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環境技術 2011


環境技術学会・月刊誌「環境技術」 2011年 特集概要
      目 次 総目次-分野別-


 1月号  2011環境行政展望
 2月号  生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の成果と課題
 3月号  研究論文特集
 4月号  「地球温暖化」を評価する技術と課題
 5月号  かおりを活かした街づくり
 6月号  バイオマス資源の確保と新技術の導入-上流側からの視点・新思考
 7月号  交通騒音の最近の話題
 8月号  里山・里川・里海
 9月号  アジア・オセアニアにおける水資源問題
10月号  脱ダムを考える
10月号  アナモックス開発最前線
11月号  持続的なエネルギー利用に取り組む高専の技術―高専制度創設50周年記念―
12月号  生ごみ堆肥化の現状


1月号  2011環境行政展望



 2月号生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の成果と課題
編集: 2011-02-00 神戸学院大学・古武家 善成

<生物多様性条約とは> 生物多様性条約(Convention on Biological Diversity;CBD)は、1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議において、“双子の条約 ”である気候変動枠組条約とともに採択された。
 この条約は、希少生物種の取引規制を目的とするワシントン条約や、特定の地域である湿地の生物種の保護を目的とするラムサール条約など、生物保護に関する既存の条約を補完するとともに、生物の多様性の包括的な保全に寄与すると位置付けられており、米国は未締結ながら、現在192ヶ国とEUが締結している。
<同会議の経緯と対立事項> 生物多様性条約・締約国会議は、第1回(ナッソー、1994年)、第2回(ジャカルタ、1995年)に開催され、第3回(ブエノスアイレス、1996年)以降は2年に1回のペースで開催され、第10回COP10、2010年10月18~29日)に名古屋で開催された。
 これまでの締約国会議では、農業・森林・内陸水・沿岸海洋・乾燥地・山岳・島嶼の生物多様性、侵略的外来生物、原住民、エコシステムアプローチ、持続可能な利用などについて議論されてきたが、中でも遺伝資源へのアクセスと利益配分については、世界の自然資源を利用して発展した先進国と植民地時代から生物資源を持ちだされてきた途上国の間での意見の対立が続いていた。
 また、2002年COP6で採択された「生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」という2010年目標については、達成不可能で失敗が明らかになった。新目標の制定に関して、野心的な目標を求める先進国と高い目標が開発抑制につながることを懸念する途上国対立が顕著になってきた。
<名古屋会議の成果> 上記の対立事項に対して、会議最終日になって、遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する国際的枠組みが「名古屋議定書」、新たな戦略目標が「愛知ターゲット」としてようやく採択された。
<特集内容> このように難産の末に合意が得られた生物多様性条約第10回締約国会議(国連地球生きもの会議)について、いろいろな視点から検証することを試みた。生物多様性条約は、生物の多様性を「生態系」、「」、「遺伝子」の3つのレベルから多面的に保全することを意図している。今回の COP10の成果と課題についても、多面的な視点で検証することによりその全貌が明らかになることを期待したい。

2011-02-01 生物多様性の意味およびCOP10の意義と課題
生物多様性の重要性を理解する上で、生態系サービスの概念は重要であり、COP10においてのさまざまな議論でも注目された。名古屋議定書、愛知目標、TEEB報告書と革新的資金メカニズム、IPBESなどの議論と生態系サービスの関係を概説した。今後、生物多様性の主流化を進める必要があるが、そこでも生態系サービスの理解が欠かせない。
2011-02-02 COP10で何が決まり,今度どうなるのか
 2010年10月に名古屋市において生物多様性条約第10回締約国会議が開催された。本会議では条約の次期世界目標であるポスト2010年目標や遺伝資源の利用とそこから生じる利益の公正な配分に関するルールづくりが主要議題として審議され、それぞれ愛知目標名古屋議定書として採択されるなど大きな成果を収めることができた。今後、日本は議長国として率先してこれらの課題に関する国内外の取組を進めていく必要がある。
2011-02-03 生物多様性施策を実現する仕組みと仕掛けの再構築
 COP10では、陸域で17%、海域で10%の保護地域を定めることが採択された。保護地域の設定は、直接的で定量化しやすいが、保護地域の定義や質の確保、維持管理、公共対策の限界などの課題がある。こうした弱点を補うため、市民が取り組むことができる方法論の開発が重要となる。これらを生物多様性施策として主流化するには、評価から実践までを一連の体系として捉えたフレームワークの再構築が必要となる。
2011-02-04 生物多様性条約の意義と課題-NGOの視点から-
 生物多様性条約COP10を、市民社会の側から担うことを目的に結成された生物多様性条約市民ネットワークは、市民団体、個人を集結し、様々な取り組みを行った。COP10の意義の一つは、生物多様性損失の「根本原因」究明の重要性に言及された点にある。縛られない立場で自由にものが言えるNGOこそ核心をついた提案ができる特質を活かし、根本的な視点こそ現実的である時代に応えるべく提言を試みた。
2011-02-05 NGOからの報告-「技術市民」の立場から
 今回のCOP10では意外なことに理論と両輪であるはずのあるべき技術像が見えなかった。環境保全を目的とした生態系サービス型技術は現に存在し、適正技術として地域の生物多様性を担保する役割を担う。今回の会議への種々な参画を振り返って、技術側面から報告する。

<執筆者> 2011-02-01 東北大学・中静 透/2011-02-02 環境省・鳥居 敏男/2011-02-03 兵庫県立大学・三橋 弘宗/2011-02-04 三重大学・高山 進/2011-02-05 伊勢・三河湾流域ネットワーク・井上 祥一郎

