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生体・海水・地殻の構成元素

目次

1.環境水のpH

海水のpH

 海水のpHは弱アルカリ性を示し、表層水では8.1~8.2となっている。これは表1に示すようにCa2+、Mg2+、HCO3、H3BO3などのpH緩衝能をもつ電解質を含んでいるからである。気象庁によると、表面海水中での約8.1から深くなるにつれてpHは下がり、北西太平洋亜熱帯域では水深1000m付近で約7.4と最も低くなる(北西太平洋亜熱帯域でのpHの平均的な鉛直分布)。これは、深くなるにつれて有機物の分解により海水中の酸素が消費され、全炭酸濃度が増加することによる。

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地下水のpH

 地表から浸透した降水には、大気中に含まれる二酸化炭素が溶存しており、また、浅い地層に堆積した主に植物起源の有機物が分解して生成した二酸化炭素が地下水に溶け込んでいる。このため浅層の地下水では、やや酸性(6付近)のpHを示す。地下水が流動するとともに、二酸化炭素は砂礫と接触してNa+等のアルカリ成分を溶かし出し、二酸化炭素はHCO3に変化して、アルカリ性を示すようになる。このように、沖積平野の深部に帯水する年代の古い地下水では、二酸化炭素が消失してpHが上昇する。場合によっては9.0を示すこともある。pHが9を超える事例は、溶存成分が比較的少ない花こう岩質の母岩から湧出する温泉水などでみられ、泉質はアルカリ性単純温泉と呼ばれ、全国各地にある [日本地下水学会]。
 パイライトFeSを含む地層の地下水や鉱山湧水が地表に出ると、強い酸性を示す。これは溶解したFe2+が酸素によりFe3+に酸化されて、H+が放出されるからである(2Fe2+ + O2/2 + 2H2O → Fe2O3(s) + 4H+:鉄バクテリアも共存し水路は赤色で覆われる)。この酸化反応において、共存する炭酸水素イオンHCO3が重要な役割を示し、HCO3が全て消費されてpH 4近くまで低下すると、この反応は極めて遅くなる。

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2.海水と地殻の構成元素

海水中の主要化学成分

表1に海水中の主要化学成分の濃度を示す。海水は3.5%程度の塩分を含む。これは、地球が形成され、海が形成された当時、海水は酸性であり、それにより地殻を溶かし、アルカリ金属・アルカリ土類金属によって中和したことによる。ただ、海水が中性になって以降も僅かながら地殻を溶かし続けており、これにより塩分濃度は徐々に上昇を続けている。しかし氷河期による極地氷冠の成長や融解メルトダウンで多少の上下がある。
 海洋の塩分は地球上の観測場所により3.1%から3.8%のばらつきがあり、海洋において一様ではない。とくに河口や氷河の崩落する地域では汽水化されている。最も塩分が高い外洋は紅海であり、海水の蒸発量の多さ、降水の少なさ、河川の流入、地形により海水の攪拌が少ないことなどが影響している。
 なお、塩湖においては、海水よりもさらに塩分が高い場合がある。最も高いのは死海であり、塩分濃度は約30%である。これら塩湖は、河川から淡水が流入するものの、蒸発が激しく、流出する河川が無い事によって成立している。河川の淡水は僅かながら塩分を含んでいるため、水分の蒸発により塩分が濃縮されるのである。河川による水の流入はあっても流出がないという意味では、塩湖は海と同じである。[Wikipedia]

表1 海水中の主要化学成分の濃度 [松井, 1970]

成分 濃度 mg/kg 溶質 % 成分 濃度 mg/kg 溶質 %
Na+ 10,556 30.61 Cl 18,980 55.05
Mg2+ 1,272 3.69 SO42− 2,649 7.68
Ca2+ 400 1.16 HCO3 140 0.41
K+ 380 1.10 Br 65 0.19
Sr2+ 8 0.03 F 1 0.003
H3BO3 26 0.07


