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環境技術 2009


環境技術学会・月刊誌「環境技術」 2009年 特集号の概要
      目 次 総目次-分野別-
 1月号 2009年環境行政展望
 2月号 京都の景観と都市環境
 3月号 農林畜産業からみたバイオマス利用の課題と展望
 4月号 最終処分場のあたらしい考え方のために
 5月号 中国における水環境管理および排水処理の現況
 6月号 バラスト水問題の現状と対策
 7月号 ヒートアイランドの対策技術
 8月号 あらためて「リスク問題」を考える
 9月号 アスベストの管理と測定
10月号 環境教育プロジェクトのアジアでの展開-「戦略的環境リーダー育成拠点形成」プログラムについて-
11月号 バイオディーゼル廃グリセロールの有効利活用技術、(特別企画)-第8回水道技術国際シンポジウム報告
12月号 メタン発酵技術の新しい展開


1月号  2009年環境行政展望



 2月号京都の景観と都市環境
編集: 2009-02-00 (財)国際エメックスセンター・古武家 善成

 現代社会では人口の都市への集中が大きな特徴であり、国内でも8割の国民が都市に居住している。そのために、都市環境の質は多くの人々にとって大きな関心事となっている。
<都市景観> 都市の環境問題は、これまで、大気汚染、河川の汚濁、土壌汚染など古くから都市公害として認識されていた汚染問題が中心であった。しかし、これらの問題が長年の行政的対応により激甚状態から脱するにつれて、よりよい住環境への欲求が強まり、都市景観への関心が高まっている。このような社会の動きを背景に、2004年には景観法も制定された。
<京都における新景観政策> 京都は1200年以上の歴史を有し、1994年に「古都京都の文化財」が文化遺産としてユネスコ世界遺産に登録されるなど、古くから優れた景観美を誇ってきた。そのため、とりわけ京都では景観問題が繰り返し議論されてきた。1960年代の京都タワー景観論争(第一次景観論争)、1990年代の京都ホテル高層化問題(1994)、鴨川フランス風歩道橋(ポンデザール橋)架橋計画(1996~8)JR京都駅ビル建設問題(1997)など(第二次景、観論争)はその典型である。そして、2007年9月には、歴史的な都市景観を維持するため、景観法制定を踏まえた新景観政策が実施されている。
<特集の内容> このような背景がある京都の都市環境と景観問題に焦点を当て、都市環境問題の中で景観をどのように考えるべきかについて、再考する機会を提供することを意図した。

2009-02-01 平安京の環境史
 現代京都の原点と位置づけられる平安京の環境を地理学、考古学、地質学の切り口で詳述いただいた。GISを用いて可視化された平安京の景観シミュレーションから、自然環境をうまく取り入れた当時のまちづくりが浮かび上がるなど、興味深いデータが記述されている。
2009-02-02 京都市の都市環境-環境衛生工学的視点からの現状と課題-
 現代京都の都市環境問題を網羅的に記述いただいた。大気や水(河川)環境から音や香りの環境まで、京都の環境の現状が“一望”できる内容となっている。
2009-02-03 京都の都市問題-ヒートアイランド現象からのアプローチ-
 京都市の都市問題をヒートアイランド現象から論じていただいた。京都の多くの都市環境問題への対応策の中で、ヒートアイランド対策が高層ビルの抑制やマイカー規制を促進させる「新景観政策」と強く関係することが理解できる内容となっている。
2009-02-04 鴨川の水環境と景観
 京都の代表的な景観を形成する鴨川の水環境と周辺の景観について、過去から現代まで掘り下げていただいた。“そぞろ歩きする人の視点”とも言うべきユニークな記述が展開されている。

<執筆者> 2009-02-01 立命館大学・河角 龍典/2009-02-02 京都大学・米田 稔/2009-02-03 京都精華大学・山田 國廣/2009-02-0 京都産業大学・勝矢 淳雄

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 3月号農林畜産業からみたバイオマス利用の課題と展望
編集: 2009-03-00 内外エンジニアリング(株)・土井 和之

