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電気泳動法

目次

  1.はじめに
  2.電気泳動法の分類
  3.代表的な電気泳動法
   3.1 アガロースゲル電気泳動法
   3.2 アクリロアミドゲル電気泳動法
  4.キャピラリー電気泳動法
  5.マイクロ/ナノ電気移動法
   参考文献
(以下、掲載準備中

1.初めに

1.1 電気泳動法の概略

電気泳動(electrophoresis、EP)とは、「溶液中の荷電物質が電場のもとで移動する現象」をいう。
ここで言う荷電物質は、緩衝液(バッファー、buffer)成分を除くペプチド、タンパク質、核酸(DNA、RNA)、糖、金属など、水溶液中で正(+)または負(-)の荷電を持つ物のことで、いわゆる電気泳動の対象となる物質である。ただし、水溶液中では試料が拡散してしまうため分離する支持体として膜(membrane)やゲル(gel)を用い、これらの支持体中を荷電物質が移動していく現象を利用する。支持体中の荷電物質は、直流電場下で、その性質(形や荷電状態や分子量等)に応じて物質電荷と反対電極へ向かって移動する。その際の移動速度が物質によって異なるので、試料の各物質成分が分離できる。
支持体でよく利用されるアガロースゲル(agarose gel, AG)またはポリアクリルアミドゲル(polyacrylamide gel, PAG)は網目状立体構造をもち、物質に対し分子ふるいの役割をはたす。小さな物質は速く、大きな物質は遅く移動し、分子量に応じた分離が可能となる。この時、移動距離とタンパク質の分子量[Da]/核酸のサイズ[bp]はその対数値にほぼ反比例するので、電気泳動を用いて分子量/サイズの決定も可能となる。
また、分子ふるいではなくて、荷電状態や形状に応じた分離方法もある。これらの様々な要因をいろいろ組み合わせて試料中の各物質成分を分離することができる。
電気泳動法は上記の分離原理を利用して分子量決定をはじめ等電点や純度決定、各成分の比較・定量・精製確認などに利用され、核酸やタンパク質の主たる分離・分析法となっている。
事例として、図1に10kbpの環状2重鎖DNAプラスミド(合成)を、制限酵素ECoRI(E、Escherichia coli)と制限酵素BamHI(B、Bacillus amyloliquefaciens H)を用いて、それぞれ、および、双方を添加して切断したDNA断片のゲル電気泳動のバンドパターンを示す。酵素Eでは4kbと6kbの2断片、酵素Bでは3kb、7kbの2断片が展開されている。EとBの双方の酵素を添加した場合には、1kb、2kb、3kb、4kbの4断片が生じることが理解できる。
本ページでは核酸の分離・検出を中心に、電気泳動法の原理および各手法の装置、試薬や操作について、説明する。
注)用語については簡略化のために日本語、英語またはローマ字略号で表記しているが、初心者が混乱しないように重複して記載している。

electrophoresis-band-pattern
1-1 DNAプラスミドの制限酵素断片の電気泳動のバンドパターン

1.2 電気泳動法実験の動画

電気泳動法の全体像を把握するため、高校生の実習教材の動画を紹介する。


動画1 λファージDNAの制限酵素断片のAG-EPによる測定
紫野高校非常勤講師・矢嶋正博:https://www.youtube.com/watch?v=NHo8yo51Mek
注)ウエル(well):井戸・穴という意味で、ゲル平板末端のウエルに試料を注入する。コウム(comb):櫛という意味で、ゲル平板末端に差し込んで、ウエルをつくる。