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海水中の構成元素

 地球上に豊富に存在し、生命の主構成元素であるが、常温で気体・液体・固体の状態の分子を構成するC、H、O、Nおよび希ガスを除く元素について、海水および地殻の含有量の関係を図1海水濃度順)と図2地殻濃度順)に示す。
 地殻に豊富に存在する元素が、必ずしも、海水中での濃度が高いとは言えない。青棒 ■(海水濃度)と橙棒 ■(地殻濃度)との高さの差が小さい元素ほど、海水・地殻中の濃度比の相関性が高くなる。
 相関性の高い元素は、アルカリ金属元素とハロゲン元素で、これらは1価の正または負のイオンを形成して、安定な水和イオンを形成するイオンである。次に2価のアルカリ土類金属元素である。
 一方、相関性が低い、あるいは全くない元素、すなわち、log [mg/kg] = 0.0の軸を基準として、青棒と赤棒が相互に反対方向にある元素である。これらは、安定な価数が2以上の金属元素である。これらの金属は中性の水中では、難溶性の水酸化物 M(OH)n(n:価数、脱水酸化物:M2On)を形成するからである。

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海洋の誕生と構成元素の変遷

 私たちの住む星、地球ができたのは、今から約46億年前であった。原料となった物質は、微惑星に含まれていた岩石や金属であった。微惑星の衝突・合体の繰り返しによって地球は今の形、大きさを作っていった。小さいものは大きいものに吸収されていき、徐々に一つの惑星へとまとまっていったのである。地球の元である原始地球は、こうして誕生した。原始地球の半径が現在の地球の約2割、1500kmくらいになると、小惑星の衝突によって脱ガスを起こすようになった。脱ガスにより、中に含まれていた二酸化炭素や水、窒素などのガス成分は放出され、原始地球のまわりを覆った。原始大気の誕生である。原始大気は水蒸気を主成分とし、二酸化炭素や窒素、一酸化炭素を含んでいたと考えられている。46億年前の生まれたばかりの地球では岩石がとけたマグマの海が地表を覆っていた。また、水蒸気、二酸化炭素や窒素などのガスでできた原始大気が空を覆っていた。[地球の誕生]
 およそ43年前になると、地球の温度が急に下がって、原始大気の中に含まれていた水蒸気が雨となり、地上に降り注ぐようになった。雨が地表を冷やし、地表が冷えると原始大気が冷えてさらに雨が降り、年間の雨量は10mを超える凄まじい大雨だったと考えられている。この大雨が1,000年近くも続き、現在の海のもととなる原始の海が生まれた。原始の海は雨にとけた塩酸なども流れこんだので、はじめは酸性で、とても生物の住める環境ではなかったようである。酸性の海水はその後、地表の岩石・土壌の成分であるカルシウム、鉄、ナトリウムなどを溶かし、現在のような中性の海水になった。[海事広報協会]
 酸性の海水が中性になるにつれて、高濃度であったAl3+やTi4+などがAl(OH)3やTi(OH)4などの水酸化物として沈殿し、現在の低濃度になった。
 32億年前になると、光合成をする生物が現れ、二酸化炭素を酸素に変換するようになった。海水中の酸素が増加してくると、Fe2+はFe3+に、Mn2+はMn4+に酸化されて、それぞれ、Fe(OH)3、MnO2として沈殿していった。鉄やマンガンなどの濃度が低下し、海水中で酸素が消費されなくなった20数億年前から、大気中に酸素が供給されるようになった。[Wikipedia]
 大気中の酸素が増加して、太陽からの紫外線が減少してくると地表にも生物が生息する環境が整い、二酸化炭素の消費と酸素の生産が平衡状態となり現在の大気となった。しかし、近年の化石燃料の大量消費により、二酸化炭素が徐々に増加しつつある。
 以上の述べたように海洋が誕生した時代には、地殻と海水の成分にはかなりの相関性であったものが、アルカリ金属・アルカリ土類金属による地表からの溶出による酸性から中性へ、また、光合成生物の誕生とその酸素の生産による海水の酸化還元電位のプラス側への変化により、多価金属元素において顕著に見られるように地殻成分の傾向とは異なる海洋の構成成分となった。
 ところで、特異な元素として、フッ素とリンである。ハロゲン元素であるフッ素はFとして安定である。また、リンは価数V・Ⅲ・Ⅰ・-Ⅲとして、環境の酸化還元電位に応じて安定な化学種として水中に溶存できる。しかし、地殻中の濃度から考えて、海水中の濃度は極めて低い。これは、FおよびPO43-(現在の海洋環境で安定な化学種)が各種の金属イオンと難溶解性の塩を形成するからであろう。

