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環境技術 2014


環境技術学会・月刊誌「環境技術」 2014年 特集概要
       目 次 総目次-分野別-
 1月号  2014年 環境行政展望
 2月号  リン資源の枯渇問題とリサイクル
 3月号  バイカル湖から見た湖沼環境保全
 4月号  環境分野における研究技術の最新動向
 5月号  災害廃棄物の焼却処理
 6月号  大気輸送と拡散の数値モデルの政策・行政への貢献
 7月号  湖沼をめぐる環境と課題
 8月号  農業水利と農村環境の保全・管理を考える
 9月号  浄化槽放流水の水質改善を目指した岐阜県浄化槽業界の取り組み
10月号  日本の林業と森林を考える
11月号  中国の水環境の現状と水ビジネス
12月号  環境市民運動の論理と実践



1月号  2014年環境行政展望
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 2月号リン資源の枯渇問題とリサイクル
編集: 藤田環境技術士事務所・藤田 眞一

 20世紀は天然資源の大量消費の時代で、21世紀は天然資源の枯渇が現実となりつつある。石油より深刻なものとしてリン資源の枯渇がある。リンは肥料の三大要素の一つとして知られており、我々はリンを肥料として農業において、また、各種の触媒や化成品として工業的に利用するとともに、食品添加物等の原料としても幅広く利用している。
 世界的に見ても、リンの需要は年々増加しており、このまま需要量が増加すれば、今世紀の後半にも経済的に採掘可能なリン鉱石が枯渇するとも言われている。また、リン鉱石の採掘は、アメリカ、中国、モロッコ、ロシアで世界の約四分の三を占めるなど偏在しており、安定的な供給が危ぶまれている。日本は、他の多くの天然資源同様、リンの全量を海外からの輸入に頼っており、年々、リン鉱石の入手は困難になってきている。リン資源のリサイクル技術の開発は、限りあるリン資源を有効に利用するという観点でも、また、リンの環境中への拡散を防止して海域等における富栄養化を防止するという観点からも意義のあるものである。

1.持続的リン利用をめぐる世界の動き
 リンの持続的利用とは、世界のすべての農民が食糧の生産に必要なリンを十分に入手でき、しかもリンの利用にともなう環境や社会への負の影響を最小限に抑えることを意味する。欧米やアジアでリンが過剰に消費されて環境が汚染する一方で、アフリカや南米では食糧の生産に必要なリンが不足している。リンの無駄使いをやめ持続的な利用をめざすことは、資源の枯渇を遅らせるばかりか、歪められた地球のリン循環を矯正し環境汚染を防止することにもつながる。
2.家畜ふん尿からのリン資源の回収
 家畜ふん尿中には年間で約11万トンのリンが排出されるが、その大部分は純品として回収されることなく堆肥中に含有される形で農地などにて再利用されている。一方、鶏ふん焼却灰や畜舎汚水はそのままでは再利用が困難で堆肥の流通システムにも入りにくいことから、これらに含まれるリンのリサイクルを目指した回収技術の研究開発が行われている。本稿ではこれら家畜ふん尿中リンのリサイクルの現状について概説する。
3.製鋼スラグからのリン資源回収の可能性
 近年、世界的な人口増大、バイオ燃料の普及等を背景として、農業用栄養塩類とりわけリン資源の持続的な管理・保全が大きな注目を集めている。リンの用途の多くは肥料原料であるが、その大半を海外に依存している我が国において、国内資源循環の促進は喫緊の課題である。未利用かつ量的に十分な供給力を有する製鋼スラグについて、リン資源回収可能性をマテリアルフロー分析(MFA)と関与物質総量(TotalMaterials Requirement:TMR)の視点から解説する。
4.下水汚泥からのリン回収―KOBE ハーベスト(大収穫)プロジェクト―
 肥料の三大要素の一つであるリンは、国際的に枯渇が懸念されるなか、下水道には多量に流入していると推計されている。食糧生産に不可欠な貴重資源であるリンを都市リン鉱山といえる下水道から効率的に回収する技術が求められている。本プロジェクトは、平成24年度の国土交通省の下水道革新的技術実証事業に「神戸市東灘処理場 栄養塩除去と資源再生(リン)革新的技術実証事業」として採択され、下水汚泥(消化汚泥)からのリン除去回収技術の高効率化によるコスト縮減効果や得られた高品質なリン資源の利活用等を実証することが目的である。また、富栄養化の低減や配管閉塞の防止など維持管理性の向上も期待できる。
5.岩手県における地産地消型リン資源循環の取組み
 高濃度のリンを含有する下水汚泥焼却灰から産業廃棄物である廃アルカリを用いてリンを回収する技術を確立し、産廃処理受託収入等により黒字が見込めるリン回収事業が可能なシステムを開発した。
 一方、そこで得られる回収リンを地域内で利用するため、岩手県リン資源地産地消研究会を設置し、地域内の異分野の関係者との情報交換により回収リンに対する共通認識を高め、リン資源の地産地消(地域内循環)を図る取組みを行った。

<執筆者>1.大竹 久夫(大阪大学)/2.鈴木 一好((独)農研機構)/3.松八重 一代・久保 裕也・山末 英嗣・長坂 徹也(東北大学)/4.坂部 敬祐(神戸市)/5.菅原 龍江(岩手県工業技術センター)

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 3月号バイカル湖から見た湖沼環境保全
編集: 立命館大学・仲上 健一

<バイカル湖と国際共同研究>「シベリアの青い真珠」と謳われるバイカル湖(湖水面積は31,500.(琵琶湖のおよそ46倍))は、世界最深、最古、最大容量の淡水湖であり、その雄大さや、独特の地質的・地形的特徴、そして世界的に注目された環境問題で際立った特徴を有する。
 1988年11月に当時のソ連科学アカデミーが「国際バイカル湖生態学研究センター」(BICER: Baikal International Center for EcologicalResearch)を開設し、世界の湖沼研究者が競って研究を進めてきた。日本、米国、英国、ベルギー、スイス、ソ連の6ヶ国の研究者による国際共同研究が開始されるなか、日本では国立環境研究所の河合崇欣博士が中心になり、バイカル湖に関心を持っている全国の研究者を組織し、「日本バイカル研究協議会が設置され、地質学、物理学、地球環境学、進化系統学、生態学、環境学を中心に研究チームが組織された。
 一方、社会主義国の環境問題として注目された「バイカル問題」は、1953年にソビエト連邦のイルクーツク市から150㎞に位置するバイカル湖の南岸に、バイカル・パルプ製紙コンビナートを建設する計画から端を発し、2013年についに環境ゾーン建設と引き換えにこのパルプ製紙コンビナートは完全に閉鎖により終結した。
<本特集のねらい>バイカル湖に関する自然科学・社会科学の知識・情報が蓄積される中で、より総合的なアプローチで同湖の将来的な環境政策課題の探求を軸として湖から見た湖沼環境保全政策のあり方をめざした。本特集では、雄大なバイカル湖の環境問題の一端を取り扱ったものであるが、同湖の現地視察やロシア科学アカデミーとの交流を踏まえ、同湖の環境問題の重要性や湖沼環境管理の国際相互理解の意義について紹介ができたとすれば幸いである。

