環境技術学会・連携サイト

MENU

嫌気性生物処理

1.はじめに

嫌気性処理技術は、下水汚泥、し尿および高濃度有機性産業排水の安定化のため100数十年前から用いられてきた。好気性処理に比べ嫌気性処理法の長所は、①エアレーションを必要としないため省エネルギーであること、②メタンや窒素・リンなど有用物質の回収が期待できること、③汚泥の発生量が少ないことなどが挙げられる。しかし、処理水の水質が公共水域への放流基準を満たさず、追加の処理が必要となる。
ところで、嫌気性微生物は増殖速度が遅く、反応槽内での長い汚泥滞留時間を要する。また、これらの微生物は凝集・沈降性に劣り、水理学的滞留時間と汚泥滞留時間をそれぞれ独立に制御することが困難なことが課題であった。汚泥滞留時間を水理学的滞留時間に関係なく制御できれば、反応槽内に微生物を高濃度に保ち、有機物の容積負荷を高く(コンパクト化)して処理時間を短縮すること(高速化)が可能となる。1900年代後半に、担体の内表面に微生物を保持する方法(担体固定法:anaerobic filters (AF)、rotating bed (RB) anaerobic reactor、expanded bed (EB) anaerobic reactor、fluidized bed (FB) anaerobic reactorなど)および微生物群が自己的に凝集・集塊する沈降性に優れた粒状の形成物を利用する方法(グラニュール法:upflow anaerobic sludge blanket (UASB) reactor、expanded granular sludge bed (EGSB) anaerobic reactor、anaerobic reactor with internal circulation(IC)など)が次々と開発され、反応槽内に微生物を高濃度に固定・保持することが可能となるとともに、装置構造や運転操作法も工夫・改善がなされ、様々な生活・産業排水へ適用されることとなった [Chernicharo, 2007; Lier, 2008]。また、(亜)熱帯地域の国々では下水などの処理施設として、経済的な嫌気性処理技術が活用され、地域の衛生・環境の改善に貢献している [Mara, 2003]。

2.嫌気性生物処理の基本

2.1 嫌気性生物処理の特徴

好気性生物処理に対し、嫌気性生物処理の特徴を要約すると次のようになる。

(1)長所

①菌体合成率が低く、余剰汚泥の発生量が好気性細菌に比べ1/3~1/10程度と少ない。
②酸素の供給が不要で、好気性処理に比べ動力費消費量が1/3~1/2に削減できる。
③発生するメタンガスをエネルギーとして活用できる。
④病原性細菌や寄生虫卵が死滅する(高速嫌気性生物法での単独処理を除く)。

(2)短所

①嫌気性菌は増殖速度が遅く、長い汚泥滞留時間が必要である。
②メタン発生は、温度・pHなどの環境要因に敏感である。
③良質な水質が得られず、公共水域への放流には後段の処理が必要となる。
④低い有機物濃度の排水に対しては、効率的な処理が難しい。

aerobic vs anaerobic COD balance
図1 好気・嫌気における物質変換 [Chernicharo, 2007]

2.2 有機物の嫌気分解

嫌気性分解では、通性嫌気性菌(好気・嫌気の条件に合わせて生存)および偏性嫌気性菌(嫌気条件でのみ生存)が共生・関与する逐次および平行する複雑な反応プロセスから構成され、排水・廃棄物中の有機物をメタンや二酸化炭素などの無機物へ変換する。この分解経路は、①高分子状有機物の加水分解と可溶化、②低分子化と酸生成(発酵)、③メタン生成の3つの過程に大別される。

(1)加水分解と可溶化

高分子状物質(多くは固形・懸濁状であるタンパク質・炭水化物・脂質)は、微生物の細胞外分泌酵素による加水分解反応により、それぞれ、可溶性のアミノ酸・糖類・高級脂肪酸となり、細胞壁・細胞膜を通過して細胞内へ吸収可能な物質へ変換される。

(2)低分子化と酸生成(発酵)

微生物の細胞内に取り込まれたアミノ酸・糖類・高級脂肪酸は代謝分解され、低級脂肪酸・アルコールなどを経て、酢酸、水素、二酸化炭素、アンモニア、硫化水素へ変換される。

(3)酢酸、水素と二酸化炭素からメタンの生成

酢酸からメタンガスと二酸化炭素および水素・二酸化炭素からメタンガスが生成する。
一般に、有機物の嫌気性分解では(1)の加水分解反応は遅く、固形・懸濁物質や脂質を含む排水では、この過程が律速段階となる。
また、酸性生成速度はメタン生成速度よりも大きいことから、易分解性有機物が急激にかつ大量に投入されると酸生成の促進によって有機酸が蓄積するので、嫌気性処理ではメタン生成速度との均衡がとれるよう有機物負荷を維持することが重要である。さらに、メタン生成菌(偏性嫌気性菌)は環境条件や阻害物質の影響を受けやすいので、メタン発酵を円滑にするためには、ガス生成プロセスの管理に留意することが重要である。


anaerobic_digestion_mechanism
図2 有機性高分子物質の嫌気分解 [Gujer & Zehnder, 1983]