図1 海水と地殻の構成元素(海水濃度順)[野崎, 1996]
C、H、O、N、および希ガス元素を除く 
elements_sea-water

図2 海水と地殻の構成元素(地殻濃度順)[Barbalace, 2007]
C、H、O、N、および希ガス元素を除く
elements_earth-crust

3.生体の構成元素

人体の構成元素

 ヒトの体は構成する基本的な有機分子をはじめ、全ての元素から成り立っている。生命の起源以来、生命体は進化の過程で、宇宙や地球に依存するあるゆる元素を取り込み、利用してきた。
 この中で、アミノ酸、タンパク質、核酸、脂肪、糖など体を構成する基本的な有機分子に利用されている元素は、酸素O、炭素C、水素H、窒素N、カルシウムCa、リンPの6種類である。これらの元素は体内濃度がそれぞれ体重1kgあたり10g以上を占め、多量元素と呼ばれ、人体中の存在量は98.5%を占める。これらのうち、O、C、H、Nは共有結合をしやすく、体の構成に必要な主要元素である。Caは骨の成分として、Pは核酸のリン酸結合やエネルギーの代謝に必要な元素である。
 次に、多い元素は硫黄S、カリウムK、ナトリウムNa、塩素Cl、マグネシウムMgであり、いずれも体重1kgあたり1.0~2.5gを占め、少量元素と呼ばれる。Sは含硫アミノ酸を構成する元素であり、K、Na、Cl、Mgはイオン化しやすく細胞の浸透圧の維持と調節、膜電位の決定にも関与しており、Caとともに膜情報伝達系においても重要な役割を演じている。S以外は電解質元素でもある。多量元素と少量元素を合わせた11元素を常在元素と呼び、これらを合計すると人体中の体内存在量は99.3%を占めることになる。
 上記の11元素だけでは生命ならびに健康を維持することはできない。残りの0.7%には微量であるが、生命機能を維持するうえで重要な元素である。これらは、鉄Fe、フッ素F、ケイ素Si、亜鉛Zn、ストロンチウムSr、ルビジウムRb、臭素Br、鉛Pb、マンガンMn、銅Cuの10元素は1~100mg/kgで存在しており、微量元素と呼ばれる。
 さらに、1mg/kg以下のものは超微量元素と呼ばれ、アルミニウムAl、カドミウムCd、スズSn、バリウムBa、水銀Hg、セレンSe、ヨウ素I、モリブデンMo、ニッケルNi、ホウ素B、クロムCr、砒素As、コバルトCo、バナジウムVの14種がある。
 24種の微量・超微量元素のうち、ヒトにとって必須元素として認められているものはFe、Zn、Mn、Cu、Se、I、Mo、Cr、Coの9元素である。
 ヒトにおける必須元素は多量元素、少量元素、微量元素を合わせるとと20元素となり、生命の維持、発育・成長、清浄な生理機能には不可欠な元素である。[荒川, 2016]

