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素反応の典型例と濃度変化パターン

目次

はじめに
Ⅰ.素反応典型例と濃度変化のパターン
 1.単分子素反応
 2.2分子素反応
   擬1次素反応
 3.併発反応
 4.逐次反応
 5.可逆反応
 6.酵素反応
 7.触媒反応
 8.自触媒反応
 9.複合反応と定常状態近似
Ⅱ.素反応の解析と実験
 1.微分法
 2.積分法
 3.分離法と初速度法
 4.緩和法
Ⅲ.反応速度定数とその値の決定因子
 1.気相反応
 2.液体反応
 3.界面反応
Ⅳ.電子移動反応
 1.電子の受授
 2.分子の電子エネルギー
 3.活性化状態
 4.配向エネルギー
 5.電子移動速度の推定
 6.電子移動のモデル図
Ⅴ.反応動力学
 1.温度と反応エネルギー
  素粒子と反応エネルギー 
 2.分子衝突と化学反応
  分子の動力学
 3.マーカス理論
  溶媒中の電子移動反応
 4.電極反応と電流密度
  過電圧と電流密度
 5.井戸型ポテンシャルと電子移動
  量子論と反応速度
 6.分子構造と反応速度
  分子構造と活性化エネルギー

一連の章から構成される本ページは、逐次、内容を掲載する。また、複数のページにより構成されているので、目次を基点に閲覧されたい。
リンクされていない項目は、執筆準備中である。また、目次の構成と内容が変更されることもあるので、更新日に留意されたい。


Ⅰ.素反応の典型例と濃度変化パターン

物質の時間的変化には、いくつかのタイプに分類される。本章では、典型的な基本となる素反応について解説する。ここで、反応速度定数kの具体的な数値には触れず、半減期t1/2あるいは寿命τ(= 1/k、k:1次素反応の速度定数)を単位とする相対値で示す(t1/2およびτの意味は以下に説明する)。k値の意味およびその具体値を決定する数的因子については、他の章で説明する。
本章の目的は、反応物質または生成物の濃度の相対的な時間変化の典型的なパターンを示し、素反応の仕組みとの関係を理解することにある。
本ページの掲載図の全てについて、計算用xlsファイルをサーバー(現在、準備中)に保存してあるので、学生や初心者はダウンロードして参考とされたい。

1.単分子素反応

単分子素反応は、光の吸収や多分子との衝突などによってエネルギーをもらった分子(または原子、以下、省略)が自発的に起こす反応をいう。
今、次式に示すように単分子Aが反応して他の分子Pに変化し、
  A → P   (1-1)
時刻tにおける単位時間dt[s]あたりのA濃度の減少量dA[mol/L/s]が濃度Aの1次に比例するとすると、次式の関係が成り立つ。なお、本来ならAの濃度は[A]で示すべきであるが、簡略化のためAで示す。以下、同様に記載する。
  - dA/dt = kA   (1-1a)
また、Aのn次に比例するときには、次式で示される。
  - dA/dt = kAn   (1-1a’)
速度式(1-1a)で示される反応をAについて1次反応という。また、速度式(1-1a’)で示される反応をAについてn次反応という。nは実験的に決定されるもので、整数でない反応もある。この場合には、式(1-1)で示されるような単純な反応ではなくて、複雑な素反応から構成されている。
以下、n = 1の反応について説明する。
上式のk[1/s]は定数で、反応(1-1)の速度定数という。上式を次式のように変数分離する。
  dA/A = – kdt   (1-1b)
t = 0 → t において、A = Ao → A に変化するとし、式(1-1b)を式(1-c)のように積分すると、式(1-1d)が得られる。ここで、Aoを初濃度という。以下、∫f(x)dx [x = a → b]を関数f(x)をx = a → bの範囲で定積分することと表記する。
  ∫dA/A [Ao → A] = -∫kdt [0 → t]   (1-1c)
  ln(A/Ao) = -kt   (1-1d)
  A/Ao = exp(-kt)   (1-1e)
ここで、kの逆数τ = 1/k [s]として、式(1-1e)のtに代入すると、A/Ao = exp(-1) = 1/e(e = 0.3678・・・)、すなわち、Aが初濃度Aoの1/eになるt = τを反応(1-1)の寿命[s]という。また、A/Ao = 1/2になるときのt = t1/2とすると、式(1-1e)より1/2 = exp(-kt1/2)となり、次式が得られる。
  t1/2 = ln 2/k   (1-1f)
式(1-1f)からわかることは、式(1-1a)で示す1次反応において、A/Ao = 1/2になる反応時間t1/2半減期という。
図1-1に示すように、1次反応では、tの経過とともに指数関数的に減少し、τ[s]で初濃度の37%、2τで0.17%、3τで0.03%、4τで0.02%までそれぞれ減少し、3τ(= 3/k)において、ほぼ反応が終了することが分かる。