1.湖沼環境保全と持続可能な開発政策―バイカル湖・ラグナ湖・琵琶湖の比較を通じて―
 バイカル湖は、世界最深、最古、最大容量の淡水湖であり、「シベリアの青い真珠」と謳われる魅力的な湖である。国家的水資源開発事業の対象であった琵琶湖を基軸におきながら、社会主義体制の下で「バイカル問題」として世界的にも注目されたバイカル湖、発展途上国フィリピンのマニラ大都市圏の発展を水資源・漁業等で支え厳しい環境汚染のラグナ湖の国際比較政策を通じて湖沼環境保全と持続可能な開発政策のあり方を提案した。
2.バイカル湖のブリヤート人と伝統文化・技術
 バイカル湖畔に散居するモンゴル民族であるブリヤート人は、帝政ロシアや共産主義革命等の数多の歴史的変動を、民族的アイデンティティや伝統文化の喪失を余儀なくされながら生き抜いてきた。しかし、サケ科のオームリ漁に従事する者は、はやくから造船技術に長け、その技術的影響はシベリア全体に及んでいるという。本稿は、歴史に翻弄されたシベリアの遊牧民が継承してきた文化と技術について紹介するものである。
3.世界遺産バイカル湖の宝のスローな観光・資源開発
 バイカル湖の産業開発と環境保全の状況について述べたものである。世界遺産バイカル湖はほんのわずかな環境負荷しか受け入れられない。この地区の開発整備を考える場合、バイカル湖周辺にある環境破壊の原因ともなっている、製紙・パルプ工場が閉鎖され、観光・レジャー産業を中心にした整備構想が重要となってくる。そこで、本論では、バイカル湖周辺の整備にスロー(持続可能な)開発やスローな観光を提案したものである。
4.イルクーツクとバイカル湖における交通についての歴史地理的考察
 イルクーツクとバイカル湖付近が、かつてのシベリアの交通においていかなる地域特性を有していたのかについて考えた。ロシア人の進出後、シベリアでは河川が重要な交通路で、イルクーツクはその要衝で、清とのキャフタ貿易のための拠点となった。アンガラ川とバイカル湖は貿易の重要な水運ルートで、輸送はイルクーツクの商人が担っていた。シベリア鉄道の建設では、厳しい自然条件から、バイカル湖周辺での工事が難航し、代替のバイカル湖水運も航行できない期間が長く、ネックとなった。
5.バイカル湖における有害化学物質による環境汚染―バイカルアザラシを指標として―
 日本とロシアの研究者による国際共同研究のもとで実施されたバイカル湖における有害化学物質(重金属類、有機塩素系化合物、放射性核種)による環境汚染について、生態系の頂点に位置する長寿命生物のバイカルアザラシを指標生物として用いて、有害化学物質のアザラシへの蓄積特性を明示するとともに、ウイルス感染による生物影響についても記述し、汚染に直面しているバイカル湖の環境保全に関する今後の課題について言及した。

<執筆者>1.仲上 健一(立命館大学)/2.奥田 進一(拓殖大学)/3.小幡 範雄(立命館大学)/4.矢嶋 巌(神戸学院大学)/5.宮崎 信之(東京大学名誉教授)

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 4月号環境分野における研究技術の最新動向
編集: 神戸学院大学・古武家 善成

 環境問題に関係する研究領域は広いが、それぞれの研究領域では問題をしぼって掘り下げることが多いので、研究者が通常用いる研究技術はそれほど多くない。本特集では、環境分野の様々な領域で用いられている技術手法を紹介し、異なる観点から研究を進めるのに役立つ情報を提供することを意図した。
 取り上げた研究技術は、環境化学の分野における機器分析法、環境毒性学の分野における環境毒性評価手法、環境物質動態解析における安定同位体分析法、環境負荷解析におけるライフサイクルアセスメント、および元素の化学形態分析における放射光利用の5つである。対象とした技術は同じ環境分野とはいえ幅広い研究領域に関わることから、各論文では、その技術・技法のバックグラウンドに関する概要が最初に示されている。

1.環境化学物質機器分析法の到達点
 我が国の環境化学物質機器分析法は環境庁、環境省が1975年から進めてきた分析法開発に寄るところが大きい。当初から40年間の分析法開発結果報告書は(独)国立環境研究所の環境測定法データベースEnvMethodに収録されている。分析法のほとんどが有機化合物に関するものであるため、主にGC/MS、LC/MSに関する機器分析法と関連技術、今後期待されることなどを記した。
2.環境毒性評価手法の最新動向
 我々は多くの化学物質に囲まれその恩恵に浴しているが、同時にその有害性についても正しく認識し管理しなくてはいけない。そして環境中に放出された化学物質に対し、ヒトへの健康だけではなく野生生物への影響も考慮し、持続可能な生態系を維持していくことは我々と我々の子孫への責務である。未規制の化学物質や複合影響を考慮した場合、バイオアッセイを用いて総体的に化学物質を管理する手法は一つの方策と考えられる。
3.安定同位体分析が拓く環境科学の地平
 安定同位体は、環境中の化学的・生物的な変化を明らかにする上で有効なツールとして活用されている。本稿では、安定同位体比が変動する原理や生物の代謝過程における変化について解説した後、安定同位体比の環境指標としての利用法、環境の変化に対する生物群集の応答解析などの手法について、水域生態系での事例を中心に概説する。また、近年の技術革新により、様々な同位体比が環境科学の分野で応用されつつある。こうした新しい動向についても紹介する。
4.ライフサイクルアセスメント手法の動向
 ライフサイクルアセスメント(LCA)につき、これまでの発展の歴史及び枠組み、影響評価の手法を概説する。さらに、新しいコンセプトとして、LCAの中での水消費に関わるLCAの動向を示す。さらに、持続可能性評価のためのトリプルボトムラインによる製品やサービス評価の流れを受け、環境負荷以外の評価に対するLCAの枠組み導入の流れとして、ソーシャルLCAについて、その概略を紹介する。
5.放射光による環境試料分析―元素の化学的存在形態分析への応用―
 放射光を利用した環境試料分析には様々な応用があるが、本報告では特にX線吸収分光法による環境試料中の元素の存在形態分析について実例に即して解説を行う。特に大型放射光施設の高輝度放射光を用いれば、数十㎎/L程度の濃度オーダーでも、元素の価数判別に十分なデータが得られる。著者らの限られた経験の範囲でも、本方法は非常に強力な環境分析ツールであることは明らかで、今後もますます適用範囲が広がるとみられる。