2.3 反応条件

(1)温度

嫌気性処理において、反応槽の温度は極めて重要な操作因子である。嫌気性細菌には、最適な温度条件が二つあり、30~35℃の中温菌と50~60℃の高温菌がある。高温菌は中温菌よりも25~50%程度速い。温度がおよそ20℃以下では、メタン発酵速度が急速に低下する。

(2)pH

至適pHは、酸生成菌は5~6、メタン生成菌は6.8~7.2である。メタン生成菌はpH依存性が極めて高く、pH6以下及びpH8以上では急速に活性が低下する。

(3)栄養塩類

嫌気性菌は好気性菌に比べて、増殖収率が低いので、栄養塩類の必要量も少ないが、不足している場合には、添加する。COD:N:P比として高負荷運転(0.8kg~1.2kgCOD/kgVSS/d)では350:7:1、低負荷運転(0.5kgCOD/kgVSS/d以下)では1000:7:1とされる。適正なN/P比では約7、C/N比は最低25とされる。

(4)阻害物質

メタン生成菌にとって阻害物質の主なものはアンモニアと低級有機酸である。両者とも遊離態(電離していない非イオン体)が反応を阻害する。
低級脂肪酸は嫌気性処理における生成物であり酢酸・プロピオン酸・酪酸などである。酢酸として2,000mg/L以上蓄積すると発酵が阻害される。運転指標として有機酸濃度/アルカリ度を0.3~0.4以下に保つ必要があり、0.8以上では機能障害を起こす。
アンモニアは高pHまたは高温域で遊離しやすいことから、これらの環境でアンモニア阻害を受けやすい。通常の運転条件下では、NH3-N濃度は中温菌では3,500mg/L以上、高温菌では2,000mg/L以上でメタン生成に阻害が起こる。

(5)硫黄・窒素酸化物

排水中に硝酸(NO3-)、亜硝酸(NO2-)、硫酸(SO42-)、亜硫酸(SO32-)などの無機酸化物塩が多量に存在すると、有機物への電子受容体となり、硫黄還元菌ら窒素還元菌が有機物を酸化して硫化水素(H2S)やアンモニア(NH3)を生成し、メタンガスの発生量が減少するとともに排水中のCOD除去率も減少する。
硫化水素はメタン菌への阻害物質になるとともに、悪臭の発生や装置材料の腐食の原因となる。

2.4 生物化学と物質収支

(1)生物化学とCOD

二クロム酸カリウムによる酸素要求量(CODCr)の測定ではほぼ完全に有機物を分解できるので、嫌気性生物反応においては、有機物の指標としてCODCr(本ページではCODと略称する)が用いられる。有機物CnHaObのCODは、完全に化学酸化されるものとすると、次の反応式から求めることができる。

CnHaOb + (1/4)(4n+1-2b)O2→nCO2 + (a/2)H2O

1molの有機物は、(1/4)(4n+1-2b)O2molesまたは8(4n+a-2b)gのO2に対応する。したがって、有機物の理論的CODTは、次式で示される。

CODT = 8(4n+a-2b)/(12n+a+16b)[gCOD/gCnHaOb]

同様にして、タンパク質など、窒素を含む有機物CnHaObNdについては、つぎのようになる。

CnHaObNd + (n+a/4-b/2-3d/4)O2 → nCO2 + (a/2-3d/2)H2O + dNH3
CODT = 8(4n+a-2b-3d)/(12n+a+16b+14d)[gCOD/gCnHaObNd]

(2)生物化学とバイオガス発生

有機物CnHaObNdが完全に生物分解性で、嫌気性生物によりすべてCH4、CO2およびNH3に変換されるものとし、汚泥生成を考慮しないとき、理論的なバイオガスVTおよびメタンガスの発生量VCH4は、次の反応式から推定することができる。

CnHaObNd + (n-a/4-b/2+3d/4)H2O →
(n/2+a/8-b/4-3d/8)CH4 + (n/2-a/8+b/4+3d/8)CO2+dNH3
VT ={(n/2+a/8-b/4-3d/8) + (n/2-a/8+b/4+3d/8)}RT/p[L/gCnHaObNd]
VCH4 = (n/2+a/8-b/4-3d/8)/(12n+a+16b+14d)RT/p[L/gCnHaObNd]