 バイオマスにとって騒がしい2007年から2008年が過ぎた。石油の高騰からバイオ燃料がもてはやされたかと思うと、一転、食料価格高騰の原因とされた。そして、2009年初頭、石油価格は下落し、落ち着きを取り戻している。
<利活用への国の施策> 国におけるバイオマス利活用の推進施策はバイオマス・ニッポン総合戦略をもとに実行されている。最初の総合戦略は2002年に閣議決定され、京都議定書の発効を経て2006年に改定された。総合戦略では設備導入支援、研究開発促進、モデル事業創設、人材育成、海外への関与が謳われている。2008年10月には農林漁業バイオ燃料法が施行に至り、バイオ燃料製造事業者に対して固定資産税の減免などが措置されている。また、エタノール混合ガソリンのエタノールにかかる揮発油税、地方道路税の減免、バイオマス利活用施設の所得税、法人税等の優遇が決定された。
<利活用の経済性と強化施策> バイオマス利活用事業がビジネスとして成り立つのかということがよく話題になる。公共部門を除けば、エネルギーをはじめバイオマスを原料として製造する製品は、化石資源から製造する製品との競合を強いられる。化石資源をふんだんに使い大量消費を認めるという価値観で成り立つ社会システムのなかで、バイオマスが化石資源に立ち向かうには、現状の事業導入補助を中心とした支援に加えてさらなる強化施策が必要と考える。
<利活用の効果> バイオマスはその多くが農山漁村に存在している。バイオマス・ニッポン総合戦略ではバイオマス利活用の効果として農林漁業・農山漁村の活性化を期待している。
 資源産出の場として農林漁業・農山漁村から家畜排泄物等の廃棄物系資源、稲わら・籾殻・間伐材などの未利用資源が多く発生し、さらにはバイオ燃料の原料である糖・デンプン・セルロース生産作物の栽培も検討されている。これらを利活用することは、地域の環境改善雇用創出、森林の健康維持に大きく貢献する。また、利用されない農地の活用により耕作放棄が防止できる。余剰農作物の利用用途拡大の期待もある。
<利活用の製品> バイオマスを変換した製品の利用の場としては、堆肥、発酵消化液、炭化物を農地に利用することで化学肥料や農薬の使用量が減少し、農地土壌の活力が増進する。バイオ燃料などバイオマスエネルギーによる農林業エネルギーの自給、カーボンニュートラルを根拠とする温室効果ガス削減というような効果もある。
 変換過程における革新的な技術やバイオマスの多段階利用、さらにバイオマスリファイナリー技術の開発は農山村の産業振興に寄与する。
<利活用の課題> こうしたメリットに対し、食料・飼料との競合、堆肥の農地への過剰投入による地下水汚染、資源作物栽培や間伐材の収集・運搬において顕著に見られる経済性の問題、変換過程で発生する廃棄物処理、また、エネルギー収支でマイナスになるのではないかという疑問にも答えていかねばならないなどバイオマス利活用は課題も山積している。
<特集の内容> このようにバイオマス利用と農林畜産業そして農山村の環境や地域振興は関わりが深い。本特集では、農林畜産業分野及び生物学分野のバイオマス研究者に日本を中心に東南アジアを含めて農林業・農山村への影響、さらには里山保全を加味したバイオマス利活用の現状や課題将来展望を各研究者の研究状況を踏まえ執筆いただいた。

2009-03-01 農村におけるバイオマスリファイナリー(複合システム)の構築実証―宮古島での研究から―
2009-03-02 藻類によるバイオ燃料生産の展望
2009-03-03 廃棄物バイオマスとしての家畜排泄物の堆肥利用
2009-03-04 林業の活性化と木質バイオマス利用の拡大
2009-03-05 国産液体バイオ燃料生産の評価と課題
2009-03-06 東南アジアにおけるバイオマスの利活用-現状と課題-
2009-03-07 里山林の木質バイオマス利用と里山林の保全
2009-03-08 地域におけるバイオマス総合利活用シナリオの評価手法

<執筆者> 2009-03-01 (独)農研機構農村工学研究所・凌 祥之/2009-03-02 筑波大学・渡邉 信/2009-03-03 (独)農研機構畜産草地研究所・羽賀 清典/2009-03-04 (独)森林総合研究所・山本 幸一/2009-03-05(独)農研機構農村工学研究所・上田 達己/2009-03-06 三重大学名誉教授・法貴 誠/2009-03-07 岐阜県立森林文化アカデミー・田端 英雄/2009-03-08 内外エンジニアリング(株)・土井 和之・森本 英嗣・柚山 義人・仲上 健一

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 4月号最終処分場のあたらしい考え方のために
編集: 2009-04-00 元大阪人間科学大学・福永 勲

<廃棄物の最終処分場> 本誌では、廃棄物最終処分場に関する特集として、過去10年間に、「浸出水処理技術」(2002, Vol.31, No.8)、「諸外国の廃棄物最終処分場」(2003, Vol.32, No.8)、「再生技術と早期安定化」(2004, Vol.33, No.2)を取り上げた。その流れは、いずれも最終処分場を効率的に利用し、延命化を図り、かつ早期に安定化して、跡地利用を図ることを主眼とするものであった。
<循環型社会の廃棄物> その後約5年経過し、上記の考えは留意しつつも、地球温暖化問題とも関連して、地球資源の効率的利用、すなわち最終処分(埋立)する廃棄物を減少させる考えが強まり、また早期安定化のためにも埋立物を選別、あるいは事前処理しようとする考えが強まってきた。
 このような流れの中で、折しも第2次「循環型社会形成推進基本計画」が、2008年3月閣議決定された。本特集に関係するところでは、2000年度の資源生産性:26万円/トン、循環利用率:10%、最終処分量:5,700万トンを、2015年度にはそれぞれ42万円(約6割向上)14~15%(約4~5割向上)、2,300万トン(約6割削、減)としようとする計画で、最終処分量だけ見ても、2006年度実績の3,080万トンからもさらに 25%以上削減する必要に迫られている。
<最終処分の3要素> このような時代にあって、昨年2008年度廃棄物学会・研究討論集会において、「社会システムとしての持続可能な最終処分:高規格最終処分とは」という研究発表がなされた。その発表の目的は、埋立処分への 1)入れる物(廃棄物)、2)いれもの(施設・構造)、3)入れ方(埋立工法や維持管理方法・概念)の3要素から捉え、受け入れる廃棄物の選択や前処理などの上流対策も含めた「トータルな社会システムとしての高規格な最終処分場の構築」を目指したものであった。
<特集の内容> 本特集は、あたらしい考え方に沿った最終処分場について、入れるもの入れもの入れ方の3要素から、それぞれの専門家による解説を企画した。今回の特集と5年以上前の最終処分場・特集を読み比べると、流れが大きく変わってきていることが理解できる。