1.3 電気泳動試薬

1) TAEバッファー: 2mol/L Tris、1mol/L 酢酸、50mmol/L EDTAの混合液(pH 8.3)
トリス(tris(hydroxyethyl)aminomethane、Tis) 242g、酢酸 57.1mL、EDTA・2Na・2H2O 18.6gを1Lメスフラスコに入れて純粋でメスアップ、室温保存。
この原液を50倍に希釈して、核酸のAG-EP緩衝液に用いる。TAE緩衝液は低イオン強度(低電界強度、1-2V/cm)なので、大きなDNA(12-15kbp)を分離するのに適している。TAE緩衝液に溶かされたAGは大きい孔サイズと低い電界強度を有しており、大きなDNAのバンドがスメア(band smear:バンドがぼやけること)になりにくい。緩衝能力が弱いので、長時間の通電にはTBE緩衝液を用いる。
2) TBEバッファー: 500mmol/L Tris、500mmol/L ホウ酸、20mml/L EDTAの混合液(pH 8.3)
トリス 60.55g、ホウ酸 30.9g、EDTA・2Na・2H2O 4.65gを1Lメスフラスコに入れて純粋でメスアップ、オートクレーブ/フィルターで滅菌、室温保存。
この原液を10倍に希釈して、DNA分離におけるPAG作製やPAG-EP緩衝液に用いる。小さなDNA(<1,000bp)の分離に適している。高イオン強度(高電界強度)および高いpH緩衝能を有している。
3) DNAバンドの染色液
核酸染色においてEtBr(ethidium bromide)は、広く使用されている染色試薬であり、核酸染色のスタンダード試薬として位置付けられている。一方、EtBrは変異原性が指摘されており、取り扱いには注意が必要である。近年では、安全性の高い新たな核酸染色試薬も開発・市販されている。

tris-base
図1-2 トリス(Tris(hydroxyethyl)aminomethane)。

平衡反応は-NH3+ ⇄ -NH2 + H+、pKa = 8.2であり、(1/2)mol比の醋酸によって中和され、TBE緩衝液中では[-NH3+]≒[-NH2]となっている。


boric-acd
図1-3 ホウ酸(boric acid)

平衡式はB(OH)3 + H2O ⇄ [B(OH)4] + H+ 、pKa = 9.2である。

edta
図1-4 EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)。

EDTAは2価、3価、4価の金属イオンと安定なキレート錯体を形成する。DNAを分解する酵素はDNaseと呼ばれ、その最適pHが7近傍にあり、Mg2+によって分解活性が促進される。原試料由来のDNaseやヒトの唾液・涙・汗・尿など由来のDNaseが混入すると、検体中DNAが分解される。EDTAを添加するのは、Mg2+と安定な錯体を形成させ、DNaseによるDNA分解を阻害するためである。

etbr
図1-5 EtBr(ethidium bromide)

核酸に結合して強い蛍光を発するので、特に分子生物学実験における核酸の検出用に使われている。通常はPCR産物や制限酵素処理断片のような二本鎖DNAが検出対象であるが、一本鎖RNAも検出される。これは一本鎖RNAは高次構造をとって分子内で塩基対合を作っており、ここにインターカレートされるからである。
AG-EPなどの電気泳動を行い、ゲルに紫外線を照射して蛍光を検出する。紫外線は目や肌に有害であるため、紫外線をカットするフィルター越しに観察するか、カメラの付いた撮影装置の中で紫外線を照射する。インターカレートされる臭化エチジウムの量はDNA分子の大きさにだいたい比例するので、蛍光の強さでおよそのDNA量を見積もることができる。

etbr-straining-of-DNA-on-gel-with-age
図1-5 AG-EP分離したゲル上のDNAバンドのEtBrによる染色・検出写真
Mnolf: Photo taken in Innsbruck, Austria; https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1131449

2.電気泳動法の分類

電気泳動法(electrophoresis、EP)には、検査物質を展開(分離)する支持担体の形状が平板状のものをゾーン(zone)/スラブ(slab:平板)-EP、細管(キャピラリー、capillary)あるいはその細管内に支持担体を充填して分離するものをキャピタリーEPという。支持担体の種別によって、個々の泳動法の名称がある。支持担体としてゲル状物質が一般的に用いられる。

