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pHと金属イオンの溶解度

1.はじめに

水分子は大きな極性を有し、電解質は水和して溶解する。イオン化傾向の高い金属(例えば、LiやNaなど)は水と常温で激しく反応してH2を発生し、陽イオンとなって水に溶解する。イオン化傾向がHより大きく中間に位置する金属(Al、Fe、Niなど)は希酸に溶けてH2を発生し、水に溶解する。Hよりもイオン化傾向が小さいCu、Ag、Auは酸化力の強い酸と反応して水に溶解するが、希酸とは反応しない。
ところで、溶解した陽イオンとpHとの関係を見ると、Li+、Na+,K+などの1価の金属イオンを除き、2価以上の金属イオンはpHが上昇すると、難溶性の水酸化物を生成する。水に溶解した金属イオンには、水分子が配位した錯イオンを形成して安定化している(例えば、図1図3)。pHが増加すると、配位した水分子がHイオンを放出しOHイオンとなり、逐次H+を放出して、金属イオンの価数と配位したOHの数が等しくなると、(1)式に示すように、その金属錯体はその電荷がゼロとなり水に難溶性となる。(1)式は、(1a)または(1b)のよのように簡略して表現される。
[M(H2O)n]m+(aq) →
[M(H2O)n-m(OH)m](s) + mH+   (1)
Mm+ + mH2O → M(OH)m(s) + mH+   (1a)
Mm+ + mOH → M(OH)m (s)   (1b)

金属によっては、さらにpHが上昇してH+を放出すると、負の電荷を有する錯イオンとなり、再び水に溶解する。このような金属を両性水酸化物という。両性水酸化物を形成する代表的な金属イオンとしてAl3+、Zn2+、Pb2+などがある。
[M(H2O)n(OH)m](s)  →
[M(H2O)n-p(OH)p](p-m)-(aq) + (p-m)H+
(n ≧ p > m)   (2)

以上述べたように、水に溶解した金属イオンは水酸化物を形成するため、pHによって溶解する濃度が著しく変化する。また、天然水や用・排水中の金属イオンの挙動を理解する上でも、また、水中の有害な金属を分離除去する上でも、pHと金属イオンの溶解度との関係を把握することが重要となる。
ここでは、代表的な両性物質であるアルミニウム(Ⅲ)および亜鉛(Ⅱ)を取り上げ、これらの金属イオンの溶解度とpHとの関係について紹介する。
なお、金属イオンに配位して錯イオン(または錯体)を形成するものや難溶性塩を形成するもの(電解質や非電解質を問わず)が共存する場合には、さらにその挙動が複雑となるが、ここではそのような共存物質はないものとする。

2.pHと金属イオンの溶解度

(1)亜鉛(Ⅱ)

亜鉛(Ⅱ)の水和イオンの各解離種の構造を図1に示し、各解離種の簡略式を併せて示す(なお、図1に示す錯イオンはさらに分極した水分子層で囲まれている。)。この簡略を用いて、各解離種の平衡式およびそれぞれの平衡定数は以下のように示される。なお、学習のため亜鉛(Ⅱ)については、上記(1b)の表記法を用いる。
Zn2+ + OH = ZnOH+
pK = -5.04   (3)
ZnOH+ + OH = Zn(OH)2(aq)
pK = -6.06   (4)
Zn(OH)2(aq) + OH = Zn(OH)3
pK = -2.50   (5)
Zn(OH)3 + OH = Zn(OH)42-
pK = -1.20   (6)
Zn2+ + 2OH = Zn(OH)2(s)
pK = 15.55   (7)

上記の各平衡式から、各解離種の濃度は次式で示される(なお、詳細な導入式および計算表は下記に示す)。

log[Zn2+] = 12.45– 2pH   (8)
log[ZnOH+] = 3.49 – pH   (9)
log[Zn(OH)2(aq)] = -4.45   (10)
log[Zn(OH)3] = -15.95 + pH   (11)
log[Zn(OH)42-] = -28.75 + 2pH   (12)
log ZnTotal = log([Zn2+] + [ZnOH+] + [Zn(OH)2(aq)] + [Zn(OH)3] + [Zn(OH)42-])   (13)

式(8)〜(13)の関係式を用いて、pH値と各解離種の濃度Cの関係を図2に示す。

zinc-aqua-ion
図1 水和亜鉛(Ⅱ)の錯イオン
原子と球の色: 赤-Zn、緑・青-O、茶・桃-H

zinc-solubility
図2 亜鉛(Ⅱ)の溶解度とpHとの関係

図2に見られるように、亜鉛(Ⅱ)の溶解度はpHの増加ともに減少し、水酸化物の生成によりpH9〜11においてほぼ一定となるが、pH11以上で再び溶解度が増加する。したがって、水浄化において亜鉛を除去するときには、pH9〜11の範囲に設定すればよいことが理解できる。

(2)アルミニウム(Ⅲ)