2009-04-01 あたらしい最終処分場について
 あたらしい最終処分場の流れについて既設から新設処分場、さらに最終処分場からの脱却について解説した。
2009-04-02 最終処分場へ向かう産業廃棄物の流れ
 産業廃棄物の流れについてあたらしい考え方を整理した。
2009-04-03 混合廃棄物破砕選別処理と埋立廃棄物の品質
入れるものを減容化及び早期安定化のために廃棄物を破砕・選別、洗浄する方法の検討結果を報告した。
2009-04-04 埋立廃棄物の安定化促進と循環資源化のための埋立方法の検討
入れるものの改善の方法として、焼却灰への有機物(生ごみ)の添加によって、脱塩、早期安定化をし、その安定化物をセメント原料にすることを目指すというあたらしい研究結果を報告した。
2009-04-05 覆土と廃棄物層の透過性改善による早期安定化の促進朝倉 宏
入れもの改善の方法として、覆土と廃棄物層の透水性を改善して、早期安定化を目指した結果を報告した。
2009-04-06 堆肥化物の覆土利用による焼却残渣主体の埋立地の土壌還元化
入れ方(入れもの)改善の方法として、堆肥化物の覆土による焼却残渣の早期土壌還元を報告した。
2009-04-07 最終処分場に対する住民意識
入れ方研究の一つとして、ごみ処理施設に対する住民の印象などをアンケート結果に基づいて報告した。

<執筆者> 2009-04-01 福岡大学・樋口 壯太郎/2009-04-02 (独)国立環境研究所・山田 正人・遠藤 和人・井上 雄三/2009-04-03 埼玉県環境科学国際センター・渡辺 洋一/2009-04-04 (独)国立環境研究所・朝倉 宏・山田 正人・遠藤 和人・井上 雄三・小野 雄策/2009-04-05 九州大学・島岡 隆行/2009-04-06 福岡大学・立藤 綾子・松藤 康司/2009-04-07 北海道大学・松藤 敏彦

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 5月号中国における水環境管理および排水処理の現況
編集: 2009-05-00 東北大学・李 玉友

<中国の経済発展と都市化> 1978年から改革・開放政策を実施して以来、経済の高速で持続的発展を実現し、急速な都市化、工業化が進み、現在「新興国」の代表として注目されるようになった。世界銀行の統計によれば、2000~2007年における中国の国内総生産(GDP)の年平均成長率は9.88%に達している。また、人口総数の増加と都市化の進展により都市人口は急速に増えてきた。2007年度の統計によれば中国における都市人口は5.93億人に達して全人口の44.9%を占めるようになった。このように中国は過去30年間にわたる持続的改革政策の実施により都市建設経済発展において大きな成果を上げることができた。
<中国の環境問題> 長年にわたり、経済発展という「最重要課題」を優先した結果、大気汚染、水質汚染などへの対応が遅れ、環境問題が深刻になってきた。最近、日中関係の緊密化が進み、環境・省エネルギー分野での協力関係は政府・企業・研究者などの様々なレベルで重要視されており、東アジア環境共同体という認識も芽生え始めている。中国の環境状況は一体どうなっているのか? 水質汚染は本当に大丈夫なのか? 環境管理・排水処理をどの程度行っているのか? これらの問題は日本でも強く関心を持たれているところである。筆者の持っている情報で中国の環境問題を概説すると、まず次の3点を指摘できよう。
 (1) 問題は依然として深刻である。(2) 中国政府は環境問題を重視し始めた。(3) 部分的ではあるが、改善の兆しがある。
<環境問題への対策と成果> 問題の深刻さに関しては、北京・天津などの大都市の大気汚染、全国7大水系の水質状況を見れば明らかである。これらの問題に対して中国政府も真剣に取り組み始めている。法規・環境基準の整備だけではなく、幹部業績の評価基準にも環境業績が問われている。一例として、中央政府による幹部任用において、いわゆる環境管理の「否定票」(いくら経済指標がよくても環境問題が放棄された場合、落第となる)は役割を発揮し始めている。中国のような政府組織体系ではこの点は特に重要である。近年、政府関係者が「生態都市建設」を強調することはこの点を物語っている。ある意味では政治レベルにおいて「グリーン・ニューディール」がすでに始まっていると言えよう。
水環境の改善に関する兆しは、まず政府の施政計画に見られる。第11回5ヶ年計画(2006~2010年)において、水環境改善のため莫大な投資を計画している。また実務でも、大きな進展が見られる。最新の統計によれば、2008年12月末までに建設竣工した下水処理場は1543施設で、処理能力は8900万平方メートル/年に達している。私は昨年、天津市の下水処理や中水利用状況を見学したことがあり、その際、最新の施設が稼働し。よく機能していることがとても印象に残った。また。資料によれば、大都市では下水の二級処理はかなり普及していることが分かる。
<特集の内容> 中国の水環境分野で活躍している専門家に依頼して、それぞれの研究内容に関連しつつ、水資源の開発と保全、排水処理、環境管理対策など幅広い視点で最新の進展を紹介している。その内容は、全国概況のまとめ、揚子江流域の環境管理、北京・上海の大都市および内陸地域の水環境対策と排水処理など、多岐にわたっている。本特集に掲載した8件論文の責任著者は、全員、日本留学の経験があり、水環境の研究実績が多いだけでなく、日本語も堪能である。

