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環境技術 2017


環境技術学会・月刊誌「環境技術」 2017年 特集概要
      目 次 総目次-分野別-
 1月号  2017年 環境行政展望
 2月号  嫌気性菌による原位置での環境修復への展望
 3月号  環境・エネルギーから考えるこれからの建築
 4月号  珪藻類が指標する様々な環境
 5月号  琵琶湖淀川水系における地下水資源の持続可能な利用を目指して
 6月号  海外の廃棄物処理の動向
 7月号  室内空気汚染の低減対策と規制の動向
 8月号  東アジアの環境研究動向 ー大阪市・ソウル特別市・北京市の研究者の協働を例として
 9月号  防災と情報通信・ロボット技術
10月号  浅場機能の復元・再生・創出を目指した環境配慮型構造物
11月号  人工湿地による水環境保全
12月号  生物分布調査における環境DNA 分析の可能性



1月号    2017年 環境行政展望
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 2月号嫌気性菌による原位置での環境修復への展望
編集 2017-02-00 名古屋大学・片山 新太、高見澤 一裕

 大気汚染や水質汚濁と比較して、健康被害が生じにくいことから土壌地下水汚染の浄化が最も遅れており、今後も多くの汚染サイトの浄化が必要と考えられている。微生物の触媒能力を用いた土壌地下水汚染浄化技術は、掘削除去が難しい地下水帯を原位置で浄化することができる安価な浄化技術として期待されている。特に、嫌気性菌による有害有機物の分解は、一般的に酸素がほとんど含まれない地下水帯に酸素を供給することが不要であることから浄化技術として期待が大きい。
 微生物浄化技術は、(1)地下水帯に土着の微生物群による汚染物質の分解(自然減衰)、(2)栄養源注入による土着微生物の活性化による促進分解(バイオスティミュレーション)、(3)栄養源注入とともに分解微生物も加える促進分解(バイオオーグメンテーション)の3つのタイプに分けることができる。汚染化学物質を浄化する微生物に関する研究は、好気性菌・嫌気性菌とも数多く実施され、微生物の分類学的位置、化学物質分解経路と関与遺伝子、分解活性に必要な条件等が明らかにされてきている。嫌気性菌は増殖に時間を要することから、嫌気地下水帯の浄化にバイオオーグメンテーションは有効と考えられる。しかし,浄化技術としては栄養源注入を行うバイオスティミュレーションによる浄化技術が広く用いられつつある一方で、現位置に機能微生物を補填するバイオオーグメンテーション技術は実施例も少ない。
 本特集では、嫌気性菌による原位置での環境修復におけるバイオオーグメンテーションに着目し、原位置での環境修復に有利な嫌気性細菌の利用を巡り、有用菌の取得安全性評価大量培養浄化速度予測およびバイオオーグメンテーションの事例に関して、現状を解説するとともに、今後の嫌気性菌による原位置環境修復技術の展望をまとめた。

2017-02-01 大阪大学・池 道彦〜微生物によるバイオレメディエーション利用指針
 効率的な浄化微生物をラボ等で培養して汚染現場に導入するバイオオーグメンテーション(bioaugmentation)によって行われることが想定される。この手法は,特定微生物の野外開放系利用とみなされるため,バイオハザードを含めた安全性評価を十分踏まえつつ実施する必要がある。この安全性を確保する指針として、2005年に環境省と経済産業省が合同で『微生物によるバイオレメディエーション利用指針』を策定した。バイオレメディエーションの負の側面ともなり得る生態系等への影響をどう捉え、評価するのかを、指針に基づいて考えてみたい。指針の全体を読み解いていくのではなく、主に第3章「生態系等への影響評価の実施」の内容を解説し、考察していくことになる。
2017-02-02 メタ16S解析によるバイオレメディエーションの微生物動態把握
 他の浄化工法に比べ、バイオレメディエーションは浄化の不確実性(長期化)や安全性等への懸念から、市場が期待するほど普及が進んでいない。これらの課題を解決するためには、バイオレメディエーション過程における浄化に関与する微生物群の環境中での挙動を理解することが重要であると考えられている。これまでは、土壌等の環境中に存在する数千種類以上の微生物を対象に解析することは困難であり、その実態はブラックボックスであった。しかし、近年では、新型シーケンサーといったハイスループットな遺伝子解析装置の開発もあり、環境中の微生物種を網羅的にモニタリングできるようになってきた。実施例を挙げて、細菌群解析による影響評価を紹介する。
2017-02-03 メタン生成条件におけるベンゼンの嫌気的生物分解
 塩素化エチレン類の嫌気的脱塩素化と、ベンゼンの好気的分解を逐次的に行うしかない。工期がかかる上に、脱塩素化資材として注入する有機物の分までも好気分解するための酸素が必要となり,効率的でない。もし、ベンゼンも塩素化エチレン類の嫌気的脱塩素化と同時に嫌気的に浄化できれば、メリットも大きい。本稿では、メタン生成条件におけるベンゼン分解に絞り,我々の研究の中心に世界的な研究の動向とあわせて解説する。
2017-02-04 嫌気性脱ハロゲン菌の取得
 我々は,NEDO)・経済産業省からの受託事業「次世代型バイオレメディエーション普及のためのセーフバイオシステムの研究開発」(2010~2014年度)に参画し、バイオオーグメンテーションの普及を妨げる様々な課題の解決に取り組んだ。その結果、国内で初めてDehalococcoides 属細菌の分離に成功し、さらにSulfurospirillum 属細菌によりDehalococcoides 属細菌の増殖が促進されることを世界で初めて発見した。本稿ではこれら細菌の分離とバイオオーグメンテーションへの適用に向けた我々の取組みを紹介する。
2017-02-05 嫌気性菌の大量培養と浄化期間の予測
 我々は、大学の研究室で小スケールな培養器であっても濃縮培養等により、小規模な汚染地に対して機能微生物を培養し供給するシステムの構築ならびに浄化予測技術の確立を目指している。本稿では、このような背景のもと、これまでに行われているDehalococcoides 属細菌(嫌気性脱ハロゲン菌)の大量培養法の動向ならびに我々が行った10L ファーメンターを用いたGeobacter 属細菌の培養結果を紹介するとともに、浄化期間の予測方法について述べる.
2017-02-06 ベンゼン汚染地下水を対象としたバイオレメディエーション技術
 近年では地表近くの汚染源以外は汚染土壌を掘削せずに井戸等を用いて浄化する原位置浄化技術の適用が進められている。本報では、原位置浄化技術を用いてベンゼンで汚染された帯水層(地下水)を浄化する技術開発の現状について概説する。
2017-02-07 塩素化エチレンを対象とした嫌気性バイオレメディエーション技術
 当社は、環境庁「平成10年度土壌汚染浄化新技術確立・実証調査」においてその現場実証を行い、その後数多くの現場でバイオスティミュレーションによる浄化を行っている。また、2008年には、複合微生物系として初めて、利用指針に対する適合確認を経済産業大臣・環境大臣から取得、現在バイオオーグメンテーションの現場適用を進めてきた。ここでは、当社における嫌気性バイオレメディエーションの検討結果と現場適用事例について紹介する。

