ブチルの代わりに、4-メチル-2-ペンタン(MIBK)を用いてもよい。

4)留意事項

 ① アセチレン-空気フレームでは、多燃料フレームに設定すると感度は高くなるが、Fe、Niなどの共存成分による干渉も増加する。硫酸ナトリウム、二硫酸カリウム、またはふっ化水素アンモニウムを1%程度添加するとよい。
小燃料フレームでは、感度はかなり減少するが、共存成分による干渉も小さくなる。また、アセチレン-一酸化二窒素フレームでは妨害の大部分は解消する。
 ② フレーム中のクロム原子の分布は一様でないので、バーナーを上下させて、最高の吸光度の一に設定する。

(5)電気加熱原子吸光法

1)概要

 前処理した検水を0.1~1mol/Lの硝酸酸性の一定量の溶液とし、その一定量(例えば、10~50μL)をマイクロピペットで発熱体に注入し、乾燥(100~120℃、30~40秒)したのち、灰化(500~600℃、30~40秒)し、次に原子化(2,400~2,900℃、5~10秒)し、波長357.9nmの吸光度を測定してクロムを定量する。

2)注意事項

 ① この測定法は簡便なものであるが、共存する酸、塩基、アルカリ・アルカリ土類金属の影響を受けるので、これらの共存成分が少ない検水に適用する。
 ② 乾燥・灰化・原子化の条件は、装置によって異なる。また、検水の注入量や共存塩類によっても異なることがある。

(4)ICP発光分光分析法

 前処理した検水を、0.1~0.5mol/Lの塩酸または硝酸酸性の一定量の溶液とし、検水導入部を通してICP中に導入して、Crによる発光を波長206.149nmで測定・定量する。
 Cr濃度が低い場合には、上記(3)フレーム原子吸光法1の3)溶媒抽出-原子吸光法に準じて抽出操作し、有機相をプラズマ中に導入して定量してもよい。この場合、プラズマトーチとして有機溶媒用を用いる。

(6)ICP質量分析法

 検水を前処理し、これに内部標準物質溶液を加えたのち、0.1~0.5mol/L硝酸酸性の一定量の溶液とし、ICP中に導入して、クロムイオン(m/z:53、52、50)と内部標準物質イオンそれぞれの質量/電荷数(m/z)におけるイオン電流を測定し、その比を求めてクロムを定量する。

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2.マンガン・鉄の定量測定

 マンガン・鉄の定量測定には、他の重金属と同様に、吸光光度法、原子吸光法、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法の4種類があり、さらに原子吸光法はフレーム原子吸光法と電気加熱原子吸光法とに分けられる。
 吸光光度法は、操作が煩雑で、分析に長時問を要するため、現在ではあまり用いられていないが、鉄(Ⅱ)と鉄(Ⅲ)の分別分析が必要な場合に有効な分析方法である。
 フレーム原子吸光法は、比較的操作が容易で精度も優れているため、鉄分析法の主流となっている。ただし、水質法に基づく水質基準値の1/10の低濃度(マンガン:0.005mg/L、鉄:0.03mg/L)まで測定するためには、溶媒抽出法などを用いて分離・濃縮する必要がある。
 電気加熱原子吸光法は、フレーム原子吸光法より高感度が得られるが、共存する酸や塩類による干渉が大きい。最近では、ICP発光分光分析法がマンガン・鉄分析の有力な測定法として利用されている。この方法は、精度、感度ともフレーム原子吸光法と同程度かそれ以上であり、定量範囲が広く、多元素同時分析が可能である点が原子吸光法より優れている。ただし、フレーム原子吸光法より妨害に弱いともいわれている。
 吸光光度法を除く他の測定方法は、カドミウム・鉛・亜鉛で述べた方法と同様である。本節では、マンガン・鉄の検水の前処理と測定上特に留意すべき事項、および吸光光度法による鉄の定量測定について解説する。

表Ⅴ-2-1 マンガンの公定測定法と定量範囲
Mn-analysis

表Ⅴ-2-2 鉄の公定測定法と定量範囲
Fe-analysis

(1)前処理

 溶解性マンガン・鉄を測定する検水は、試料を採取後、直ちにろ紙5種Cを用いてろ過し、懸濁物を除去する。ろ液に塩酸または硝酸を加えて、一定量の0.1~1mol/L酸性溶液とする。
 ろ過するとき、はじめのろ液約50mLを捨てる。ろ過した検水を保存するときには、硝酸を加えてpHを約1とする。

(2)測定上の留意事項

1)フレーム原子吸光法
 ① マンガン・鉄ともに、シリカが多量に含まれている検水では、フレーム内で安定なケイ酸塩が形成され、元素の原子化が妨害される。検水に、ケイ酸干渉抑制剤としてカルシウムまたはマグネシウムを200mg/L程度となるよう添加する。
 ② の濃度が低く、加えて、干渉物質がほとんど含まれていない検水については、下記(3)の留意事項①に示すアルミニウム共沈濃縮を行い、原子吸光を測定する。
 ③ マンガンの濃度が低い検水は、鉄共沈法により濃縮する。
 鉄共沈法では、ろ過した検水の適当量をビーカーにとり、約90℃に加熱し、Fe(NH4)(SO4)2・12H2O(鉄アンモニウムミョウバン、2mg-Fe/L)5mLと過酸化水素H2O2(30%)5~10mLを加え、かき混ぜながらNH3(1+1)水またはNaOH溶液(100g/L)を加え、Fe(OH)3沈殿に不溶性Mn化合物を捕集する。沈殿をろ紙5種Aを用いてろ過し、温水で洗う。沈殿をできるだけすべて元のビーカーに移し、ろ紙に付着した沈殿は少量のH2O2(1+10)を加えた塩酸(1+2)溶液の少量に溶かし、ろ紙は温水で洗浄する。ろ液と洗液を加え、0.1~1mol/Lの塩酸性溶液の一定量とする。