<執筆者>1.鈴木 茂(中部大学)/2.鑪迫 典久((独)国立環境研究所)/3.加藤 義和・陀安 一郎(京都大学)/4.栗栖 聖(東京大学)/5.藤川 陽子(京都大学)

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 5月号災害廃棄物の焼却処理
編集: KEE環境サービス㈱・守岡 修一

 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は大規模地震災害であり、多くの災害廃棄物が発生した。大都市での災害であり、ある程度インフラも整っている中で、その災害廃棄物は仮設による焼却処理を行った。その16年後2011年3月11日に発生した東日本大震災では、東北地方太平洋沖地震とそれに伴って発生した津波により災害廃棄物はその様相が異なる。
災害廃棄物は被災地が沿岸であるため漂流したものもあり、津波堆積物として海洋の浸漬を受けたものもある。また、震災範囲も広大で、放射性廃棄物を含むうえ、その被災地は中小の都市が多く、インフラ面でも阪神・淡路大震災とは異なる。
 災害廃棄物は2014年3月を目途にその対策が進められてきた。それは阪神・淡路大震災の教訓を生かし、そのなかで仮設による焼却処理はいかに進められてきて、その成果はどうであったかを検証し、今後発生が予想されている南海トラフ地震に備えて災害廃棄物の焼却処理はいかにあるべきかを考える。
南海トラフ地震では最大約3億トンもの災害廃棄物の発生が予想されている。東日本大震災の10倍以上である。これには国の施策も必要であるが、想定外では済まされない種々の事象の対応を準備しておく必要があると思われる。


1.東日本大震災での災害廃棄物対応と今後の備え
 阪神・淡路大震災を踏まえた東日本大震災での災害廃棄物対応にかかる経験と教訓について述べるとともに、南海トラフ巨大地震など将来への備えとして、災害廃棄物対応の構築は、危機管理の過程であり、その継続的な取り組みにより、強靭な社会環境システムの構築や災害環境マネジメントの構築を通して、減災社会の実現を目指すことが必要である。
2.東日本大震災により発生した災害廃棄物の焼却処理の全体概要
 岩手県と宮城県の災害廃棄物等の処理は広域処理の支援もあり、平成26年3月までに完了が見込まれている。一方、福島県については他県よりも処理が遅れているが、国の代行事業等により、加速化が図られている。
 平成26年1月24日現在で34基の仮設焼却炉が稼働し、いずれの施設も排ガス規制値を満足している。また、排ガス中の放射性Cs濃度は検出下限未満であり、焼却灰中の放射性Cs含有量は最終処分場の埋立基準を下回っている。
3.仮設焼却炉調査結果報告
 廃棄物資源循環学会の内部組織である廃棄物焼却研究部会の研究活動として、災害廃棄物の仮設焼却炉による焼却処理について調査した。処理対象物に起因する不具合や燃焼不良による助燃量増大はあるが、概ね順調に稼働していた。様々な性状の処理対象物を安定処理するための前処理等の工夫や納期短縮の工夫、機械的不具合への対応、手続き上の課題等、ここで得られた知見が将来の災害の備えに役立てば幸いである。
4.南海トラフ地震を見据えた次の災害に備えて
 次の災害に備えて、国においても準備が進められている。南海トラフ地震では、東日本大震災以上に膨大な災害廃棄物の発生が予想されている。そこで、環境省公表の一般廃棄物処理実態調査結果を基に既存ごみ処理施設における災害廃棄物の受入余力量を試算した。また、内閣府公表の南海トラフ地震時の災害廃棄物発生予測量を基に仮設焼却炉の必要容量を試算した。これより、既存ごみ処理施設の整備、仮設焼却炉の計画準備、広域連携が不可欠であると考えられた。

<執筆者>1.平山 修久・大迫 政浩((独)国立環境研究所)/2.古林 通孝・高岡 昌輝(日立造船㈱)/3.小北 浩司・増田 孝弘・高岡 昌輝(㈱タクマ)/4.三好 裕司・高岡 昌輝(川崎重工業㈱)

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 6月号大気輸送と拡散の数値モデルの政策・行政への貢献
編集: 龍谷大学・市川 陽一

大気質の予測をパフ、プルームモデルや風洞実験に代わって行う3次元数値モデルの実用化が進んでいる。ここで言う数値モデルとは、運動方程式や輸送・拡散方程式を数値的に解くものを指す。
計算手法の行政への貢献は、数値モデルに絞ると政策、環境アセスメント、防災の分野で期待できる。政策分野においては、酸性雨や微小粒子状物質PM2.5、光化学オキシダントOxなどの越境汚染に係る近隣諸国との交渉や地域の大気汚染物質の排出削減計画の策定などに役立つ。環境アセスメントの分野では、数値モデルは火力発電事業の環境影響評価ですでに実用され、道路など都市域内事業への適用に向けて大気環境学会でガイドラインが作成された。2009年に環境基準が設定されたPM2.5についても事業アセスメントの将来的な必要性を述べる行政意見がある。しかし、PM2.5やOxの予測は、数値モデルの性能が高まったとしても、事業者が他の事業の発生源情報を得ることが困難なこと、二次生成物質は発生量と濃度が比例関係になく個別事業の発生源寄与を評価することが難しいことから、国や自治体が政策として実施する地域計画のアセスメントに含めるのが妥当である。防災関連としては、原子力災害に係わる放射性物質や注意喚起のための暫定的な指針が定まっているPM2.5、しばしば注意報が発令されるOxの予測があげられる。
 本特集では、環境アセスメント関連として道路事業と発電事業の大気拡散の数値モデルを取り上げる。また、政策や防災に係わる放射性物質、PM2.5、Oxの大気輸送の数値モデルについて紹介する。