(執筆者) 2017-02-01 大阪大学・池 道彦/2017-02-02 (独)製品評価技術基盤機構・山副 敦司、他/2017-02-03 東京大学・栗栖 太 /2017-02-04 (独)製品評価技術基盤機構・内野 佳仁/2017-02-05 名古屋工業大学・吉田 奈央子、他/2017-02-06 大成建設技術センター・高畑 陽、他/2017-02-07 栗田工業(株)・奥津 徳也、他

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 3月号環境・エネルギーから考えるこれからの建築
編集: 2017-03-00 元(国研法)産業技術総合研究所・本庄 孝子

 パリ協定で日本は2030年までに、2013年比26%二酸化炭素削減を約束し、その中で民生部門は約40%のCO2排出量の削減が割り当てられた。省エネルギーはオイルショック以後、産業や交通では様々な検討がなされてきたが、住宅では太陽光発電等装置などに限られてきた。住宅関連(以下、住宅)の消費エネルギーは現在、以前に比べ2割ほど増加しており、この省エネ化は緊急の課題である。住宅の省エネ基準が、2013年に変更され、以前よりも厳しくなった。新築の場合2015年度から完全施行となり、2020年には義務化になるといわれている。本特集では、住宅・建物の省エネ対策の提案や事例を紹介している。

2017-03-01 パリ協定・SDGs と建築の低炭素化
 建築分野の低炭素化を促進する世界的枠組みとして、SDGs とパリ協定を指摘。環境負荷L(CO2排出量)の削減と同時に環境品質Q の向上を図るべき。日本の場合住宅の断熱水準の改善が喫緊の課題である。これを進めるための方策として、断熱水準の向上がもたらす健康面の改善というコベネフィットに着目することが有効。
2017-03-02 次世代の省エネ住宅を推進する試み―エネマネハウス・プロジェクト―
 近年、日本国内において、ネット・ゼロ・エネルギー住宅の普及促進が図られている。経済産業省の補助事業として、大学と民間企業の連携によって実際にZEH を建築・展示する「エネマネハウス・プロジェクト」があり、次世代住宅を体感する稀有な機会として、次代を担う学生教育という観点からも優れた試みとして評価されている。
2017-03-03 居住文化から考えた取り組み例
 環境配慮住宅の提案、整備に対する取り組み事例は多い。一方、住まいを考えるとき、暮らし方、居住文化との関係を考えることが重要であり、関西では伝統的な暮らしをベースにした施策展開も図られている。さらに、琵琶湖は広範な下流域の水資源として活用され、水質保全の意識の高さにつながっている。居住文化と水資源の保全という観点で環境配慮の取り組み例を紹介。
2017-03-04 スマートコミュニティの取り組み―堺市晴美台の事例―
 スマートコミュニティの事例として、街全体でのエネルギー自給自足に取り組む晴美台エコモデルタウンについて紹介。2015年度において街全体のエネルギー創出量が消費量の1.28倍であり、エネルギー自給自足を達成。
2017-03-05 住まい方とエネルギー利用についての試算例
 エアコンの設定温度を緩める、不要な照明を消すなどといった家庭での住まい方に係る「すぐにできる行動」による節電効果を指摘。気象条件、家族構成、住宅の断熱性能、部屋の広さ、エアコンの性能といった電力需要に影響を与える様々な条件を考慮したシミュレーションモデルを用いて、世帯間の節電効果の差異を明示。

(執筆者) 2017-03-01 (一財)建築環境・省エネルギー機構・村上 周三/2017-03-02 芝浦工業大学・秋元 孝/2017-03-03 立命館大学・近本 智行/2017-03-04 大和ハウス工業㈱・大槻 卓也・藤本 卓也/2017-03-05 大阪大学・下田 吉之・松岡 綾子

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 4月号珪藻類が指標する様々な環境
編集: 2017-04-00 龍谷大学・根来 健  