表1 電気泳動法の分類と原理
elecropholesis-classification

3.代表的なゾーン電気泳動法

3.1 アガロースゲル電気泳動(AG-EP)法

AG-EP(agarose gel electrophoresis)の多くは、ゲルをバッファー中に水平な状態で静置して電気泳動する方式をとり、サブマリン型ともいわれる。
DNAやRNAはバッファーなどに溶解すると、リン酸残基によってマイナスに荷電する。これらの核酸溶液をゲルローディングバッファー(ローディングダイともいう)と混和してAGの中に添加する。
また、電気泳動後に核酸サイズの確認を行うための分子量マーカーはサンプルに応じたマーカーを選別してゲル内に必ず添加する。
通電すると。バッファー中でゲル内のDNAは陽極側に移動する。ゲルの分子ふるい効果により、長いDNAは網目構造内をゆっくりと動くのに対し 短いDNAはより速く動くことから、核酸のサイズに応じた移動度を示す。一般に核酸を分離するために使用されるアガロースの濃度は、0.5~5%であり、濃度が高いほど小さい断片を分離する(表3.1)。電気泳動およびアガロースゲルの作製時に使用するバッファーはTAEバッファーまたはTBEバッファーが用いられる。
電気泳動後のゲルはEtBr(ethidium bromide)などの蛍光試薬などで染色し検出することで核酸の電気泳動パターンが得られる。このパターンから分子量の推定および確認、個体識別のための遺伝子型の情報を得ることが可能となる。
また、目的とするDNAの検出法としてサザンブロット法がある。サザンブロット法はDNA試料をAG-EPで分離した後、分離されたDNA変性させる。このDNAをニトロセルロース膜に転写した後、膜上の特定配列をもつDNAを、これと相補的な塩基配列をもつDNA標識化したもの(プローブ)との塩基対の形成(八イブリダイゼーション)を利用して検出する。
注)ゲルローディングバッファー:泳動かどれほど進行しているかを目で確認するだけでなく、核酸がゲルに入り込む前に浮いてしまうのを防ぐ役割がある。

解説-AG濃度と分離DNAサイズ

一般的に、小さなDNA断片の分離には、高濃度のゲルが適している。濃度の低いゲルは壊れやすくて扱い難く、一方、濃度の高いゲルは濁っていて可視化を妨害することがあることに注意すること。

表3.1 AG濃度[%]とDNA断片サイズ[bp]の分離範囲
ag-gel-concentration _DNA-size
ゲル濃度(w/v、g/mL):AG重量[g]/buffer[mL] × 100[%]

解説-AG-EP装置

アガロースゲル(AG)はポリアクリルアミドゲル(PAG)よりも大きな網目構造をとるため、比較的長い核酸断片(およそ50bp~20kbp)の分離に使用される。AGはすべりやすく、PAGのような垂直型の方式には適していない。ゲルを水平にしてバッファー内に沈めるサブマリン式で泳動することが一般的である。
水平型のものは、ゲルの厚みを厚くでき、投入できるサンプル量を増やせるが、分離能に劣る。DNAは負に荷電した分子なので、電場をかけると正極の方に移動する。
アガロースゲルの厚さは3~4mmが適している。5mmよりも厚いゲルを使用すると、バンドがぼやけたり、染色のバックグラウンドが高くなる原因となる。同様に、泳動バッファーは、水面の高さがゲルの3~5mm上になるくらいの量を使用する。バッファーがあまりにも多いと、DNAの移動が遅くなったり、バンドが歪む原因となる。
印加電圧(+極と-極との距離[cm]に対する)は、4~10V/cmとする。電圧が低すぎると移動度が低下し、DNAの拡散によってバンドが広がってしまう。電圧が高すぎると、ゲルの過熱によりバンドの解像度が低下する恐れがある。特に、長時間による電気泳動で、バッファーの温度が大きく上昇する場合には、外部冷却器(循環ポンプ、冷却器、温度センサより構成)を電気泳動装置に接続して、バッファーを循環して一定温度に保つ。

horizontal-agarose-gel-electrophoresis-device
写真1 AG-EP装置(水平型)の事例
https://anatech.co.jp/upload_files/report/201810301641085108QKcFO.pdf

解説-アガロースゲル(AG)の作成と電気泳動

AG(寒天)は、アガロース粉末にTAE/TBEバッファーを加え、加熱して溶かした後、冷却するとゲル化する。アガロースはその精製度が高いほど、分離能が高くなる。また、DNAの精製に用いる際には、融点が低い低融点アガロースを用いると電気泳動後のAG板の取り出し作業が簡便となる。
動画2のAGの作製と電気泳動の具体的な実験事例を示す。