1.道路事業の環境影響評価 ―計算流体力学モデルの適用に向けて―
 都市地域など複雑な構造をもつ道路周辺での濃度を計算する方法としてコンピュータによる計算流体力学を用いた拡散計算手法がある。この手法は、透明性や結果の信頼性について客観的に十分検討されてこなかったため、環境アセスメント手法として利害関係者の合意形成を得るのは難しい状態にあった。そこで、この手法を環境アセスメントに適用することを目的として、モデルの相互比較や手法の妥当性・結果の評価方法について検討し、環境アセスメントへのガイドラインとしてまとめたので、その概要を紹介する。
2.発電事業の環境アセスメントと安全解析
 発電所排ガスの大気拡散予測・評価のため従来から風洞実験が適用されてきたものの、予測・評価の効率化に向けて数値モデルの活用が図られている。数値モデルの開発・適用例として、電力中央研究所で開発されている火力発電所の地形影響予測モデル、ついで原子力発電所排ガスの“放出源の有効高さ”を評価するための拡散予測モデルの開発・実用化状況を紹介するとともに、今後の数値モデルの開発の動きなどについて示す。
3.放射性物質の防災対策
 福島第一原発事故を受け、滋賀県では「地域防災計画(原子力災害対策編)の見直しに係る検討委員会」が設置され、2011年5月19日の第1回開催後、2014年1月21日までに全10回開催された。
 琵琶湖環境科学研究センターでは、この間、大気シミュレーションモデルにより、放射性物質拡散計算を行い、①短期評価として滋賀県域内での避難計画策定(UPZ)のための131Iによる「甲状腺被ばく等価線量図」、131I および133Xeによる「外部被ばくによる実効線量図」、②中長期評価として131Iおよび134Cs+137Csによる「沈着量分布図」等を作成し、委員会に提出したので、その経過および概要について報告する。
4.微小粒子状物質PM2.5の予測
 用語が急速に世間に広がったPM2.5について、その基礎知識と日本への越境飛来現象について復習した後、筆者が中心となり開発した微粒子濃度の予測システムについて概説する。現在、各自治体が行っているPM2.5の当日予測の手法では、信頼性の高い情報を提供することが困難であるため、物理・化学法則に基づいた数値モデルを活用した予測を早期に導入することが望まれる。
5.二次生成物質の発生源対策
 光化学オキシダントやPM2.5といった二次生成物質は、前駆物質の排出量と大気中の濃度に非線形の関係がある。従って発生源対策を考えるうえでは、大気質モデルの活用が不可欠である。大気質モデルは、種々の発生源から排出された物質が大気中で移流拡散し、化学反応や沈着過程を経て減衰していくまでの過程をモデル化することで、様々な発生源対策シナリオに基づく、二次生成物質の濃度を予測評価することが可能である。

<執筆者>1.水野 建樹((財)日本気象協会)/2.佐田 幸一((財)電力中央研究所)/3.園 正(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)/4.竹村 俊彦(九州大学)/5.佐々木 寛介((財)日本気象協会)

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7月号    湖沼をめぐる環境と課題
編集: 公益財団法人琵琶湖・淀川水質保全機構 和田桂子

 閉鎖性水域である湖沼は、その滞留時間の長さから、水質汚濁や富栄養化に伴う利水障害など、多岐の水環境問題が発生している。
 わが国は、1970年に水質汚濁防止法を制定し、生活排水対策や産業排水規制による水環境の保全対策を積極的に推進してきた。湖沼の水質汚濁問題に対しては、1984年湖沼水質特別措置法を制定し、窒素・リンの流入負荷削減を含む総合的な水環境対策として下水道の整備の推進や排水規制の強化を図った。これらの取り組みにより、長い年月を経た現在、ようやく回復の兆しが見えてきている湖沼もある。しかし、多くの湖沼においては、依然として、環境基準の未達成や、水質改善が進んでいない状況にある。また、これまで清澄とされた湖沼においても水質問題が顕在化してきている。
 また、医薬品・農薬新たな有害化学物質底質汚濁内部生産の問題も重要な課題である。さらに、湖沼における生態系保全においては、外来種などの移入による生態系の攪乱や流域開発による生息・生育地が減少している湖沼も多い。近年の気候変動による影響なども相まって、湖沼の環境問題は年々多様化し、その課題も変化するとともに、ますます複雑化している。
 本号では、「霞ヶ浦」、「猪苗代湖」、「印旛沼」、「諏訪湖」、「児島湖」、「宍道湖・中海」の6湖沼を取り上げ、それぞれの湖沼の現状を踏まえた取組等を紹介している。今後の湖沼水環境保全や水質管理のあり方として有効かつ効率的に役立つことが期待される。
1.霞ヶ浦の今、未来!
 常陸川水門が1963年に完成し約半世紀が経過する。この間、霞ヶ浦の水質は、淡水化や有機物による汚濁が進行したが、法整備等によりあるレベルで落ち着いている。現在の水質は環境基準(CODで3㎎/L)に対しかなり高く、2011年には大規模なアオコが発生する等、更なる水質改善が必要である。茨城県では新たに森林湖沼環境税を創設し、水質浄化技術の開発や各種対策の財源として活用されている。
2.猪苗代湖をめぐる環境と課題
 猪苗代湖は、かつては酸性湖沼でCODが低く、環境省から水質日本一と評価されていた。近年pH上昇による中性化とCOD上昇が見られ、さらに大腸菌群数が環境基準を超える等の水質汚濁が徐々に顕在化してきている。猪苗代湖の水質汚濁の要因は、北部水域に長年流入、蓄積されてきた汚濁物質の堆積と、これを栄養分として繁茂する水生植物の枯死による有機物の蓄積にあると考えられ、猪苗代湖をめぐる環境と水質改善の取組み課題について考察している。
3.印旛沼の水環境と水質改善対策
 印旛沼とその流域では、下水道整備をはじめとする様々な環境改善対策が行われてきたが、水質改善は思うように進んでいないのが実状である。印旛沼の水環境の変遷と水質改善対策の方向性について検討した事例を紹介している。
4.児島湖の流域・湖内環境特性と水質改善の現状
 児島湖は人口/貯水量比が高い農業用の人造湖である。流域には水田が広がり、河川流量を遙かに超える農業用水が流域外より流入し、滞留時間が短く内部生産は小さい。水質は生活排水の他に農業排水の影響も強く受けている。この20年は、高度処理を備えた下水道整備により水質改善が進展したが、整備完了でもわずかに環境基準を超えると予測されており、水田負荷減、浄化用水増、新規対策開発などで基準達成が目指されている。
5.宍道湖・中海(汽水湖)が抱える課題への取り組み
 宍道湖・中海の水質改善に向け、①中海浚渫窪地(冬期を除く長期にわたり無酸素状態を呈し湖底堆積物からは栄養塩のみならず硫化水素やメタンが発生)の底層水の水質改善及び底質改善、②農業集落排水処理施設(BOD対応型)のN・Pの簡易高度処理技術の開発、③宍道湖のヤマトシジミの棲息に及ぼす硫化水素の影響、について紹介している。

<執筆者>1.菅谷 和寿(茨城県霞ケ浦環境科学センター)/2.中村 玄正、藤田 豊、佐藤 洋一(日本大学)/3.平間 幸雄(千葉県環境研究センター)/4.河原 長美(岡山大学名誉教授)/5.清家 泰、管原 庄吾、江川 美千子、久川 和彦、増木 新吾、譚 衛華、勢村 均、神谷 宏(島根大学)

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 8月号農業水利と農村環境の保全・管理を考える
編集: 内外エンジニアリング(株)・松 優男