 様々な微生物が水質浄化に大きな役割を果たしている。しかし、水中の微細な藻類の一群である珪藻類が、様々な環境指標として用いられていることは、一般に、あまり知られていない。本特集では、環境指標としての珪藻類の事例や研究を紹介する。
2017-04-01 珪藻類と人間の関わり
 珪藻は生物資源として、また、鉱物資源として人類の生活と様々な関わりをもつ生物である。過去から現在、そして未来へ向けての関わりと、その理由がシリカでできた珪藻の殻の形や、殻の形成方法によるところが大きいことなどを紹介する。
2017-04-02 これから珪藻群集の環境指標性を研究する人のために
 河川珪藻群集を環境指標に用いるための研究方法を概説した。目的とする環境要因と珪藻群集との関係を明らかにする際に、行うべき条件統一などを論じた。また珪藻の同定に活用できるウェブページを紹介した。そして、1990年代以降に一般化した統計解析手法のうち、冗長性分析(RDA)、正準対応分析(CCA)、ガウシアンロジット回帰― 最尤較正法(GLR-ML)について簡単に解説した。
2017-04-03 珪藻類が明らかにする過去の巨大地震と津波
 プレートと呼ばれる岩盤の境界では、数百年から数千年に一回程度の割合で超巨大地震が発生する。こうした低頻度の災害を中長期的に予測するためには、地質記録からその発生履歴を知る必要がある。近年,珪藻化石の記録を駆使することにより、過去の地震の特徴や津波の浸水域を知ろうとする試みが注目されてきた。本稿では、筆者が行ってきた研究を中心に、珪藻化石がどのように地震研究に対して貢献できるのかを紹介する。
2017-04-04 水中死体と珪藻検査
 水中死体の肺と死体発見現場や各水域の珪藻検査のデータを数値化するため、遺体の肺1gの珪藻濃度と、死体発見現場その上流~下流水域の水1mLの珪藻濃度と、それぞれに含まれる淡水・汽水・海水珪藻の割合を、珪藻加重平均で数値化し比較している。珪藻加重平均の比較から荒川感潮域を4水域に区分してどの水域に入水したかを推測し、肺と水の珪藻濃度の比較から死後入水か生前入水かを推定することが可能になってきたので紹介する。
2017-04-05 珪藻類による浄水処理障害
 ろ過及び消毒を取り入れた近代水道において、水源で繁殖した珪藻類が浄水場のろ過池を詰まらせる現象は早くから問題となっていた。珪藻類は、他にもろ過水を濁らせたり、浄水に臭いを着けたりする等、浄水処理に関する多くの生物障害を引き起こしてきた。水道分野では、珪藻類による生物障害の軽減に取り組みながら、様々な技術を開発してきた。ここでは、珪藻類が浄水処理に及ぼす影響と、その対策について解説する。

(執筆者) 2017-04-01 東京学芸大学・真山 茂樹/2017-04-02 滋賀県立琵琶湖博物館・大塚 泰介/2017-04-03 (国研法)産業技術総合研究所・澤井 祐紀/2017-04-04 東京大学・中嶋 信、吉田 謙一、槇野 陽介、岩瀬 博太郎/2017-04-05 神奈川県企業庁水道水質センター・北村 壽朗

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 5月号琵琶湖淀川水系における地下水資源の持続可能な利用を目指して
編集: 京都大学・藤川 陽子

 大阪・京都地域では、水道水源として琵琶湖ー淀川水系を利用してきた。しかし、この地域でも、上記水源と並行し、地下水を利用している市町も、京都の南山城や大阪の北部地域に存在する。地下水利用は、水道水源を多様化して災害時のリスクと水道料金を低減化する点で重要なな方策である。加えて、ほどほどの揚水は帯水層の水交換率を高め、過去に人為起源の汚染のあった地下水を浄化する作用もある。
 今回の特集では、大阪・京都地域の地下水利用の事例について紹介している。
2017-05-01 高槻市水道部の地下水利用
 大冠浄水場は、市内に給水する水道水の約3割を担う基幹施設である。良質で豊富な地下水に恵まれ、現在では年間およそ1,200万m3の安定した利用を続けている。本市水道事業は戦後の上水道転換期の需要逼迫、人口急増期の施設整備、有機溶剤による地下水汚染など多くの困難に直面してきた。それら課題に水資源調査・開発や広域水道の受水、汚染除去設備の開発などで対応してきた。地下水の保全を図り、今後も安全な水道水の安定供給を続けていく。
2017-05-02 大阪平野の地下水帯水層と水質構造
 大阪平野と周辺の低山地に賦存する地下水の帯水層構造と流動状態を水質の特徴から概観した。大阪平野は最大層厚が1,500m に及ぶ堆積盆であり、有用な地下水盆である。地下水帯水層は深度と水質、用途などから三つに分類・調査したところ、100m より深い地下水水質は良好であるが、それより浅い場所ではVOC などの過去の汚染が残存している。地下水の適正利用は、水資源確保だけでなく、地下水環境を清浄に保つためにも有効である。
2017-05-03 京都盆地の地下水流動状況
 京都盆地北部を対象にした、井水の主要成分分析に基づく地下水の分類と地下水流動の解析結果について概説した。市街域の地下水の特徴として、浅層で硝酸イオン、塩化物イオンの人為起源物質による無機汚染が観察された。主要成分の存在量と組成の特徴から京都盆地の地下水を四つに分類し、その地理的分布をまとめた。成分組成の類似性の定量的解析により、河川、および地表面の傾斜に沿った地下水流動の傾向が見て取れた。
2017-05-04 大阪― 京都の地下水の水質問題と処理方策―色度,アンモニア等―
 大阪から京都にかけての地域でみられる地下水の利用実態と地下水を上水利用する場合の水質問題を簡単に紹介する。続いて、地下水の上水処理にあたってしばしば問題になるアンモニア、ならびに腐植質有機物や鉄・マンガンにより生じる色度等の除去方策についてまとめる。

(執筆者) 2017-05-01 高槻市・谷口 雅樹・山村 浩之/017-05-02 大阪市立大学・益田 晴恵・新谷 毅/017-05-03 京都教育大学・向井 浩/017-05-04 京都大学・藤川 陽子

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 6月号海外の廃棄物処理の動向
編集: 2017-06-00 元 川重環境エンジニアリング㈱・守岡 修一