ここで、R = 気体定数[0.08206atm・L/mole/K、T = 絶対温度[K (= 273+t)、t=反応槽内の操作温度℃]、p = 大気圧[atm]
具体的なバイオガス発生量として、表1に各基質について、表2に各固形廃棄物についての測定値の事例を示す。
表1 基質1g当りのガス発生量 [片岡, 2010]
gas per 1g_substrate
表2 固形性有機廃棄物のメタン発酵でのガス発生量[国土交通省、2003]
gas from wastes

(3)CODによる物質収支

1)分解プロセスでのCOD収支
嫌気性生物分解プロセスに流入するCOD収支を概略すると、次のようになる。①流入水中の汚濁物質CODinfは分解性成分CODbdと非分解性成分CODrecに分けられる。②CODbdは微生物体内に取り込まれ、微生物の細胞合成分CODcelと細胞外へ放出される代謝産物成分CODint(主として低級脂肪酸)となる。③CODintの一部はメタン生成分CODCH4となり、④CODcelとCODCH4が流入水から除去される成分CODremとなり、HRT内でメタンに変換されないCODintはCODrecとともに系外へ放流される成分CODunとなる。

COD_balance
図3 嫌気性分解プロセスにおけるCOD収支 [Chernicharo, 2007]

2)流入水のCOD成分
一般的に生活・産業に伴う排水中の汚濁物質には固形成分が多く含まれており、加えて生物分解の過程で微生物の細胞合成が行われる。流入水中CODinfは、水質分析において一般的に3つのタイプに分類される [Chernicharo, 2007]。
①ろ過性COD(CODfilt)は、排水を孔径(1.5μm)のろ紙を通過したろ液中のCOD成分である。または、遠心分離(5,000rpmで5分間)したときの上澄み液中のCOD成分である。CODfilには、溶解成分CODsolとコロイド状成分CODcolを含み、後者はろ紙では分離できない。
②粒子状COD(CODpart)は粒子状(懸濁状)有機物質のCODでろ紙上に残留する成分で、流入CODinfからCODfilを除いた成分に対応する。
*)日本での浮遊物質(懸濁物質)SS [昭和46年環境庁告示第59号付表9]は、網目2mmのふるいを通過した試料を孔径1μmのガラス繊維ろ紙でろ過したときに、ろ紙上に補足される物質で、水洗後、105~110℃で2時間加熱乾燥し、デシケーター中で放冷後、質量を測定する。また、CODSS(またはCODpart)測定10におけるろ紙の孔径は、実験者・研究者によって異なるので、孔径を明記することに留意する。
3)流入・流出のCOD収支
排水処理の適正な運転・管理において、反応系の物質収支を測定することは極めて重要である [Lier & et al., 2008]。嫌気性生物処理では、前述したように管理指標としてCODが用いられる。図4に示すように、流入水CODinfについて、次の関係式が成立する。

CODinf = CODeff + CODgas + CODsludge

CODsludgeは反応系外に引抜いた余剰汚泥に対応する。流出水CODeffには、1)で述べた難分解性物質、反応中間体や流出汚泥に加えて、溶解したCH4やH2SなどによるCOD成分が含まれている。SO42-やNO3-などの電子受容体が多量に含まれているときには流入した有機性CODは無機性CODに変換され、発生ガス量が減少する。また、流入有機物濃度が低いときには、溶解したCH4やCO2の割合が高くなり、発生ガス量の割合が減少する。

CODinf_balance
図4 嫌気性反応槽におけるCOD収支

(4)微生物群集の解析

有機物の嫌気性分解とメタンガス発生には、多様な微生物が競争・共生的に関わっている。この複雑な生態系と分解機構を明らかにするため、分子生物学的手法が用いられている [原田・他, 2004]。
分子マーカーとして遺伝子が利用され、16S rRNA遺伝子 [Olsen & et al., 1986] は様々な分野で広く用いられている。また、DGGE(denaturing gradient gel electrophoresis)法 [Muyzer & et al., 1993]、T-RELF(terminal-restriction length polymorphisms)法 [Liu & et al., 1997]、FISH(fluorescence in situ hybridization)法 [Delong & et al., 1989; Amann & et al., 1990] などの技術も開発され、微生物の新しい知見が得られるようになった。
メタン発酵は古細菌(Archaea)と細菌(Bacteria)の両ドメインにまたがる多種多様な微生物から構成され、遺伝子解析により既知の微生物と相同性が高いものから、これまで人為的に培養されていないものや難培養性微生物(鎌形、2007)が多数存在することが明らかとなっている。
遺伝子解析に加え、DNAプローブを用いたin situ hybridization法による検出や定量も進められてきた。特に、グラニュール汚泥は球状の生物膜という特異な構造を有しており、薄片断片化し、FISH法と共集点レーザー走査顕微鏡を用いることで、特定の微生物群の空間分布の把握が可能となった [Sekiguchi, 1999]。
微生物検査[大楠,2012]には、①顕微鏡検査(電子顕微鏡を含む)、②培養検査、③抗原検査、④薬剤感受性試験に加えて、⑤遺伝子検査や⑥質量分析検査などがある。特に、質量分析検査は遺伝子ではなく、例えば、MALDI-TOF MS(Matrix Associated Laser Desperption / Ionizing Time of Flight Maa Spectrometry)、資料中のタンパク質成分をイオン化(2002年ノーベル賞を受賞した田中耕一博士が発明)して、その質量の違いにより分析するものである。これらの検査は自動化・機器化(キットを含む)されるとともに、データベースも刻々と蓄積されている。
今後、他分野の研究・技術も活用した汚濁物質を浄化する微生物に関わる様々な知見の蓄積により、排水処理分野の研究・技術開発や設計・操作・管理の更なる進展が期待できる。