農業用水は、食料生産の機能以外に農村地域の自然環境の保全景観の形成など、多面的な機能を有する。空海が改修したことで知られる満濃池は、約1300年前に築造され、現在でも貴重な水資源として農業生産の基礎をなしている。こうした農業水利施設は、農業生産だけでなく、身近な自然が集約された里地・里山として、二次的自然を有する空間としてその価値が見直されてきた。
 今年5月に公表された「平成25年度食料・農業・農村白書」によると、全国の耕作放棄地は、高齢者のリタイヤ等に伴い年々増加し、平成22年度には滋賀県の面積に匹敵する40万haに達した。また、担い手のいない水田集落は、全国で半数以上を占め、近畿・東海・中国四国地方では6割以上に達している。さらに、基幹的農業従事者の61%が65歳以上と高齢化が著しい。こうした状況の中、国は昨年12月に「農林水産業・地域の活力創造プラン」を発表した。まさに農政の大転換が始ろうとしている。
 農地・農業用水等の資源の保全・管理と農村環境の保全向上の取り組みに対し、国は直接支払制度を設けている。しかし、農業従事者の高齢化や農村集落の都市化・混住化が進む中で、維持管理がおろそかになり、生態系保全などの農業水利がもつ多様な機能の発揮が困難になることが懸念される。
 ため池や農業用排水路を適切に保全・管理し、多様な役割や機能が十分に発揮できるように地域住民等が参画した管理体制の構築など、あらたな地域資源管理の取り組みが始まっている。本特集を通じて、日本の歴史ある生産資源・環境資源の価値と保全・管理について、改めて考えてみたい。

1.農業用水や水利施設資源の維持管理活動と地域の活性化
 農業用水や水利施設の多面的機能は、農業者や地域住民の適切な維持管理活動によって発揮されるため、環境保全活動には地域住民の合意形成が重要である。(1)用水自体、(2)用水の制御や管理操作、(3)用水や施設の空間、に機能の発揮源を分類するとともに、生物相保全、地域用水利用、環境学習、棚田資源保全など、発現する機能の活用方途にも注目しつつ、具体的事例に照らして、いずれも地域の活性化に貢献している実態を示した。
2.生物多様性を支える農業水利施設の役割―ため池を例に―
 絶滅危惧種のガガブタが生育しているため池を取り上げ、同種の生育状況と当該ため池の環境特性や水位変動との関連について検討した。ガガブタの生育分布は、満水時水深1.5m以浅の水域と比較的よく合致していた。また、ガガブタの発芽時期である夏季を中心に浅場では水位低下が生じ、これは土壌表面温度や光条件に影響を与えている可能性が考えられた。底質の強熱減量、軟弱度も、ガガブタの生育を規定する要因であると考えられた。
3.農業水路の多目的利用による維持管理の仕組み
 農家に農業を通じて水田や水路といった農業基盤施設を維持管理してもらい多面的機能を確保するという枠組み自体が成り立たなくなってきたという課題認識に立ち、鳴門市大津町でみられた特徴的な水路の維持管理について聞き取り調査を行った。地形的条件から継続的な水路の泥上げが必要であったこの地域では、毎年4月には縁田の造成、7月には地域全体での泥上げと藻きり作業、2月にはマイガキと、少なくとも年3回に及ぶ泥上げを行っていた。農家が低湿地帯独特の水路との関わりを見出し、多目的に水路を利用することで形作られた維持管理の仕組みであった。
4.農業水利施設の保全における集落の役割と新住民の参加
 都市近郊農村の農業水利施設の保全における集落の役割と新住民の参加について検討した。集落主体の全戸参加型保全作業が行われていても、新住民戸数や居住区域の立地条件によっては新住民が実質的に水利施設の保全に関わらないケースもみられた。保全作業への新住民の参加を促すためには地域コミュニティと新住民の関わりを把握し、新住民にとっての作業への参加の意味を明らかにすることが重要である。
5.地域外労働力を活用した農村環境保全の課題―兵庫県の「農村ボランティア」を例に―
 高齢化する農村地域において、地域外の都市住民のボランティア活動によって、農村環境を保全する取組の現状と課題を報告する。兵庫県が実施する農村ボランティア活動(ふるさとむら)の事例を対象に、実施内容から3つのタイプに活動を分類し、各タイプの代表事例の詳細な調査によって、実施状況や住民の評価、抱える課題などを明らかにした。農村ボランティアで目的とする労働力の確保について一部効果は見られたが、むしろ都市住民との交流や地区住民間の交流が高く評価されていることがわかった。一方で、受入側の高齢化やボランティアの減少などの深刻な問題を抱えている。
6.兵庫県ため池整備構想とその実現に向けて
 兵庫県におけるため池保全の経緯と平成9年度に策定した「兵庫県ため池整備構想」の内容、それに基づく活動状況について紹介する。この構想は、兵庫県の農業農村整備(土地改良)事業に携わる部局が、外部有識者による検討委員会を設置し、ため池の保全・整備の理念や実施手法等、その方向性を示したものである。県内のため池における活動事例により、この構想が近年のため池保全・整備や環境保全にどのような役割を果たしてきたかを明らかにする。

<執筆者>1.石田 憲治(農研機構農村工学研究所)/2.角道 弘文(香川大学)/3.田代 優秋((財)公害地域再生センター)/4.本田 恭子(岡山大学)/5.三宅 康成(兵庫県立大学)/6.森脇 馨・三輪 顕(兵庫県)

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 9月号浄化槽放流水の水質改善を目指した岐阜県浄化槽業界の取り組み
編集: 岐阜大学・李 富生