動画2 小型サブマリン電気泳動装置の事例-AGの作製、電気泳動、展開ゲルの蛍光染色、展開パターンの蛍光撮影
ATTO Co., https://www.atto.co.jp/products/agarose/small8x102/WSE-1710

3.2 ポリアクリドアミド電気泳動(PA-GE)法

PAG-EP法(poly acrylamide gel electrophoresis)とは、一般にガラスなどのプレート間に作製したゲルを垂直に立てて電気泳動する方式で、ゾーン/スラブ型電気泳動法ともいわれる。主に核酸や蛋白質の電気泳動に用いられる。電気泳動の中でも高い分離能を有する方法として広く用いられている。
ポリアクリルアミドゲル(polyacrylamide gel、PAG)は、アクリルアミド(acrylamide、AAm)の重合体をビスアクリルアミド(N,N’-methylenebisacrylamide、BIS)が架橋することにより、網目構造を形成する。網目の大きさは、AAmの濃度で変わり、ゲルの強度は架橋剤のBISの割合を高めることで強くなる。PAGはDNAサイズの分解能がよく1塩基の違いも検出できる。小さいサイズ(数塩基)から数kb程度のサイズの断片の泳動にも使用できるが分離できる。
DNAサイズの範囲は狭いため、サイズに合わせてゲル濃度を変える必要がある(表3.2)。
また、スラブ電気泳動装置を用いるときには、AG-EP装置とは異なり、専用の電源装置が必要となる。
電気泳動後の検出方法には電気泳動前に試料に蛍光色素(fluorescence dye)や放射性同位元素(radioisotope, RI)などの標識をしてから泳動・分離後に検出する方法や、電気泳動終了後に色素染色で可視化する方法などがある。核酸の検出にはEtBr(図1-4および図1-5)などの蛍光色素が用いられ、蛋白質の検出には、クマシーブリリアント青(Coomassie brillient blue, CBB)などの色素が用いられる。また、ブロッティングと組み合わせることで、ゲルから膜に移した成分のうち、特定の核酸や蛋白質を高感度に検出する方法もある。
得られた電気泳動パターンからは、試料成分の比較、分子量の推定や塩基特異性・変異の検出(多型)、精製度・純度の確認、RNAや蛋白質の発現量比較などの情報を得ることが可能となる。

解説-PAG-EP装置(垂直型)

垂直型PAGは2枚のガラス板の間にゲル溶液を流し込んで作るので、ゲルの厚みを薄くすることができる。薄いゲルは分離能に優れるが、投入できるサンプル量は少ない。
PAGの網目構造はAGよりも細かく、短い核酸断片(5bp~1,000bp)の分離に適している。

vertical-polyacrylamide-gel-electrophoresis-device
写真2 PAG-EP装置(垂直型)の事例
https://anatech.co.jp/upload_files/report/2018103016353165576v2Na.pdf

解説-ポリアクリルアミドゲル(PAG)の作成

PAGは、単量体であるアクリルアミド(AAm)と少量のN,N’-メチレンビスアクリルアミド(N,N’-methylenebisacrylamide、BIS)からなる重合体で網の目構造をしている。単量体の溶液に重合開始剤である過硫酸アンモニウム(ammonium persulfate、APS)および重合開始剤であるN、N、N´、N´- テトラメチルエチレンジアミン(N,N,N’,N’-tetramethylenediamine、TEMED)を加えると、ラジカル重合によってゲル化する。
(1) 必要なゲルの枚数に応じて、自作ゲル作成キット(ゲルプレート、コウム、スペーサー)もしくは多連ゲル作製器を組み立てる。
(2) ゲルの調整に必要な試薬(AAmとBIS混合液、APS液とTEMED液)を準備する。目的とする核酸のサイズによりアクリロアミドの濃度を変える。動画3および動画4にスラブゲルの作製手順を示す。AAmの重合反応およびBISによる架橋反応については、下記の「解説-ポリアクリルアミドゲル作製の化学反応」を参照。

表3.2 PAGの濃度(%T)とDNA分画サイズの範囲
pag-concentration_dna-size


動画3 ミニスラグゲル作製キットを利用したPAG作製方法

動画4 多連(4枚)ミニスラグゲル作製キットを利用したPAG作製方法
ATTO Co., https://www.atto.co.jp/technical_info/electrophoresis/Note_EP_gel-preparation