 わが国は高度成長期(1960~70年)に廃棄物量の増大に伴い東京都ごみ戦争などを受け、廃棄物処理法(1970年)で一般廃棄物と産業廃棄物を区別し、一般廃棄物は市町村が処理計画とその処理をすることが定められ、廃棄物処理は確実に進められてきた。現在、官から民への委託が目立つようになった。わが国の廃棄物処理は3R循環型社会を目指している.本特集では、海外の廃棄物処理とその方向を解説している。
2017-06-01 世界の廃棄物処理が目指す方向
 世界の廃棄物処理の潮流について、経済発展に伴う廃棄物発生量のトレンド、処理の改善の変遷、廃棄物処理施設が迷惑施設として立地に反対される中で、廃棄物の発生抑制やリサイクルが求められている。生産者や消費者の協力を得て,処理処分量を削減するゼロ・ウエイスト運動が世界で進められてきた流れを紹介し,そして最近では、地球温暖化対策にもつながる埋立処分の回避や廃棄物発電の取組等について概観し、世界の廃棄物処理の潮流を解説する。
2017-06-02 英国の廃棄物処理―政策形成の変遷と実態―
 英国政府が推し進めてきた公共部門の民営化政策は、EU が主導する二つの指令、廃棄物処理優先順位と生分解性都市廃棄物の埋立削減に対応するため、その構造に変化が生じてきた。埋立量減少,リサイクル率向上には成果が見られるものの、廃棄物量の抑制には課題があるとしている。
2017-06-03 ドイツの廃棄物処理の動向―循環経済・廃棄物法と包装政令の動きを中心に―
 ドイツは包装政令で拡大生産者責任により容器包装の削減とリサイクル率は向上し、循環経済法で廃棄物管理の優先順位を定めたが、廃棄物管理を処分からリサイクルへと進める中で脱公営・民営化が生じており、容器包装令改正でその溝が深まりつつある。インフラは官民の垣根を超えた構築が必要であるとしている。
2017-06-04 中国における廃棄物処理の動向分析
 「中国での動向分析」で、急増している都市生活ごみについて、中国国家統計局の統計データの解析と政策行政管理問題の現状を解説し、今後の中国の進むべき方向を示している。
2017-06-05 東南アジアにおける廃棄物マネジメントの最近の動向
 ベトナム、カンボジア、マレーシア、タイ、インドネシアの動向を紹介している。各国共通のこととして収集サービスのカバー率が低く、インフォーマルセクターによるごみ収集・資源化が一般的であり、公共の関与は低い。都市化・工業化が進み処理施設導入を図る機運もあるが、資金問題がネックとなっている。

執筆者 2017-06-01 ㈱廃棄物工学研究所・田中 勝/2017-06-02 ジェトロ・アジア経済研究所・吉田 暢/2017-06-03 (公財)日本生産性本部・喜多川 和典/2017-06-04 城西国際大学・張紀 南/2017-06-05 岡山大学・藤原 健史

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 7月号室内空気汚染の低減対策と規制の動向
編集: 武庫川女子大学・福山 𠀋二

 我が国では1990年代に室内の内装材や生活用品から放散される化学物質汚染が注目され、居住者の健康被害が社会問題となった。厚生省(当時)は検討会を立上げ、2002年にホルムアルデヒド等13物質について室内濃度指針値を策定した。また、WHOでは室内空気汚染を3つに分類し、①湿気とカビ(2009年)、②個別の汚染物質(2010年)、③室内燃料の燃焼(201年)の各ガイドラインを公表している。
 その後の実態調査のデータや個々の化学物質の毒性の新たな知見が蓄積され、ガイドラインの改定に対して、厚生労働省では「シックハウス問題検討会」(2016年~)が開催され、規制項目や指針値の審議が行われている。
 そこで、本特集では室内空気汚染の規制の動向、未規制の室内汚染物質の室内濃度、行政部局の対応、車室内のVOCの低減策、生物系アレルゲンの汚染実態と健康被害等について、各分野の専門家が最新情報をまじえた解説を行っている。
2017-07-01 室内空気質規制に関する諸外国の動向
 室内空気汚染に対しては、個々の物質の室内濃度指針値の策定を中心とした対策が国内外で行われてきた。しかし室内では、類似の毒性を有する低濃度多種類の物質に混合曝露し、フタル酸エステル類のように多経路曝露している物質もある。したがって、一般住民の健康障害を防ぐためには、室内のみならず、生活環境全体に対して包括的に健康リスクを評価し、それぞれの曝露状況や有害性に応じた取り組みを行うことがより一層必要である。
2017-07-02 地方公共団体における室内空気環境問題に対する取り組み状況
 地方公共団体における室内空気環境対策について、行政の主管部局および地方衛生研究所等試験研究機関の実施状況をアンケート方式により調査した。2001年4月に厚生省(当時)は全国の地方公共団体に対していわゆる“シックハウス問題”の相談窓口を設置するよう指導し、ほとんどの地方公共団体が設置した。2014年時点でも相談窓口を設置しているのは都道府県の8割弱、指定都市では9割強を示している。その他の室内空気汚染対策の取り組み状況を組織・予算・学会要望・対策等について把握した。
2017-07-03 新築家屋の室内空気の実態調査
 室内濃度指針値の改定に向けて室内空気の全国実態調査を実施した。その結果,指針値が設けられている揮発性有機化合物については、1,4―ジクロロベンゼン以外、概ね良好な状況であるものの、2―エチル―1―ヘキサノール、テキサノールおよびTXIB など、未規制の揮発性有機化合物が比較的高濃度で検出される住居が存在することが明らかとなった。この実態調査に基づいて、現在、シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会で指針値の改正に向けた審議が行われている。本稿では,その最新の状況を紹介する.
2017-07-04 自動車車室内VOC 低減の取り組み
 車室内VOC(揮発性有機化合物)の低減について、(一社)日本自動車工業会ではより快適な自動車をお客様に提供することを目指し、車室内も居住空間の一部と考え、住宅とは異なる自動車の使われ方や環境を配慮した『車室内VOC測定方法』および『車室内VOC低減に対する自主取り組み』を策定した。厚生労働省の室内濃度に対する指針値指定13物質に対し、乗用車については2007年度発売の新型車から、トラック・バスについては2008年度発売の新型車から指針値を満足させ、その後も車室内VOCを低減させる努力を継続している。本稿では、乗用車を例にとり、自動車車室内VOC低減に対する我々の取り組みを紹介する。
2017-07-05 ダニ・カビ等の生物アレルゲンの室内汚染の実態
 室内アレルゲンとして「ダニ・カビ・ハウスダスト」が重視されていることは、一般にも知られている。その中でもコナヒョウヒダニは最近の住宅の優占種になっている。アレルギー症状の重症化の要因として、室内の乾燥化による鼻や咽喉の乾燥と、Der f 1,Lip b 1,耐乾性Aspergillus への同時感作が懸念される。
2017-07-06 室内空気・ダスト中化学物質と居住者の健康影響
 室内の環境汚染化学物質として13種類のアルデヒド類,29種類の揮発性有機化合物,19種類の準揮発性有機化合物の室内空気中およびハウスダスト中濃度を一般住居で測定した.室内空気指針値濃度を超過したホルムアルデヒド,アセトアルデヒド,パラジクロロベンゼン濃度の高い住居でシックハウス症候群の訴えがあった.床面のハウスダスト中の準揮発性有機化合物はアレルギーとの関連が顕著であった.