<浄化槽とは>浄化槽は、主に家庭で発生する汚水を処理するための小型汚水処理施設として下水道未整備区域で利用され、汚水を集めて処理し放流する集中型の下水道システムとともに衛生的で快適な生活環境の維持、自然水環境の保全に重要な役割を果している。また、下水道と異なって、浄化槽で処理した水は側溝や水路を通じて河川や湖沼などの自然水域に分散的に放流されるため、浄化槽の整備区域に流水環境をもたらすとともに、河川や湖沼の水量維持にも寄与している。
<浄化槽の存在意義>2011年3月に発生した東日本大震災では、浄化槽が受けたダメージが比較的小さく、小型で大地震などの自然災害に強く、社会全体が受ける被害を分散・緩和させることのできる汚水処理施設として存在意義が再認識されるとともに、経済状況が厳しい途上国の汚水処理による水環境の改善にも適用可能な技術としてその展開が期待されている。
<処理性能と維持管理>浄化槽の処理性能は、流入水量や汚濁物質流入濃度が一日のなかで大きく異なるにもかかわらず、おおむね良好である。しかしながら、浄化槽の種類使用状況保守点検の状況によって処理性能に差が生じ、透視度、SS、BOD、窒素、リンなどの水質指標からみた処理水の水質に影響を及ぼしている。これを改善するためには、浄化槽の機能向上はもちろん、浄化槽の保守点検、清掃、法定検査に携わる業種の連携協力による有効な施設の維持管理が重要になる。
<岐阜県の状況と取組>岐阜県では、2012年度末の下水道による汚水処理人口普及率(約72.2%)は全国平均(約76.3%)より4%ほど低く、浄化槽などの分散型汚水処理施設が果す役割はより大きい。これらの施設のなか、し尿のみを処理する汲み取り便所単独処理浄化槽は依然多く残っており(総人口の約11%)、雑排水をも処理できる合併処理浄化槽などの汚水処理施設への移行を促進するための対策が必要になっている。一方、汚水処理人口の約12%を占めている合併処理浄化槽については、2007年度の時点で放流水の透視度が30度以上という業界の管理目標に適合している施設は76%であり、適合していない施設は24%であった。このような状況に対処するため、岐阜県内の浄化槽の保守点検、清掃、法定検査をそれぞれ担っている岐阜県環境整備事業協同組合、岐阜県浄化槽保守点検業協同組合、(一財)岐阜県環境管理技術センターは連携強化を図り、浄化槽に対する維持管理の高度化と効率化につながる様々な取り組みを講じている。その成果の1つとして、放流水透視度30度以上に適合している合併処理浄化槽の基数が増加し、2012年度における適合率は90.4%にまで上昇した。残り約10%の適合できていない施設については、原因究明も含め調査研究を岐阜大学と連携して行っているところである。
<特集のねらい>浄化槽放流水の水質改善を目指して、岐阜県内の浄化槽業界が連携協力してなされている様々な取り組みのなか、全国に先駆けて講じている「浄化槽みず再生施設認定制度」、「浄化槽生涯機能保証制度」、「浄化槽維持管理3業種連携及びオンライン化」について紹介する。また、浄化槽放流水とその周辺水域の水質改善に関する調査研究を推進するために、(一財)岐阜県環境管理技術センターによる寄付のもと、岐阜大学内に設置された「みず再生技術研究推進センター」による水質調査結果の一部についても紹介する。

1.岐阜県における生活系汚水処理の課題と改善策
 浄化槽は、東日本大震災等大規模災害における耐震性、復旧時の迅速性、経済性から再評価されたが、下水道と同等以上の施設として真に認識されるには、現行よりも高度な維持管理が不可欠である。現在、これを実現すべく、岐阜県の浄化槽業界が一丸となって取り組んでいる施策を示す。
2.岐阜県独自の浄化槽みず再生施設認定制度
 下水道と同等以上の放流水の確保を目指すため、浄化槽業界の協力のもと(一財)岐阜県環境管理技術センターが、独自の認定基準を設定した「みず再生施設認定制度」の概要を示す。
3.岐阜県浄化槽生涯機能保証制度
 岐阜県浄化槽生涯機能保証制度は、(公社)岐阜県浄化槽連合会が独自に実施している制度であり、平成20年9月に創設された。本制度は一定の条件を満たしている浄化槽の修理等の費用を設置者負担としない制度である。
4.浄化槽維持管理3業種連携及びオンライン化
 岐阜県内の2012年度末の汚水処理人口普及率は82.4%である。一方、汲み取り便所、単独処理浄化槽が17.6%と今だに高率な現状にある。2013年度から岐阜県が進める「清流の国づくり」には河川への汚濁負荷量の削減が重要である。下水道の24時間体制での集中管理に対して、浄化槽の個別管理であるという特性を克服する維持管理体制の構築が求められる。岐阜県の浄化槽業界では3業種連携維持管理システムの構築により業界の維持管理能力を高めてきた。
5.浄化槽放流水の透視度に係わる物質に関する考察
 浄化槽放流水の透視度の向上を図るために、岐阜県内にある28基の合併浄化槽に対して詳細な水質調査を行い、その結果に基づき、処理水の透視度に係わる物質に関する考察を行った。浄化槽の各処理室の透視度に係わる主な物質は懸濁物質であり、そのほとんどは1μm以下の微粒子であること、嫌気第1室の水質が放流水の透視度に深く関係することなどの知見が得られた。

<執筆者>1.渡邉 昇((財)岐阜県環境管理技術センター)/2.赤羽根 智加人・山本 幸男・横井 誠((財)岐阜県環境管理技術センター)/3.渡邊 雅徳・窪田 浩一・間宮 誠紀((財)岐阜県環境管理技術センター)/4.村居 勘二・牧野 好晃・米澤 正昭((財)岐阜県環境管理技術センター)/5.魏 永芬・楊 琨・魏 長潔・安福 克人・奥村 信哉・玉川 貴文・田中 仁・田晶則・李 富生(岐阜大学)

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10月号日本の林業と森林を考える
編集: 誠心エンジニアリング㈱・網本 博孝

<農林業とは>農林業という言葉がある、農業と林業を一括した言葉である。両者は類似点も多いが、林業の主要産物である木材を考えれば、次の2点、①生産サイクルが30~50年と長い点、②木材は建築用素材として鉄、プラスチック、繊維あるいはガラス・磁器などの代替物が多い点、燃料として石油、石炭の代替物がある点が大きな相違である。
<林業の特質>第二次大戦後から現在までの約70年の間に素材や燃料には激変といえるものがあり、農業分野では輸入品の増加、食生活や嗜好の変化程度であるが、林業(木材)に関しては代替物のことも大きな相違となる。林業の持つ特質として
 ①素材(主として建築素材)とその加工品としての特質
 ②薪炭も含めた燃料としての特質
 ③林地での他生物との相互作用(生態学的要素
 ④林地での林道の開削や傾斜地の砂防保全(土木的要素)の必要性など。
これらは、一部農業との類似点はあるがその位置づけが農業に比較し非常に大きな特質といえる。
<特集のねらい>林業の現在置かれた状況と将来について、併せて森林生態の持つ意義について考えるために研究者ばかりでなく、多方面から林業と森林生態のあり方を理解するための企画とした。