解説-ポリアクリルアミドゲル作製の化学反応

ポリアクリルアミドゲルが形成されるラジカル連鎖重合反応は、一般的にラジカル連鎖重合は、①重合の開始、②重合の伸長、③重合の停止の3段階からなる(図3-1)。
アクリルアミド(acrylamide、AAm)の重合の開始剤として、過硫酸アンモニウム(ammonium persulfate、APS)とN、N、N´、N´- テトラメチルエチレンジアミン(N, N, N’, N’-tetramethylethylenediamine、TEMED)が用いられる。
モノマーAAmとともに、架橋剤としてN、N´- メチレンビスアクリルアミド(N,N’-methylenebisacrylamide、BIS)を加えることによりポリマーpolyacrylamideを架橋し、網目構造のゲルをつくらせることができる。ポリアクリルアミドゲル(PAG)についての重合反応の詳細については、「website:温度を感じて変化するポリマーの合成」を参照されたい。
注)ゲル濃度
核酸の分離には、3~20%(%T)のPAGが一般的に使用される(表3.2)。PAGの濃度表示には、%Tと%C があり、以下のように表される。

%T[w/v、g/mL] = (AAm[g] + BIS[g])/buffer[mL] x 100[%]
%C[w/w、g/g] = BIS[g]/(AAm[g] + BIS[g]) x 100[%]

%Tに加えて、AAm(モノマー)とBIS(架橋剤)の合計量に対するBISの重量割合[%C]も、PAGの孔サイズおよびサンプル分離能に影響を及ぼす。

polymerization-reaction-for-polyacrylamide-gel
図3-1 ポリアクリルアミドゲル作製の化学反応
https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/nucleic_acid/vol3.html

4.キャピラリー電気泳動法

概要

キャピラリー電気泳動(CE)法は、内径 20~100 nmの溶融シリカキャピラリー管内に電解質を含む溶液を充し,電気泳動を行う分離分析技術である。
平板ゲルではなく,極細のシリカ製キャピラリー管を泳動場として用いるこの方法では、最初はキャピラリー中に適当な(ポリマーを含まない)緩衝液を充填したキャピラリーゾーン電気泳動(CZE)法,次いで界面活性剤添加により形成されたミセルへの分配を応用したミセル動電クロマトグラフィー(MEKC)法が普及した。その後にキャピラリー内に分子ふるい篩 効果を持つポリマー溶液を導入する技術が標準化され、高分子試料に特化したサイズセパレーション技術としてキャピラリーゲル電気泳動(CGE)法、さらにタンパク質分析への対応の一環としてキャピラリー等電点電気泳動(cIEF)法が開発され、関連試薬キットも発売されて普及した。
分離後の検出(cIEF法以外は厳密には分離中の検出となる)は、キャピラリー管の中途に設けられた検出窓において紫外/可視吸収の変化、または蛍光強度変化をモニターする方法が採用され、泳動分離後の染色等の作業が不要となった。また泳動前のキャピラリー洗浄・泳動液の導入・試料導入は、複数のバイアルをキャピラリー両端にアクセスできる機構を用いることで自動化された。これらにより電気泳動法を完全自動化・標準化させることが可能となり、様々な検査機器が市販されている。

応用分野

(糖)タンパク質は電気泳動法による分離分析が適した試料であり,CE 法も早い段階から応用された。その成果は現在革新的医薬品として注目されている IgG 抗体医薬品を中心とする生物製剤の開発・試験への応用に結実し,各国の薬局方にも取り入れられた。特に米国薬局方(USP)では,最近,USP 39 Published General Chapter〈129〉Analytical Procedures for Recombinant Therapeutic Monoclonal AntibodiesとしてIgG 抗体医薬品全般を対象とした分析手順が定められ、また、CGE 法による純度試験と糖鎖解析が盛り込まれている。
一方で,CZE/MEKC 法は低分子の無機/有機イオン試料など幅広い分野で応用されている。また分子間インタラクション解析(インタラクションする二つの物質の一方を泳動液に添加し,他方を泳動試料として電気泳動移動度の変化を考察する)などにも応用されている。