(執筆者) 2017-07-01 近畿大学・東 賢一/2017-07-02 しがシックハウス対策研究会・廣瀬 恢/2017-07-03 名城大学・神野 透人・田原 麻衣子・酒井 信夫・香川(田中) 聡子/2017-07-04 (社)自動車工業会・石橋 正人/2017-07-05 ㈱エフシージー総合研究所・川上 裕司/2017-07-06 北海道大学・アイツバマイ ゆふ・荒木 敦子・岸 玲子

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 8月号東アジアの環境研究動向 ー大阪市・ソウル特別市・北京市の研究者の協働を例として
編集: 岐阜大学名誉教授・高見澤 一裕

 国連統計によると、都市部人口は30%(1950年)、54%(2014年)、66%(2050年、推定)と増加しており、とくにアジアとアフリカの都市化の進捗が著しい。
 環境問題は、地球全体に広がり、ローカルな地域でも形を変えて見過ごせない状況となっている。越境する大気汚染は、自国のみでの解決は困難で国際的取組が必須である。今回の特集では、大阪・ソウル・北京の研究者を中心にはじめられた国際フォーラムEPAMで、メガシティを中心とする都市における環境・公衆衛生に取り組んでいる協働研究例を紹介する。

2017-08-01 EPAM の歴史―ソウル特別市― 大阪市廃棄物問題シンポジウムからEPAM へ―
 EPAM(The Forum on Studies of Environmentaland Public Health Issues in Asian Mega-cities)は,都市に起因する環境汚染や都市で生じている公衆衛生学上の様々な問題を、主として日本、韓国、中国の研究者・技術者が集まって情報交換・意見交換をする場である。参加者は、大学,官公庁の研究職や技術職員,企業などの技術者が中心である。EPAM は、学会活動をベースにした国際会議ではなく、大学が主体ではあるが日韓中のさまざまな団体が協力して開催してきたものである。また,EPAM に先立ち大阪市-ソウル特別市環境問題シンポジウムが両市の関係者を中心として開催されてきた歴史がある。シンポジウムから数えると、本年で活動が20年になるのを機に、これまでの活動を振り返ってみた。
2017-08-02 焼却残渣からの金属類回収の可能性―日本のマテリアルフローデータからの検討―
 公表されている金属類の用途と使用量のデータを整理し、製品からの金属類の回収ができずに、焼却・溶融灰へ移行する可能性が高いのはどのような元素なのか検討した。製品を分別回収することが難しく、焼却残渣へ移行する可能性が高い元素としてTi、Se、Sbが考えられた。
2017-08-03 浄化槽の運転条件が処理水質に与える影響
 浄化槽の処理水質向上のための運転条件の知見を得る目的で実施した一般家庭で実際に稼働をしている合併処理浄化槽を対象とした調査・研究の一部を紹介する.窒素負荷に対しては循環水量、有機物負荷に対しては曝気送風量の適切な設定が重要である。
2017-08-04 黄砂時の韓国ソウル市における大気中の真菌群叢の変化
 黄砂による大気浮遊真菌の変化を明確にするため、培養法と分子生物学的な手法を用い黄砂時と非黄砂時における大気中の浮遊性真菌の濃度および群集を比較・分析した。黄砂の流入は、大気中の真菌濃度を増加させ、黄砂時のPM10と高い相関関係を示し、群衆にも影響を及ぼすことが判明した。
2017-08-05 ソウル市におけるVOCs の発生寄与度推定
 PMFレセプターモデルを用い、ソウル市のVOC排出源を推定した。自動車運行に関する移動汚染排出源および有機溶剤供給源がVOC濃度の約80%を占めていることが明らかになった。これらの汚染源に対する管理強化の必要性がある。
2017-08-06 健康な成人の心拍変動に対する交通関連大気汚染と騒音の短期影響
 交通関連の大気汚染物質と騒音の両方が心臓自律神経系機能障害と関連することを明らかにした。大気汚染物質の影響は高騒音レベルで増幅され、心臓血管系のトラブルのリスクを増加させることが示唆された。大気汚染物質と騒音を制御し、軽減することが重要である。

(執筆者) 2017-08-01 岐阜大学・髙見澤 一裕・山本 攻・丁 権・兪 栄植・金 旻永/2017-08-02 大阪市立大学・水谷 聡・阪井 幸太・貫上 佳則・長谷川 浩/2017-08-03 岐阜大学・石黒 泰・藤澤 智成・Yenni TRIANDA・安福 克人・奥村 信哉・玉川 貴文・Joni Aldilla FAJRI・李 富生/2017-08-04 ソウル特別市保健環境研究院・全 恩美・金 銀淑/2017-08-05 ソウル研究院・崔 裕珍・梁 惠蘭/2017-08-06 北京大学公共衛生学院・Jing HUANG・Furong DENG・Henry LU・Yu HAO・ Xinbiao GUO・Shaowei WU

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9月号    防災と情報通信・ロボット技術
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10月号浅場機能の復元・再生・創出を目指した環境配慮型構造物
編集: 2017-10-00 大阪工業大学・駒井 幸雄