2009-05-01 中国における水環境汚染状況と管理対策
2009-05-02 中国における水質汚染と排水処理の現状
2009-05-03 長江流域における水環境の現状と課題
2009-05-04 中国西北地方における水資源の現状と水質汚染対策
2009-05-05 北京市の下水処理状況
2009-05-06 上海市の水環境の現状と管理対策
2009-05-07 貴陽市の水源地である紅楓湖、百花湖の汚染現状および回復対策
2009-05-08 中国における都市下水汚泥の処理現況

<執筆者> 2009-05-01 清華大学・胡 洪営・劉 超翔/2009-05-02 上海交通大学・● 春鳳/2009-05-03 (独)国立環境研究所・徐 開欽・蛯江美孝・稲森悠平/2009-05-04 西安建築科技大学・王 暁昌・任 勇翔/2009-05-05 中国科学院生態環境研究センター・楊 敏・周 軍・廣辻淳二/2009-05-06 同済大学・金 放鳴/2009-05-07 北京工業大学・張 岩/2009-05-08 天津大学・池 勇志・張 書延・李 玉友

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 6月号バラスト水問題の現状と対策
編集: 2009-06-00 大阪産業大学・菅原 正孝

<バラスト水の規制と管理> バラスト水とは、船舶が荷揚げ港で積み荷を降ろした後、船舶に積む海水である。これによって船舶はバランスを保って荷積み港まで安全な航海ができる。この海水は、荷積み港で排出される。バラスト水には細菌や水生生物が含まれており、排出先の生態系に影響を与え、漁業被害を引き起こし、人の健康への影響が懸念される。
国際海事機関は、2004年2月「船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約」を採択し、その後ガイドラインをとりまとめた。バラスト水の排出基準が定められ、新しい船舶については、2009年以降バラスト水処理装置の搭載が義務付けられることになった。こうした背景のもとで、バラスト水処理技術は世界的規模で開発されてきた。
<特集のねらいと内容> バラスト水の規制に関わる国際的な動向国内の対応、および技術開発の進展について取り上げている。
 バラスト水問題は、そもそも、世界的な規模での生物の移動問題ということにある。生物の移動という点から見れば、バラスト水の他に、船体の付着物や水産物など多岐にわたり、問題の根本的な解決を図ることは容易なことではない。もっと大きな枠組みのもとでの議論が必要であることを示唆していると言える。
 本特集では、(1) バラスト水を介しての生物の移動に関するそもそもの問題とは何なのか、また、(2) 移動を阻止するための対策技術にはどのようなものがあるのか、(3) その効果はどの程度期待できるのか、等々、読者諸氏に関心を抱いて頂ければと考えている。
水処理技術という点では、バラスト水処理は、工場廃水処理や生活排水処理と同じ範疇であるが、まるで異なった発想・考え方が必要であるといえる。通常の排水処理とは、大きく異なる点をいくつかあげることができる。まず、対象となる水は、淡水ではなく、塩分濃度の高い海水であり、除去対象となる物質は海水中の生物である。このように排水特性そのものに特徴がある。
装置の設置場所は船舶であることから様々な制約条件がある。その上、排水基準値は相当厳しいものであり、時間あたりの処理水量も大きく設定しなければならない。ということは、従来の水処理技術の常識をはるかに超えるところで設計・管理を行わなければ、到底期待される機能を備えたシステムの構築はおぼつかない。
 法規制がいかに強化されても、それを遵守できるような適正で経済的なシステム開発がともなわなければ、実質的には海洋生態系への影響を低減することにはならない。効率よく、かつ安価に処理できるシステム開発が求められている。排出基準の施行の日程が決まっている関係でシステムの開発は急務である。そのためいろいろな技術開発面での提携も進められてきている。例えば、国内国外の企業が単独あるいは共同で行うほか、協会や組合のもと数社が協力しての開発などいわゆるグローバルな開発レースがくり広げられている現状である。
 本特集でも指摘されているように、技術的な趨勢は、微生物の除去には物理的方法だけでの対応は難しく、化学的方法も併用せざるをえないが、その場合、化学薬品やその反応の結果生ずる排水の有害性の有無についても十分な検証が欠かせない。システムの承認についての過剰とも思える審査・試験の手続きが必要な理由がここにあるといえる。システムの出来次第で、新たにより大きな環境汚染問題を誘発することも考えられるからである。

2009-06-01 バラスト水管理条約とその実施に関する動向
2009-06-02 バラスト水の海洋環境への影響とその対策
2009-06-03 凝集磁気分離技術を用いた日立バラスト浄化システム
2009-06-04 オゾン利用によるバラスト水処理システムの開発
2009-06-05 脱酸素によるバラスト水処理装置-三菱VOSシステム-
2009-06-06 複合処理方式によるバラスト水処理システム

