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浄化槽整備の現状と課題-普及促進の取組と今後の展望

Promotions and Challenges for Onsite Wastewater Treatment System
(公財)日本環境整備教育センター/宇部市/広島県/(株)クボタ/フジクリーン(株)/環境技術学会・水浄化フォーラム

 我が国では、戦後の社会・経済の復興とともに、都市部を中心に下水道(農業集落排水施設等の集合処理方式を含む)が整備されてきた。生活水準の向上とともにトイレの水洗化も進み、下水道の未整備地域では浄化槽が普及してきた。令和2年度末で、汚水処理人口普及率は92.1%、水洗化人口率は95.4%である。しかし、人口の少ない市町村ほど、汚水処理人口普及率は低くなっている。
 水洗化人口と汚水処理人口の間を埋めているのが、平成13年以後に新設が禁止されるまでに設置された単独浄化槽人口で、この管理者の多くは高齢化が進み、合併浄化槽への転換が進んでいない。
 下水道事業については、人口減少による使用量収入の減少に加えて、人員削減による維持管理上の課題と既存施設の老朽化が進行し、その更新に要する経費が増大していることから、個別処理方式である浄化槽整備の重要性が増大している。
 平成26年には「持続的な汚水処理システム構築に向けた都道府県構想策定マニュアル都道府県構想策定マニュアル」(国交省、農水省、環境省)が示され、将来の下水道事業の在り方を見直すこととなった。平成28年に「今後の浄化槽の在り方に関する懇談会」提言(環境省)に続き、令和2年に「浄化槽法の一部改正」が施行され、単独浄化槽から合併浄化槽への転換の推進と適正な浄化槽管理の強化が示された。現在および将来の我が国の汚水処理について様々な課題がある中で、各自治体においては、それぞれの地域の人口動態を踏まえた上で、汚水処理人口普及率の更なる向上を目指している。また、日本の浄化槽技術は国際的にも注目されており、「浄化槽の海外展開」が進展しつつある。
 これらの状況を踏まえ、本サイトと連携している「環境技術学会」は、刊行誌「環境技術2022年3号」において特集「浄化槽整備の現状と課題について」を取り上げている。
 本ページでは、この特集に記載されている「各取り組みの概要」を紹介する。抜粋内容については不備な事項が多々あるので、詳細については、本特集を閲覧されたい。

(村上定瞭/環境技術学会・水浄化フォーラム)

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都市規模別汚水処理人口の普及率(令和2年度末)
引用:https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001421075.pdf

1.浄化槽整備の現状と課題

加藤祐之/(公財)日本環境整備教育センター

 下水道のない地域で水洗便所を使用する場合,し尿等を浄化して公共用水域等に放流するために,浄化槽を設置することが義務付けられており,し尿のみを処理し,生活雑排水は未処理の単独処理浄化槽と,し尿と生活雑排水を併せて処理する合併処理浄化槽がある.昭和58年に制定された浄化槽法では,公共用水域等の水質保全等の観点から浄化槽によるし尿及び雑排水の適正な処理を図り,生活環境の保全及び公衆衛生の向上に寄与することを目的に,浄化槽の製造、設置,及び維持管理にわたる過程を一元的にとらえ規制を強化し,併せて設置や管理の体制を強化するため,これらに携わる業者の身分資格を確立した.平成12年の浄化槽法改正では、浄化槽の定義が変更され,合併処理浄化槽のみを「浄化槽」と定義し,単独処理浄化槽の新設が原則禁止された.なお、平成12年以前に設置された単独処理浄化槽については,「みなし浄化槽」として,従来同様、浄化槽法の適用対象としている.

1.1 浄化槽の意義と役割

 浄化槽は,下水道とともに,良好な水環境の保全に寄与する恒久的な生活排水処理施設であ,一般の戸建て住宅に設置される小型の浄化槽は,設置費用が安く,地勢の影響を受けにくく,かつ,短期間で設置できることから,経済的で投資効果の発現が早いという特長を持っており,近年の少子高齢化・人口減少や市町村財政の緊縮等の社会情勢の変化により,浄化槽による汚水処理施設の整備が進んでいる.また,生活排水を発生源で処理し,身近な小川や水路に処理水を放流することで河川の水量を維持することができ,健全な水循環に資する.さらに,近年の大規模災害において被害を受けても復旧が早く,災害対応力もあり,強靱なまちづくりの観点からも大きく期待されている.

1.2 浄化槽の現状

 環境省の「日本の廃棄物処理」,環境省,農林水産省及び国土交通省の「汚水処理人口普及状況」,及び環境省の「浄化槽の指導普及に関する調査結果」等により,浄化槽整備の現状を図1.1表1.1及び表1.2に示す.令和元年度末における全国の水洗化率,及び汚水処理人口普及率は90%以上の高い水準になったが,未だ582万人の非水洗化人口,994万人の汚水処理未普及人口があり,さらなる汚水処理施設整備の必要性が示された.令和元年度末の浄化槽設置基数は合併処理浄化槽が単独処理浄化槽を初めて上回ったが,環境負荷の高い単独処理浄化槽は未だ375万基あり,合併処理浄化槽への転換が望まれる.