 高度成長期における日本沿岸海域の水質汚濁の進行に対して、水環境の回復と保全に向けた様々な施策が講じられ、閉鎖性海域の水質は全体としては改善されつつあるが、生物の回復に至っていない。一方で、沿岸海域には、安全確保の防波堤や産業活動の埋立地などの人工構造物は、海洋生物の生息域を奪っている。社会的に必要な人工構造物に生物生息環境の機能を付与し、豊かな海を取り戻すことも重要である。
 本特集では、海辺の環境配慮型構造物について、現状と課題、港湾での取組、沿岸防災と環境保全の両立、港の直立護岸での環境教育などについて、大学・行政・企業・NPOの関係者が執筆している。

2017-10-01 海辺の環境配慮型構造物の現状と課題
 海辺の環境配慮構造物とは、人が海辺の生き物に気を遣い、生き物と人とが「居り合う」ための構造物と言える。しかし、実際の直立型構造物の生物相をみると、以前そこは砂浜や干潟であって、生息していたであろう魚やカニなどの姿は今は見られず、全く「配慮」がなされていなかったことがわかる。本稿では、「配慮」とは何かを技術に加え、制度的、費用的な面も踏まえ概観する。具体的には、まず構造物の配慮のポイントの概要を、次に環境配慮の課題に着目し、これからの配慮の在り方について述べる。
2017-10-02 閉鎖性海域の水環境保全における環境配慮型構造物の位置付け
 環境配慮型構造物の環境保全施策上の位置付けについて報告する。瀬戸内海では、1960年から1990年の間に約7割の藻場(アマモ場)が、1898年から2006年の間に約5割の干潟が消失したと推計されている。
藻場は、窒素・りんの吸収による富栄養化の防止や魚介類の産卵や仔稚魚などの生息の場の提供、酸素の供給の機能、干潟は、二枚貝等による有機物の分解・除去、窒素・りんの吸収による富栄養化の防止や脱窒による窒素の除去に加え、渡り鳥等の餌場や中継地としての機能など生態系の中で非常に多くの役割を果たしている。また近年は、CO2の吸収・貯留といった機能も注目されている。
 瀬戸内海ではこれらの藻場・干潟などが大きく減少し、藻場・干潟が担っていたこれらの重要な機能も失われ、生態系が大きく変化した。このような状況を受け、瀬戸内海環境保全臨時措置法に基づき、埋立てを厳しく抑制する施策が講じられ、法施行後の沿岸の埋立てのスピードは大幅に抑制された。一方で、その事業の必要性や水質への影響などの一定の要件を満たす場合は許可されたため、1898年から2006年の間に埋め立てられた海面30、000ha のうち、約半数は法律の施行後に失われている。また、高度経済成長期には、備讃瀬戸、備後灘、伊予灘などを中心に建設工事に使用する海砂利の採取が行われた。これは、産卵、夏眠等の場として海砂利に依存するイカナゴの資源量を大きく減少させた要因としても指摘されている。
2017-10-03 港湾における生物共生型港湾構造物の取り組み
 自然再生水質の総量規制ヘドロ浚渫および覆砂等の努力・技術によって、内湾域の水質は1970年代と比較すると良くなった。しかし、赤潮貧酸素水塊は依然として発生し、生物は十分には回復していない。この赤潮や貧酸素水塊の発生要因として、底泥に蓄積された過去の負荷や自然浄化能力の低下が考えられている。例えば東京湾では、1920年頃には湾を取り囲むように136の干潟が存在していた。しかし、1960年頃から埋立が顕著になり2002年の時点で干潟の面積は10(残存率は7%)となった。東京湾に生息する魚類種の97%が干潟を生育場として利用することから、この干潟の減少の影響は内湾生物の生息に大きな影響を与えたと考えられている。
 湾内の生物の生息場は消失や劣化により大きく減少した。この状況を改善する目的で、“自然再生”の考えが生まれた。しかし、港湾における自然再生は、場を元の状態に戻すことを必ずしも目指していない。状態は異なっても、機能が再生され持続されることを目指している。
2017-10-04 浅場機能を有する環境配慮型構造物の設計思想と実例
 高度経済成長期以降、海岸線の多くが直立型構造物となり浅場機能が低下している。一方、我が国では既存の港湾・海岸・漁港施設の多くが老朽化してきている。また、気候変動大規模災害の発生に伴い、設計基準の見直しが進められている。このため、全国的にこれらの改修・再整備が進められているなか、このような直立型構造物に効果的な環境配慮機能を付与することは閉鎖性海域の環境の保全・修復を図るうえで重要な課題である。直立型構造物への環境配慮技術としては、浅場の有する生物生息機能、水質浄化機能、生物生産機能、親水機能に着目した多くの取り組みがなされている。
 ここでは、浅場機能を有する環境配慮型構造物として、直立型構造物に人工浅場を導入した「エコシステム式海域環境保全工法」について紹介する。本工法は、2000年から2004年まで徳島県の徳島小松島港において実施された小規模な実験構造物を用いた仮説・検証・改良の研究開発過程を経て、貧酸素化が生じる愛媛県の三島川之江港の防波堤で事業化されたものである。本事業は「エコシステム式海域環境保全工法適用マニュアル」としてとりまとめられている。事業の計画・設計・施工と5年間にわたるモニタリングの成果を示すとともに、施工後10年経過した2016年のモニタリング調査結果を紹介する。
2017-10-05 生物の生息・生育空間としての緩傾斜護岸の有効性と課題
 護岸の傾斜が緩やかであれば海底の日射量が多くなるとともに、海藻・海草の生育可能な浅い範囲の面積も大きくなるので藻場形成に有利である。また、浅海域、特に潮間帯付近の底生生物は水深に従って顕著な帯状分布を示すので、これも海岸断面の傾斜が緩いほど、生物種の生息可能基盤面積が大きくなる。緩やかに傾斜した断面構造を持つ海岸構造物(緩傾斜護岸)は、垂直に切り立った海岸構造物(垂直護岸)に比べて、生物量が多くなることが期待される。