アルミニウム(Ⅲ)の水和イオンの各解離種の構造を図3に示し、各解離種の簡略式を併せて示す。この簡略を用いて、各解離種の平衡式およびそれぞれの平衡定数は以下のように示される。なお、学習のため、アルミニウム(Ⅲ)については上記(1a)の表記法を用いる。

Al3+ + H2O = AlOH2+ + H+
pK = 4.97  (14)
Al3+ + 2H2O = Al(OH)2+ + 2H+
pK = 9.3  (15)
Al3+ + 3H2O = Al(OH)3(aq) + 3H+
pK = 15.0  (16)
Al3+ + 4H2O = Al(OH)4 + 4H+
pK = 23.0  (17)
Al3+ + 3H2O = Al(OH)3(s) + 3H+
pK = 10.8  (18)

上記の各平衡式から、各解離種の濃度は次式で示される(なお、詳細な導入式および計算表は下記に示す)。

log[Al3+] = 10.8 – 3pH   (19)
log[AlOH2+] = 5.83 – 2pH   (20)
log[Al(OH)2+] = 1.5 – pH   (21)
log[Al(OH)3(aq)] = -4.2   (22)
log[Al(OH)4] = -12.2 + pH   (23)
log AlTotal = log([Al3+] + [AlOH2+] + [Al(OH)2+] + [Al(OH)3(aq)] + [Al(OH)4])   (24)

式(19)〜(24)の関係式を用いて、pH値と各解離種の濃度Cの関係を図4に示す。

aluminum-aqua-ion
図3 水和アルミニウム(Ⅲ)の錯イオン
原子と球の色: 赤-Al、緑・青-O、茶・桃-H

aluminum-solubility
図4 アルミニウム(Ⅲ)の溶解度とpHとの関係

図4に見られるように、アルミニウム(Ⅲ)の溶解度はpHの増加ともに減少し、水酸化物の生成によりpH7付近に極小値があり、このpH以上で再び溶解度が増加する。したがって、水浄化においてアルミニウム(Ⅲ)を除去するときには、中性に設定すればよいことが理解できる。

3.留意事項

水溶液反応に影響を与える共存物質がある場合には、金属イオンの挙動は様々に異なる。また、実際にpHと金属イオンの溶解度の関係を測定すると、平衡定数から理論的に求めたものとは一致しないことが多々ある。
この理由として、水溶液の温度、イオン強度(電解質濃度)、pH測定範囲、溶存種の数、溶存濃度の分析方法の違いなど、様々な要因がある。これまでに求められている平衡定数の値には、研究者によって差異が見受けられる。各要因について個々に言及することは、このページの目的ではないのでここでは割愛する。
実際の天然水中の金属イオンの挙動や用・排水から有害な金属イオン(人の健康や生態系に有害なものおよび用水において阻害作用を示すもの)を除去する方法として、中和やpH調整による難溶性の金属水酸化物の沈殿法は広く活用されている。
具体的に本法を採用するにあたっては、実際に実験を行って、その最適条件を決定することに留意する。実験計画や処理設計において、平衡定数に基づく理論値は極めて有益な指針を与えるものである。

計算

図2についての計算は、MS-Excelの縦欄にpHの値、横欄に(8)~(12)式より各解離種の対数値とその実数値を求める。次に、各実数値の総計を求め、その対数値より(13)式の値を求める。これをグラフ化すれば、図2が得られる。図4についても、同様である。

本ページの閲覧者から、平衡式(3)~(7)から、濃度式(8)~(12)を求める手順について照会があったので、以下に詳しく説明する。

<予備知識>

以下の計算において、[X]は溶質Xのモル濃度を示し、全ての溶質Xの活量係数は’1’とし、その状態は25℃、1atmとする。pXでは溶質Xの電荷(表示)は省略する。
pX = -log[X]  (α)
(a) 平衡定数 Kは、一般に次式で示される。
反応式:aA + bB = cC + dD
 → 平衡定数:K = [C]c[D]d/[A]a[B]b  (β)
平衡定数(β)と各溶質 X の関係を逆対数 pXで示すと、算術和として次式で示される。
pK = cpC + dpD – apA – bpB
よって、反応式(β)は、平衡定数と逆対数を用いて、次式(γ)のように表示できる。
apA + bpB = cpC + dpD – pK  (γ)
なお、一般的に平衡反応において、水の濃度[H2O]は一定としK値に含まれており、固体についてはその活量を’1’として扱っている。)
(b)水のイオン積 Kw
H2O = H+ + OH → Kw = [H+][OH]
pKw = pH + pOH  (δ)
 (pKw = 14.00 at 25℃ & 1atm)
(c) 金属イオンの溶解度積 Ksp
Mm+ + mOH = M(OH)m(s) → Ksp = [Mm+][OH]m
pKsp = pM + mpOH
pM = pKsp – mpOH
pM = pKsp + m(pH – 14.00)  (ε)

