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微細藻類の海上培養モデル-原理と設計

Algal culture on ocean -Model principle and basic design-
大沼みお・岸 拓真・奥田悠希(広島商船高専)・中電技術コンサルタント(株)・村上定瞭(水浄化フォーラム)

目次

要約

微細藻オイルは、化石燃料に較べて一桁価格が高い。微細藻オイルの生産コスト削減には、(1) 培養設備の構造が簡単で、(2) 年間を通して微細藻が安定に生育可能な温度範囲内に維持し、(3) 自然エネルギーを活用した培養液の攪拌により太陽光を微細藻類が均等に受光できる培養方法が求められる。
本海上培養モデルでは、(1) 水平断面が等方形状で透光性の密封容器に微細藻類を植種した培養液を容器容量の半分程度注入し、培養容器を海上に浮かべること(簡単な容器と海水の浮上力利用)、(2) 陸上と比較して季節や昼夜の温度変化の少ない海水との熱交換により培養液温度の変化を微細藻類が生育可能な範囲内に保つこと(海水の恒温力の利用)、(3) 波揺れによって培養液を攪拌して太陽光を均一に微細藻類に受光させること(波力の利用)により、微細藻の生産コストを削減する。

はじめに

バイオ燃料オイルを生産する微細藻類としては、淡水由来および海水由来のいずれも、上記培養法は運転・管理の側面から陸上において実施されている。陸上培養法においては、次に示す3項目の課題がある。
いずれの培養法においても、(1) 培養用地の確保および(2) 培養設備の建設費が高くなり、それらの償却費が生産コストの約2/3を占めるといわれる。
微細藻類は太陽光をエネルギー源として増殖するので、培養液中の微細藻類が均一に受光する必要がある。そこで、太陽光の透過距離、すなわち、チューブ型の内径、パネル型の厚さ、池の深さは50cm以下に設定され15~25cmが最適とされる。
この結果、太陽光エネルギーが受ける面積に対する熱容量が相対的に小さくなることで、日照時間、日光入射角および日光透過距離にもよるが、(3) 晴天日午後での培養温度の上昇と夜間の培養温度の低下が起こる。国内地域の地理的環境にもよるが、晴天日午後には冬期20~30℃、夏期50~60℃に達することもある。逆に夜間には外気温度(冬季には氷点下)近くまで低下する。野外培養を通年にわたって実施するには、地域によって異なるが、夏期の日照時間帯には冷却が、冬期夜間帯には加温が必要となることもある。
微細藻類には、浮遊性、沈降性、あるいは移動性の種類がある。沈降性であっても、光合成によって発生する酸素気泡によって浮上する。いずれにしても培養液内に存在する微細藻に均一に太陽光を受光させるとともに大気中の炭酸ガスを気液界面より供給するため、エアレーション、循環ポンプまたはパドルホイールなどによる攪拌エネルギーコストが必要となる。
以上の課題を解決するするため、本要約に示した海洋の自然力を活用した海上培養モデルを提案する。

1.培養容器

1.1 培養器の形状

微細藻類培養容器の事例を図1に示す。培養容器の形状は、水平断面が円形の楕円体または水平断面が正方形の直方体とする。
容器は密封型で、材料は薄い袋状でも板状でも透明で通気性のないもので、その材質は硬質・軟質いずれでもよい。3章で記載するように培養容器の内圧を外圧より少し高くして、その構造を保つものとする。
容器の高さHc(c:container)は0.3~0.5m程度とし、海水浮力の利用および微細藻自身の遮光効果を避けるため培養液の深さHm(m:medium)は高さの1/2程度とし、およそ0.15~0.25mとするとよい。
楕円体の水平断面の直径Dまたは直方体の水平断面の幅Wが大きくなった場合には、密封型容器の変形を避けるため、適当な中空の枠を取り付けるとよい。容器のサイズLc(Dまたは√2×W)が小さく変形が生じない場合には、枠は不要である。上記の直径Dおよび幅Wの具体的な設定条件については、2章において説明する。
培養容器は、その個数に限定はなく紐で適当な間隔を取って直列に連結し、その両端を海底に固定した碇に接続し、これを一組の容器群とする。多数の容器群を適当な間隔で平行に配置し、利用する地域海域の広さに応じて適宜、海上に配置する。海域の利用については、漁業や交通の障害とならないように、海域の実情に応じて培養容器群を設置する。