 大阪湾の関西国際空港島は、周囲の護岸の大部分に石積みの緩傾斜護岸を採用した人工島として知られている。緩傾斜護岸の理由としては、前面海域の利用状況から見た反射波低減の必要性や護岸施工期間短縮の必要性などが挙げられる。さらに、その形状特性から海藻類など海域生物の生育・生息空間となることが期待され、人工的な種苗移植による藻場造成が行われるとともに、生物生息状況のモニタリング調査が実施されてきた。筆者らもここをフィールドにして、護岸生物を対象とした様々な調査や実験を行っている。本稿では、それらの結果から、生物の生息・生育空間としての緩傾斜護岸の有効性と、現時点での課題について考察したい。
2017-10-06 貧酸素化する水域での生物共生護岸の生態学的評価
 閉鎖性水域では、特に水温の上昇する夏季に躍層が発達し、底層貧酸素化する。水深が浅い運河域でも、水深1m~2m 以深になると急激にDO が低下し、底層は貧酸素状態が続き、夏季には無酸素状態となる。これらの沿岸域環境は、生態系にとって貴重な空間となるが、現状の運河域の多くは、直立護岸に囲まれた閉鎖性水域となっている。運河域の底層の貧酸素水は、水温・塩分躍層の形成により、広域に影響が及んでおり、局所的な底質改善では貧酸素水塊の改善策としての効果は期待できない。自然再生には、浅場造成生物共生護岸と組み合わせて考えていかなければならない。これまでは、主にカニ類や貝類等の底生生物を対象として、護岸表面に凹凸をつける等の工夫がされてきた。
運河域あるいは直立護岸に出現する魚類相に関する報告は非常に少なく、東京湾の京浜運河や平潟湾などの数例、あるいは大阪湾や東京湾に関する報告しかない。魚類にとって、都市臨海部の運河域は静穏な水域であり、餌生物も豊富で、大型魚も少ないため、魚類の生活史の一時的な通過場所としてだけではなく、仔稚魚の成育場および汽水域に生息する魚類の主要な生息場として機能する。底層の貧酸素水からの避難場所となる構造物を酸素の豊富な表層に設置し、既設を通じた魚類の出現状況を調査し、運河域を利用する魚類相の特徴を明らかにするとともに、魚類を対象とした生物共生護岸の機能とその役割について明らかにする目的で、現地試験を実施した。
2017-10-07 沿岸防災と環境保全を両立させるコンクリート構造物の開発
 高度成長期、わが国の社会基盤整備は利便性や生産性向上、国土保全等を主眼に進められたが、その画一的な構造は、ときに環境破壊の象徴とも指摘された。1990年代には環境基本法や改正河川法、改正海岸法等において環境配慮の考えが組み込まれ、構造や形状の面でさまざまな工夫が施されてきた。
 港湾等の沿岸域においては、これまで人工干潟や藻場の造成等の事業が実施されてきたが、その多くは環境の再生・創出を目的としたものではなく、航路浚渫土砂の有効利用や埋立て等による環境影響のミティゲーションであった。その背景には、港湾法が「交通の発達及び国土の適正な利用と均衡ある発展に資するため、環境の保全に配慮しつつ、港湾の秩序ある整備と適正な運営を図るとともに、航路を開発し、及び保全すること」を目的としており、環境保全を主たる目的として実施することが難しいという側面がある。
 一方、2015年に改正された瀬戸内海環境保全基本計画では、目標達成のための基本的な施策の一つとして「環境配慮型構造物の採用」が掲げられ、「海岸保全施設の整備・更新など、防災・減災対策の推進に当たっては、自然との共生及び環境との調和に配慮するよう努めるものとする。」と記された。
 これは、港湾等の沿岸域における環境配慮が従前の「開発」対「環境」の対立関係から生まれる配慮ではなく、「防災」や「強靭化」、「老朽化対策」と一体となった新たな配慮の方向性として示されたといえる。ここでは、港湾における「防災」と「環境」の両立を実現した事例を紹介する。
2017-10-08 港の直立護岸を活用した環境教育の取り組み
 2015年10月に改正された瀬戸内法(瀬戸内海環境保全特別措置法)では、沿岸域の良好な環境保全、再生、創出と併せて、地域の多様な主体による活動を推進するための措置を講じるとしており、市民による活動が期待されている。大阪湾再生行動計画(第二期)においては、人と海の関わりの増大が掲げられ、体験学習等による機会創造により豊かな人材を育成する、市民や企業が積極的に関わる海、といった目標のもと、多様な主体の協働による環境教育が推進されている。特に、大阪湾に関心のある個人や団体からなる緩やかなネットワークで繋がる「大阪湾見守りネット」を中心とした協働の推進は、施策の一つでもある。
 このような背景から、干潟や海浜などの浅場を活用した環境教育活動は、数多くみられるようになり、それに参加する市民も増加傾向にある。しかしながら、人間活動と密接に関わる港湾のように、人工構造物で囲まれた海域では、環境問題や経済活動など、海の環境や利用を理解する上で適した場であると考えられるものの、未だ汚い、危ない、臭いといった悪印象が拭えておらず、そうした場での環境教育活動はわずかしかみあたらない。
 本稿では、著者らがこれまで行ってきた、過剰な栄養塩を循環させることにより、環境改善や地域課題の解決を目指す協働の取り組みを紹介し、大阪湾湾奥に位置する尼崎港内の直立護岸を活用した環境教育活動について報告する。

(執筆者) 2017-10-01 上月 康則・中西 敬・大谷 壮介(徳島大学)/2017-10-02 坂口 隆(環境省)/2017-10-03 岡田 知也(国土交通省国土技術政策総合研究所)/2017-10-04 山口 奈津美・山本 秀一((株)エコー)/2017-10-05 日下部 敬之((地独)大阪府立環境農林水産総合研究所)/2017-10-06 竹山 佳奈・岩本 裕之・山中 亮一(五洋建設(株))/2017-10-07 西村 博一・松下 紘資(日建工学(株))/2017-10-08 中岡 禎雄・三好 順也・森 紗綾香(尼崎ネイチャークラブ)