1.21世紀、激変した日本の林業界を俯瞰する
 日本の林業は、21世紀に入って大きく変わった。これまで国産材は売れない、人工林の間伐が進まず荒れていると言われてきた。しかし、今や政策主導で国産材の増産が進んでいる。そのため林業現場では機械化が進められ、各地に大面積皆伐が広がりだした。しかし、それでも日本の林業が再生したと言われないのは、木材価格が大きく下落したからである。そこで政策の転変と木材産業の構造変化を追いつつ、今後の森林と林業のあるべき姿を考えたい。
2.日本の林業における近年の状況とその問題
 戦後の林業政策で拡大した人工林は、荒廃した国土を緑で覆うことに成功した。森林の蓄積も戦後2倍以上に人工林だけ見ても4倍以上にもなっている。いま本来なら有効な投資を行い循環可能な資源として、市場に流通させていく時代だ。しかし残念ながら、伐採しても再造林しない森林が増加している。これは結果的に明らかな林業からの資本の引き上げである。これを防ぐためには、制度の整備と育林の思い切った合理化が必要である。
3.林業の新たなパラダイムシフトのために
 歴史的な経緯から人工林はわが国の森林の過半を占めるようになったが、その造林思想は収量至上の材積主義的な森林計画学をベースにしていた。森林の多様な価値は多面的機能と言い換えられ、人工林のみが価値をもたらすという思想から、新たに不可測性の高い価値を含め森林の公益的価値を見直し、造林手法を新しくすべき時期に来ている。これには詳細な森林立地にもとづく新たな適地適木の思想、森林経済の思想を要する。
4.原生林とは? 生態学から考える
 森林からは多様な生態系サービス(多面的機能)が享受されている。最近、この機能性を支えるのは、生物多様性であることが分かりつつある。この文脈により、多様な生物が生息する原生的な森林生態系の保全の重要性がさらに強調される。また、今後、増えすぎた人工林を広葉樹林などへ再生する際にも、原生林は重要な参照システムとなる。そして、保全の対象とする局所だけでなく、天然林の維持に必要な周辺流域の生態系復元も含めた包括的な生態系管理の姿勢が肝要である。
5.古都京都の都市近郊林の意義と今後の課題
 古都京都の三山を中心とした都市近郊林を事例に、生活域にある森林の伝統文化との関わりからの意義と今後の課題を議論した。森林は生活を支える資源の供給の場であるとともに、地域固有の伝統文化や景観を継承し、世界に誇れる木の文化を発信できる場となってきた。希薄化した森林と人との関係を見直し、日常と非日常において、地域固有の価値と普遍的な価値が共存する木の文化を共有し、具体的なかかわりを模索する必要がある。
6.次世代のための森林・林業・木材教育
 普通教育から専門教育に至る森林・林業・木材に関する教育について、持続可能性や林業のガバナンスの視点から1)リテラシー形成指向、2)キャリア形成指向、3)共通価値創造指向を議論のプラットフォームとして検討を進め、現在の教育の課題を分析するとともに、次世代に向けた教育を実現するための継続的なフレームワークとして目標に関する合意形成、教育の範囲と系統性の検討など4点について提案を試みた。

<執筆者>1.田中 淳夫(森林ジャーナリスト)/2.速水 亨(速水林業)/3.高田 研一(NPO・森林再生支援センター)/4.森 章(横浜国立大学)/5.深町 加津枝(京都大学)/6.浅田 茂裕(埼玉大学)

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11月号中国の水環境の現状と水ビジネス
編集: 千葉工業大学名誉教授・瀧 和夫

 今や、中国の大気汚染や産業・生活排水による環境の低下は今日的問題として大きく広がりつつある。農・工業分野にのみならず、漁業においても大きな課題とされており、環境分野における技術協力の重要性を意識するところである。中国政府は、環境の悪化による経済的損失の大きさから、近年、種々の政策を打ち出し、環境問題に対する対策の足取りを速めている。しかし、悪化する事態を改善するまでには至っていない。日中の継続的な協力分野として取り組みの強化が期待されるところである。
 総人口13億4,700万人、2011年の国民1人当たりのGDP 額は約5,432ドル。そして、国土面積9.60 Gm2(世界陸地の6.5%、日本の26倍)が中国である。約4,000年の歴史の中で中国文化が醸成され、環境観が創られたとみることができる。現在の政治体制70年を迎えようとする国が、何に悩み、どのように環境問題を処しようとしているのか。個人の幸福追求から生まれた環境問題が、今やそれまでをも圧し潰そうとしているかのように見える。
 このような社会的流れの中で、本特集では、工・商業分野、農・畜産分野、漁業分野における各産業と水環境の現状、人々の生活排水の現状、環境改善への対策・政策の状況を、そして、持続的環境技術協力において無視できない経済環境の展望について概観することとした。環境分野における持続的技術協力と幅広い経済活動をどのように維持していくべきか、人々の幸福の創成に貢献する手立ては何かを改めて考えてみたい。

1.今日の中国汚水処理に関する現状
 2011年の水資源に関する統計データは、世界主要国の中で中間レベルに中国があることを示している。しかし、水資源の偏在(東と南が豊富で、北と西に乏しい)だけでなく、急速な経済発展によって、水質汚濁も深刻な問題として抱えることとなった。今や質と量において不足しているのが現状であり、水資源の保護と再利用が中国における問題解決の道とみることができる。そして、水資源の保護とリサイクルのための環境技術に大きな関心を持ち、かつ経済的価値の高さを感じているところである。
 現在の中国の都市部および農村部における汚水・排水の現状を、また、それら地域の産業廃水処理について、データ解析を通して考察した。中国は多数の排水処理施設更新の時期であり、かつ、新技術導入の促進を有することが示された。実際のところ、排・廃水処理の分野での膨大な投資は、中国政府によって計画され、政府の政策として、過去数十年の間、進められてきた。今日では、人々は「汚水処理の拒否は水資源を減少させるのみ」を理解し、良好な市場競争環境の下での水資源の保護が将来にわたる水資源の利活用において、重要であると考えるようになってきたと考えられる。そのための、全国都市汚水処理場の49.0%の改造、農村部における低汚水処理率(20%未満)の改善、そして、全国工業廃水処理と再生利用率の向上に向けての模索の状況を述べる。
2.中国における農業畜産廃水の現状と水問題
 中国における一人当たりの水資源量は、世界平均の4分の1に過ぎない。そうした中国が1978年の改革開放以来、驚異的な経済発展とともに、限られた水資源の消費があらゆるセクターで加速している。工場廃水など点汚染源に対する規制は整備されているものの、これを遵守する企業が少ないことから、限られた水資源の利用をさらに狭める結果となっている。
 中国における水利用の特性は、長江以南は表流水の利用率が高く、一方、黄河流域ならびに東北地方は地下水依存率が高い。工業用水生活用水の利用増大に対して、汚水処理が間に合わず、多くの汚水がそのまま河川や湖沼などに放流されているのが実態である。こうした点汚染源に加えて、これからの中国における水需要は、農業排水生活雑排水、さらに家畜飼養など面的汚染源の影響を強く受けた河川、湖沼、地下水などに頼らざるを得ない。
 これらの新たな課題を抱え、中国は水利用の使用制限が加わることになり、深刻な水資源不足の時代を迎える。この危機的な状況を脱するには、点発生源のみならず、特に面的発生源の抑制のための精度の高いセンサスが必須と考える。
3.養殖水産業の現状と課題
 2012年の時点で、中国の養殖生産量は世界の養殖総生産量の6割近くを占めるようになった。中国国内においても、養殖生産が漁業総生産量に占める割合は、60年代の3割未満から2012年の8割近くまでに達した。しかし、周知のように、養殖生産は外部不経済を引き起こしやすいと同時に、外部環境の変化にも影響を受けやすい特徴がある。本稿は、世界で養殖生産量が最も多い中国の養殖業の現状と現段階に抱えている課題について概説する。
4.中国の水処理分野における設備・技術の需要と関連産業の動向
 第12次5ヵ年計画では、従来のSO2及びCOD削減に新しく単位GDP 当りのCO2排出量、アンモニア態窒素と窒素化合物(NOx)削減が拘束性目標に追加された。産業廃水及び都市生活排水による水質汚染の削減対策、汚泥処理対策、生活排水の再生について設備・技術の視点からまとめた。都市下水処理率のアップとともに、今後中小都市、農村部の下水処理場の建設が新たな市場として期待される。
5.中国における水メジャーの動向と水ビジネス市場参入への考察
 WTO(世界貿易機関)加盟と同時に水ビジネス市場が開放され、外資水ビジネス企業はその豊富な実績と資金力、さらに外資にとって、極めて有利な契約条件も相まって、近10年間は正に「至福の時代」であった。現在この外資の「至福の時代」はすでに過去となり外資大手水ビジネス企業の勇姿は見えなくなった。中国水ビジネス市場では外資は排除され、国内有力企業が市場を闊歩している。世界最大の水処理市場として存在感を示す中国、本報告ではその市場の現状と今後の動向をまとめた。