3.嫌気性生物処理技術

3.1 従来技術

(1)嫌気性池(anaerobic pond)

安定化池法[Mara、2003]は、その主な除去対象により、①嫌気性菌により有機物を除去する嫌気性池(anaerobic pond)、②藻類の光合成による酸素発生と水表面からの空気中の酸素補給による好気性微生物と底面・底泥中の嫌気性菌による有機物除去する通性池(facultative pond)、および③病原菌を除去する熟成池(mauration pond)の3つに大別される。上記池の単独または組合わせ、あるいは、他法との組合わせによって排水処理が実施されている。同じタイプの安定化池であっても、地域や利用目的によって、設計・運転・管理条件が大きく異なるので留意する必要がある。
通常、上記池①~③の組合せの初段として使われることが多い。嫌気性池は深くて(少なくとも2~3m、2~5mが一般的)大きな貯留池で、嫌気的な微生物分解と沈降分離を目的とする。汚水源の種類、有機物濃度や温度、また、後段処理の有無や処理水の再利用などにより、滞留日数が大きく異なる。生活排水の一次処理では、滞留日数は1~10日で運転される。し尿を含む排水には病原菌が含まれていることが多く、長い滞留日数で運転するか、熟成池などによる除菌が必要となるので、灌漑利用や公共水域へ放流においては、注意が必要である。沈降・蓄積した汚泥の除去が必要で、除去汚泥は農地に散布しても臭気の問題はない。適正な設計と適正な汚水の流入ならば、汚泥の引抜きはそれほど高い頻度ではない(数年に1回程度)が、汚泥が蓄積しすぎると正常な浄化ができない。
池は、地下水汚染防止のため遮水、周辺表漂流水の流入防止のための盛土、事故防止のための安全柵の設置などの対策が必要である。悪臭や昆虫の発生などの問題があり、場所の設定には注意が必要である。

(2)嫌気消化(anaerobic digesters)

下水汚泥やし尿を嫌気性消化すると、脱離液、消化汚泥、消化ガスの3成分に分けることができる。初期に見られた消化槽(腐敗槽、トラビス槽、イムホフ槽:図5a-c)は消化と沈殿を兼ね備えた単槽式であるが、その後、加温、撹拌(消化ガスや機械による撹拌)、2槽式、分離消化汚泥の返送などにより、処理の効率化が行われた。
腐敗槽(spectic tank)は構造が簡単で電力が不要であり、各家庭や下水システムのない小さな集落からの生活排水の一次処理法として、今日においても、世界各地(特に電力供給のない、または、少ない地域)で広く利用されている。

septic tank
図5a 腐敗槽

travis tank
図5b トラビス槽

imhoff tank
図5c イムホフ槽
1)標準消化槽(conventional digester)
密封槽に消化汚泥などの種汚泥を満たし、30~37℃に加温しながら下水汚泥やし尿を反連続的に投入し、20~30日のHRTで処理する。常温消化では60~70日で処理する。
一般的には、消化槽は2段直列に配置し、第1槽は消化ガスの吹き込みにより攪拌し、投入有機物1kg当たり0.4~0.5m3の消化ガスが発生する。第2槽は消化を完全に進めるとともに固液分離を行い、ガス発生量は第1槽の1/20程度となる。汚泥消化における有機物負荷は30℃では1.5kgVS/m3/である。高温消化(50~60℃)では、消化日数が10~15日に短縮できる。