first-order-reaction
図1-1 単分子(又は原子)の1次反応における反応分子Aおよび生成分子Pの濃度と反応時間tの関係
t:寿命τ[s]を単位とする相対時間、Ao:分子Aの初濃度[mol/L]、X/Ao:Xは分子AまたはPの濃度で、0≦X/Ao≦1である。

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2.2分子素反応

2つの分子が関与する2分子反応には、2つのタイプがある。(1)同じA分子が関与する場合と(2)異なる分子Aと分子Bが反応して、分子Pを生成する場合がある。

(1)同分子による2分子素反応

式(1-1a’)のn=2で示される素反応で、速度式は式(2-1a)となり速度定数kは単位[L/mol/s]となる。
  -dA/dt = kA2   (2-1a)
式(2-1a)の変数分離式(2-1b)において、t = 0 → t、A = Ao → Aの範囲で積分すると、式(2-1d)が得られる。
  dA/A2 = -kdt   (2-1b)
  ∫A-2dt [Ao → A] = -∫dt [t = 0 →t]   (2-1c)
  1/A – 1/Ao = kt   (2-1d)
上式を変形すると式(2-1e)が得られる。
  A/[Ao] = 1/(1 + tkAo)   (2-1e)
Aについての単分子反応式(1-1e)と2分子反応式(2-1e)を比較すると、単分子反応は速度定数kのみに依存しているのに対して、2分子反応ではkと初濃度Aoの積に依存している。
図2-1に任意の初濃度Aoに対して、8, 4, 2, 1, 1/2, 1/4, 1/8 [αi = 2i ( i = 0, ±1, ±2, ±3)]倍の初濃度Aio(= αi Ao)に設定したときのA/Aioの経時変化を示す。ただし、時間軸は k と任意の初濃度Aoの逆数τ01/2(= 1/kAo、i = 0 のときの反応分子Aの半減期)を単位とする相対時間で示しいている。なお、式(1-1f)に示す1次反応のときの半減期 t1/2と異なることに留意する
この図に見られるように、初濃度Aioが高くなるぼど、A濃度の減少速度が速くなっている。単分子の1次反応では、速度定数kの値は初濃度に関係なく式(1-1f)で決定できるが、2分子反応では、k値の決定には初濃度Aioの絶対値が必要となる。

2_same-molecule_reaction
図2-1 同じ分子による2次反応における反応分子濃度の経時変化
Aio:任意濃度Aoに対してαi 倍とした分子Aの初濃度、t:i = 0のときのAio[mol/L]と速度定数k[L/mol/s]の積の逆数τ01/2[初濃度Aio (i = 0)における分子Aの半減期]を単位とする相対時間、