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3月号  研究論文特集



 4月号「地球温暖化」を評価する技術と課題
編集: 2011-04-00 大阪工業大学・駒井 幸雄

<気候変動とは> 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(2007年)では、人間活動による二酸化炭素の増大とそれに伴う「地球温暖化」は相当の信頼性をもって確実であるとされている。二酸化炭素が年々増大していることは、ハワイ島のマウナロア山で観測されている二酸化炭素濃度の増加を示す有名なグラフや、南極での観測結果が示すように科学的事実として認識されている 。
<気温観測と将来予測> 地球温暖化については、どのような方法によって観測され、その結果に基づいてどのように評価され将来の予測が行われているのかを知る機会は少ない。
 気温の変化は、地域的な差は大きく、年平均気温には大きな変動がある。世界で気温の観測が始まったのは19世紀半ばからであり、その当時に全地球的な観測網はまだ存在していない。日本の気象観測は明治になって開始されているが、一体どこでどのように観測した結果を使っているのか、現在に至る観測・測定方法の妥当性を判断することは難しい 。
 一地域あるいは一国の気温変化について正確に把握できたとしても、地球全体との関係は別の問題である。地球規模の気温変化の事実認識とその原因を特定し対策を講じるためには、いろいろな時間スケールでの過去の気温変化と原因を知り、科学的認識に基づいた近未来~未来における精度の高い予測が求められる。
<本特集の内容> 地球温暖化の科学的認識に関わる要点をまとめて、地球温暖化の評価や予測に関わる最新の手法や地球温暖化予測の中心技術である気候モデルによるシミュレーションについて分かりやすく解説し、「地球温暖化」の予測可能性と現時点での限界、より信頼ある結果を出すために必要な技術的課題について紹介する。本特集を通して、地球温暖化問題に関わる科学的事実と評価・予測手法に関わる技術的な側面について理解を深める機会となることが期待できる。

2011-04-01 地球温暖化の科学的認識はどのように発達してきたか
 地球温暖化とは、人間活動によって大気中の赤外線吸収・射出物質(温室効果物質)が増えることによる気候変化である。地球温暖化の科学的認識は、物理に基づく理論によって進んだ。とくに放射過程と対流過程を含めた鉛直1次元モデルによる計算が重要だった。気候変化の予測には、大気・海洋結合大循環モデルが使われている。これは、大気・海洋を3次元の格子に分割し、その物理量の変化を物理法則に基づいて計算するものである。
2011-04-02 人工衛星による温室効果気体の全球分布観測技術とその展望
 人工衛星に搭載の分光器で測定される赤外線の輝度スペクトルデータについて、波長ごとの吸収強度の解析を行うことで、温室効果気体の鉛直分布が求められる。観測された濃度データと物質輸送モデルによる予測計算値を組み合わせ、温室効果気体の発生源、吸収源の強度分布を推定するインバージョン解析が可能である。日本の観測衛星GOSATによる観測により、飛躍的にその推定誤差が低減されることが期待されている。
2011-04-03 過去における地球規模の気候変動
 極域氷床や氷河で掘削される氷や、海底や湖沼の堆積物、樹木年輪などから過去の地球表層の温度を推定することができる。過去数十万年間においては、大気中の温室効果ガス濃度も精度良く復元できる。古環境のデータは、過去に起こった気候変動の振幅やスピード、温室効果ガスとの関係などについて、直接観測からは得られない情報とともに、気候モデルのふるまいを検証するための材料を提供する。
2011-04-04 地球全体の平均気温の評価手法
&emsp地球全体の平均気温の評価は、地球温暖化の進行を監視するために不可欠である。これら平均気温の算出には陸上での観測データと海面水温データとを用いるが、両者ともに平年値との差(平年差)を扱うことによって、空間代表性を保ちつつ全球平均処理を行っている。現在は、気温の世界的なデータベース構築に向けた動きが始まっており、今後のこれら気温データの質や公開性の向上が高まることが期待される。
2011-04-05 氷床質量収支に関する研究の現状と課題-衛星データによるグリーンランド氷床と南極氷床の最近の変動-
 地球温暖化に伴い、地球上に現存するグリーンランド氷床と南極氷床の挙動が注目されている。衛星データを用いた最近の氷床の質量収支の観測では、グリーンランド氷床と西南極氷床では減少傾向、東南極氷床では増大から減少の両方の観測結果が示されている。また、GRACE衛星による観測では、グリーンランド氷床では、従来の南部だけでなく、北西部でも融解が進行していることや、これまで安定あるいはわずかに増大していると考えられてきた東南極氷床までも融解しているとする報告も行われている。しかし、衛星データによる氷床質量収支見積もりのばらつきは大きく、将来の海面変化の予測を行うには、まだ精度が不十分である。衛星データの検証のためにも、地上観測がますます重要になってきている。
2011-04-06 気候モデルとそれによるシミュレーション
 気候モデルは、長期的な気候の変化を起こす自然起源及人為起源の強制力に、気象の平均状態である気候がどう応答するかを示す。近未来までの変化には、現在の状態がどうであるかも大きく影響する。日本では現在、IPCCの第5次評価報告書に向けて、地球シミュレータの活用による「21世紀変動予測革新プログラム」の下で、長期予測、近未来予測、極端現象予測などの研究が進展中である。

<執筆者> 2011-04-01 (独)海洋研究開発機構・増田 耕一/2011-04-02 東京大学大気海洋研究所・今須 良一/2011-04-03 国立極地研究所・川村 賢二/2011-04-04 気象庁気象研究所・石原 幸司/2011-04-05 国立極地研究所・三浦 英樹/2011-04-06 (独)海洋研究開発機構・近藤 洋輝

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 5月号‘かおり’を活かした街づくり
編集: 2011-05-00 武庫川女子大学非常勤講師・福山 丈二

<経緯> 1971年に悪臭防止法が公布されてから40年近く経過し、環境省の指導のもとに行政と企業が一体となって悪臭公害をなくすための種々の施策が展開され、その結果、大規模な悪臭発生源工場では脱臭装置も整備され、鼻が曲がるようなひどい悪臭は街から消えていった。しかし、小規模な発生源では臭気対策は遅れ、今なお苦情の発生がみられ、完全には問題が解決していない。
環境省は新たな施策として「かおり環境」という新しい考え方を導入し、市民が身近な良い香りを再発見し、また香りに気づくことにより、不快なにおいの改善に向けての地域活動を活性化させようという事業に取り組んでいる。その最初の試みは「かおり風景百選」で、全国から約600ヶ所からの応募があり、この百選に選考された地域では記念碑等を作成している所もあり、その地域で親しまれた「香り文化」を後世に引き継いでいこうとしている。次に2006年度からは「みどり香るまちづくり企画コンテスト」の事業をスタートさせ、2010年度までに23の地域や団体が受賞し、香りを楽しめる樹木や草花の植栽が進められている。
<特集の内容> 樹木や草花が放つ香りについての基礎的研究についてご紹介し、香りの持つ不思議な力について理解し、それを街づくりにどのように活用していくかについて最新の研究成果を交えて紹介する。