<執筆者> 2009-06-01 国土交通省海事局・国際基準調整官:大坪 新一郎・作田 朋巳/2009-06-02 (株)水圏科学コンサルタント・吉田 勝美/2009-06-03 ㈱日立プラントテクノロジー・武村 清和/2009-06-04 三井造船株式会社・植木 修次/2009-06-05 三菱化工機株式会社・池田 勇/2009-06-06 JFEエンジニアリング(株)・猪子 正邦

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 7月号ヒートアイランドの対策技術
編集: 2009-07-00 環境アドバイザー・藤田 眞一

<都市の気温上昇> 我が国の気温はこの100年間で全国平均が約1℃上昇しており、大阪では2.1℃、東京に至っては3.0℃上昇している。このような気温上昇には、地球温暖化の影響の他、特に都市域においてはヒートアイランド現象を含む都市温暖化の傾向が原因となっている。
 ヒートアイランドは第2の温暖化と言われている。地球温暖化に加えて、ヒートアイランドによる気温上昇が進行すると、その影響を緩和するため、冷房設備によるさらなるエネルギーを使用することで、温室効果ガスの排出を増加させるなど悪循環を招くことになる。ヒートアイランド問題は、地球温暖化問題が人類全てに関わる問題であることと同様に、都市に生活する全ての人が関わる問題である。
<気温上昇の対策> 温室効果ガス削減のために都市におけるエネルギー使用量を低減するには、ヒートアイランドを緩和するための対策が必須である。省エネルギーや自然エネルギー利用促進などの温室効果ガス排出削減対策と、都市の懸熱や潜熱を低下させるヒートアイランド緩和対策が相まって温室効果ガス削減対策がより効果をもたらすとともに、快適で健康な都市生活が実現される。
政府は、本年6月に、省エネルギーや自然エネルギーの普及を促進するなどにより2020年までに温室効果ガスを2005年比で15%削減する中期目標を公表した。そのためには、可処分所得の減額や燃料費の値上がりにより1世帯あたり年間約7万6000円の負担増になると試算されており、国民一人一人がかなりの経済的負担を荷なわなければならない。しかし、見方を変えると、経済投資が集中的に省エネルギーや自然エネルギーなどの環境対策に向けられ、経済の活性化が促進されることを意味している。このことは、ヒートアイランドの対策技術の普及にも言えることである。
<特集の内容> 2006年7月号で「都市空間の温度管理(ヒートアイランド)」について特集したが、今回は、ヒートアイランド対する緩和技術の分野に着目して特集する。ヒートアイランドの対策技術には、個別の建物や施設に対する対策から、土地利用を含めて都市構造を改善する大規模な対策など多様なものが必要となる。

2009-07-01 ヒートアイランドの対策技術について
 都市計画分野の対策も含めたヒートアイランド対策技術全般についての解説。
2009-07-02 ヒートアイランド対策のための建築材料開発の現状
 ヒートアイランド対策のための建築材料の開発の現状についての解説。
2009-07-03 遮熱・高反射率塗料の原理・動向と評価結果について
遮熱性塗料・高反射性塗料の原理と開発の動向及びその評価の解説。
2009-07-04 屋上・壁面緑化の現状とその技術普及に向けて
 ヒートアイランド緩和技術としての屋上緑化・壁面緑化の現状とその普及については、サツマイモによる屋上緑化技術の事例も含めての紹介。
2009-07-05 人工排熱低減技術の現状と課題
 ヒートアイランドの原因となる重要な要素の一つである人工廃熱の低減技術の現状とその課題についての解説。
2009-07-06 韓国・チョンゲチョン(清渓川)復元によるヒートアイランド緩和効果についての紹介。
 韓国ソウルにおいて高架道路緑と水に置き換え都市環境の改善を試みた事例とその効果についての紹介。

<執筆者> 2009-07-01 神戸大学・森山 正和/2009-07-07 (財)建材試験センター・藤本 哲夫/2009-07-03 ロックペイント(株)・田村 昌隆/2009-07-04 大阪府立大学・北宅 善昭/2009-07-05大阪市立大学・中尾 正喜/2009-07-06 帝京大学・三上 岳彦

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 8月号あらためて「リスク問題」を考える
編集: 2009-08-00 (財)国際エメックスセンター・古武家善成

 今や、社会の中で「リスク」という言葉は抵抗なく使用され、経済危機の昨今では、「リスク」の文字が新聞紙面をにぎわせている。国内では、日本リスク研究学会が設立されて21年、前身のリスク分析学会設立からは約30年が過ぎ、「リスク論」は「リスク学」へと体系化されてきた。
 「リスク」の全体像は、一般市民はもとより環境分野の専門家にも十分理解されているとは言えない。これまでの特集企画においても、リスクコミュニケーションや個別事象のリスク評価については取り上げられたが、「リスク問題」全体を見通した企画は扱われてこなかった。そこで、あらためて「リスク問題」を取り上げることにした。
 本特集の構成は、この分野の全体像および各論として食品および化学物質の分野からリスク論を論じている。一般的にリスクは、「生じる可能性はまれだが、生じると重大な影響を及ぼすネガティブな事柄」と認識されている。しかし、リスクはプラスの方向性も内包する。例えば、地球温暖化の環境リスクから炭素クレジットの市場メカニズムが生まれ、経済的価値が派生していることが好例である。 それでは、新興の学問分野であるリスク学とはどのようなものか。リスク認知について、専門家と一般人の間で大きく異なっていることは、よく知られている。そのギャップをいかに埋めるか、論文には示唆に富んだ指摘が散りばめられている。身の回りのリスク問題についてあらためて考える機会としたい。