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11月号人工湿地による水環境保全
編集: 2017-11-00 立命館大学・惣田 訓

 湿地とは、淡水や海水に冠水する低地のことで、湿原や湖・沼・水田・ため池・干潟・マングロープ・藻場・サンゴ礁なども含み、水生生物にとっても重要な生息環境である。
 人工湿地とは、それを人工的に再現し、微生物や水生生物などの浄化機能を利用する水環境の保全を主な目的とする。人工湿地では、維持管理が容易で機械類・化学薬品・エネルギーの使用が少ない。また、メタン発酵技術などとの組み合わせも可能である。
 本特集では、人工湿地の浄化機構と普及への課題、人工湿地の国内事例として畜産排水や学生食堂排水の処理、海外事例としてベトナムでの畜産排水やタイでの埋立地浸出水の処理が紹介されている。

2017-11-01 人工湿地の浄化機構と普及への課題
 人工湿地の歴史や浄化機構、課題などをまとめている。
2017-11-02 畜産系有機排水を安定して浄化する伏流式人工湿地ろ過システム
 北海道と岩手の寒冷地における実規模の人工湿地の処理成績や費用のデータは、国内の人工湿地の普及促進の貴重な裏付けとなるものである。
2017-11-03 人工湿地浄化システムの日本とベトナムにおける実用化と展望
 畜産廃水を主な対象として、国内外ですでに18ヵ所の人工湿地の導入をしており,メタン発酵技術との組み合わせや、ベトナムでの事業展開の最新情報も紹介されている。
2017-11-04 花壇型人工湿地による学生食堂排水の処理
 花壇型という人工湿地の形態もユニークながら、大学の食堂排水の処理という実践的な環境教育と連動していることにも特徴がある。
2017-11-05 タイでの埋立地浸出水を対象とした人工湿地の適用可能性の評価
 ごみを直接埋立している処分場の浸出水には、多様な汚染物質が含まれており、降雨や蒸発散なども考慮したパイロットスケールの人工湿地での貴重な研究である。

(執筆者) 2017-11-01 東北工業大学・矢野 篤男/2017-11-02 (国研法)農研機構・加藤 邦彦・井上 京・家次 秀浩・辻 盛生・菅原 保英/2017-11-03 (株)たすく・家次 秀浩・加藤 邦彦/2017-11-04 日本大学・中野 和典・大附 遼太郎・中村 和徳・橋本  純/2017-11-05 (国研法)国立環境研究所・尾形 有香・石垣 智基・蛯江 美孝・山田 正人

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12月号    生物分布調査における環境DNA 分析の可能性
編集: 2017-12-00 神戸学院大学・古武家 善成、 立命館大学・惣田 訓

 DNAによる犯罪捜査・血縁鑑定や作物・家畜の品種鑑定に威力を発揮していることは、一般市民にも広く知られている。
 環境DNAとは、主に水環境中に存在する生物由来DNA断片のことである。1980年代から微生物群構造の解析に用いられ、その後、マクロ生物の在・不在、外来種・希少種の検出やバイオマス推定に環境DNA分析が利用されるようになった。
 本特集では、水域生態系での環境DNAモニタリング手法開発の現状、環境DNAによる外来種・希少種の迅速な検出、水生生物の生物量や季節分布と移動の推定、生物群集の解析、環境DNAモニタリングの課題と展望について、それぞれの専門家が解説を行っている。

2017-12-01 水域生態系における環境DNAモニタリング手法開発の現在
 我々が環境DNAと呼んでいる物のほとんどは、おそらく微生物由来の小さなサイズの粒子あるいは溶存状態で存在しているものであるが、マクロ生物の環境DNAは細胞片や細胞内小器官といった、比較的大きなサイズの粒子として水中にあることを示唆する。いずれにしても、水などの環境媒体は様々な生物のDNAで満たされている。
2017-12-02 環境DNAによる外来種および希少種の迅速な検出
 環境DNAを用いた外来種や希少種の分布推定に焦点を当て、その応用法について解説する。従来の捕獲や目視による調査法と比べ、環境DNA 分析がどのくらいの感度で生物を検出できるのかに加えて、環境DNA 分析に基づく分布推定結果の信頼性についても詳しく触れたい。
2017-12-03 水生動物の生物量,季節分布と移動における環境DNAを用いた推定
 最近の事例を中心に紹介しながら未解明の部分について整理し、個体数や生物量の推定に必要な要因などについて考察する。さらに、対象種の生態的特性を示す,季節的な分布パターンや移動に関する環境DNA を用いたこれまでの事例についても簡単に紹介する。
2017-12-04 環境DNAメタバーコーディング解析による生物群集解析
 MiFish を用いた魚類群集の環境DNA メタバーコーディング解析方法について解説し、次に魚類以外での環境DNA メタバーコーディング解析例として,河川水生昆虫や哺乳類の解析について解説する。最後に、今後の環境DNAメタバーコーディング解析の展望を紹介する。
2017-12-05 環境DNAモニタリング手法の課題と展望
 マクロ生物の環境DNA 分析に関する課題を、環境DNA から得られる情報と実際の生物分布の間の時空間的な齟齬の問題、生死を含む生物の状態を知ることができないという問題、種の判定をDNA 塩基配列データベースに依存するがゆえのデータベース不足に関する問題にわけて状況を整理した。その上で、今後の研究の発展について述べる。

(執筆者) 2017-12-01 神戸大学・源 利文/2017-12-02 大阪大谷大学・内井 喜美子/2017-12-03 島根大学・高原 輝彦/2017-12-04 兵庫県立大学・土居 秀幸/2017-12-05 神戸大学・源 利文・内井 喜美子・高原 輝彦・土居 秀幸

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掲載日:2018年01月25日
更新日:2018年08月19日

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