2011-05-01 「みどり香るまちづくり」企画コンテスト
 近年、日常生活における「におい」の問題が増加してきている。こうした問題を改善し、良好な生活環境を実現するためには、従来の規制による対策や苦情対応を行うだけでなく、住民や事業者が自主的に良好な生活環境を作り、保全する取組を行うことが重要となってきている。環境省では、そのような取組の一環として、2006年度より「みどり香るまちづくり企画コンテスト」を実施している。
2011-05-02 森林の香りによる癒し効果
森林の香りは、樹木の葉や幹あるいは下草、枯葉、土壌などから放散される物質がミックスされた複合臭である。針葉樹林からはα – ピネンが広葉樹林からはイソプレンが主な物質として検出される。それらにはヒトを癒す効果の他、抗菌・抗カビ効果、防虫効果、抗酸化作用、有害・悪臭物質の消臭効果などがあることが見い出されており、快適な生活空間の創出において大きく貢献し、総合的にヒトを癒してくれる。
2011-05-03 植物のかおりで紡ぐ生物間相互作用
 自然界で植物は最大の揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds: VOC)発生源である。植物はなぜVOCを放散するのだろう。植物は初め、自身の防衛のためにVOC生成能を獲得したが、やがて植物を取り巻く生物達が植物VOCを利用し始め、その結果、植物VOCが植物と、植物を基点とする生態系を構成する生物達とのコミュニケーション手段として利用されるに至った。本稿では生態系ネットワーク構築に植物VOCが果たす役割について概説する。
2011-05-04 みどりの香りを活かした造園・緑化
 ストレス社会の現在、造園・緑化分野においても従来の環境改善効果だけでなく、療法的効果が期待されている。これまでにも視覚的効果を取り入れた造園計画は多く見られるがストレス緩和に有効なみどりの香りに注目した計画は少ない。今後の造園・緑化分野でみどりの香りを取り入れた植栽計画を推進するためには香りの効果を把握する必要がある。そこで本稿では芳香植物を用いた造園・緑化が利用者の生理・心理に与える効果に関する実験結果を紹介する。
2011-05-05 香り樹木の植栽計画と地域社会の活性化-過去4年間の企画コンテストの受賞企画内容から-
 環境省が、2006年度より行っている「みどり香るまちづくり企画コンテスト」事業で受賞された16ヶ所の地域・団体の企画案の概要を紹介した。これらの企画案は、地域住民の協力のもとに、寂れた地域や施設に香り樹木を植樹・管理して、人々が集い憩える場所を再生することを目的に立案されている。植栽される香り樹木はいずれもその地域の特性を考慮して選ばれ、受賞後は副賞の樹木等が植樹され、育てられている。これらの企画に登場する代表的な香る樹木や草花を一覧表に示し、その特色を示した。各地域に植樹された樹木は地域住民により大事に育てられ、全国に心地良い香りのスポットは広がっている。

<執筆者> 2011-05-01 環境省・大村 卓/2011-05-02 (独)森林総合研究所・大平 辰朗/2011-05-03 山口大学・杉本 貢一、松井 健二/2011-05-04 千葉大学大学院・岩崎 寛/2011-05-05 武庫川女子大学非常勤講師・福山 丈二

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 6月号バイオマス資源の確保と新技術の導入-上流側からの視点・新思考
編集: 2011-06-00 三重大学名誉教授・法貴 誠

<国内バイオマス利活用の状況> 日本においてバイオマス利活用は欧米に比べ遅れている。日本でのバイオマス利用については多くの場合エネルギー変換に重点がおかれ、ともすれば収集や運搬、多段階でのマテリアル利用が看過されてきた。その結果バイオマス利用では資源の収集や確保という大きな課題が未解決で残る。
<収集・運搬の課題> 森林バイオマスの利用に関しては欧米では機械化が進み、安価で収集・運搬ができる。一方、地形が急峻な日本では技術開発が遅れ、道路網も整備されていない。今や衛星を利用した森林管理技術、作業安全と人件費低減のためのロボット技術なども視野に入る。
<法制の課題 もう1つの問題は日本でバイオマスに関する法制が複雑なことである。関係省庁では管轄が複雑にからみ合い同じ性状の汚泥であっても対応は農林水産省、国土交通省、環境省の三省で異なる。さらに、剪定枝や間伐材が取り扱い業者により一般廃棄物になったり、産業廃棄物に分かれたりする。また、籾殻は農林水産省、おがくずは林野庁での扱いになる。バイオマス利活用に関わる自治体や企業が煩雑な事務処理にわずらわされない法制の簡素化・緩和が望まれる。
<特集の内容> バイオマスの上流・中流側いわゆる生産・収集・運搬・処理・マテリアル利用のあり方や課題に焦点を当てる。同時に“Think globally, act locally.”をモットーに、地球規模から地方自治体の現実問題まで広範な内容を取り扱った。本特集はバイオマス資源の上流側を中心にして6編で構成したが、幸いにも幅広い分野から多様なテーマを得た。グローバルで新しい技術的視点、ローカルの現場や運営の課題、さらには生態系を基準とした森林資源の見直しなどの新思考はバイオマス源の確保や利用のあり方、長期ヴィジョンを考える上で示唆するところ大である。