1.2 培養容器の水平断面の等方性

海面上において向かってくる波に対する培養容器の運動の自由度は6である。図2に示すように水平面断面を相互に直角なx軸とy軸で示し、その容器の中心を通り水平面断面に垂直線をz軸とし、向かってくる波の進行方向をx軸とすると、容器の運動は各軸に平行な並進運動と各軸の回転運動で示される。ここで容器を水面上のある地点に固定すると、その並進運動がゼロで、各軸に対する回転運動の自由度は3となる。水平断面が円形であれば、波の方向がいずれであっても等方性であるので自由度は1となり、容器のx軸とz軸を含む平面上の回転運動(容器の中心を固定した両端の上下の振れ)で示される。
一方、容器内培養液の重心の運動は容器内に限定され、重力のみが作用するので、x軸とz軸を含む平面内の重心移動運動のみとなる。なお、波によるx軸とy軸を含む平面のz軸方向の上下の並進運動もあるが、容器内培養液の攪拌への効果は少ないので、考慮しない。
海上における波の進行方向は季節および1日の時間変化が激しいので、上記に記載の容器の水平断面の等方性は海上培養において極めて重要な要素となる。

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図1 海上における微細藻類の培養容器の事例

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図2 海波による培養容器の揺れおよび培養液の攪拌状況

2.波の状況と培養器のサイズ

2.1 培養容器のサイズと波長の関係

本海上培養モデルにおいて、培養液の攪拌に波力を利用するので、培養液容器のサイズLc(図1のDまたは√2×W)の設定には、波の長さが重要な因子となる。季節と海域により波の状況は異なるので、海上培養においては、それぞれの状況に応じた培養容器のサイズ設定を行う。
微細藻類の沈降速度は数10µm/sであり、波速(数10~数100m/s)に比較すると極めて小さいので、考慮する必要はない。なお、水平断面が正方形の容器は完全な等方性ではないが、本発明のモデルでは対角線の長さ√2×Wで近似できるものとする。
容器のサイズLcは、海面波が単一波のみで構成されるとすると、図3に示すようにL>Lcの条件に設定する。これは、L<Lcの条件では、容器を複数の波の山で支えること(図3の青色点線)になるので、x軸とz軸を含む平面内での回転運動(容器両端の上下の振れ、図2に示す容器の傾斜角θが生じないからである。


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図3 海波の波長に対する培養器のサイズの条件

培養容器の強度およびその操作・運転の制限があるので、容器サイズLcは数メール程度、最大でも10m程度に設定されれば、一般的な波浪やうねりがある海域においては解説4に記載した波長の数値(数10m~数100m)から考えて、上記の条件を十分に満たす。しかしながら、様々な性状の波の合成によって波長の短い波(L<Lc)が含まれる海域では、これらの短い波の容器運動への影響はどのようになるのであろうか。
ここで、単一の波で構成される海上での培養容器に回転運動、すなわち、培養液の攪拌効率α(0 ≦ α ≦ 1)とすると、Kとαの関係はシグモイド曲線α = Lc/{(1+(Lc/L-1)×exp(-γL)}で示され、図4に示すようなS字曲線となる。この図では、横軸はlog L/Lc+βで示してある。γおよびβは海域の波の状況と実際の容器の形状により異なるので、実験的に決定する補正係数であるが、同計算では仮にγ = 10、β = 0.78としている。この図に示すように、L<Lcでは攪拌効率は急激に低下し、L>Lcでは攪拌効率は一定となる。現実の海域の波は、波長の異なる多数の波Li(i = 1~n)から合成された複雑な波であるが、Li>Lcの条件を満たす波によって攪拌され、Li = Lの近傍を除いて、その効果はLiの長さに依存しないことが理解できる。具体的には、実際の波には、図3に示す主波(L,A)に複雑な小波(Lm,Am :ただし、Lm≪Lc<L)が含まれる複雑な合成波ですが、主波に依存し、小波には影響されないということである。
以上のことから、複雑な波長Liと波高Aiとの合成波Σ(Li,Ai)であっても、海上の波の構成成分のなかに、Li>Lcの条件を満足する波高Aiが一つ含まれていればよいことが分かる。本条件を満たす波の成分が複数であっても、シグモイド曲線が示すようにその攪拌効果αは1で飽和するからである。

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図4 波の波長と容器サイズとの比率および攪拌効果の関係
(シグモイド曲線)

