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船舶ーバラスト水の処理技術と評価選定

村上定瞭(水浄化フォーラム)

1.はじめに

バラスト水(Ballast Water)とは、船舶のバラスト(船底の重し)として用いられる水のことで、貨物船などが空荷や少ない貨物で出港するとき、その港で海水が取水され、貨物を積載する港で船外へ排出されている。
バラスト水に含まれている水生生物が本来の生息地でない海域に移入・繁殖することで、生態系への悪影響が顕在化して久しい。これを防止するための「国際条約による規制」が進められてきたが、2017年9月8日に発効することとなった。この条約締結国は52カ国で、合計商船船腹量は35.14%なっている(2016年9月現在)。今後、外航船は発効後5年以内に順次バラスト水処理設備の設置が義務付けられることとなった。この国際条約とは「船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約」(船舶バラスト水規制管理条約)で、2004年に国際海事機関(IMO)によって採択されたものである。
ここでは、バラスト水処理法の基本原理および実用化技術について概略を述べる。
バラスト水に関する「環境技術」特集:2009-06

2.バラスト水処理システムの要件

IMOによって規定されたバラスト水および沈殿物による生物拡散を防止するための設備の要件は、次のように要約される。以下、バラスト水とはその沈殿物を含むものとする。
①物理(機械)・化学・生物の単独または組合わたる手法によって、バラスト水に含まれる水生生物および病原体を駆除し、バラスト水の排出による水域環境への悪影響を防止すること。
②上記手法で添加した活性物質あるいは生成した化学物質が船舶と乗員へ害を与えないこと。また、処理されたバラスト水の排出によって水域環境や人の健康へ害を与えないこと。具体的には処理されたバラスト水に含まれる有害物質等が残留している場合には、それを除去した上でバラスト水を排出することである。
ここで、活性物質とは有害な水生生物および病原体を駆除するための化学物質または生物体(菌体あるいはウイルス)をいう。

3.バラスト水処理法の種類と原理

バラスト水に含まれる水生生物(ウイルス、細菌類、菌類、動植物の種子・胞子・卵・幼生・成体など)を、①物理的手法により分離除去する方法と②物理・化学・生物の手法により殺滅する方法がある。
下記に示す各処理技術の原理(作用・機序)とその課題と限界、装置化に必要な設計・操作因子の最適化、消費電力とエネルギー、維持管理上の留意事項等については,多くの紙面が必要であるので、ここではその概略の記載に留め、その詳細についは別途掲載することとする。

(1)分離法

機械・物理的に水生生物を除去する方法として、サイクロン(遠心力利用)、フィルターや分離膜などがある。サイズの大きいものは分離効率が高いが、水生生物のサイズが小さくなるほど分離に要するエネルギーが増加する。特に微細な生物種には凝集剤添加が効果的である。また、分離したスラッジの排出とサイクロン壁やフィルター・分離膜への付着物の排除など連続または定期的な洗浄・再生操作に留意する。

(2)殺滅法

水生生物の殺滅法は、物理(機械)・化学・生物の各手法がある。殺菌・消毒については別ページに詳細を記述、生物殺滅法の原理と分類は汚泥減量型活性汚泥法で記述した内容と同様であるので参照されたい。
ここで留意すべきことは、バラスト水中の生物濃度(数)は活性汚泥法などと比較して極めて低いことである。加熱・マイクロ波・超音波・キャビテーションなどは、媒体である水を介して生物を物理的に殺滅するので、投入エネルギーの大部分は水媒体により消費される。紫外線照射は殺菌効果が高いが、水の吸収により紫外線強度が減衰するので、照射の距離・時間に留意する必要がある。塩素系などの薬剤法は、微生物に対しては効果的であるが、サイズの大きい生物や硬い殻で覆われた生物に対して薬剤濃度を高く保つ必要がある。ただし、個々の薬剤により殺滅力に差異がある。ガス取水法(オゾンなどの酸化剤取水法や窒素などのイナートガス取水による脱酸素法)では、ガス溶解効率が重要な因子となるが、汚濁が進行した港湾海水によっては発泡対策にも留意する。バラスト中生物に感染させて殺滅する生物法は、生物種による選択性があることと、排出時に活用生物の安全性確保やその処理が必要となる。
一般的な傾向として、サイズの大きな生物種に対しては機械・物理的手法の効果が優れ、薬剤法(直接添加薬剤・電気化学的に発生させた薬剤など)は微細な生物種への効果が高い。
なお、殺滅法で留意すべき事項として、バラスト水処理直後には生物量(数)が規制値以下であっても、生き残った生物種が航行中に増殖し、その排出時に再処理が必要になることもある。特に、単細胞の従属栄養細菌類は個数が極めて多数であり、漲水時に処理(分離・殺滅)しても、生き残ったものが死滅したプランクトンや固形状有機物などを餌として増殖することである、

4.実用化技術

(1)承認管理システム(処理装置)

IMOにより承認(相当指定を含む)されたバラスト水処理システム(装置)は、世界で約90件(2019年3月現在)にも及び、国内メーカーでは6社(2018年11月現在)となっている。これらの技術には、それぞれのノウハウ・工夫による特徴がある。

5.システム選定

(1)システムの原理

バラスト水の処理方法の原理は、そのシステムの能力・初期投資・維持管理を推定する上で極めて重要な選定要素となる。また、設置する船舶の大きさ・構造によっても、処理方法の原理は重要な選定要素となる。
また、それそれの処理法には長所と短所があるので、単独の手法と原理が異なる手法の組合せがある。単独法は装置構造・維持管理の面で優れている。組合せ法はそれぞれの短所を補う特徴がある反面、装置構造や維持管理が複雑になる。なお、上記の事項は一般的なことを述べただけで、個別のシステムについて、以下に述べる事項に留意の上でのシステム選定が望ましい。