2011-06-01 バイオマス資源の素顔とバイオマス利用の実態
 世界ではバイオマスエネルギーの取り組みが大きくなってきた。我が国ではバイオ燃料への変換が注目されているが世界の活用は木質が主であり、電力より利用をする方がエネルギー効率は高い。我が国は国土の2/3が森林で潜在資源量は大きいが、まだ利活用に多くの課題がある。法整備の確立、固定買取価格制度の導入、収集・運搬等の技術開発、バイオマス教育、SVO(植物油直接)利用等である。バイオマスの利用は小さいが、RPS制度(新エネルギー利用制度)では他の自然エネルギーに比べて多く活用されている。本稿では、バイオマス全体について概観し、さらに具体的バイオマス資源の実態を総説する。
2011-06-02 バイオマス資源の適正評価のための衛星画像、DEMの利用
 2000年頃よりLandsat衛星をはじめ、各種の衛星画像が入手しやすくなった。DEMも、SRTM_DEM以来、ASTER衛星、ALOS衛星からの高精度なDEMが使用可能になった。これらを併用することで、50~100km程度の領域の景観構造がパソコン上で解析可能になった。ここでは、バイオマス資源を一般化して、景観構造の中で特定すべきであったが、最近の研究成果であるナッツの一種ピスタチオの樹木に注目して、最も繁茂しやすい景観構造を解析した。十分満足いく成果ではない。さらに詳しく樹木の体積を求めるために、DEMを2つの成分DTMとDSMに分けることも考えている。前者は地形の標高、後者は樹冠の標高を意味し、両者の差から、樹木の体積を算出しようということである。
2011-06-03 バイオマス生産・環境管理におけるロボット利用
 日本独特の林地条件のため、路網整備および高性能林業機械の導入は容易ではない。枝打ちロボットのように携帯可能な機械や小型で安価な高性能林業機械を林業者は望んでおり、ロボット技術およびセンシング技術等を導入することも可能である。今後は、森林の環境に与える役割を踏まえた上で、1次生産から2次生産における新技術の導入、地域における路網整備の行える仕組み作り、それらに対する国の支援が期待される。
2011-06-04 森林-その資源特性と分子レベルでの新展開-
 森林は、壮大な年月をかけ微少分子(炭酸ガスと水)が巨大複合体を経て再び分子へと転換される一つの流れの場である。生態系を攪乱しない持続的な社会の構築には、森林を“エネルギー”、“機能”、“時間”の因子で動的に理解し、それを材料・原料の持続的な流れとして具現化する新しい社会システムが必須となる。植物系分子複合体の循環設計を解読するとともに、その精密分子リファイニングシステム、循環型材料への展開、そして森林から始まる新しい持続的工業ネットワークについて紹介する。
2011-05-05 エネルギー農作物の栽培から収穫に要するエネルギーの実態と課題
 バイオ燃料原料として農地での栽培が期待されるエネルギー農作物について、10作物の標準的な栽培体系下での栽培に係るエネルギー消費とエネルギー生産の比の試算、非食用米栽培事例における栽培から収穫までのエネルギー消費調査、休耕田での多収米栽培試験の結果から、栽培から収穫までに要するエネルギー消費の実態を示し、エネルギー農作物の持続的な生産と栽培におけるエネルギー消費低減に向けた課題を述べる。
2011-06-06 廃棄物系バイオマスの収集・運搬の現況と課題-現実的なバイオマス利活用
 今後、利活用の推進が求められている家庭系生ゴミの現実的な利活用の事例として、滋賀県甲賀市における生ゴミ再資源化プロジェクトの1)背景、2)導入時の課題、3)本プロジェクトで採用した住民、企業、行政の協働による生ゴミ堆肥化循環システムの概要、4)導入時の取組経緯を紹介する。また、このプロジェクトを通した知見より廃棄物系バイオマスの収集・運搬の現状と課題を整理する。

<執筆者> 2011-06-01 阪南大学・本庄 孝子、土井 和之/2011-06-02 京都大学・鳥井 清司/2011-06-03 京都大学・近藤 直/2011-06-04 三重大学・舩岡 正光/2011-06-05 (独)農研機構 農村工学研究所・清水 夏樹/2011-06-06バイオマス利活用推進会議・井狩 専二郎、西村 俊昭

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 7月号交通騒音の最近の話題
編集: 2011-07-00 藤田技術士事務所・藤田 眞一

 騒音や悪臭は、人の聴覚や嗅覚で直接に感じるものであり、苦情件数も多い。本特集では、人間活動と関係の深い問題である交通騒音を取り上げて、最近の話題等について紹介する。
(1)騒音については騒音源の種類により、その評価方法等が異なる特徴がある。
(2)航空機騒音は、2003年にWECPNLによる環境基準が設定され、長年運用されてきた。2007年に航空機騒音に係る環境基準がWECPNLからLdenに改正された。施行は、2013年4月1日となっており、1年程度の新旧基準の平行測定期間を考慮すると残された時間は少なく、現在、各空港において新環境基準への対応が進められているところである。
成田空港については、すでに新環境基準に対応したデータ処理システムが構築されているが、Ldenについては、地上音等も評価に含まれるため、これらも含めた騒音評価について検討されている。
(3)ピーク騒音レベルをもとに評価値を算出するWECPNL(日本式)とは違い、継続時間における騒音レベルの積分値をもとに評価値を求めるLdenの適用は、関西国際空港や中部国際空港のような海上空港では、陸域での航空機騒音とバックグランド騒音の差が小さいため、航空機騒音の聞こえ始めから終わりまでをどう識別するかなど問題も多い。
(4)鉄軌道騒音については、1975年に新幹線騒音の環境基準が設定された。しかし、在来鉄道の騒音については環境基準がなく、新設大規模改良の在来鉄道については、1995年に、環境省から騒音対策の指針が出され、運用されてきた。2010年には、これまで適用されてこなかった既設の在来鉄道の騒音について測定・評価マニュアルが作成され、同時に、新幹線についても新しい測定・評価マニュアルが作成された。
(5)道路交通騒音については、本誌の2007年10月号において特集されたところであるが、今回はエコカーの音の問題について取り上げる。電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)、ハイブリッド車(HEV)などのエコカーは、今後、確実に普及していくと考えられる。これらの自動車は、エンジン音が非常に小さく静かである。それ故、後方から近づいてきても気が付かないという交通安全上の問題がある。この問題に対しては、交通安全と騒音という両方の観点から検討していく必要があり、各国で検討が始まっている。