2.2 波高Aと培養液容器のサイズ Lc

図2に示す波による容器内の培養液の重心の移動距離をLw[m] とすると、物理学の一般原理より、その周期Tw = 2π√(Lw/g)で示され、培養液の重量には関係しない。Lwは容器の形状によって異なるので、実験的に検証して求めることとなる。もし仮に、波の周期Tと培養液の周期Twが一致すれば(Tw = T)、共振効果によりわずかな波高でも容器内の培養液を攪拌できることとなる。したがって、海域の年間を通した平均的な波の周期に対応した容器サイズLcに設定するとよい。
波の性状は季節および1日においてその時間経過とともに常に変化するので、容器内の培養液の深さHm[m](図1)よりも波高A[m]が高いことが求められる(Hm<A)。仮にHm = 0.2mとすると、波高はこの値よりも高いことが必要である。ただし、波長Lは容器のサイズLcよりも大きいこと(L>Lc)が条件となる。
一方で、外洋に面した遠浅での浅海域のうねり、または、外洋の深海域での大きな波浪に対しては、図5左図に示すように、波の進行方向側の断面の形状が、その前後における波の対称性(図5右図、θw < 90°)が崩れ、進行方法側の断面が水平面に対して垂直または波の頂点が崩れるようになる(図5左図、θw ≒ 90°)。このような状況になると、培養容器の上面と底面の逆転が起こる。本モデルの密封型培養容器では、その内圧を外気圧よりも高く設定しているので、酸素ガス排出口から海水が侵入することはないが、高圧炭酸ガス容器の吐出し口と培養容器の同ガス導入口を接続するチューブと培養容器群内の容器同士を連結する紐と絡まることとなる。
そこで、波高Aに対して、青色点線で示すように培養容器のサイズLcをより長くすること(Lc>A)で復元力が働くので、その容器の上部と底部の逆転を防ぐことができる。本節の条件と2.1節の条件を満足するためには、培養容器のサイズLcは波の波長Lよりも小さく、かつ、波高Aよりも大きいことが求められる(L>Lc>A)。

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図5 波の進行方向側断面の性状変化に対する波高と培養容器サイズの関係
Lc(= D)>Aのとき,復元力が働く。海域によって、Lcは数m~数10mに設定(大型台風のとき、中心付近で最大10m程度)。

2.3 攪拌の転倒型と共振型

2.1節から2.2節に述べた波による培養液の攪拌は、図2に示す容器の傾斜角θの変化による培養液の重心移動によるものである。これを転倒型と称することとする。これはキャップ付き試験管を一定周期で傾斜または転倒することにより、培養液の攪拌を行う現象である。
一方で、解説4に記載されているように、内海のように波高Aが小さい場合には、わずかな波高Aでも培養液の重心移動の周期Twと波の周期Tを一致または近づけることで培養液の水平方向の重心移動が起こることで攪拌を行う現象である。これを共振型と称する。わずかな力で容器の一端を上下を動かすことや、三角フラスコを手首で軽く回転させてフラスコ内の液体を攪拌することなど、共振現象をうまく利用することと同じである。
それぞれの海域においては、海底の深さや季節・日時の気象条件により波の状況が変化する。図6に示すように波の性状による攪拌効果は波高による容器の傾斜角による攪拌効果a(転倒型)および波の周期と共振する培養液の重心移動による攪拌効果b(共振型)の和(a+b)で示される。波高が高く転倒型の寄与が大きい容器(a>b)は外海に適し、波高の低い共振型の寄与が大きい容器(a<b)は内海などの穏やかな海域での培養に適している。

2.4 海域の状況と培養液攪拌への寄与率

具体的な培養容器の設計は、本章に記載した様々な条件を考慮にいれ、具体的に微細藻類を培養する海域で実験的に検証した上で、実施することとなる。
外海域の深海域や外海に面した浅海域では波高Aが高い。しかし、内海域では波高Aが低い。本節では、培養液攪拌への寄与率について、説明する。
図1に示す培養液の深さHmよりも高い波高Aで構成される外海域では、図3に示す傾斜角θ(= cos-1(A/Hm))を大きくすることが可能でAがA/Hm → ∞となれば、傾斜角θ → 90°となる。これはキャップ付き試験管の転倒攪拌に対応する。ただし、この場合には培養容器の上部面と底部面の逆転を防ぐため、2.3節に記載したように、L>Lc>Aの要件を満足するように培養容器サイズを設定する。

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図6 培養液攪拌に対する波の波高および波周期の共振によるそれぞれの寄与率