(2) 異分子による2分子素反応

次に示す異なる分子AおよびBが反応して、それぞれの濃度の1次で依存するとき、その反応速度は、式(2-2b)で示される。速度定数kの単位は[1/(mol/L)/s]である。
  A + B → P   (2-2)
  - d[A]/dt = k[A][B]   (2-2a)
AとBの初濃度をそれぞれAoとBo(Ao ≠ Bo)とし、反応時間tにおける反応したAの濃度をxとすると、AとBは1:1で反応するので、tにおけるAとBの濃度は次式で示される。
  A = Ao – x   (2-2b)
  B = Bo – x   (2-2c)
Aの減少速度は、次式で示される。
  -dA/dt = -d(Ao – x)/dt = dx/dt   (2-2d)
式(2-2c)および式(2-2d)を式(2-2b)に代入すると、式(2-2e)の関係から、次式が得られる。
  -dx/dt = k(Ao-x)(Bo-x)   (2-2e)
  -dx/[(Ao-x)(Bo-x)] = kdt   (2-2f)
式(2-2e)を変形して変数分離すると、次式となる。
  [1/(Ao – x) – 1/(Bo – x)]/(Bo – Ao) = kdt   (2-2g)
式(2-2g)をt = 0 → t、x = 0 → xの範囲で積分すると、式(2-2h)が得られる。
  ∫[1/(Ao – x) – 1/(Bo – x)]/(Bo – Ao)dx [0 → x]
  = ∫kdt [0 → t]   (2-2h)
  [ln(Ao – x) – ln(Bo – x) – (ln Ao – ln Bo)]/(Bo – Ao)
  = kt   (2-2i)
上式に式(2-2b)と式(2-2c)を代入して、整理すると次式が得られる。
  ln[(A/B)(Bo/Ao)] = -k(Bo – Ao)t   (2-2j)
単分子1次反応の速度式(1-1e)や同分子の2次反応式(2-1e)では、t に所定の値(相対値)を代入して得られる反応率A/Aoから濃度Aを直接に計算できる。しかし、一般に、異なる2分子の2次反応速度は式(2-2j)で示されているが、時間tをこの式に代入しても、直接に濃度Aまたは濃度Bを計算できない。そこで、同式中のA/Bに式(2-2b)と式(2-2c)を代入して、A/Bの分子/分母をAoで除すると式(2-2k)が得られる。x/Ao(反応率)に所定間隔で値(例えば、0, 0.05, 0.10, 0.15,・・・,0.99)を代入して反応時間tを求め、t を半減期 τ1/2 (= 1/[k(Bo – Ao)])を単位とする相対時間に変換し、反応率A/AoおよびB/Aoとの関係を図2-2に示す。
  ln[(1 – x/Ao)/(Bo/Ao – x/Ao)(Bo/Ao)]
  = -k(Bo – Ao)t   (2-2k)
  ただし、0 ≦ x/Ao < 1
図2-2には、Bo/Ao = 2i (i = 1/2, 1, 2, 3)におけるX/Ao(X = AまたはB)の経時変化を示している。AもBも時間とともに減少しているが、濃度差(A – B)は常に一定で、いずれかの曲線を縦軸に沿って平行移動すると、互いに重なることとなる。相対時間τ1/2 (= 1/[k(Bo – Ao)])、Aの半減期)を単位としているが、Bo/Ao値の増加とともに、反応時間が短縮されている。

2_different-molecules_reaction
図2-2 異なる2分子による2次反応における反応分子濃度の経時変化
t:分子Aの半減期τ1/2 (=1/[k(Bo – Ao])を単位とする相対時間; Ao、Bo:分子A、Bの初濃度; X/Ao:反応分子AまたはBの濃度のA分子の初濃度Aoに対する比率