2)高率消化槽(high-rate anaerobic digester)
高率消化は、消化ガス攪拌や機械攪拌により消化槽内の混合液を連続的に攪拌することで、HRTを6~8.7日程度まで短縮でき、有機物負荷を3~5kgVSS/m3/dに高められる。連続攪拌により、(a)槽内温度の均一化、(b)投入気質と消化汚泥の十分な混合、(c)スカム発生の防止、(e)短絡流発生による局部的な高濃度域の防止、などに大きな効果をもつ。
3)嫌気性接触法(anaerobic contact process)
消化流出液を沈殿分離して回収した消化汚泥を流入液と混合して消化槽へ返送する方法で、活性汚泥法を嫌気性処理へ適用した方式である。
これにより消化槽内の菌体濃度を高く保持しHRTを短縮できる。一方、メタン生成菌はフロックを形成せず、消化汚泥は沈降性が悪いので汚泥分離が難しく系外へ流失しやすいことを考慮する必要がある。本法は、好気性処理では高負荷となる高濃度有機性排水に適している。

con digestion
図6a 標準消化槽
high-rate digestion
図6b 高率消化槽
contact digestion
図6c 嫌気性接触法

3.2 微生物保持と高速化技術

汚泥滞留時間を水理学的滞留時間に関係なく制御し、反応槽内に微生物を高濃度に維持し有機物の容積負荷を高くして処理時間を短縮する方法として、担体固定化法とグラニュール法に大別できる。

(1)担体固定法(attached bacterial processes)

嫌気性生物処理では、安定な処理性能の確保と高負荷処理のため、比増殖速度の小さいメタン生成菌を反応槽内に高濃度に保持する必要がある。そのため、微生物固定化方式と呼ばれる高負荷型嫌気性処理法が産業排水分野を中心に実用化された。
1)固定床(fixed bed anaeroic reactor)
密封した反応槽内部にプラスチックや砕石など担体を充填し、その表面に嫌気性菌の生物膜を付着増殖させて排水と接触する方法で処理を行う。
充填材の種類・サイズ・流れ方向(上交流、下降流)などによって様々な方式がある。一方、担体充填によって反応槽の実容積の減少、投入排水中の懸濁物や担体表面での無機物の晶析などによる反応槽の閉塞や発泡などの問題がある。
2)流動床(expanded/fluidised bed reactor)
粒径0.2~1.0mm程度の砂、アンスラサイト、軽量骨材などの粒状付着担体を流動状態に浮遊させ、その表面に嫌気性菌を付着・増殖させる方法で処理を行う。流動床では閉塞の問題がなく、排水との接触効率も高く、低濃度まで基質を分解できる。一方、スケールアップが比較的に難しく、担体流動のための動力費、粒子間の摩擦による生物膜の剥離、担体流出などの課題がある。また、担体を反応槽内に均一に浮遊させるための流動条件の維持が難しい。
anaerobic filter
図7a 嫌気性固定床法
fluidised bed
図7b 嫌気性流動床法