(2)処理能力・設置スペースと運用方法

船舶の種類と積載量により、バラスト水の処理量が大きく異なる。これまでの実績を調査すると、バラスト水の処理能力(m3/h)と処理原理・方式にはある傾向が見受けられる。大型船舶になるほど航海日数が長くなるので、下記の(ⅰ)・(ⅱ)・(ⅲ)に示すように、時間的に柔軟なバラスト水処理の運用方法が可能となるからである。
<処理能力と設置スペース> 新造船については受注・設計の段階で処理装置が組み込まれるが、既存船舶では設置位置・スペースと処理装置の形状・サイズに関する要件が特に重要となる。処理能力(m3/h)に加えて、装置の設置面積や設置スペースに対する処理能力(m3-処理水量/m2-設置面積/hやm3-処理水量/m3-設置スペース/h)も評価項目となる。
なお、船舶のバラスト水量は、船舶の種類・積載量等によって異なるが、一般的には積載量の1/5〜1/2の範囲にあり、その処理量が大きいことである。
<運用方法> バラスト水処理を時間的視点から見ると、(ⅰ)バラスト水取水時での処理、(ⅱ)取水から排出の期間内・中での処理、(ⅲ)排出時での処理の3つに大別できる。ただし、活性物質等が残留している場合には、排出時にその処理が必要となる。現状では、バラストタンクへ漲水する前に行うのが一般的である。ただし、バラスト水のタンク内での滞留日数がある日数以上確保できる船舶運航では、その日数以内での処理時間が活用できるので装置のコンパクト化初期投資の削減が可能となる。ただし、処理量(m3)=処理能力(m3/h)✕処理時間(h)の関係より、処理コスト(動力費や薬剤費など)に大きな効果はない。

(3)初期投資と維持管理

システムの選定にあたって、重要なことは初期投資だけでなく、維持管理が重要であることは言うまでもない。維持管理にあたって、経費(電力・エネルギー、薬剤、部品交換など)、消耗品・補修部品の供給体制、管理技術と運転要員の確保・教育、装置の洗浄・再生、発生スラッジの処理などにも留意する。

6.今後の開発課題

現在までに、様々な原理・方式によるバラスト水処理システムが開発されている。今後の開発課題として、これらの技術をさらに発展させ、バラスト水の滞留日数(取水から排出までの日数)に留意した管理(運用)システムを開発することである。
バラスト水の滞留日数は、船舶の種類(貨物)とその運航計画により予め分かっている。このことから、取水時または排出時に一括して処理するシステムではなくて、船舶の運航(バラスト水の滞留日数)に応じた効果的な管理(運用)システムの開発である。これにより、処理設備のコンパクト化および運用経費の削減が期待できる。このシステムに関する開発技術の要点を概説する。

(1)水生生物の自動計測

規制される水生生物(以下、生物)量(数)を、船舶内で自動的に計測できるシステムを開発する。この計測器により、下図の①・②・③における生物量を計測できるようにする。生物量の計測技術は現在の光学・ITC技術の活用で十分可能なもので、実用化商品もある。

(2)処理システムの改善

(a) システム配管

取水管、バラスト水タンク(以下、タンク)、排出管と処理装置を連結し、①・②・③に対する処理が制御できる配管とする。

(b) 残留活性物質の計測

残留活性物質(人の健康や環境に有害な副産物を含む)の検知器を①・②・③に設置して、それぞれの濃度を計測できるシステムとする。利用する活性物質は既知であり、そのセンサーはすでに開発されているので難しい課題ではない。

(3)システム制御

上記の(1)および(2)を活用して、バラスト水の処理を下図の①・②・③の間で切替えることにより、バラスト水管理を効果的に実施する。なお、生物や活性物質の計測は、①・②・③の検水を循環(採取)してそれぞれ一つの計測器で自動測定することも可能である。
今後、国・地域によってはIMO2004よりも厳しい排出規制も予想され、これに対応できる柔軟なバラスト水管理システムの開発が必要となろう。

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 バラスト水管理システムの概略図
(Ⅰ): ① 取水配管系; ② バラスト水タンク; ③ 排出配管系; (Ⅱ):a バラスト水処理装置; b 残留活性物質処理装置; c 残留生物計測器; d 残留活性物質計測器; (Ⅲ):水色線-メイン配管系; 緑色線-検水配管系

7.おわりに

IMOで規定される事項は極めて多岐にわたる。バラスト水の規制は、今年9月(執筆時現在)から発効される。現時点では採用事例に関する現場からの情報(特に維持管理に関する事項)が少なく、各システムに対する具体的な評価は極めて難しい。執筆者はバラスト水処理技術の開発に携わったこと(写真)もあり、現在、それは承認技術となっている。バラスト水処理技術には、多分野にまたがる知識・技術・経験が必要であることをつくづく痛感している。また、関連しているものの業務内容が異なる船主・運航・造船・処理メーカー・代理会社・関係協会との連携も重要な要素である。今後の動向と情報収集に努め本ページの記載内容の更新・充実に努めることともに、バラスト水の問題解決の進展を願っている。

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写真 バラスト水処理装置の開発風景(臨海実験棟、2010年当時)


<追加資料>
表 バラスト水の処理基準(国土交通省
ballast-water-exhausting-standard

掲載日:2017年07月11日
更新日:2017年11月15日(数カ所の記述訂正と写真・表の追加、なお、本文内容そのものの変更はない)、2018年11月22日(バラスト水処理装置承認状況)

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