(3)疑1次素反応

異なる2分子による2次反応式(2-2k)よる計算結果を示す図2-2の時間軸tおよび反応率X/Aoを変えて図示すると、全体の挙動が分かりやすくなる。計算は同じ式(2-2k)を用いるが、その結果について、分子AおよびBの反応率A/Ao (= 1- x/Ao)、B/Bo [= (Bo/Ao – x/Ao)(Ao/Bo) = (1 – x/Bo)]で表示する。また、相対時間tの単位をτ1/2 (= 1/[k(Bo – Ao)]) → τ’ [= 1/(kBo)]に変える。このような変換を行った相対時間と反応率の関係を図2-3に示す。
この図には、初濃度の倍率Bo/Aoを1.5、3i (i = 1, 2, 3)としたときの結果を示している。点線で示した経時変化は、Aの単分子1次反応式(1-1e)を用いて、k → kBoとしたときの曲線である。2次反応式(2-2k)と1次反応式(1-1d)の結果は、Bo/Ao(倍率) = 9 以上ではほぼ一致しており、Bo/Ao = 81 ではほぼ完全に一致している。t = τ’と3τ’におけるA/Aoの相対誤差は、倍率9 で4%と18%、倍率27 で1%と6%、倍率81 で0%と2%となっている。
反応速度の測定実験での誤差を勘案すると、Bo/Aoがおよそ30以上であれば、1次反応として扱っても特に問題とならないことが分かる。ただし、k値を求めるときには、AoおよびBoの絶対濃度が必要となる。
以上のことから、Bo ≫ Aoの条件では、B ≒ Bo(ほほ一定)、Bo – Ao ≒ Boとなるので、式(2-2j)と式(1-1d)は同じものとなる。ただし、k → kBoとなる。このように、異なる2分子が反応に関与する2次反応において、他方が過剰に存在するときには、1次反応として扱うことで簡略化できる。これを擬1次反応という。
<留意事項>
分子Aの反応速度を扱う場合、反応に関与する共存分子Bの濃度が高いとき、見かけ上、分子Aの単分子1次反応と判断することになる。特に、液相においては、溶媒分子が反応に関与しているかどうか区別できないので注意が必要である。本章では説明を省略するが、他の実験手法などにより確認することが必要となる。水溶液中の微量分子(又はイオン)の反応では、共存する水分子や共存物質によって大きく影響されることがあるので、浄化プロセスの設計・維持管理において留意すべきことである。

pseudo-first-order-reaction
図2-3 擬一次速度反応の反応分子濃度の経時変化
t:分子Aの擬1次反応の寿命τ'[= 1/(kBo)]を単位とする相対時間、X/Xo:反応分子AまたはBの反応率A/AoまたはB/Bo

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3.併発反応

式(3-1)に示すように、分子Aが異なる2つの経路により、分率pのA分子がP分子へ、分率qのA分子がQ分子へ変化するような反応を併発反応という。反応(3-1a)および反応(3-1b)を分子Aの1次反応とし、それぞれの速度定数をkpおよびkqとすると、PおよびQの生成する速度は、式(3-1c)および式(3-1d)式で示される。
  A → pP + qQ   (3-1)
ただし、p + q = 1とする。
  A → P   (3-1a)
  A → Q   (3-1b)
  dP/dt = kpA   (3-1c)
  dQ/dt = kqA   (3-1d)
反応物質Aの減少速度は、次式で示される。
  -dA/dt = kpA + kpA = kA   (3-1e)
  ただし、k = kp + kq   (3-1f)
式(3-1e)は、上式(1-1a)と同じであるので、式(3-1f)の関係からA/Aoは次式で示される
  ln A/Ao = -(kp + kq)t   (3-1g)
  A/Ao = exp[-(kp + kq)t]   (3-1h)
式(3-1c)、式(3-1f)およぼ式(3-1h)の関係から、次式が得られる。
  dP/dt = kpAo exp(-kt)   (3-1i)
上式を変数分離して、t = 0 → t、P= 0 → Pの範囲で積分すると、次式が得られる。
  P = (kp/k)Ao[1 – exp(-kt)]   (3-1j)
同様に、
  Q = (kq/k)Ao[1 – exp(-kt)]   (3-1k)
これらの反応は、分子Aに対して1次反応であり、その寿命τは式(3-1m)で示される。
  τ = 1/k = 1/(kp + kq)   (3-1m)
生成物であるPとQの比率は、式(3-1n)で示され、p/qを分岐比という。分岐比は反応時間によらず常に一定で、それぞれの速度定数の比で示される。
  P/Q = kp/kq =p/q   (3-1n)
図3-1にkp/kq = 9/1、7/3、5/5、3/7、1/9におけるA/Ao、P/AoおよびQ/Aoの経時変化を寿命τを単位とする相対時間で示す。

parallel-first-order-reaction
図3-1 併発1次反応での反応分子Aと生成分子PおよびQの経時変化
t:寿命τ[= 1/(kp + kq)]を単位とする相対時間、Ao:分子Aの初濃度、kpとkq:AのPとQへ変化する速度定数