2009-08-01 リスク学の展望-巻頭言にかえて-
 環境リスク研究が、リスクのプラス面を内部化して統合管理することでリスク学へ発展する展望を、簡潔に述べている。
2009-08-02 環境マネジメントに資するリスク評価の基盤形成について-詳細リスク評価と教育の経験に基づいて-
 リスク学の中心であるリスク評価リスク管理リスクコミュニケーションの体系を遠望するとともに、その基盤となるキャパシティビルディングの重要性を展開している。
 現代人がリスクと「共存」するためには、他律的な付き合い方を示すリスク「管理」から、自律的な対応を示すリスク「ガバナンス(統治)」へと成熟化しなければならない。論文では、リスク学がその羅針盤となることが論述されている。
2009-08-03 リスク分析の社会的受容
 リスクコミュニケーションはリスク学の柱の一つであるが、リスク概念を社会に浸透させるには最も重要な要素とされる。このリスクコミュニケーションに焦点を当て、社会科学の立場から、コミュニケーションの土台であるリスク認知の心理について詳述している
2009-08-04 食品におけるリスクを考える-安全と安心のギャップはなぜ起きる-
 「食品への不安感」の検証を通して、リスク問題が展開されている。専門家と一般消費者との間の食品リスク認知の違いが述べられているが、「生産者と消費者の信頼関係再構築が重要」との指摘は、ギャップを埋めるための方向性を示している。
2009-08-05 化学物質のリスク管理の枠組みとリスクコミュニケーション
 化学物質の中には、人体および生態系への有害性が強い種類が少なくない。化学物質のリスクへの対応は早くから行われてきたが、評価、管理、コミュニケーションのどの面においても、問題がまだ内在していることが明らかにされている。
2009-08-06 新しい健康リスク評価法の提案
 2009-08-05と同様。


<執筆者> 2009-08-01 関西大学・盛岡 通/2009-08-02 大阪大学・東海 明宏/2009-08-03 同志社大学・中谷内 一也/2009-08-04 (独)農研機構食品総合研究所・関澤 純/2009-08-05 京都大学名誉教授・内山 巌雄/2009-08-06 京都大学・森澤 眞輔・中山 亜紀

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 9月号アスベストの管理と測定
編集: 2009-09-00 大阪産業大学・菅原 正孝

<アスベストとは> 1990年代終わりに、わが国ではダイオキシン騒動があったことは未だに記憶に新しい。ダイオキシンは、全国至る所にあるゴミ焼却施設が発生源となって施設内はもちろんその周辺に飛散して土壌汚染や植物汚染を引き起こした。
 猛毒のダイオキシンとアスベストは、見かけは全く異なるが、どこか似かよったところがある。定義・表示法分析方法について、近年の改正が行われ、これらの分析には高度な設備と技術がともに不可欠である。また、リサイクルの可能性はなく、これらの処理は高温での分解や溶融により行われる。もっとも、両者の相違は、アスベストが天然鉱物であり、ダイオキシンは、意図的かどうかは別にして、人工的に作り出されたものである。
<健康リスク>の点からは、作業現場が最も重要であるが、一般人をも巻き込んでの健康被害の懸念がある。既に、新たに世に出てこないような措置はとられているが、問題は現在身近に存在しているものをいかにして安全に処分するかが、焦点となっている。
<今後の研究テーマや研究>の流れについては、次のようなことが考えられる。
 (1) 建築物解体工事における吹付けアスベストの大気質への影響を少なくする工法の開発
 (2) 廃材中の吹付けアスベストの輸送・取り扱い時の飛散率の評価とその対策
 (3) 吹付けアスベストの埋立処分のリスク評価
 (4) 飛散性アスベスト処分の所要エネルギーとリスクおよび経済性を考慮した最適処分法

2009-09-01 アスベストの管理と分解
 アスベストの管理について、関連省庁の委員会で技術面での指導的な役割を果している酒井 伸一教授に最新の溶融処理に関してご報告している。また、非常に専門性の高い内容であり、最先端の研究成果を垣間見ることができる。
2009-09-02 アスベストの改訂JIS法について
 アスベストの分析に係わる改訂 JIS法について改訂の各種委員会で中心的な立場にある名古屋 俊士教授が、審議の経緯を含め詳細にその内容の解説をしている。
2009-09-03 アスベスト除去工事の実態
 アスベストの適正管理において、分析が入口、処分が出口とすれば、アスベストを現場から処分地まで運搬輸送する過程は移動区間とでも言うことができようか。つまり、この間のアスベストの取りこぼしや飛散が多くなれば業務従事者のみならず一般国民の健康リスクは飛躍的に高くなってくる。その点の検証と改善の努力が求められている。アスベスト研究会では、このような現場の実態について目を逸らすことなく、直視することにより、より健康リスクを下げるべくこの移動区間における始点から終点までのシステムを論じてきた。