表2 生命体の構成元素
life-essential-elements


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生体と海水との比較

 生体の多量元素のうち、OとHは海水とほぼ同じレベルにある。CとNは海水より高いレベルであるが、光合成や窒素固定によって水・空気から取得して植物が生育し、これを動物が摂取している。骨・歯や血液・筋肉・神経などの成分であるCaは海水より高いレベルである。Pは海水中のレベルに比べて、生体中の含有量が極めて高く、濃縮率は105レベルとなっている特異な元素である。
少量元素のうち、海水よりも生体においてS、Kは高く、Na、Cl、Mgは低くなっている。海水魚では多量の海水を取り込み塩分NaClの濃い尿を少量排出して、NaCl濃度を体液<海水に保っている。人体での塩分の取り過ぎは、高血圧の大きな要因となっている。
微量元素の中で、生体へのFeの濃縮率は106で際立っており、Znは105でPと同レベルである。
超微量元素についても、生体中の濃度は、海水中の濃度よりもかなり高いレベルにあることが分かる。超微量元素については、未だに生体内の機能が不明な元素もあり、今後の研究の進展が期待されている。
 家庭で広く利用される食品成分表には無機質欄にNa、K、Ca、Mg、P、Fe、Zn、Cu、Mnなどの成分量が記されている。生体。海水を構成する元素濃度と比較して見ると、その意味がよく理解できる。
<必須元素と非必須元素>
必須元素とは、それが欠乏すると欠乏症状が現れ、長く続くと死に至るものである。元素によって至適領域が大きく異なり、狭いものや広いものがある。具体例として、Seは必須元素であるが、至適範囲が非常に狭い。アメリカではセレンダブレットがスーパーマーケットに販売されており、多量のセレンを飲んで、脱毛や爪の脱落などの症例がある。中国では土壌中セレン濃度の高い地域や低い地域があり、欠乏症や過剰症の両方が報告されている。ヒトの必須元素の機能と疾患の概要については、文献[荒川, 2016]を参照されたい。
非必須元素とは、欠乏しても生命に異常はないが、多すぎると中毒を起こしさらには死に至るものである。

図3 人体(成人)および海水の構成元素 [人体: Wikipedia, 2016, URL]
elements_human-body

<留意事項>
 文献からの引用値が異なるので、含有量(濃度)に関して本文と図表との記載値が異なる元素がある。この理由は、測定技術の進歩にもかかわらず微量元素の定量は容易ではなく、特に海水・地殻・土壌・生体の微量元素の定量においては、試料の採取場所・部位による差異、複雑な前処理での不可避な作業環境から(へ)の混入・消失や共存する物質の干渉作用などが著しく、年々、様々な機関や研究者によって測定値が更新されているからである。詳しくは、ICP発光分析・ICP質量分析などを参照されたい。
 なお、地表水(河川・湖沼)や地下水などの元素構成は、その背景(土壌・地殻・環境汚染)による地域差の変動が大きいので留意されたい。また、Feの海水中の溶存値であるが、表層での約3ng/kgから減少し、水深1,000mで約40ng/kgと最大となり、それ以深では微減しているとの報告[Achterberg, etal., 2001]もある。これは、上記の海水のpHで述べたように、pHとFe3+の溶解度の関係からも理解できる。

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参考文献

Achterberg,E.P, et.al: Analytica Chimica, Vol.442, Issue 1, pp.1-14, 2001
Barbalace, Kenneth: “Periodic Table of Elements”. Environmental Chemistry.com. Retrieved 2007-04-14
荒川 泰昭:Nippon Rinsho, Vo.74, No.7, pp.1058-1065, 2016
小宮 剛:地学雑誌、Vol.116, No.1, pp.95-113, 2007
重松 恒信:日本海水学会誌 Vol.32, No.3, pp.150-157, 1978
野崎 義行:日本海水学会誌 Vol.51, No.5, pp.302-308, 1997
松井 義人・一国 雅巳(訳):メイソン一般地球化学、岩波書店、1970


掲載日:2019年01月06日
更新日:2019年01月09日

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