2011-07-01 交通騒音に関するわが国の法律・基準体系について
 環境騒音のうち、自動車、鉄道、航空機などの交通機関によって発生される騒音については、わが国では発生源別に異なった騒音評価尺度が用いられており、それによって法律・基準の内容が異なっている。そこで本稿では、まず騒音測定・評価法の基本事項を概説し、わが国における法律・基準の整備状況、およびそれぞれの騒音測定の具体的方法について概説する。
2011-07-02 成田国際空港の新環境基準に対応した航空機騒音監視とその課題
 成田国際空港では開港以降、航空機騒音の発生状況を把握するために、現在まで航空機騒音監視を続けている。
 環境基準による評価方式が2007年にWECPNL からLdenへ改正されたことにより、一昨年、我々は航空機騒音データ処理システムを改修した。新システムの様々な航空機騒音源に対するデータの自動処理方法やデータ確認方法などの処理フロー、運用者の作業量を減らすことを目的とした旧システムからの改善点等について報告する。
2011-07-03 海上空港における新環境基準適用の問題点と解析システム
 航空機騒音に係る環境基準が改正され、評価量がWECPNLからLdenへ変更となる。航空機騒音の影響が大きくない海上空港を対象として測定・評価を行う際の課題をまとめ、それらに対応する解析システムの一例を紹介する。
2011-07-04 鉄道騒音の現状と対策-在来鉄道騒音測定・評価を中心に-
 既存の在来鉄道については、測定方法が定められていないため沿線地域における騒音の発生状況や暴露状況を統一的に把握することができなかった。また、新幹線鉄道については、「新幹線鉄道騒音に係る環境基準」に測定方法等が定められているが、環境基準の達成状況を把握するために、全国的に統一した測定方法を策定する必要が生じた。このため、統一的な測定方法として策定されたそれぞれの測定・評価マニュアルについて解説した。
2011-07-05 静音自動車対策の現状と課題
 近年急速に普及しつつある電気自動車やハイブリッド車に対して、その走行音が非常に静かであり、環境騒音下での自動車走行音聴取が困難であることが歩行者の危険性につながると指摘されている。このような「静音性問題」への対策として、車両の接近を知らせる音を発生する装置(接近通報装置)の開発ならびに利用が始まっている。本稿では、この問題の背景、各国の対策現状と課題、ならびに著者らの取り組みについて紹介する。

<執筆者> 2011-07-01 千葉工業大学・橘 秀樹/2011-07-02 日東紡音響エンジニアリング(株)・忠平 好生/2011-07-03 (財)成田空港周辺地域共生財団・堀 伸司、高橋 重人、長村 憲治/2011-07-04 宮城県保健環境センター・菊地 英男/2011-07-05 長崎大学・山内 勝也

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 8月号里山・里川・里海
編集: 2011-08-00 神戸学院大学・古武家 善成

 「里山・里川・里海」ということばは、いずれも「里」の文字が冠されていることからわかるように、自然または生態系とヒトとの関わりが深い“身近な自然”を示している。これらの地域では、ヒトの適度な関わりと撹乱により高い生物多様性が維持され、様々な生態系サービスが得られた。しかし、過度の人為的撹乱は生態系を劣化させる。今日、里山・里川・里海は、その生態的意義を認識し、wise-useを基礎とした環境保全を早急に進めなければならない地域と考えられている。
 これらの用語の“元祖”は「里山」であり、そのアナロジーとして「里海」、さらには「里川」が使われるようになった。用語の成立時期の違いはこれらの用語の持つ概念の多少の違いを示しているが、本特集では、「里」の文字をキーワードに、いわば横一列に“串刺し”にした形で、その概念と意義について紹介することを意図した。「里山・里川・里海」は、日本の原風景を思い浮かべ郷愁を感じるだけの語ではない。本特集を通して、これらの概念の新しい発展の可能性を受け取っていただきたい。

2011-08-01 生態学と里山・里海・里川
 里山は、今や広く知られることばになった。里海や里川も、それになぞらえて使われ、論じられている。里山の多様なかたち・意味・場所などを考察し、また、これらに共通の「里」とは何かをあれこれと考えることによって、生態学の立場から、里そのものの復権を提唱してみたい。
2011-08-02 里山の概念と意義
 里山は本来、水田耕作のバックヤードとしての山林を意味したが、近年、生物多様性ホットスポット、循環型社会のモデル、美しい心の故郷として、山林部分のみならず水田、畑、灌漑施設、農家なども含めた里地里山(里山ランドスケープ)として評価されている。現代の日本人が考える里は、森林型、混在型、水田型、その他農地型、都市近郊型、海辺型に区分でき、極めて多様な社会生態学的生産ランドスケープを形作ってきた。
2011-08-03 日本の里山・里海評価からSATOYAMAイニシアティブへ
 里山・里海のような社会生態学的生産ランドスケープは、日本のみでなく世界各地に存在し、その持続的な利用・管理は、国際社会においても重要な課題である。本稿では、日本の里山・里海評価とSATOYAMAイニシアティブの二つの取組を概説した上で、SATOYAMAイニシアティブの今後の活動を展望する。
2011-08-04 里川の意味と価値
 新しい概念が新しい施策を生むことがある。「里川」という新しい概念の提起は、水質汚染に対するひとつの有効な施策として考え出されたものである。そして里川の実現は、同時に、人びとに水空間との接触による「やすらぎ」という心理的効果をもたらすことが期待できる。この概念はコモンズという利用と所有のあり方と強く関連性をもっていて、それは現在の社会の動向に呼応するものである。
2011-08-05 里海と沿岸域統合管理
 「人手をかけることで生物多様性生産性が高くなった沿岸海域」である里海を創生するための種々の問題点とその克服に関する事柄を紹介し、物質循環の最下流に位置する沿岸海域で生物多様性を高くするための、上流の山・里・川も含めた沿岸域統合管理の在り方について論じる。

<執筆者> 2011-08-01 京都大学名誉教授・川那部 浩哉/2011-08-02 京都大学・森本 幸裕/2011-08-03 国際連合大学高等研究所・中尾 文子・西 麻衣子/2011-08-04 早稲田大学・鳥越 皓之/2011-08-05 九州大学・柳 哲雄

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 9月号アジア・オセアニアにおける水資源問題
編集: 2011-09-00 京都大学・藤川 陽子

