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リン除去

1.リンの循環

リンは、遺伝子DNA・RNAのポリリン酸エステル鎖として存在するほか、生体エネルギー代謝に欠かせないATP細胞膜を構成するリン脂質など、生命の維持に重要な役割を担っている。脊椎動物ではリン酸カルシウムが骨格の主要な構成要素となっている。リンは生物の必須元素であり、地球上におけるリンの存在量が、地球生態系のバイオマスの限界量を決定すると言われている。
生物の体を構成する炭素窒素は、空気を通して物質循環が成り立っている。しかし、自然界ではリンは水に溶解した状態か難溶性塩として固体で存在する。海水中のりん含有量は0.07mg/kgであるのに対し、人体では6,300mg/kgで濃縮係数は90,000である。この濃縮係数はナトリウム 0.22、カリウム 5.8、カルシウム 34.5、鉄 5,000などと比べて、極めて高い値となっている。
リンの主な循環経路は、植物が枯死するか、その植物を食べた動物が死ぬ微生物に分解され土壌に戻る再び植物の根から吸収される。また、地表水に運ばれて海域に流出してしまうリンも少なくなく、そうしたリンが海底で堆積してできるのがリン灰石である。地殻変動によってリン灰石が地表に現れるには100万年以上の時間がかかると言われる。
海洋においては浅い地域に多く、元素の中では偏在性が強い。メキシコ、コンゴ、南米付近の海底には大規模なリンの鉱床がある。
以上述べたように、リンは生物にとって極めて貴重な元素である。しかし、もともと自然界におけるリンの存在量が少ない状況の中で、リン鉱石を利用する現在の人間の生活・産業活動によって、リンが湖沼や海域へ流入すると、植物プランクトンや藻類(アオコや赤潮など)が異常に繁殖し、これらが沈降・底質で分解し、リンが再溶出して植物がさらに繁殖して水質悪化が進行することとなる(富栄養化)。

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図1 リン鉱石からのリンの循環

2.リンの用途

リン鉱石用途としては、化学肥料の原料として使われるものが最も多い(約77%)。また、農薬や殺虫剤としての利用も多い。このほか、リンの化合物は研磨剤として歯磨きなどに含まれ、口腔衛生に関係する製品にもリン酸化合物が数多く利用されている。また、コーンフレークや飼料にリン酸化合物が含まれるほか、ハムやチーズにも使用される。燃料の不凍液、繊維製品の難燃加工、製紙工業における消泡剤などに、さまざまな種類のリン酸化合物が利用されている。
なお、日本はリン鉱石を全て海外から輸入している。リンは、この鉱石に加えて、輸入される食料や飼料の成分として国内へ搬入されている。将来、リン鉱石は枯渇する資源である。リンの回収・再利用が望まれる。

3.生物学的リン除去

汚水中のリンは、主に有機体リンポリリン酸(HO-[PO3H]n-H、オルトリン酸が脱水縮合しした化合物)、オルトリン酸(H3PO4、水素イオンを解離、イオンとして存在)として排出されるが、有機体リン・ポリリン酸は微生物によって分解され、一般的にはオルトリン酸として溶解している。

(1)リン除去の基本原理

活性汚泥中のポリリン酸蓄積能力もつ細菌の機能を利用して、抜取り汚泥中のリン含有量を高めることで、汚水中のリンを除去する。ポリリン酸蓄積細菌は、嫌気状態では酢酸や酪酸(高分子有機物が微生物の加水分解作用により低分子化したもの)などの有機物を細胞内へ取り込み、細胞内貯蔵物質の蓄積を行う過程でリン酸をポリリン酸として放出する。一方で、好気状態では放出した以上のリン酸をポリリン酸として摂取する。このように一旦放出した以上のリン酸を摂取するので、好気状態においてリン含有量が高まった状態の菌体(汚泥)を取り出すことで、汚水中のリンを除去する。
一般的に標準活性汚泥の余剰汚泥には2.3%程度のリンが含まれるが、上記の方法では5~6%まで増加する。

(2)リン除去プロセス

曝気槽の前段に嫌気槽を設置し、汚水を有機物が存在する嫌気状態で1.5~3時間かけて、攪拌して汚泥と接触させ、菌細胞からリンを汚水中へ放出させる。続いて曝気槽で3~5時間かけて好気状態にするとリンが菌細胞内に取り込まれる。汚水中のリン濃度は3~6mg/Lから1mg/L以下にまで低下し、この処理水を放流する。
ここで留意すべき事項として、本プロセスでの嫌気槽とは好気性微生物群集(汚泥)中のポリリン酸蓄積細菌の嫌気性環境下での挙動を利用することで、嫌気性微生物群集を利用した嫌気性消化法や高速嫌気性生物法での嫌気槽とは異なることである。また、次項で説明する無酸素槽との違いは、嫌気槽では酸素だけでなく硝酸・硫酸イオンなどの結合性酸素を有する無機化合物も存在しない状態で、無酸素槽では酸素が存在せず結合性酸素を有する無機化合物を利用した有機物分解を行う反応槽である。