(2)グラニュール法

1)UASB(Upflow Anaerobic Sludge Bed)
凝集・集塊機能を有する粒径0.5~2.0mm程度の沈降性の優れたグラニュール(粒状)を形成した嫌気性菌汚泥を反応槽に保持する方法である。高負荷処理が可能で汚泥層の閉塞も起こらないことから、中・高濃度排水処理法とし普及している。排水は底部から投入され、汚泥層を上昇する過程でグラニュールと接触して有機物が分解される。これを上向流嫌気性汚泥床(UASB:Up-flow Anaerobic Sludge Blanket)法という。
UASB反応層の構造は、反応層底部に原水供給装置、上部に気液固分離装置(GLSS:Gass-Liguid-Solid Separator)を設置している。排水を反応層底部から均一に流入させる。一般的には、流入水の上昇速度は最大5m/h、容積負荷最大15kg/m3/dで運転される。
2)EGSB(Expanded Granular Sludge Bed)
UASB法の高負荷改良型として、膨張汚泥床(EGSB:Expanded Granular Sludge Bed)法がある。流入水を高い上昇速度(5~10m/h)で運転しグラニュール床を膨張させ、流入水とグラニュールの接触効率を改善し、処理効率を増加している。通常のUASB法によりも2~3倍以上の高負荷処理能力(30~40kgCOD/m3/d)を可能にしている。EGSB法では、反応槽の高さ/断面積の比を大きく設定する。流出水の一部を流入水へ返送し反応槽内を循環する方式や安定した固液分離を行うためにGLSSを多段に設置した方式もある。
3)IC(Internal Circulation Reactor)
IC反応槽は、垂直に接続したUASB構造を有する上下2段の反応部から構成される。
反応槽底部から導入された減水中の有機物の大半は下部反応部でバイオガスに変換される。このバイオガスは分離器で収集される。この分離器と上部の反応器の気液分離器はパイプ(上昇パイプ)で接続されており、ガスリフト効果によって混合液も上昇する。気液分離器の底部には下降パイプが下部反応器に接続されており、ガスが系外に排出されるとともに、混合液は下部反応器へ返送される。このようにして、混合液が反応槽内部で自然循環する構造となっている。
下部反応部の処理液は、上部反応部へ導入され残存する分解性有機物がガス化されて、処理液は系外へ排出される。この反応部での混合液の上昇速度は2~10m/hに設定される。
以上のような方法により、UASBよりも高負荷・高速(35~50kgCOD/m3/h、HRT<2.5h)に有機物の嫌気性分解が可能となる。IC反応槽は、懸濁物質を含む高濃度の有機性産業排水へ普及している。
UASB reactor
図8a UASB法
EGSB reactor_1
図8b EGSB法
EGSB reactor_2
図8c 多段式EGSB法
IC-reactor
図8d IC法
4)グラニュール汚泥の特性と運転操作
UASB法では、グラニュール汚泥を槽内に維持し継続的に増殖させることが最重要である。そのためにUASB処理槽内でメタン生成菌が優先的に増殖できる環境を作る必要があり、特に、グラニュール汚泥の骨格を形成し、かっつ酢酸を唯一の基質として増殖するMetanosaeta属のメタン生成菌の増殖が不可欠である。正常なグラニュール汚泥は、糸状性あるいはロッド状のMetanosaeta属のメタン生成菌が絡み合った構造である。一方、Metanosarcina属のメタン生成菌の汚泥の粒径は概ね0.5mm以下と小さく流出しやすくなり、処理水質も悪化することから、このタイプのグラニュール汚泥の異常繁殖は望ましくない。傾向として、高酢酸濃度下でMetanosarcina属メタン生成菌が優先となることが多い(詳しくは、文献[例えば、Lier, 2008; pp.408-409や片岡,2010など]を参照)。
グラニュール汚泥の生成・保持において、原水中の懸濁粒子の挙動に注意する必要がある。SS成分がグラニュール汚泥に付着したり、反応槽内に残留・蓄積すると、処理性能が低下する。また、SS成分を包括する形でグラニュール汚泥が形成されると、これが有機性SSであると、時間経過とともにこのSS成分が徐々に可溶化分解して空隙を生じ、ここにガスが蓄積してグラニュール汚泥の浮上の原因となる。UASBの前段で原水中のSSを除去する対策が必要となる。
UASB反応槽内でメタン生成菌が優先的に増殖できる環境作りのために、酸生成槽をUASB反応槽の前段に設置して、酸生成菌の基質がUASB反応槽内に直接流入しないようにして、酸生成菌の増殖量を制限する方法もある。また、酸性生成槽へUASB処理水を循環することで、酸生成菌の連続的な植種を行うとともに、酸生成槽でのpH低下を防ぎ、低級脂肪酸によるメタン生成菌への阻害を緩和することができる。
indoor-UASB
写真1a 室内でのUASB実験の様子
outdoor-UASB
写真1b 屋外でのUASB実証実験の様子
写真1 都市下水の混合汚泥を亜臨界水で加水分解・低分子化した可溶化液からのUASBによるエネルギー回収
granule_whole-view
写真2a グラニュール全景; ×40
granule_surface-view
写真2b グラニュール表面; ×5,000
granule_inside-view
写真2c グラニュール断面; ×5,000
写真2 上記UASB実験(写真1)で用いた代表的なグラニュール(2-5mm)の電子顕微鏡写真

4.応用分野

嫌気性消化法は、農業廃棄物、動物糞尿、下水汚泥、都市廃棄物などの固形有機性廃棄物の処理に広く利用されている。また、嫌気性消化法は、先進国・開発国を問わず農畜産業や食品・飲料工場など(表3)からの排水処理に活用されている。家庭排水についても、熱帯・亜熱帯地域で嫌気性処理技術、特にUASB型のリアクター、の活用が確実に増加している。
生活・産業の各分野の排水処理の具体的な事例は、別のページで詳しく紹介する。

表3 嫌気性処理の主な産業排水への応用
anaerobic appl_food

ページトップ


<嫌気性処理技術の歴史>

嫌気性生物処理は、酸素のない嫌気性環境下で生育する嫌気性菌の代謝作用により、有機物をメタンガスや炭酸ガスに分解する生物処理法である。
嫌気性処理は、19世紀末から20世紀初頭にヨーロッパで始まり、1950年代には加温や機械式撹拌などの処理方式が開発され、国内でも下水汚泥やし尿処理での汚泥減量化・安定化を目的とした嫌気性消化法が普及した。1980年代になると微生物固定化方式による高負荷型嫌気性処理法が産業排水処理分野を中心に普及した。そして現在、低酸素社会に向けた未利用資源の活用技術として、廃棄物系バイオマス向け嫌気性処理法が大きく脚光を浴びている。[片岡, 2010]