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4.逐次反応

分子Sが、分子Iに変化し、これが分子Pに変化す反応を逐次反応という。分子Bを中間物質という。ある物質が多数の中間物質を経て最終生成物へ変化する複雑な反応は、自然界、特に、生物体内反応では一般的に観察される。ここでは、式(4-1)に示す単純な素反応について説明し、逐次反応についての理解を深めることとする。
S → IおよびI → Pへ変化する反応はいずれも1次とし、それぞれの反応速度定数をk1およびk2とする。
   k1 k2
  S → I → P   (4-1)
出発分子S濃度の減少速度は次式で示される。
  -dS/dt = k1S   (4-1a)
生成分子P濃度の増加速度は次式で示される。
  dP/dt = k2I   (4-1b)
中間分子Iの濃度変化の速度は、A → Iよる増加速度とI → Pによる減少速度の和であるので、次式で示される。
  dI/dt = dS/dt – dP/dt   (4-1c)
さらに、全反応時間を通して、S、I、Pの各濃度の総和は、出発分子Sの初濃度Soに等しいので、次式が成立する。
S + I + P = So   (4-1d)
式(4-1a~d)の関係から、分子S、I、Pの濃度の経時変化は以下のようになる(詳しい解法は、下記に示す)。
 
  S/So = exp(-k1t)   (4-1e)
 
  I/So = [k1/(k2 – k1)][exp(-k1t) – exp(-k2t)]
  = 1/(1 – k2/k1][exp(-k2t) – exp(-k1t)]   (4-1f)
  ≒ 0 (k1 ≪ k2のとき)   (4-1f-1)
  ≒ exp(-k2) (k1 ≫ k2のとき)   (4-1f-2)
 
  P/So = 1 – exp(-k1t) – k1/(k2 – k1)][exp(-k1t) – exp(-k2t)]
  = 1 – exp(-k1t) – [1/(1 – k2/k1)][exp(-k2t) – exp(-k1t)]   (4-1g)
  ≒ 1- exp(-k1t) (k1 ≪ k2のとき)   (4-1g-1)
  ≒ 1- exp(-k2t) (k1 ≫ k2のとき)   (4-1g-2)
  ただし、上記の近似式は反応開始直後(t = 0およびその近傍)を除く。
 
式(4-1e~g)を用いて、k1/k2 =1/100, 1/10, 1.01, 10, 100のとき、式(4-1)に示す各分子の濃度変化を図4-1に示す。ただし、反応時間tは、τ1 = 1/k1を単位とする相対時間である。
この図に見られるように、k2/k1の値によって、各分子濃度の経時変化の挙動は大きく異なる。次節で(1)k1 > k2および(2)k1 < k2のケースについて、その挙動を説明する。

successive-first-order-reaction
図4-1 逐次1次反応における周発分子S、中間分子Iおよび生成分子Pの濃度経時変化
t:τ(=1/k1)を単位とする相対時間、So:出発分子の初濃度

(1)k1 > k2 の逐次反応

k2/k1の比率を1/3i (i = 1, 2, 3, 4, 5)とし、逐次反応(4-1)における各分子濃度の経時変化を図4-2に示す(相対時間:τ2 =1/k2を単位とする)。式(4-1f)で示すI濃度の経時変化は、k2/k1の比率が小さくなるほど、式(4-1f-2)で示す経時変化(図1-1に示す単分子1次反応)に近づき、k2/k1 = 1/27でほぼ一致、1/81以下で完全に一致している。ただし、反応直後(t= 0 [τ2]の近傍)を除く。また、実験中、出発分子Sは検出されないが、分子Sがk2を速度定数として、見かけ上、生成分子Pへ直接変化するような挙動を示す。
k1 ≫ k2では、S → I → Pの全反応速度は I → Pの反応速度に依存することとなる。反応 I → Pを逐次反応における律速反応(過程、または段階)という。

successive-first-order-reaction_k2
図4-2  I → P(k1 > k2)の反応が律速となる各分子濃度の経時変化
t:τ2 (= 1/k2)を単位とする相対時間、So:出発分子Sの初濃度