<特集企画の経緯>
環境技術学会主催としては初めての国際研究集会「アジア・オセアニア水資源利用ネットワーク構築ワークショップ」が京都市(2010年11月23~25日)において行われた。
 ワークショップのセッション等の概要は以下に示すとおりである。
Welcome Meeting(11月23日)、Ⅰ.アジア・オセアニアにおける水資源・環境の現状(11月24日)、Ⅱ.気候変動の自然と社会経済への影響及び適応策(11月25日)、Ⅲ.アジア・オセアニア水資源計画研究会(仮称)設立提案および討論会(11月25日夕方)。
ワークショップでは、14本のプレゼンテーションがあり、またコメンテーターによる6件のコメントがあった。聴講して感じたのは、日本側が主導・実施したアジア各国の水資源に関する研究が、ぶ厚い内容・量を持つことであった。一般に、学術団体による様々な研究成果を社会に還元する体制は、日本においては、まだ十全でないと思われる。日本の研究機関によるこれらの研究成果が、研究対象となった国の中においてどの程度、普及・活用されているのかも、興味ある点である。
 本特集は、ワークショップでの日本の各演者の内容および海外の参加者の一部の講演内容を要約して構成している。
<アジア地域における水資源問題>
(1)アジア地域における水資源の過不足、すなわち洪水と渇水の問題は本特集の砂田氏の論説(特集2)に詳しい。使用できる水は、メコン川のような大河においても、乾季と雨季の顕著な流量の季節性のため、実際は、比較的少ないことが指摘されている。特に農業における水資源の需要と供給の関係は、極めて複雑であることがわかる。砂田氏の論説は幅広い国の大河の状況が述べられており、読者の皆様においてはぜひ参考にされたい。
(2)アジア各国における気候変動の影響と対応策については、仲上氏の論説(特集3)に詳しい。例えばメコン河の流域においては、地域間の気温差の拡大、雨季の降雨量の増加や乾季の期間の延長、大雨の頻度の増加、洪水の増加と規模の拡大等が気候変動の影響として想定されている。メコン河流域諸国では高い経済成長率が達成される国も出る一方、行き過ぎた開発が自然破壊貧富の格差問題も生じていることが指摘されている。例えばカンボジアやラオス等は渇水や洪水に対する脆弱性の高い国家も存在している。同じメコン河流域の国家でも、気候変動への対応策の整備状況には格差があり、メコン圏一体となった流域管理は必要であるものの、まだ道は遠いことを感じさせられた。
(3)インドネシアにおいては自然林の消失が著しいこと、また稲作地の開発のため地下水位の低下した泥炭地で、乾燥した泥炭の微生物分解および火災がおこり、泥炭が二酸化炭素放出源となっていることが大崎氏の論説(特集4)に述べられている。インドネシアはこれらの効果を勘案すると世界でも3位の GHG排出国になっているとも推算されている。
(3)アジアにおける水質問題については、池氏(特集5)および福士氏(特集6)の論説がある。中国大河での魚類の異常に人工物質が関係している可能性、バングラデシュにおける地下水の砒素汚染問題など、いずれもワークショップで耳目を集めた話題である。
(4)マレーシア、タイ、ベトナム、インドネシア、オーストラリア、ニュージーランドからの参加者による講演においては、気候変動の影響および適応方策について、報告があった。この内容は筆者がとりまとめて、特集の一報としている。

2011-09-01 アジア・オセアニアにおける水資源問題-環境技術学会主催・国際ワークショップ報告
 (省略)
2011-09-02 アジアの河川流域における水問題
 アジアの典型的な河川流域の水問題について、洪水・水不足・水環境の面から、その背景と対応の現況を眺める。遊水地機能の復活をめざす長江、国際河川のメコン河、シルダリア川、チグリス・ユーフラテス川の課題、流域の開発と河道変化を抱えるチャオプラヤ川、ブランタス川、陸水による伝統的な水資源を断念するヨルダン川、水質の改善が急がれるサイゴン川、ヤムナ川など、水課題の構造水管理政策のあり方を考察する。
2011-09-03 メコン河流域開発と気候変動への戦略的適応策
 メコン河流域における気候変動に関する研究は、様々な機関により展開されており、地域間の気温差の拡大、雨季の降雨量の増加や乾季の期間の延長、大雨の頻度の増加やメコンデルタにおける洪水の増加と規模の拡大等が指摘されている。メコン河流域の国際機関および、カンボジア・ラオス・タイ・ベトナム各国政府、その他の研究機関における、気候変動に関する水資源適応策研究についてレビューを行った。
2011-09-04 熱帯の泥炭地域の水・炭素が地球生態系に与える影響
 東南アジア島嶼部には、熱帯泥炭湿地森林「水の森」が存在する。ここには、膨大な量の炭素と水が貯留されている。しかし、開発圧と気候変動により、「水の森」が崩壊の危機に瀕している。この生態系の崩壊は、地球生態・環境に深刻な影響を及ぼし、さらなる負のフィードバックループを形成する可能性が指摘される。
2011-09-05 中国での下水再利用に伴うレチノイン酸受容体アゴニストのリスク
水資源の不足はアジアの多くの国にとって持続的な社会発展を妨げる重大な問題の一つとなっている。水資源不足を解消する有効な対策の一つである都市下水の再利用には、人間や生態系を脅かし得る未知のリスクが潜んでいる。本稿では、下水再利用に潜在する未知の内分泌攪乱リスクの一例として、我々が発見したレチノイン酸受容体アゴニストによる魚毒性について、発見から原因究明に至る一連の研究成果を紹介する。
2011-09-06 バングラデシュにおける水と食を通じたヒ素問題
 バングラデシュでは地下水や土壌にヒ素が高濃度で存在し、飲料水の健康リスクが高い。さらに、近年、灌漑用水のヒ素が問題視され、それによるコメの収量低下や健康リスクの増大が懸念されている。飲料水に関しては有効な処理方法が開発されており、改良も進んでいるが、灌漑用水からヒ素を除去する工学的方法はまだ決定的な方法がない。今後、バングラデシュの食と水の安全を巡り国際的なパートナーシップの構築が必要である。

<執筆者> 2011-09-01 京都大学・藤川 陽子/2011-09-02 山梨大学 ・砂田 憲吾/2011-09-03 立命館大学・仲上 健一、濱崎 宏則、野中 淳子/2011-09-04 北海道大学・大崎 満/2011-09-05 大阪大学・池 道彦、清 和成、井上 大介/2011-09-06 東京大学・福士 謙介、松田 浩敬、尾崎 宏和、小野 あをい

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10月号脱ダムを考える
編集: 2011-10-00 国土工営コンサルタンツ(株)・足立 考之