<解説>

 Mnは図Ⅱ-1・図Ⅱ-2・図Ⅱ-4に示すように酸性で可溶性のMn2+は、アルカリ性ではMn(OH)2の沈殿を生じるが、直ちに酸化されてMnO2(中間体としてMn3O4やMn2O3を含む)として不溶性酸化物を形成する。MnO2は、強い酸化剤であるH2O2により可溶性のMnO4に酸化されて溶出する。

2)電気加熱原子吸光法・ICP発光分光分析法・ICP質量分析法

 重金属に関するこれらの測定方法には共通するする事項が多いので、原理・装置・操作・留意事項について別途解説する。

(3)フェナントロリン吸光光度法による鉄の定量測定

1)概要
 微酸性溶液中で塩化ヒドロキシルアンモニウムNH3OHClと1,10-フェナントロリン(図Ⅲ-2、以下、1,10-は省略)を加えた後、酢酸アンモニウムNH4CH3CO2を加えてpH4~5に調節し、生成する橙赤色のFe(Ⅱ)錯体の吸光度を測定する。
2)定量操作
 ① 別ページに記載の前処理1.(1)を行った検水の適量(Feとして20~500μgを含む)をビーカーにとり、硝酸(1+1) 1~2mLを加えて煮沸する。
 ② 水を加えて 50~100mLとした後、NH3水(1+1)を加えて微アルカリ性とする。これを数分間煮沸してFe(OH)3沈殿を生成させ、しばらく放置する。
 ③ 沈殿が沈降したら、ろ紙5種Aでろ過し、温水で 3~4回洗浄する。沈殿を元のビーカーに洗い入れ、塩酸(1+1) 4mLを加え、加熱して溶かし、先のろ紙でろ過して、同時にろ紙に付着しているFe(OH)3沈殿を溶かす。ろ紙を温水で 5~7回洗う。
 ④ ろ液と洗液を合わせて、水を加えて70mLとした後、NH3OHCl溶液(100g/L)1mLを加えて振り混ぜる。
 ⑤ フェナントロリン溶液(1g/L)5mLを加えて振り混ぜ、続いてNH4CH3CO2(500g/L)を 10mLを加えて振り混ぜ、放冷する。
 ⑥ 全量を100mLメスフラスコに移し、水を標線まで加えて約20間放置する。
 ⑦ この溶液の一部を測定セルに移し、波長510nm付近の吸光度を測定する。
 ⑧ 空試験液として、水約50mLとり、硝酸(1+1)1~2mL加えて、②~⑦の操作を行って、測定値を補正するか、対照液とする。
 ⑨ 検量線と測定値から、検水中の濃度を求める。
3)留意事項
 ① Feの量が極めて微量(Fe 20μg以下)の場合には、硫酸カリウムアルミニウムAlNH4(SO4)2・12H2O 0.1gを加えて溶かし、再びNH3(1+1)を加えて微アルカリ性として、Al(OH)3の水酸化物と共沈させて、Feを捕集する。このとき、塩酸には溶けにくくなるので塩酸をさらに加えて、液量が5mL程度になるまで加熱濃縮する。次に、水で液量を約70MLとして、(+)-酒石酸ナトリウムNa2C4H4O6・4H2O(ロシェル塩)0.1gを加えて、上記④以降の操作を行う。
 ② 発色時のpHは約4.8とする。塩酸の濃度が高いときには、フェナントロリン溶液を加えた後で、NH3(1+1)を加えて調節する。
4)Fe(Ⅱ)の分別測定
 Fe(Ⅱ)は大気中の酸素によって容易に酸化されるので、検水採取直後に測定を行うか、出来ない場合には、採取現場で発色操作まで実施した後、持ち帰って吸光度を測定する。
 ① 上記2.(1)により前処理したろ液の適量を100mLメスフラスコに移し、フェナントロリン溶液(1g/L) 5mLを加えた後、NH4CH3O2(500g/L)を加え、pHを約5に調整する。
 ② 窒素脱気した酸素を含まない水を標線まで加え、約20分間放置する。
 ③ 以下、上記2)⑦⑧の操作を行って、Fe(Ⅱ)の定量測定を行う。

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参考文献

 Charlot, G.: Les Reactions Chemiques En Solution, Masson(1969)
 Cotton, F.A., G. Wilkinson: Advanced Inorganic Chemistry, John Wiley & Sons(1972)
 Ewing, G.W: Instrumental Methods of Chemical Analysis, McGraw-Hill(1975)
 大木 道則:化学事典,東京化学同人(1994)
 国土交通省水質連絡会:河川水質試験方法(案)2008年度版
 産業環境管理協会:新・公害防止の技術と法規2016 水質編
 床野 利之,脇田 久伸 (編集):入門機器分析化学,三共出版(1988)
 電気化学会(編集):電気化学測定マニュアル 基礎編、丸善出版(2002)
 並木 博(編集):詳細 工場排水試験方法 JIS K 0102-2013、日本規格協会(2018)
 用水廃水便覧編集委員会:用水廃水便覧,丸善(1973)


掲載日:2018年12月04日
更新日:2018年12月12日

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