(1)嫌気性処理の始まり

1)ヨーロッパ
14~17世紀のヨーロッパでは、城壁に囲まれた狭い土地に多くの住民が集中し汚泥処理も不潔なまま放置され、流行病にも度々襲われた。1842年イギリスでは、公衆衛生法、河川汚濁防止法が制定され、近代的公衆衛生制度や汚物処理、上下水道などの環境整備が始まった。
1862年フランスの細菌学者Louis Pasteurは、乳酸発酵・アルコール発酵の研究から、酸素存在下で生活する生物を好気性(aerobic)生物、無酸素状態で生活できる生物を嫌気性(anaerobic)生物と呼び、識別するようになった。
嫌気性処理法は、1875年フランスのLouis MourasのAutomatic Scavenger(自動清浄機)が始まりとされる。Louis Mourasは、し尿の固形分が汚水溜めの中で液化・溶解することを見つけ、汚水溜めを密封して、液化分を放流する管を取り付けた。1895年イギリスのDonald Cameronは、嫌気性菌の働きを利用したSeptic Tank(腐敗槽)を開発した。これは、トラップ付きの流入口と出口を備え、両方が下水の水面下に挿入されていることにより、水面上に形成されるスカム槽の破壊を防ぐ浅い槽で、濃縮汚泥は汚泥溜めに受け入れた。1903年イギリスのWilliam Travisが開発したTravis Tankがハンプトン市に建設され、1906年ドイツのKarl Imhoffが開発したImhoff Tankがエムッシャーで稼働した。これらは二階槽と称され、単層で下水と汚泥を沈降分離して汚泥消化(嫌気性消化)をする。これらの嫌気性処理は、家庭下水法として普及し始めたが、1913年ArdernとLockettが開発した活性汚泥法の台頭によって家庭下水での適用は次第に少なくなり、下水汚泥の減量化・安定化を目的とした嫌気性消化法として展開されていった。

2)日本
日本では、仏教の影響などから清潔を旨とする習慣があり、汚物処理もくみ取り式で農家の肥料として、諸外国に比べて個人衛生が優れていた。
ところで余談であるが、本サイト編集者の幼い頃(昭和20年代)、古里では、各畑の脇にし尿の安定化槽があり、熟成して肥料として活用されていた。また、食品廃棄物などは納屋の片隅でコンポスト化して、農地の肥料として使っていた。生活雑排水は沈殿槽(滞留日数:2~3日程度)に流入し、固形分を除いて、上澄み液を敷地の脇を流れる小川に放流していた。小川には小魚(フナ、(バラ)タナゴ、ゴリ、シマドジョウなど)、カワニナ、シジミなどが生息していた。夏には、その小川に多数のホタルが舞って、庭先だけでなく家の中にまで飛んできたことを覚えている。その後、化学肥料の普及と生活水準の向上(雑排水の性状変化)に伴い小川・河川の水質悪化が進行し、このような風景は少しずつ消えていった。
さて本論に戻ると、明治初期のコレラなど伝染病流行で、長與専齋(ながよせんさい、1875年内務省衛生局初代局長)は衛生工事を推進し、公衆衛生思想が普及し始めた。そして、中島鋭治(東京大学教授、東京市技師長)が1901年8月~1802年欧米各都市の上下水道や土木事業を調査し、前述したSeptic Tank(腐敗槽)の技術が日本に伝わった。
そして、1930年10月に池田篤三郎、杉戸清(後の名古屋市長)らにより、名古屋市の掘留・熱田下水処理場で活性汚泥法による下水処理が開始された後、1932年3月名古屋市の天白汚泥処理場で嫌気性汚泥消化の実用運転が始まった。こうして始まった国内の嫌気性処理技術は、下水汚泥処理・し尿処理・産業排水処理などの分野で展開されている。

(2)嫌気性消化技術の発展

1)嫌気性消化技術の進展
下水汚泥やし尿を嫌気性消化することで、脱離液、消化汚泥、消化ガスの3成分に分けることができ、有機物の安定化、固形物の減量化、病原菌や寄生虫卵の死滅による安全化、エネルギー回収を達成できる。
1908年バーミンガムのサントレー処理場で、汚泥の15~20%を嫌気性消化で分解できることが実験で明らかにされ、さらに、嫌気性処理における重要な要素である種付け、アルカリ度、温度、撹拌などが明らかになり、バイオガスを発電に用いることの可能性まで認められるようになった。1930年代初期までにはFairとMoorによって、中温消化(28~33℃)と高温消化(55~60℃)の二つの最適温度領域があることが示され、加温による嫌気性消化の効率化が図られるようになり、今日の嫌気性消化法にいたっている(図6a~c)。
日本では特に、し尿処理の嫌気性消化において1956年以降に急速に普及し、1975年頃まで主流として多数の施設が建設され、全国施設数の65%、処理能力の70%を占めた。し尿処理は、その後、1975年になると生物的脱窒素法の台頭によって、嫌気性消化施設は急速に減少した。