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図2 生物学的リン除去プロセス

このように生物脱リン法は優れた方法であるが、ポリリン酸蓄積細菌の生育条件やその機構解明が不十分であることから、汚水組成が安定し、生命に必須の微量元素が多様に含まれ、また阻害物質の少ない生活排水畜産排水などに適用される。しかし、流入汚水の活性汚泥に対する時間帯による有機物の負荷・成分変動、pH、水温の季節変動などにより、
リン除去率が不安定となることが多い。補完的設備として、凝集沈殿によるリン除去法が併用されている事例が多い。また、リン含有率が高い余剰汚泥の濃縮・貯留中にリンが放出されるので、汚泥処理にも工夫が必要となる。
工場排水では成分と濃度が事例によって大きく異なり、有機物成分・栄養塩・微量元素などを含めた今後の研究が待たれる。

(3)窒素・リンの同時除去プロセス

上記のリン除去プロセスの嫌気槽と曝気槽の間に、無酸素槽を導入し、曝気槽からの硝化液を循環させることにより、リン摂取と脱窒の反応を行うことで、リンと窒素の同時除去が可能となる。

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図3 生物学的窒素・リン・同時除去プロセス

4.不溶性塩によるリン除去

リン酸イオンは、鉄(Ⅲ)、アルミニウム(Ⅲ)、カルシウム(Ⅱ)、マグネシウム(Ⅱ)などの金属イオンと反応して難溶性塩を形成する。この反応を利用して。汚水中のリンを除去することができる。

(1)凝集沈殿法

凝集沈殿剤として、硫酸アルミニウム・ポリ塩化アルミニウムなどのアルミニウム塩または塩化第二鉄や硫酸第二鉄などの鉄塩が広く用いられている。
リンの凝集沈殿に最適なpHは、鉄塩で4~5、アルミニウム塩で6付近である。凝集沈殿法は、微生物フロックの凝集作用もあり生物法と併用され、余剰汚泥とともに系外へ取り出される。

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(2)晶析法

晶析法とは、一般的には目的結晶を構成する成分を溶解した溶液を加熱または冷却して、過飽和状態にして、結晶を析出・成長させる方法である。汚水中の汚濁物質を結晶(粒子状)化して分離・除去する場合には、一般的に次のようなプロセスから構成される。
晶析槽に汚水を流入し、その物質と結晶を生成する成分(晶析剤)を添加・攪拌し、結晶(粒子状)を析出・成長させ、沈殿槽で結晶を分離して、処理水を放流する。結晶粒子は晶析槽または沈殿槽の底部から抜き出して、晶析槽へ種結晶として返送・循環させる。結晶粒子の一部を定期的・連続的に取り出す。
晶析法では、槽内壁や配管系へ結晶粒子が付着するので、定期的な清掃が必要となる。配管を少なくするため、晶析槽と分離槽を一体化した晶析装置が多用されている。晶析法では、汚水中に懸濁物質が含まれていると、晶析反応の阻害するので、前段で除去しておく。

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図5 晶析法によるリン除去装置の事例

晶析法による代表的なリン除去には、HAP法 [ヒドロキシアパタイト、Ca5(OH)(PO4)3] およびMAP法 [リン酸マグネシウムアンモニウム、MgNH4PO4] がある。MAP法は、リンに対して当モル以上のアンモニアが共存する場合に適用されることが多い。HAP法ではカルシウム塩が、MAP法ではマグネシウム塩を添加する。リン酸イオンとの反応を促進するためアルカリ性(pH 8.5~9)とする。HAP法の留意すべき事項として、リン濃度が低い汚水では種結晶に炭酸カルシウムの被膜が形成し、HAP晶析が阻害されるので、脱炭酸の前処理が必要となることがある。
HAP法やMAP法の特徴は、取り出した結晶粒子がリン資源として再利用できることにある。

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写真 下水および下水汚泥からのMAP法によるリン回収実験の様子
下水処理場の混合汚泥を濃縮・加熱して亜臨界水で加水分解した後、固液分離してMAP法およびUASB法によるリン・エネルギーの回収

(3)鉄電解法

鉄塩による凝集沈殿法の一つで、鉄板から電解・溶出した鉄イオンとリン酸イオンを反応させ、生成した難溶解性のリン酸第二鉄(FePO4)として除去する。
直流電源に接続した鉄板を電極(陽極・陰極とも、一定時間間隔で陽極と陰極を切替える)とし、その電解・溶出した鉄(Ⅱ)イオンが、さらに酸素によって酸化された鉄(Ⅲ)イオンとリン酸イオンが反応し難溶性のリン酸第二鉄を生成させて、分離・除去する。
装置がコンパクトで維持管理が簡便であり、消耗した鉄板電極は定期的に交換する。小型の汚水浄化槽に広く適用されている。流入汚水量・リン濃度に合わせて、鉄板面積(枚数を増やしてもよい)および電流量(電源容量)で調整する。

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図6 鉄電解法によるリン除去の原理


参考文献


掲載日:2017年9月24日
更新日:

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