(2)k1 < k2 の逐次反応

k2/k1の比率を3i/1 (i = 1, 2, 3, 4, 5)とし、逐次反応(4-1)における各分子濃度の経時変化を図4-3に示す(相対時間:τ1 = 1/k1を単位とする)。式(4-1f)で示すI濃度の経時変化は、k2/k1の比率が大きくなるほど、I 濃度は低くなり、P濃度は式(4-1g-1)で示す経時変化(図1-1に示す単分子1次反応)に近づき、k2/k1 = 27/1でほぼ一致、81/1以上で完全に一致している。ただし、反応直後(t= 0 [τ2]の近傍)を除く。また、実験中、中間分子 I はほとんど検出されず、出発分子Sがk1を速度定数として、見かけ上、生成分子Pへ直接変化するような挙動を示す。
k1 ≫ k2では、S → I → Pの全反応速度はS → I の反応速度に依存することとなり、反応S → I が逐次反応における律速反応となる。

successive-first-order-reaction_k1
図4-3 S → I(k1 < k2)の反応が律速となる各分子濃度の経時変化
t:τ1 (= 1/k1)を単位とする相対時間、So:出発分子Sの初濃度


<逐次反応の微分方程式の解法>
(後日、掲載
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5.可逆反応

単分子反応(1-1)で示す単分子反応は、反応分子Aが分子Pを生成する1方向(正)反応であるのに対し、式(5-1)に示す反応は反応分子Aと生成分子が正方向とその逆方向への両反応が同時に起こっている。このような反応を可逆反応という。
  k1/k-1
  A ⇄ P   (5-1)
正・逆の両反応を1次反応とし、正方向へ速度定数をk1、逆方向への速度定数をk-1とすると、それぞれの反応速度v1およびv-1は次式で示される。
  v1 = k1A   (5-1a)
  v-1 = k-1P   (5-1b)
ここで、Aを増加または減少させる作用が働くと、逆にPは減少または増加する。いま、Aを減少させる作用が働き、その速度 v とすると、次式(5-1c)が成り立つ。この速度 v は v1 と v-1 の差であるので式(5-1d)となり、これに式(5-1a)と式(5-1b)を代入すると、式(5-1e)が得られる。
  v = -dA/dt = dP/dt   (5-1c)
  = v1 – v-1   (5-1d)
  = k1A – k-1P   (5-1e)
ある時刻を t = 0とし、そのときのAおよびPの濃度をAoおよびPoとする。反応時間 tにおけるAの反応量 xとすると、次式が得られる。
  A = Ao – x   (5-1f)
  P = Po + x   (5-1g)
式(5-1f)より、dA/dt = dx/dt となり、dx/dt = v であるので、
式(5-1f)と式(5-1g)を式(5-1e)に代入して、次式が得られる。
  dx/dt = k1(Ao -x) – k-1(Po + x)
  = -(k1 + k-1) x + k1Ao – k-1Po   (5-1h)
微分方程式(5-1h)を変数分離・積分すると、次式が得られる(詳細は下記に示す)。
  x = (k1Ao – k-1Po)/(k1 + k-1)×{1 – exp[-(k1 + k-1)t]}   (5-1i)
よって、式(5-1f)および(5-1g)の関係より、次式が得られる。

 
  A = k-1/(k1 + k-1)×(Ao + Po) + (k1Ao – k-1Po)/(k1 + k-1)× exp[-(k1 + k-1)t]   (5-1j)
   = 1/(k1/k-1 + 1)×(Ao + Po) + (k1/k-1×Ao – Po)/(k1/k-1 + 1)× exp[-(k1/k-1 + 1)t]   (5-1j’)
   → k-1/(k1 + k-1)×(Ao + Po) = Aeq (t → ∞)   (5-1j∞)