<執筆者> 2009-09-01 京都大学・酒井 伸一/2009-09-02 早稲田大学・名古屋 俊士/2009-09-03 環境技術学会アスベスト研究会

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10月号環境教育プロジェクトのアジアでの展開-「戦略的環境リーダー育成拠点形成」プログラムについて-
編集: 2009-10-00 京都大学・藤井 滋穂

研究・教育面での海外交流は、研究者の海外留学に始まり、国際会議への参加などの形で広がってきた。現在では各種の研究・教育プロジェクトも実施され、プロジェクトの実施や打合せのための長短期の出張や海外からの頻繁な研究者の来訪が日常茶飯事となっている。
<環境研究の海外交流> 実務分野では、上下水道・廃棄物などに関するJICA((独)国際協力機構)の専門家派遣等を通じて多数の経験と貢献をしてきた。研究分野では、大阪大学とベトナム国家大学(JSPS:(独)日本学術振興会-VAST:ベトナム科学技術庁、1999~2008年度)、京都大学とマラヤ大学(JSPS-VCC:マレーシア副学長評議会、2000~2009年度)、京都大学と清華大学(JSPS-MOE:中国教育省、2000~2009年度)での JSPS拠点大学交流事業などにより、研究者交流を中心とする協力活動がある。
<環境教育の海外交流> JICA研修や多数の留学生の大学受入に加え、AIT(アジア工科大学)環境分野への教員派遣(1981~2006年、延べ14名)などを実施してきている。
 今までは、ややもすれば途上国への一方的な技術・教育の提供であったが、最近では双方向的な教育・研究の協働事業が検討されている。
<文部科学省助成事業> 2007年12月末、2008年度から5年間の教育プロジェクトとして科学技術振興調整費「戦略的環境リーダー育成拠点形成」事業の募集を行い、5件が採択された。事業の目的は、アジアなどの途上国での実際的環境問題に対処するリーダーを育成するものであり、そのカリキュラムは、従来の座学と研究に加え、現地での環境問題の実践的取り組みを含む多様な内容となっている。今後の環境技術の途上国での普及・展開のために、重要な情報と示唆に富むものと考えられる。
<特集の内容> 本事業に採択された5件の事業の内容について、それぞれの関係者から説明をお願いした。


2009-10-01 科学技術振興調整費による国際環境リーダーの育成
2009-10-02 低炭素社会を設計する国際環境リーダー育成(広島大学)
2009-10-03 環境マネジメントリーダープログラム-アジア諸国での現場実践とともに-(京都大学)
2009-10-04 国際環境人材育成プログラムの取り組みと課題(名古屋大学)
2009-10-05 デュアル対応国際環境リーダー育成プログラム(早稲田大学)
2009-10-06 共鳴型アジア環境リーダー育成網の展開(東京大学)

<執筆者> 2009-10-01 (独)科学技術振興機構・山下 廣順・岡谷 重雄/2009-10-02 広島大学・渡邉 園子・藤原 章正/2009-10-03 京都大学・原田 英典・藤井 滋穂・勝見 武・越後 信哉・田中 周平/2009-10-04 名古屋大学・佐瀬 優子・甲斐田 直子・井村 秀文/2009-10-05 早稲田大学・勝田 正文・永井 祐二・黒澤 正一/2009-10-06 東京大学・小貫 元治・太田 美帆・星子 智美・花木 啓祐・味埜 俊

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11月号バイオディーゼル廃グリセロールの有効利活用技術
編集: 2009-11-00 (独)産業技術総合研究所・河田 悦和

<バイオディーゼルと廃グリセロール> 日本では主に廃食用油から生産され、各地の自治体、菜の花プロジェクトなど NPOを含めたネットワークが、地域での回収、利用など総合的な活動を推進している。海外では、熱帯地域パームヤシやジャトロファヨーロッパ菜種等から搾油し、そのままバイオディーゼルに加工することが多い。
 その生産法は、水素添加によるグリセロールを生じない手法も検討されてはいるが、アルカリ触媒とメタノールを用いて油脂を分解し、メチルエステルを作る手法が主流であり、原料に対し重量比約10%廃グリセロールが生じる。バイオディーゼル生産拡大に伴い、廃グリセロールの世界生産量は2008年には100万トンを超え、年々その余剰量が拡大すると推定される。グリセロールの価格は2005年に100円/kgと精製コスト以下に下落し、近年の石油高騰の際に価格が回復したもの、今後も価格低下が懸念され、廃グリセロールの有効利用がバイオディーゼルの利用を進める上でも喫緊の課題である。
グリセロールは、2004年に米国エネルギー省(DOE)が選定したバイオリファイナリー社会への転換の基幹となる12種の物質に含まれ、化学的にも、生物的にも変換が可能な鍵となる物質である。水素、コハク酸、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジヒドロキシアセトン、ポリエステル、ポリグリセロールなど様々な物質への転換が検討されているが、廃グリセロールが、アルカリ触媒由来の塩を含み、高アルカリ(約 pH10.5)であるため、生物的や化学的な利用には、精製等のコストが想定されることが問題である。
<特集の内容> 微生物を活用した日本における廃グリセロールを利用するバイオリファイナリー生産研究の現状について述べる。どのようなバイオリファイナリーを生産するかについては、経済性の観点から高価格の化成品中間体等を指向する一方で、低価格ではあるが社会的な需要が大きいエネルギーやプラスチックなどの汎用品、その原料を指向する研究もあり、前者としてグリセリン酸を、後者としてアルコール、バイオポリマーを、それぞれトピックの中で触れている。