解説-電気浸透流

注)現在のCE検査法は、試料調整・CE分離・検出・データ解析が全自動化され検査機器はバラックボックス化されて、CEの基本原理を理解しなくてもコンピュータ制御により、検体が同一様であれば、マニュアルに指定された数値を入力すれば、正しい検査結果が得られる。しかし、性状が異なる検体の場合には、文献やマニュアルに従っても、正確な結果が得られないことに多々遭遇する。その検査方法の原理を理解することで、そのトラブル解決に役立つ。以下の解説の理解には数学・電気学・流体力学の知識が要求されが、参考とされることを望む。

<静圧駆動流>

非圧縮性媒体の流れ(ρ = 一定)の方程式は、以下に示す連続の式(4-1)およびナビエ・ストークス(Navier–Stokes)方程式(4-2)で示される。式(4-1)は圧縮性媒体(気体)の流れに対しては適用できない。
  ∇・V = div V = 0  (4-1)
  ∂V/∂t + (V ・∇)V = -(1/ρ)∇p + ν∇2V + F  (4-2)
なお,Vは速度ベクトル、ρは密度(スカラー)、pは圧力(スカラー)、ν(= μ/ρ)は動粘性係数(スカラー)、Fは外場による加速度ベクトルである。左辺について第1項:時間(微分)項、第2項:移流(対流)項、右辺において第1項:圧力項、第2項:粘性(対流項)項、第3:外力項である。
流れ方向への圧力勾配によって駆動される流れを静圧駆動流という。マイクロ流路内では、注入口と出口の水頭差や機械式ポンプによって圧力勾配を発生させることにより流体は駆動される。静圧駆動流はそのメカニズムの簡易さからマイクロ流路内の流体の駆動方法として一般的に用いられている。マイクロ流路内の静圧駆動流のレイノルズ数Reは10-2程度であるため層流となる。
ナビエ・ストークス方程式(4-2)は非線形方程式であるが、定常の静圧駆動流の場合、流路断面形状が単純であれば境界条件から解くことが可能である。内径dの円管内の中心軸に垂直な断面における流体の速度分布Vpr(r)は次式で表される(図4-1)。
  Vpr(r) = -(d2/4μ)(dp/dx)(1 – r2/d2)  (4-3)
rは中心軸から垂直方向の距離、μは動粘性係数である。

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図4-1 静圧駆動よる円筒管内の非圧縮流体断面の速度分布

<電気二重層>

電気二重層についての定義および意味については、別ページに詳しく記載しているので、参照されたい(ただし、電荷の符号(+) ⇄ (-)を相互に変換すること)。このページでは、外部電場を印加したとき、液体(電解質溶液)が固定相で、荷電粒子(固相)が移動する系である。
本ページで扱う系は、固体が固定相で、液体(電解質溶液)が移動相である。本節では図4-2に示す電気二重層について説明する。
界面電位Ψoとする平面の法線方向をr軸とし、界面からの距離r[nm]における電位は、次式で近似される。
  Ψ(r) = Ψoexp(-κr)  (4-4)
この様な電場が溶液相に形成されると、図4-2の左図に示すように、電解質溶液中に分散している荷電粒子の界面近傍の溶液側は拡散電気二重層が形成される。この二重層は、次の相反する2つの作用によって説明される。以下、z-z型対称電解質の溶液とする。
 (1) 静電気力によって界面電荷(例えば、負電荷)に対して、正イオンは界面へ近づくように引力が働き、負イオンは遠ざかるように斥力が働くので、図4-2の右図に示すように、界面近傍では正イオン個数(n+、赤線で示す)と負イオン個数(n-、青色で示す)との濃度差Δn(= n+ – n–、緑色の線で示す)が生じる。
 (2) 一方で、液中では正負の両イオンは熱運動による拡散力がそれらの濃度差Δnを減少させるように働く。
 粒子界面から遠ざかるにつれて静電気力が減衰するのに対し、拡散力は一定であるので、遠く離れたところでは、拡散力が支配的となり正負イオンの個数濃度は等しくなる(n+ → n∞、n– → n∞、Δn → 0; n∞は母液中の正負のイオン数)。
以上述べたように、正負の符号が異なるイオン個数に差が生じると、溶液系のある無限小の体積Δvが電荷を有することになり、その電荷密度ρe[C/m3](= ZeΔn/Δv、eは電子の電荷)と電位Ψの関係は、∇2Ψ = -ρe/ε(ε:溶媒の比誘電率)となる。このような電荷層(液相)に対して外部電場を印加すると、固相が固定されているので、電荷層が電場方向へ移動することとなる。ところが、液体は粘度が高いので、この電荷層に近傍の無電荷層も引っ張れて移動することとなる。これが次節で述べる電気浸透流と言われる現象である。
ところで、電気二重層の厚さはデバイ長λ(= 1/κ)で評価される。固相表面に強く吸着したイオン層は移動できないので、移動する電荷層との境界面が生じる。この境界面をすべり面という。すべりめん面の電位ζをゼータ電位という。固定相表面の電位Ψoは測定できないが、電位ζは測定できる。