 ダム建設そのものでなく、「いま、脱ダムをめぐって何が起こっているか」を考えたい。一昨年の民主党政権発足とともに突如飛び出したダム建設廃止宣言は、自民党政権の公共事業を次々中止する新政権の意欲を見せ、ダム問題に対する国民的関心を喚起した。だが、その後の経緯はさまざまな異相を示し、脱ダムは新たな転換期をむかえたといえる。
<脱ダムとその課題>一般に、ダム事業は地域住民の同意がなければ事業が進まない。また住民の反対が強いと話し合いや説得に時間が費やされ、高度経済成長期に策定された事業計画が50年を過ぎた現在でも工事が続き事業費が膨らむ。脱ダムを判断した場合でも、中止の際の補償・生活再建・環境整備など、法律や予算の裏づけが必要となる。治水・利水などは上流水没地下流受益地をふくむ流域全体の意見調整をはかって決定しているので、脱ダムは水源地の地域振興をふくめさまざまな計画の見直しが必要になるなど、あらたな課題が浮き彫りとなってくる。そのうえ八ッ場ダムに象徴されるように、中止ダムの現場で代替地整備や道路橋梁などの予算がついた工事が続行されている。脱ダム問題は国民の皮膚感覚から程遠い異様さを示している。
<特集のねらい>脱ダムはどのような正念場をむかえたのか。ダム事業をはじめ大型事業の必要性を判断するのは難しい。これまでおおきなプロジェクトは閣議、議会、各種審議会などで確認されることになっているが、いつ、だれが、どのような形で決定したかが見えない。今日のように必要性をめぐって賛否が分かれる時代になると、政策内容の決定に加えて、政策決定プロセスそのものが問われているのである。この特集を通じわたしたちは新たな視界で脱ダム問題を観てきた。その意味を深くかみしめたい。

2011-10-01 脱ダム宣言」政策の挑戦と第3の道の模索
 脱ダムをめぐる諸相を国際的な潮流の中で俯瞰し、淀川水系流域委員会での対立と合意形成の検証がわが国の脱ダム問題を解くに重要であるとみている。そのうえ単なる脱ダムでなく公共政策のパラダイムシフトの必要性に言及している。最近の異常豪雨・気象変動と重ね合わせると、きわめて今日的な示唆がふくまれている。
2011-10-02 ダム・河口堰問題から山村地域を考える
 長良川河口堰反対運動を起点とした脱ダムの系譜を詳述するとともに、ダム事業によってさまざまな不利益をこうむってきた山村地域の混乱は、ダム中止でもおさまらないと、その受苦の実相を明らかにしている。流域の視点での財政トランスファーが有効であるという考えは、ポスト脱ダムをめぐる侃々諤々の議論に欠かせない。
2011-10-03 公共事業の廃止・変更と損失補償
 公共事業計画者にはその事業中止をふくめ、どこまでの法的責任があるのか、行政の計画担保責任にかかるさまざまな判例、学説をふまえ、脱ダムに伴う水源地域振興の法的根拠を論じている。河川法や特定多目的ダム法などダムを作る場合の法律はあるが、ダムを中止する場合の法律はない。脱ダムの制度めぐってあらたな法的枠組みを考えることの意義は大きい。
2011-10-04 「できるだけダムに頼らない治水」への転換は実現するのか
 淀川水系流域委員会等で脱ダムの現場をリードしてきた経験と知見を踏まえ、ダム事業中止の仕組みの危うさや、事業審査システムの硬直化、情報ブラックボックスなどの問題を指摘にしている。

<執筆者> 2011-10-01 立命館大学・仲上 健一/2011-10-02 法政大学・伊藤 達也/2011-10-03 創価大学・宮﨑 淳/2011-10-04 (株)樽徳商店・宮本 博司


10月号アナモックス開発最前線
    (株)タクマ宍田健一
 排水処理において窒素の除去方法として採用されるのは、硝化脱窒を基本原理とする生物処理の場合が多い。硝化脱窒は、アンモニアなどの窒素化合物を生物の作用により酸化して硝酸とし、これをBOD成分で還元して窒素ガス化するものである。これに対し、近年嫌気性アンモニア酸化(anearobic ammonium oxidation: アナモックス)の開発が進んでいる。アナモックス法は1990年代に新規に発見された窒素変換反応で、海外を中心に導入が進められるとともに、国内でも導入検討が進んでいる。アナモックス法は、亜硝酸とアンモニアを基質として窒素ガス化する方法であり、BODの添加を必要としない。硝酸までの酸化が不要で曝気動力を低減できる(省エネルギー)、滞留時間が短く設置面積を小さくできる、増殖速度が遅いため余剰汚泥量が少なくなるなど、様々な特長を有する。
 アナモックス法はBOD/N比の低い廃水に特に適した方法であり、とくに下水処理場におけるメタン発酵(汚泥消化)の脱水ろ液に対する開発が精力的に進められている。この脱水ろ液にアナモックス法を適用することで、従来の下水処理に負荷をかけることなく、省エネルギーでコンパクトな処理システムの構築が期待できる。本特集では、このようなアナモックス法の実用化に向けた動きのなか、アナモックス法について紹介するとともに、下水を対象としたアナモックス法の開発状況について特集した。
2011-10-01 アナモックス技術の展望
       熊本大学 古川憲治

2011-10-02 下水処理におけるアナモックス技術の実用化
       日本下水道事業団 橋本敏一

 当事業団では、下水処理場の汚泥処理返流水を対象としたアナモックスプロセスについて、民間企業との共同研究を実施するとともに、その研究成果に基づいて「アナモックス反応を利用した窒素除去技術」の技術評価を行って、下水処理への適用性や処理特徴、設計・運転手法等を体系化している。本稿では、アナモックスプロセスの特徴と技術評価の概要について紹介する。
2011-10-03 包括固定化担体を用いたアナモックス法
       (株)日立プラントテクノロジー 井坂和一

 アナモックス反応を用いたシステム開発での課題を述べるとともに、その解決方法として“包括固定化法”を用いた微生物の固定化技術について紹介する。処理システムとしては、二槽型システムと簡易な一槽型システムがあり、これらの開発例について、実証試験等のデータを基に説明する。
2011-10-04 グラニュール汚泥を利用したアナモックス法
       メタウォーター(株) 武田茂樹