3.密封容器の内圧調整

微細藻類は、太陽光のエネルギーを利用して吸収した二酸化炭素CO2を有機化合物へ合成するともに酸素O2を放出する。本培養モデルでは、別途の筏に設置した高圧CO2ガス容器の吐出し口および図7に示すように密封型培養容器上部面に取り付けた圧力調整弁付きガス導入口をチューブで接続して、炭酸ガスを供給する。一方で、圧力調節弁を培養容器の上部面に取り付けて、微細藻類が発生するO2を排出する構造とする。外圧よりも少し高い内圧を保つように、CO2導入口およびO2排出口の圧力調節弁をそれぞれ設定する。

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図7 培養容器の内圧の調節(内圧>外圧)の事例

4.微細藻類培養の監視システム

海上での培養方法においては、陸上培養と比較して、海域および培養の状況を遠隔監視し、異常等が生じた場合やそれが予測された場合の対応が必要となる。監視システムの実施例を図8に示す。
遠隔監視システムを搭載した筏を監視用培養器の近くに設置する。多数の培養器の中から、一つを選び、循環ポンプにチューブを接続し、容器内の内容物を引き抜いてチューブ内培養液を循環させる。この循環チューブに藻濃度と培養液のpHや温度などの測定センサーを取り付けて、容器内の微細藻類と培養液との混合液の状況を数値化記録する。記録した各データは、リアルタイムまたは定期的に陸上に設置した遠隔監視室に送信し、そのモニターに表示する。
監視用培養容器および監視システム本体(筏に搭載)は別々に分け、監視用培養器には各測定センサー(小型)を取り付け、各センサーと監視システムを構成する増幅・変換器をリード線で接続する。
監視用システム本体の電源は、別途設置する筏に搭載した海上太陽光発電パネルと蓄電池で構成される電源装置から供給する。
これらの微細藻類培養の監視システムは、各海域に一式設置し、多数の培養容器群のデータを代表したものとする。

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図8 遠隔監視システムの事例

5.炭酸ガスの供給

微細藻類は炭酸ガスを吸収して光合成を行うので、本ガスを供給する高圧ポンプを培養容器とは別途の筏に設置して、培養容器群へ分岐して供給チューブを接続して炭酸ガスを供給する。1本のボンベが供給できる培養容器の数は、培養日数および培養液量に応じて適宜設定する。

6.藻類培養器の配置、搬送と微細藻類の収穫

6.1 培養器の配置

数100から数1000の培養器を直列に緩やかに接続し、両端をアンカーに取り付けて固定する(培養器行群)。この培養器行群を、培養日数nに対応して、n×m列を一定間隔ごとに平行に配置する(培養器列群)。以上の様な行列群の培養器の配置により、毎日、m個の培養器行群を回収し、その空間に新たなm個の培養器行群を配置することとなる。
毎日の回収は、後述する基地港に設置した設備を通年にわたって連続稼働させることで、償却コストの削減を図ることにある。

6.2 培養器の搬送と収穫

本海上培養モデルでは、微細藻類の培養器は海上に設置するので、育成した微細藻類の収穫は、船舶を用いてその設置海域で実施することも可能である。一方で、培養器群は紐で直列に連結して両端の紐を碇に接続して固定しているので、この両端を碇から外して、船舶により培養容器群を曳航することにより収穫設備を設置している地域の港へ搬送し、そこで育成した微細藻類を収穫する。培養容器は再利用され、藻種および培養液を容器に充填して、培養海域へ曳航されて配置される。

6.3 収穫微細藻の処理

収穫藻類は沈降分離および遠心濃縮して、水熱反応を行い、気・液/液・固分離装置により、ガス、オイル、水、チャーの4相にそれぞれ区分される。詳細は別ページを参照されたい。

7.海域の選定と基地港の整備

(準備中)

8.本海上培養の地域社会への効果

本海上培養モデルによる油脂生産性微細藻類の海上培養法は、海水の浮力利用による培養装置の軽量・簡素化、海水の恒温性による培養液温度の安定化、培養液攪拌を波エネルギーによって行うなど、自然現象を利用することで微細藻類の生産コストの削減に大きく貢献できることが期待できる。
また、過疎化した沿岸地域や離島地域の海域で本培養法が実装化されるとすると、それらの地域の産業振興に貢献できることが期待される。