<執筆者>1.内藤 康行((株)チャイナ・ウォーター・リサーチ)/2.今西 信之・章 燕麗(神鋼リサーチ(株))/3.常 清秀(三重大学)/4.谷 學(グリーンブルー(株))/5.張 振家(上海交通大学環境科学与工程学院)

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12月号環境市民運動の論理と実践
編集: 神戸学院大学・古武家 善成

<国内NPOの現状>特定非営利活動促進法(NPO 法)が成立したのは、今から16年前の1998年である。この法律は、特定非営利活動を行う団体に法人格を与えることにより、ボランティア活動など市民が行う自由な社会貢献活動の健全な発展を促進させる目的で制定された。
欧米では宗教の影響もあり市民の社会貢献活動の歴史は長いが、日本では、「ボランティア元年」といわれる阪神・淡路大震災が発生した1995年頃から、市民のボランティア活動が社会的に特に注目されるようになってきた。NPO 法人データベース(http://www.npo-hiroba.or.jp/) によれば、登録・認定されているNPO 法人は52,000団体を超えている。認定の有無に関係なく活動するNGOの数はその何倍にもなると考えられる。
 上記データベース(2006年)の分析によれば、NPO の分野別割合は、保健・医療・福祉:36%、環境保全:11%、学術・文化・芸術・スポーツ:11%、まちづくり:10%、子供の健全育成:9%となっており、これらの分野で約8割を占めている。財政基盤の分析では年間500万円未満の団体が6割を占めていることが示されている。
<NPOの課題>水環境NGO に限定されるが、編者も1994年に全国アンケート調査の解析に関わった経験がある。その結果によると、平均的な水環境NGO は、常勤の有給スタッフがいない会員数500人以下の組織で、年間10~100万円の資金で運営されていた。また、共通の問題点として、資金不足、人材不足、構成メンバーの固定化、高齢化などが挙げられた。
<特集のねらい>日本の環境市民運動は多くの悩みを抱えているが、欧米に比べ規模は小さくても専門的な知識や情報を有し、問題解決への提言を行っている草の根型も少なくない。本特集では、そのようなアクティブな活動を展開している環境市民運動の事例を紹介し、運動の原動力や実践の優れた特徴、さらには課題について掘り下げた。

1.環境市民運動の意義と今後の展開
 1980年代頃より市民による水質など環境測定の活動が盛んに行われるようになった。「身近な水環境の全国一斉調査」は市民と行政の協働により2004年から始まり、2013年まで10年間の延べの参加者数は71,000人、調査は52,400地点に達している。このような環境市民活動(市民環境科学)の発展の経緯と意義およびこれからの展開について概説する。
2.Eボートを用いた水辺環境再生市民運動の展望と課題
 1995年、水辺環境再生市民運動の萌芽期において、「Eボート」という新しいツールが開発され、親水活動と一体となった新たな展開が始まった。地域交流センターを中心とした全国におけるEボートの普及の経緯と、淀川愛好会を中心とした近畿地方における普及の経緯を紹介するとともに、その展望と課題について考察した。
3.市民参加型河川調査の実践と評価―甲府盆地での事例-
 甲府盆地内河川において市民参加型河川調査を始めて15年になろうとしている。データベースには4,000件以上のデータが蓄積されるようになり、行政による水質監視結果を補完する面的な水質情報が得られている。都市部で下水道整備が進み人為的な汚染が少なくなると、自然由来の有機物の存在が浮かび上がってくるようになってきた。水質監視を目的として調査を行う時代から、より広く身近な自然を理解し、それを保全するための市民参加型調査へと、その目的を変える時代に入っている。
4.里山再生をめざす市民運動の意義
 里山という日本語がsatoyama と表現され、COP10を契機に里山の生物多様性の観点から環境保全に関わる役割が評価され、日本国内のみならず世界へと広がってきた。一方、日本において多くの里山が存在する地方は過疎化の進行で保全の担い手がいなくなり、荒廃し、多くの里山が放置されてきた。この里山放置林の再生において市民活動の重要性がますます増してきている。本論文では著者の取り組んできた里山再生を参考に、市民活動の在り方や方向性を論じる。
5.市民運動における科学的視点の役割ー武庫川市民学会の実践
 市民運動における科学的視点の重要性を示すモデルとして、兵庫県の武庫川における総合治水の健全な達成を願う市民活動を展開している武庫川市民学会の設立経緯、およびこれまでの活動内容を具体的に紹介した。総合治水は流域全体の住民の意見を反映すべきという改正河川法の精神に従い、特に科学的側面から、武庫川の自然科学、社会科学を市民とともに学び理解を深め推進する場として、武庫川市民学会の活動意義を述べた。

<執筆者>1.小倉 紀雄(日野市環境情報センター長・東京農工大学名誉教授)/2.澤井 健二(淀川愛好会会長・摂南大学名誉教授)/3.風間 ふたば(みずネット・山梨大学大学院国際流域環境研究センター)/4.熊谷 哲(NPOはりま里山研究所・兵庫県立大学環境人間学部)/5.古武家 善成・村岡 浩爾(武庫川市民学会・神戸学院大学)

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掲載日:2018年01月26日
更新日:2018年07月28日

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