 グラニュール汚泥を利用したアナモックス法の、下水処理場脱水分離液の窒素処理への適用を検討した。アナモックス法の安定化に必要な前処理を試み、そして前処理を施せば、T-N除去率85%以上を安定的に維持すること、安定的に自動制御運転できること、ランニングコストを従来法より大幅に削減できることを確認した。
2011-10-05 付着固定化担体を用いた2槽式アナモックス法
       (株)タクマ 高木啓太・奥田正彦

 付着固定化担体を用いた2槽式アナモックス法の適用性を検証するため、下水処理場の消化汚泥脱水ろ液からのNH4+-N除去を目的に実証実験を実施した。約580日に亘る連続運転で、亜硝酸化処理の長期的な運転制御方法が確立され、アナモックス処理の高負荷運転が確認できたことから、本プロセスの有用性が示された。


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11月号  持続的なエネルギー利用に取り組む高専の技術―高専制度創設50周年記念―


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11月号  持続的なエネルギー利用に取り組む高専の技術―高専制度創設50周年記念―



12月号生ごみ堆肥化の現状
編集: 2011-12-00 龍谷大学・竺 文彦

 かつて、都市において家庭ごみが増加してきてその処理に困った時、ヨーロッパではごみを焼却しているということを知り、ヨーロッパからごみ焼却の技術を学んで、ごみの焼却施設を造り始めた。その結果、現在、日本はごみの焼却大国となり、世界の焼却施設の半分以上が日本にあるといわれている。焼却施設においても、日本はヨーロッパを追い越してしまったのである。
 ところが、ヨーロッパにおいては、生ごみ処理に関しては、焼却によるダイオキシン地球温暖化などの問題から、ホットなものはホットに、クールなものはクールに処理するとして、家庭ごみの生ごみを分別し堆肥化する方向への転換が進んだのである。最近は、メタン発酵も多くなっている。
 日本では、生ごみは燃えるごみとして焼却することが衛生的な処理方法であるとする前世紀の考え方から抜け出せず、生ごみは依然として可燃ごみとして焼却されている。また、ごみのリサイクルと言えば、細かに何種類にも分別し、再生利用することに重点が置かれているが、無駄なコストやエネルギーをかけていることが多いのではないだろうか。循環型社会の第一歩は、家庭ごみの3割から4割を占める生ごみの堆肥化である。水分の多い生ごみを分別して堆肥化やメタン発酵を行い、紙やプラスチックは焼却して電力や蒸気を取り出すということが、地球温暖化やエネルギーの観点から、大変重要である。
 堆肥化のシステムを実施するためには、堆肥を利用する農地との連携が必要である。大津市の事例においては、生産された堆肥は各家庭に循環して消費され、堆肥は製品として出てこない。都市部においても適用が可能な堆肥化システムであると考えられ興味深い。本特集は循環社会における家庭ごみの処理システムに対する一つの提案である。

2011-12-01 生ごみ堆肥化の取り組みと課題
 生ごみ堆肥化に関する事例紹介にあたり、堆肥化の技術・歴史日本における堆肥化の状況・制度・施設などについて概説を行い、ヨーロッパの現状について紹介する。堆肥化の状況は、日本とヨーロッパでは異なっており、ヨーロッパでは生ごみの堆肥化と可燃ごみのエネルギー利用が進んでいるのに対し、日本では生ごみを可燃物として焼却しており、堆肥化が進んでいない。
2011-12-02 北海道長沼町における堆肥化について─健康な土づくりと生ごみのリサイクル
 長沼町のごみ収集処理は、隣接する南幌町及び由仁町の3町で構成する一部事務組合「南空知公衆衛生組合」で行っている。生ごみについては、長沼町が整備した「長沼町堆肥生産センター」を活用し堆肥化処理を行っている。長沼町では、生ごみと籾殻を原料に堆肥(コンポスト)を生産し、それを農地に還元することで地力増進を図ろうと、1983年に「長沼町堆肥生産センター」を整備した。
2011-12-03 香取市の循環型農業における生ごみ(野菜残さ)堆肥の活用
 千葉県香取市に位置する(農)和郷園グループでは自社の野菜加工場と納入先のスーパーから発生する野菜残さを堆肥及び液肥(メタン発酵消化液)に加工している。それらは農地に肥料として還元され、安心・安全野菜に生まれ変わり再び加工場、スーパーに供給されている。ここに循環型農業が達成されている。処理される残さはおよそ年間1,500トンである。
2011-12-04 名張市における生ごみ堆肥化実験について
 名張市では2010~2012年度を計画期間とする「ごみゼロ社会を目指すアクションプログラム(第三次アクションプログラム)」を実施している。25品目の分別によるごみの適正処理を推進するため、未実施品目となっている生ごみの資源化を図ることにより、さらなる資源循環型社会の実現を目指すこととしている。
2011-12-05 大津市における民間企業主体による生ゴミ堆肥化
 地域の生ゴミ堆肥化は行政主体で実施されることが多い中で、旧志賀町(現大津市)では、民間企業が主体となり推進・運営している。2011年12月の伊香立コンポストセンターの稼働開始より、約9か月間で3,000世帯の住民の方から活動内容の理解を得て、参加を募ることができた。一民間企業による生ゴミ堆肥化の重要性と、メリットを地域住民に普及していった経緯を、旧志賀町の地域性とともに紹介する。
2011-12-06 食品リサイクル法に関連する堆肥化事例 (門真市)
年間の排出量が1,000万トンとも2,000万トンとも言われる食品廃棄物。これらのほとんどが有効活用されずに廃棄されている。門真市日映志賀㈱は、食品リサイクル法に対応すべく、施設の立地をあえて都市近郊とし、絶えず都市より排出される食品廃棄物を処理している。

<執筆者> 2011-12-01 龍谷大学・竺 文彦/2011-12-02 長沼町堆肥生産センター・山本 利幸/2011-12-03 山田バイオマスプラント・阿部 邦夫/2011-12-04 近畿環境サービス(株)・石橋威人/2011-12-05 (株)日映 志賀・関本 哲裕/2011-12-06 辰巳環境開発(株)・辰巳 秀司

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掲載日:2018年01月26日
更新日:2018年08月08日

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