9.実装化への課題

海上培養モデルでは、特定の微細藻に限定されるものではなく、数項目の条件を満たす微細藻であれは、適用可能なモデルである。
現段階では、大学等・国立研究機関の支援を受けて基礎的な研究を行っているが、社会実装化を達成するには不十分で、火力発電所・製鉄所などから回収した炭酸ガス供給に加え、様々な広い分野の研究機関(基礎研究:細胞・培養・海洋・気象・環境の各科学)や民間企業(複合技術:電力・製鉄・石油・自動車・造船・重工・化学・建設・通信制御などの多岐業種の技術)の協力・支援がないと社会実装化は困難と考えている。なお、海上培養は、別ページの「微細藻を活用したグリーンエネルギー生産モデル」の構成要素(1st Stage)である。

9.1 実海域の状況と容器設計

(準備中)

9.2 容器の材質

(準備中)

9.3 CO2ボンベ調達と差圧調整

(準備中)

解説1-微細藻の陸上培養の課題

(準備中)

解説2-微細藻培養液の攪拌

(準備中)

解説3-陸上と海洋の気象

(準備中)

解説4-海洋波の状況

実際の海の波は複雑な様相を示しているが、それは波長の異なるいくつもの波の重なり合いとしてとらえることができる。それを構成している一つひとつの波はトロコイドという曲線で表され、山の幅が狭く谷の幅が広い形なっている。水の粒子が円運動しているので波の形は正弦波とはならない。このとき水面の水粒子が描く円の直径が波高、円周が波長ということになる。
<深海波>
水深が波長の1/2より大きい場合、海底の影響をほとんど受けないので、このような波を深海波という。深海波の波速V[m/s]は近似的に波長L[m]だけで決まり、V = √(g×L/2π)で表される(gは波重力加速度である)。また、波長、波速、周期T(s)の間には、L = V×Tの関係がある。海上で普通に見られる風波の波長は数10m程度なので、大雑把に100mとして計算すると、波速は12.5m/s、周期は8.0秒になる。
<うねり>
海の波は主に風によって発生し発達するが、発達した波は風がない海域に入っても次第に減衰しながら遠くまで伝播する。このとき、波長の短い波ほど早く減衰するので、波長の長い波だけが残ることになる。このような波を「うねり」という。うねりの波長は100m以上で、周期8秒以上であることが多いといわれる。
<浅海波>
水深が波長の1/2より浅くなると波は海底の影響を受けはじめる。さらに浅くなり水深が波長の1/25より浅い波を浅海波(長波)という。浅海波の波速は波長には関係なく近似的に水深h[m]だけで決まり、V = √(g×h)で表される。波長が数十mから数百mの風波やうねりが海岸に近づくと、水深が数mのところから浅海波の性質を持つようになる。水深が浅いほど波速が小さいので、遠浅の浜に寄せてくる波は屈折して、浜に向かって直角に(波面は浜に平行に)進んでくる。
(参考文献;中村一弘:「伊豆大島 気象と交通」、大島の気象の話-3.海の波、http://www13.plala.or.jp/oosimakisyou/3nami.html.)

参考資料-スライド版

本スライド(口頭内容を含む)は、環境技術学会2022年会(10月22日、京都大学吉田キャンパス)で発表したものです。本海上培養モデルを簡単にまとめた内容となっています。


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<研究の背景>
1.「油脂を生産する微細藻類」は、再生可能エネルギー利用の一つとして注目されています。これまでに、油脂生産性の微細藻類が「多数」提案されています。
2.米国エネルギー省による1987年に始まった「藻類研究プログラム」から35年経過した現在でも、「微細藻のバイオ燃料」の社会実装化に至っていません。
3.この最大の理由は、油脂生産コストが化石燃料と比較して一桁高いことにあります。
4.この生産コストの大部分は、設備の償却費や維持費となっています。広い培養用地の確保や培養設備の建設・運転費です。


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写真:Google画像検索の「微細藻 開放池」・「微細藻 フォトリアクター」から引用

<具体的な大量培養の事例と課題>
(A) はレースウエイ型で、パドルを回転して水路の培養液を攪拌・循環し、空気中の炭酸ガスを供給するとともに、太陽光を受光させて藻類を生産します。開放系であるので、競争種、捕食種、塵埃などのコンタミネーション(以下、コンタミ)が生じ、生産性が低下します。
(B) は一般に培養池といわれるもので、炭酸ガスの供給と攪拌を兼ねて、曝気を行います。コンタミについては、レースウエイ型と同様です。
(C) はチューブ型フォトリアターです。このように連結したチューブ内に培養液を付設ポンプ(曝気・脱気も行う)で循環し、微細藻を生産します。密封型であるので、コンタミはありません。しかし、チューブ内壁へ生物膜の付着が生じるので、藻類収穫後、適宜、分解して内壁を清掃する必要があります。
(A)、(B)、(C)に共通な事項として、昼夜・季節による温度変化や受光による温度上昇が起きるので、培養する地域によって異なりますが、年間を通した収穫をするためには、夏に冷却、冬に加温の対策が必要となる場合があります。