electric-double-layer
図4-2 表面電荷を有する固液界面の電気二重層構造と外部電場による液相(電解質溶液)のすべり面

<電気浸透流>

マイクロ(キャピラリー)壁面および液相の界面に形成される電気二重層に電場を印加すると、前節で述べた電荷層の移動により、巨視的には溶液の移動が起こる。この現象を電気浸透流と呼ぶ。本節では理論的な電気浸透流速度をナビエ・ストークス方程式およびポアソン方程式より導出する。ここでは流れ場は次の条件とする。
 ① 液相は定常非圧縮性流体とする。
 ② 圧力項はないものとする(マイクロ流路の注入口と出口の水頭差が等しい)。
 ③ 慣性項は無視できるものとする(Re数が10-1以下)。
 ④ 外力項として電気的な力を加える(電気二重層面に対して、平行な直流電場を印加する)。
条件①~④では、式(2.2)に示されるナビエ・ストークス(Navier–Stokes)方程式は,次式のように液相の粘性と電気的な力の釣り合いとして与えられる。
  μ∇2V = -ρeE  (4-5)
ここで,Vは流れ方向の速度[m/s]、μは粘性係数[-]、ρeは電荷密度[C/m3]、Eは電場強度[V/m]である。
一般的に微小流路で用いられる材質(溶融シリカ、fused silica)の壁面は、中性~アルカリ性では、式(4-6)のように解離して負に帯電するため、ここでは固相壁面が負に帯電している場合を考える。
  ≡Si-OH ⇄ ≡Si-O + H+  pKa = 5.3~6.3  (4-6)
x方向を図4-3のように定義すると、流れ方向の速度Vはyのみの関数となる。これより式(4-5)は、式(4-6)に示すポアソン(Poisson)方程式を用いて式(2-7)として展開される。
  d2Ψ/dy2 = ρe/ε  (4-6)
  μ(∂2V/∂y2 )= -ρeE = ε(∂2Ψ/∂y2)E  (4-7)
ここで、Ψは固体表面における電位、Eは電界強度、εは流体の誘電率である。y → ∞において∂V/∂y = ∂Ψ/∂y = 0、またV = 0のときのΨ = ζ(固体表面の電位Ψは測定困難であるので、一般的には測定可能なゼータ電位ζで代用する)として式(2-7)を積分すると、次式の電気浸透流速度Veoが得られる。
  Veo = -εζE/μ(1 – Ψ(y)/ζ  (4-8)
式(2-8)より,電気浸透流速度分布は壁面ではすべりなしの条件から流速が0となり,電気二重層内に非常に急な速度勾配を持つことがわかる。一般の電気泳動用キャピラリーの内径は数十μm程度で、λ/d≒10-4となっている。流路径dとデバイ長λ(= 1/κ、電解質濃度により異なるが数nm程度)の関係から、λ/d<10-4おける壁面近傍の速度勾配は無視できるので,式(2-9)のように一様な速度分布として扱うことができる。この式はHelmholtz-Smoluchowski式とよばれる。
  Veo = -εζE/μ  (4-9)

electroosomotic-flow
図4-3 表面電荷を有するキャピラりー内の電解質溶液の電気浸透流

(以下、掲載準備中


公開開始日:2021年12月16日
最終更新日:2021年12月29日

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