2)嫌気性菌の固定化と高速化

嫌気性生物処理では、安定な処理性能の確保と高負荷処理のため、比増殖速度の小さいメタン生成菌を反応槽内に高濃度に保持する必要がある。そのため、3.2 微生物保持と高速化技術に記載している微生物固定化方式と呼ばれる高負荷型嫌気性処理法が産業排水分野を中心に実用化されている。

<日本におけるCOD>

日本の環境基準等において使用される酸化剤は、測定に長時間を要するBODの代替指標との意味合いから、比較的酸化力が弱く生物分解性有機物の酸化に近い過マンガン酸カリウムによる酸性高温過マンガン酸法(CODMn)が採用されている。
これに対して、有機物全量を推定するものとして、強力な酸化剤である二クロム酸カリウムによるCODCrがある(過去においては、重クロム酸カリウムと呼ばれた)。
日本においてCODMnを採用したことには、生物分解不可能な有機物質は「酸素消費」という環境問題の原因物質でないことから、環境基準をはじめとして環境規制の対象としなかったとの経緯がある。また、典型的な環境問題、公害問題として六価クロム汚染があるなか、この六価クロム(二クロム酸カリウムはその一つ)を使用する測定方法を採用しにくかったこともCODMn採用の消極的理由とされる。このように、様々な解釈や評価のあるCODMnであるが、特にCODMnと長期間BOD(例えばBOD20)などとの間には、その水中の物質、物質構成によってはその測定値に相当の開きがあることもあり、その代替指標性について疑問が呈せられる場合もある。
(以上の記載は、「https://ja.wikipedia.org/wiki/化学的酸素要求量」から抜粋)

ページトップ


参考文献

大楠 清文, 2012: 臨床微生物検査の今後の展望-三大技術革新と患者診療への貢献-, Animus, No.73, pp.14-21.
片岡 直明, 2010: 嫌気性生物処理技術の特徴と発展の流れ,エバラ時報 No.229, pp.27-38.
鎌形 洋一, 2007: 難培養微生物とは何か?, Journal of Environmental Biotechnology, Vol.7, No.2, pp.69-73.
国土交通省, 2003: バイオソリッド利活用基本計画策定マニュアル(案)平成15年8月.
原田 秀樹・大橋 晶良・井町 寛之, 2004: 超高速メタン発酵バイオリアクターの開発と汚泥菌叢の分子微生物生態解析、環境バイオテクノロジー学会誌, Vol.4, No.1, pp.19-27.
Amann, R.I, B.J. Binder, R.J. Olson, S.W. Chisholm, R. Devereux, and D.A. Stahl, 1990: Combination of 16S rRNA-targeted oligonucleotide probes with flow cytometry for analyzing mixed microbial populations, Appl. Environ. Microbiol., Vol.56, pp.1919-1925.
Chernicharo, C.A. de L., 2007: Biological Wastewater Treatment Series Vol.4 Anaerobic Reactors, 188 pages, IWA Publishing.
Delong, E.F., K.Y. Wu, B.B. Prezelin, and R.V.M. Jovine, 1989: Phylogenetic strains: Ribosomal RNA-based probes for identification of single cells, Science, Vol.243, pp.1360-1363.
Gujer, W., and Zehnder, 1983: Conversion processes in anaerobic digestion, Wat.Sci.Techn.,Vol.15,No.8/9, pp.127-167.
Lier, J.B.van, N. Mahmoud, and G. Zeeman, 2008: Biological Wastewater Treatment: Principles Modelling and Design, Chap.16, Anaerobic Wastewater Treatment, pp.402-442, IWA Publishing.
Liu, W.T., T.L. Marsh, H. Cheng, and L.J. Forney, 1997: Characterization of microbial diversity by determining by terminal restriction length polymorphisms of genes encoding 16S rRNA, Appl. Environ. Microbiol., Vol.63, pp.4516-4522.
Mara, D., 2003: Domestic Wastewater Treatment in Developing Countries, 310 pages, Earthscan.
Muyzer, G., E.C. de Waal, and A.G. Uitterlinden, 1993: Profiling of complex microbial populations by denatured gradient gel electrophoresis analysis of polymerase chain reaction-amplified genes coding for 16S rRNA, Appl. Environ. Microbiol., Vol.59, pp.695-700.
Olsen, G.J., S.J. Giovannoni, and N.R. Pace, 1986: Microbiology ecology and evolution: a ribosomal RNA approach, Ann. Rev. Microbiol, Vol.40, pp.337-365.
Sekiguchi, Y., Y. Kamagata, K. Nakamura, A. Ohashi, and H. Harada, 1999: Fluorescence in situ hybridization using 16S rRNA-targeted oligonucleotides reveals localization of methanogens and selected uncultured bacteria in mesophilic and thermophilic sludge granules, App. Environ. Microbiol., Vol.65, pp.1280-1288.

ページトップ


掲載日:2017/05/06
更新日:2017/05/14

PAGETOP
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.