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<本研究の目的>
海洋の自然エネルギーを活用して、年間を通して低コストで安定な微細藻類の海上培養法の開発を目指すことです。
具体的には、
1.海水の浮力を利用して、簡単な構造の培養器を海上に浮かべること。
2.海水の恒温力を利用して、昼夜・季節の温度変化が少ない海水により微細藻が,年間を通して,生育可能な温度範囲に保つこと。
3.海の波力を利用して、培養液を攪拌すること。
波には、大きく分けて、深海波浅海波があります。深海波は外洋で一般的に見られる波において波長は数10m~100m前後であって、波長を100mとすると、波速12.5m/sで周期8.0sとなります。
一方、浅海波は海岸で見られる波で、波速はこの式で示され、周期は8.0s以上となります。

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<培養器の形状>
海洋の状況は海域や気象条件によって複雑な様相を示します。したがって、海上培養については様々な事項が課題となりますが、本発表では基本的な事項である培養器の設計に的を絞って、その要件について説明しまします。
1.先ず、培養器の性状ですが、水平方向の断面が等方性であることが必要です。
2.この理由は、波の進行方向が変わっても、その方向に依存しないからです。


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<波による培養液の攪拌効果>
1.波の進行方法をこれで示すと、海面上にある容器は、波の進行により、このように傾斜して、水平となり、反対方向に傾斜します。このような容器の傾斜角度の変化によって、培養液の重心が移動し、攪拌効果が生じます。
2.培養器のサイズLcについて、その要件を説明します。水平断面が円形の場合には、その直径、正方形の場合には√2×Wで示されます。
3.今、波の波長をL、波高をAとすると、培養器のサイズはこの条件を満たす必要があります。

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<容器サイズの要件 L>Lc >
1.この容器のサイズLcが、波の波長Lよりも小さいことが要件となります。
2.もし、容器サイズがこのように波長よりも長くなると、複数の波で容器を支えること(青色点線で示す容器)となるので、前のスライドで示したように、容器の有効な傾斜が生じないので、攪拌効果が生じません。
3.攪拌効果を示すこのシグモイド曲線をここに示します。波長よりも短い容器であれば、その波長に依存しないことを示しています。
4.一方、容器よりも波長が短い波では、その波長に依らず、全く攪拌効果がないことを示しています。
5.実際の波は、このような主波に、このような小波が含まれる複雑な合成波ですが、ここに示すように、主波に依存し、小波には影響されないことが分かります。


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<要件 Lc>A >
1.波は、このような進行方向に対して対称的な波もあれば、進行側断面が直角となり、この先端部分が崩れ落ちる波もあります。
2.この場合には、容器の上部と底部の逆転が生じます。これを防ぐためには、このように波高よりも容器サイズが大きいもの(青色点線で示す容器)では、復元力が働き、逆転を防ぐことが可能となります。
3.容器サイズは海域によって異なりますが、数mから数十mに設定します。大型台風の時には、波高は台風中心付近で最大10m程度であるので、一般的には、この条件で十分対応できることが可能となります。


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<海上培養システムの模式図>
1.培養器を直列に多数連結して、アンカーで固定します。このように、培養日数によって、毎日収獲できるように、列数を適宜設定します。
2.微細藻が十分増殖して収穫日に達すると、各列を順次、基地港に曳航して、港にて容器の陸揚げと培養液の回収を行います。
<今後の課題>
1.海域に応じた培養系を構築して、内海・外洋などの各海域と培養器設計、台風対策、漁業・交通への対応などがあります。
2.基地港の整備として、培養液の調整、藻類収穫、オイル抽出、抽出残渣のメタン発酵、廃液の再利用が挙げられます。
<本研究の展望>
1.EEZの広い日本は国際的に優位であること
2.火力発電・製鉄等からの回収した炭酸ガスを利用すること、
3.沿岸域・離島の振興策として、基地の整備人材の確保・育成などが挙げられます。

掲載日:2022年10月24日、スライド紹介
更新日:2022年11月12日、本文掲載

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