  P = k1/(k1 + k-1)×(Ao + Po) – (k1Ao – k-1Po)/(k1 + k-1)× exp[-(k1 + k-1)t]  (5-1k)
   = 1/(1 + k-1/k1)×(Ao + Po) – (Ao – k-1/k1×Po)/(1 + k-1/k1)× exp[-(1 + k-1/k1)t]  (5-1k’)
   → k1/(k1 + k-1)×(Ao + Po) = Peq  (t →∞ )   (5-1k∞)
<説明>k1/(k1 + k-1) → 1/(1 + k-1/k1)のように表現するのは、計算プログラムを作成するとき、左では3個の入力データ、右では1個の入力データとなるので、多数のt値に対してAやPの値を求めるとき(特に実験データをシミュレートするとき)、プログラム作成が簡略化されるとともに、使用するPCの負荷を軽減できる。具体的に計算をしない場合には、式が煩雑となるので不要である。

図5-1に可逆反応における分子AおよびPの経時変化を示す。この図には、時間経過とともに、一定値AeqおよびPeqに近づいている。これはAとPが化学平衡に近づいていることを示している。t → ∞のときの式(5-1j∞)と式(5-1k∞)より、次式(5-1m)が得られ、平衡定数 Kは反応式(5-1)の正・逆方向の速度定数の比k1/k-1で示されることが分かる。また、平衡状態ではk1Aeq = k-1Peqであるので、式(5-1a)と式(5-1a)の関係から v1 = v-1 となり、反応式(5-1)の正・逆の速度が等しくなっていることを意味している。
  Peq/Aeq = k1/k-1 = K   (5-1m)

reversible-reaction
図5-1 可逆反応の反応分子および生成分子の濃度の経時変化
設定値:Ao/(Ao + Po) = 0.9, Po/(Ao + Po) = 0.1, k1/k-1 = 2, τ = 1/(k1 + k-1); t:寿命τを単位とする相対時間

図5-1の経時パターンは、2Aoおよび2Poの濃度の溶液(または圧力の気体)、それぞれ同量を瞬時に混合したとき、平衡に達するまでの経時変化を示すものである。また、Ko = Po/Aoの平衡状態にある溶液または気体の温度を急激に変化させたときなど、その化学条件を変えたときに、異なる条件下での平衡状態へ達するまでの経時変化を示す。
平衡状態に達するまでに要する時間は、正逆の速度定数k1およびk-1に依存する。ここで、式(5-1i)を変形した式(5-1n)で示す反応量比 x/xeq(平衡に達したときの反応量 xeqに対する時間tの反応量 x の比率) の経時変化を寿命τ[=1/(k1 + k-1)]を単位とする相対時間で示すと図5-2のようになる。
反応時間とともに、x/xeq 値は平衡値 xeqへ近づいていく。反応時間τで63% (= 1-1/e)、2τで86%、3τで0.95%、4τで98%にそれぞれx値が平衡値xeqに達する。反応時間が3τ~4τに経過した時点で、ぼほ平衡状態に達していると見なすことができる。
  x/xeq = 1 – exp[-(k1 + k-1)t]   (5-1n)
  ただし、xeq = (k1Ao – k-1Po)/(k1 + k-1)