Zn(Ⅱ)の計算

<式(8)の導出>
式(ε)と式(7)の関係から式(8′)を得て、これを式(α)の関係から式(8)が得られる。
pZn = 15.55 + 2(pH – 14.00)
= -12.45 + 2pH  (8′)
log[Zn2+] = 12.45 – 2pH  (8)
なお、上記の方法は、pKを溶解度積pKspとして扱ったが、これを平衡定数(β)として扱うと、pK = -15.55(符号に注意)となり、式(γ)を用いて計算しても、次式のように同様な結果として式(8′)が得られる。
pZn + 2pOH = 15.55
pZn = 15.55 – 2pOH = 15.55 – 2(14 – pH)
= -12.45 + 2pH  (8′)
<式(9)の導出>
次に、式(γ)と式(3)の関係から、
pZn + pOH = pZnOH + 5.04
pZnOH = pZn + pOH – 5.04
= pZn + 14.00 – pH – 5.04   (9″)
式(9″)に式(8′)を代入すると、
pZnOH = -12.45 + 2pH + 14.00 – pH – 5.04
= -3.49 + pH   (9′)
log[ZnOH+] = 3.49 – pH  (9)
<式(10)の導出>
上記と同様に、式(γ)と式(4)の関係から、
pZnOH + pOH = pZn(OH)2(aq) + 6.06
pZn(OH)2(aq) = pZnOH + pOH – 6.06
= pZnOH + 14.00 – pH – 6.06  (10″)
式(10″)に式(9’)を代入すると、
pZn(OH)2(aq) = -3.49 + pH + 14.00 – pH – 6.06
= 4.45  (10′)
Log[Zn(OH)2(aq)] = -4.45  (10)
<式(11)の導出>
式(γ)と式(5)の関係から、
pZn(OH)2(aq) + pOH = pZn(OH)3 + 2.50
pZn(OH)3 = pZn(OH)2(aq) + pOH – 2.50
= pZn(OH)2(aq) + 14.00 – pH – 2.50  (11″)
式(11″)に式(10’)を代入すると、
pZn(OH)2(aq) = 4.45 + 14.00 – pH – 2.50
= 15.95 – pH  (11′)
Log[Zn(OH)2(aq)] = -15.95 + pH  (11)
<式(12)の導出>
式(γ)と式(6)の関係から、
pZn(OH)3 + pOH = pZn(OH)4 + 1.20
pZn(OH)4 = pZn(OH)3 + pOH – 1.20
= pZn(OH)3 + 14.00 – pH – 1.20  (12″)
式(12″)に式(11’)を代入すると、
pZn(OH)4 = 15.95 –pH + 14.00 – pH – 1.20
= 28.75 – 2pH
Log[Zn(OH)4] = -28.75 + 2pH  (11)

Al(Ⅲ)の計算

<式(19)の導出>
式(γ)と式(18)の関係から式(19’)を得て(上記に留意)、これを式(α)の関係から式(19)が得られる。
pAl = 3pH – 10.8  (19′)
log[Al3+] = 10.8 – 3pH  (19)
<式(20)の導出>
次に、式(γ)と式(14)の関係から、
pAl = pAlOH + pH – 4.97
pAlOH = pAl – pH + 4.97  (20″)
式(20″)に式(19′)を代入すると、
pAlOH = 3pH – 10.8 – pH + 4.97
= -5.83 + 2pH   (9′)
log[AlOH2+] = 5.83 – 2pH  (9)
<式(21)の導出>
式(γ)と式(15)の関係から、
pAl = pAl(OH)2 + 2pH – 9.3
pAl(OH)2 = pAl – 2pH + 9.3  (20″)
式(20″)に式(19′)を代入すると、
pAl(OH)2 = 3pH – 10.8 – 2pH + 9.3
= -1.5 + pH   (21′)
log[Al(OH)2+] = 1.5 – pH  (21)
<式(22)の導出>
次に、式(γ)と式(16)の関係から、
pAl = pAl(OH)3(aq) + 3pH – 15.0
pAl(OH)3(aq) = pAl – 3pH + 15.0  (22″)
式(22″)に式(19′)を代入すると、
pAl(OH)3(aq) = 3pH – 10.8 – 3pH + 15.0
= 4.2  (22′)
log[Al(OH)3(aq)] = -4.2  (22)
<式(23)の導出>
次に、式(γ)と式(17)の関係から、
pAl = pAl(OH)4 + 4pH – 23.0
pAl(OH)4 = pAl – 4pH + 23.0  (23″)
式(23″)に式(19′)を代入すると、
pAl(OH)4 = 3pH – 10.8 – 4pH + 23.0
= 12.2 – pH  (23′)
log[Al(OH)4] = -12.2 + pH  (23)

掲載日:2017/07/17
更新日:2017/10/11(多数の記号ミスを修正しました。本文・数値に変更はありません。)
更新日:2018/01/19(図2・図4の詳しい計算手順を追加しました。結果に変更はありません。一部、記号ミスを修正しました。)

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