2009-11-01 グリセリン酸製造技術およびその利用法の開発
2009-11-02 アルコール生産
2009-11-03 微生物を活用したバイオポリマーへの物質変換
2009-11-04 ハロモナス菌によるバイオディーゼル廃グリセロールを利用したバイオプラスチックPHA生産

<執筆者> 2009-11-01 (独)産業技術総合研究所・羽部 浩・福岡 徳馬/2009-11-02 筑波大学・中島 敏明/2009-11-03 北海道大学・佐藤 康治・田島 健次・松島 得雄・大嶋 武・棟方 正信/2009-11-04 (独)産業技術総合研究所・河田 悦和/2009-11-05/2009-11-06 /2009-11-07

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12月号メタン発酵技術の新しい展開
編集: 2009-12-00 東北大学・李 玉友

 「メタン発酵」とは嫌気的条件下においてメタン生成古細菌を中核とする嫌気性微生物の代謝により有機性物質がメタンに転換される生物学的プロセスのことである。
<国内のメタン発酵の状況> 日本における下水汚泥の嫌気性消化は1932年に名古屋で初めて導入された。その後、東京、大阪、横浜、京都などの大都市の下水道で普及し、現在全国で発生する下水汚泥の約1/3(DSベース)は嫌気性消化法で処理されている。この方法で得たバイオガスは一般的に消化ガスと呼ばれ、消化ガス発電を行うと、下水処理場のエネルギー消費量の約50%を賄えることが報告されている。
工場廃水処理における嫌気性処理技術の応用は1950年代から研究され、1960年代から完全混合式反応槽または嫌気性活性汚泥法はアルコール発酵廃液をはじめ、パルプ廃液などの高濃度廃水の浄化処理に用いられていた。特に1980年代 UASB法が開発された後、嫌気性処理の高効率性(高負荷、省エネルギー、余剰汚泥発生量の抑制の諸機能)が広く認識され、現在 UASB法とEGSB法は合わせて300基以上が建設され、高濃度有機性廃水処理の代表的な技術となっている。
<バイオマス利活用とメタン発酵> 21世紀に入り、持続可能な社会の形成のために、2002年に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定され、バイオマス利活用の推進が図られてきた。2006年には同戦略の改定が行われ、バイオ燃料に注目が集まった。日本政府の目標では2030年までに輸送用バイオ燃料の導入量を原油換算 400万kL/年にするとしている。一方、筆者の試算によれば、国内で発生する代表的な廃棄物系バイオマスである家畜排泄物(年間約 8900万t)生ごみ(年間約2200万t)および下水汚泥(年間、約7500万t)を全てメタン発酵してメタンガスを回収すれば、バイオ気体燃料として原油換算395万kL/年ものエネルギーが得られる。したがって、メタン発酵技術はバイオ燃料生産手段として極めて有力な技術である。
 メタン発酵により生成したバイオガスの利活用方法については次のような技術はすでに確立されている。
 1) バイオガスボイラー、2) ガスエンジンやガスタービンによる発電、3) 都市ガスとしての燃料利用、4) 天然ガス自動車の燃料、5) 燃料電池による高効率発電
 メタン発酵の用途はバイオ燃料の生産だけでなく、廃棄物の安定化・衛生化処理、液肥の製造(家畜排泄物の処理)、温室効果ガスの削減など多彩である。そのため、メタン発酵によるバイオマス利活用は近年様々な分野で注目されている。

2009-12-01 地球温暖化防止に対するメタン発酵の重要性
2009-12-02 下水道分野におけるバイオガス化の現状と新しい技術
2009-12-03 農業集落排水処理施設と連携した小規模バイオガスシステムの実証
2009-12-04 焼酎粕の水素メタン発酵によるエネルギー利用
2009-12-05 食品産業における膜型メタン発酵システム
2009 12-06 生ごみ・食品廃棄物の無希釈二相循環式メタン発酵技術
2009-12-07 日田市バイオマス資源化センターにおける混合バイオマスのメタン発酵

<執筆者> 2009-12-01 日本大学・野池 達也/2009-12-02 日本下水道事業団・島田 正夫/2009-12-03 (社)地域資源循環技術センター・岡庭 良安・柴田 浩彦・小泉 佳子/2009-12-04 (株)タクマ・河野 孝志/2009-12-05 (株)クボタ・若原 慎一郎/2009-12-06 アタカ大機(株)・奥野 芳男/2009-12-07 (株)神鋼環境ソリューション・川嶋 淳

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掲載日:2018年01月26日
更新日:2018年08月14日

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