reversible-reaction-lifetime
図5-2 可逆反応における反応量 xと寿命τを単位とする経過時間 tの関係

図5-2に示すような現象事例を多数挙げることができる。例えば、理想的な可逆電極反応系(Ox + e- ⇄ Red)において、電流 i = 0となる電極電位E1(= Eo – (RT/F)ln[Red]1/[Ox]1) に対して、直流外部電源により電極電位E2(= Eo – (RT/F) ln[Red]2/[Ox]2)に設定すると、電流iが流れ始め、時間経過とともに図5-2の点線に沿って電流が減少し、t = τで i/i0 = 0.37 (i0:初期電流)となる(ただし、この系は電極界面の電子移動が律速で、完全混合によりOxとRedの濃度勾配はなく、無関係電解質の濃度も十分に高く電位勾配はないものとする)。電流の時間変化を測定し、そのτ値から電極反応系の速度(k1 + k2 = 1/τ)を求めることができる。電解による水浄化装置の設計因子(設定電位、電極面積、処理速度など)の決定に必要となる。酸化還元反応の速度については、他章で説明する。また、CR回路の入力端子に直流電源を接続し、時間間隔(5τ以上)で電源をON-OFFすると、出力端子の電圧は図5-2に示す実線と点線に沿った変動を交互に繰り返す。
地球環境の自然的または人為的な急激な変化に対して、その変化に対応できる生態システムや社会システムへの構築は個々の種や社会の寿命(対応速度の逆数)に依存し、図5-2に示すような経過をたどることとなろう。

<可逆反応の微分方程式の解法>
(後日、掲載
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6.酵素反応

酵素反応は、生体内の化学反応において触媒として働くタンパク質である。酵素の特徴は、特定分子(酵素反応では基質という)に作用することである。酵素反応に対しては様々な反応機構が提案されているが、その中で最も基本的なものは、以下に説明するMichaelis–Menten機構である。基質Sが分子Pを生成する総括反応は式(6-1)で示されるが、この反応には式(6-1a)示および式(6-1b)に示す酵素Eが関与する2つの過程からなる反応である。
  S → P   (6-1)
    k1/k-1
  S + E ⇄ ES   (6-1a)
    k2
  ES → P + E   (6-1b)
式(6-1a)で示す反応は、「5.可逆反応」で述べた反応である。生成したESを酵素-基質複合体という(以下、複合体と略称する)。この正反応で生成した複合体ESの一部は逆反応により、基質Sと酵素Eへ戻る。一方で残りの複合体は生成分子Pと酵素Eへと変化し、Eは再び酵素として作用することとなる。
上記の複合体ESが基質Sと生成物Pへ変化する両反応は、「3.併発反応」で述べた反応である。総括反応(6-1)において、Eは再生を繰返し減少することなく、酵素Eと複合体ESの間を行き来するだけである。したがって、次式が成り立つ。
  E + ES = Eo   (6-1c)
ここで、複合体に対して定常状態近似を適用すると、次式の関係が得られる(この近似については、下記の「9.定常状態近似」で説明する)。ESSSは定常状態におけるESの濃度である。
  dES/dt = k1S・E – k-1ESSS– k2ESSS = 0   (6-1d)
上式に式(6-1c)を代入すると、
  k1S(Eo – ESSS) – k-1 ESSS– k2ESSS = 0   (6-1e)
が得られ、ESSSについて整理すると、次式が得られる。
  ESss = k1Eo・S/(k1S + k-1 + k2)   (6-1f)
総括反応(6-1)の全速度 vは、Pの生成速度で表すことができるので、反応(6-1b)より速度式(6-1g)が得られ、これに式(6-1f)を代入して速度 vは式(6-1h)で表される。
  v = dP/dt = k2ESSS   (6-1g)
   = k1k2Eo・S/(k1S + k-1 + k2)
   = k2Eo・S/[(k-1 + k)/k1 + S]   (6-1h)
上式の分母部分を式(6-1j)に示すMichaelis定数Kmで表示すると、次式が得られる。
  v = k2Eo・S/(Km + S)   (6-1i)
  Km = (k-1 + k2)/k1   (6-1j)
図6-1にSと v の関係を示す。基質濃度Sが高くなり、Km ≪ S になると、酵素反応速度 v → vmax = k2Eoに接近する。また、vmax/2 = Km となるので、このときのS値からKm [mol/L]を決定できる。

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図6-1 酵素反応における基質濃度Sと反応速度 v の関係
vmax = k2Eo、 Eo:酵素複合体を含む酵素の濃度

(以下、執筆中
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掲載日:2019年11月07日
更新日:2019年11月16日

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