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図1.1 公共下水道、浄化槽、非水洗化の各人口および水洗化率の推移

表1.1 処理方式別浄化槽設置基数(令和元年度)
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表1.2 合併処理浄化槽の処理方式別設置基数(令和元年度)
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1.3 浄化槽の課題

1.3.1 単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換の課題

 単独処理浄化槽は,し尿処理における汚濁負荷の除去率が低く,生活雑排水を未処理で放流するため,下水道や合併処理浄化槽に比べ汚濁負荷は大きく,公共用水域の保全における大きな障害となっている.
 単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換(以下,合併転換とする.)が積極的に行われなかった場合の単独処理浄化槽の設置基数の将来予測によると,単独処理浄化槽の減少基数は8.5万~8.9万 基/年であり.2050年においても約130万基が残るとされている.
 合併転換が進まない要因として,制度面の観点からは,①11条検査の受検率が低く,単独処理浄化槽の設置の実態が十分に把握されていない,②下水道使用世帯や単独処理浄化槽使用世帯と比べると費用面で合併処理浄化槽使用世帯の負担感が大きく,不公平感がある,③各種汚水処理サービスの経費や環境負荷を比較できる情報が不足している,設置者・使用者の観点からは,④すでに水洗化が済んでいるから転換の必要性を感じない,⑤転換に当たっての経済的負担が大きい,⑥浄化槽の特徴が知られておらず普及啓発が不十分である,⑦浄化槽の設置スペースが十分でない,などが指摘されている。

1.3.2 特定既存単独処理浄化槽の措置

 令和元年の浄化槽法改正において,そのまま放置すれば生活環境や公衆衛生上支障が生じるおそれのある緊急性の高い既存単独処理浄化槽(以下「特定既存単独処理浄化槽」という.)について,都道府県知事等が除却等の助言又は指導,勧告,命令を行うことができる規定が制定され,特定既存単独処理浄化槽の判定の参考となる考え方及び措置に係る手続について,参考となる一般的な考え方を示した指針を定めている(特定既存単独処理浄化槽に対する措置に関する指針,以下,措置に関する指針という.).
 特定既存単独処理浄化槽を把握するためには,指定検査機関による浄化槽法第11条に示されている定期検査(以下,11条検査という.)の結果が重要であり,浄化槽管理者への受検指導を徹底する必要がある.11条検査が受検されている浄化槽については,指定検査機関による11条検査の都道府県への報告により特定既存単独処理浄化槽の対象となり得る浄化槽を把握したうえで,指定検査機関と連携して浄化槽の立入検査を行い把握する.一方,11条検査を受検されていない浄化槽については,浄化槽台帳に集積された設置情報や維持管理情報,協議会や報告徴収制度を通じ保守点検業者や清掃業者から得た情報等から,特定既存単独処理浄化槽の対象となり得る浄化槽をスクリーニングしたうえで,指定検査機関と連携して浄化槽の立入検査を行い把握する.
 また,特定既存単独処理浄化槽は,その浄化槽の様態からみて周辺への環境負荷が大きく,生活環境及び公衆衛生にも重大な支障が生じるおそれがあることから,除却等の必要性について浄化槽管理者を含めた地域住民に周知していく.その際,単独処理浄化槽から合併処理浄化槽へ転換することの必要性とともに,単独処理浄化槽の撤去費,合併処理浄化槽の設置工事費やその宅内配管工事に対する支援措置制度により浄化槽管理者の自己負担の軽減が図られていることも地域住民に周知していく必要がある.

1.3.3 浄化槽台帳の整備

 合併転換も含めた浄化槽整備,及び定期検査の受検指導等を行うためには,浄化槽設置に関する情報や維持管理の実施状況を正確に把握し,浄化槽台帳を整備することで可能となる.令和元年の浄化槽法改正において,都道府県知事等に対し,浄化槽台帳の作成及び管理が義務化された.浄化槽の設置情報のみならず適切な管理の実施による良好な放流水質の確保の観点から,行政による指導のもとで浄化槽の管理の向上を目指すことが必要で,法定検査,保守点検,清掃の情報も収集して,統合できる浄化槽台帳の整備を進める.浄化槽台帳の整備項目については,記載事項が法令で定められたが,地域の状況に応じて独自の項目を追加することやGIS機能を搭載した多機能な浄化槽台帳システムを整備することで,より質の高い浄化槽台帳を整備することに努める必要がある.
 また,都道府県知事が浄化槽管理者に対して単独処理浄化槽の除却・合併処理浄化槽への転換を助言・指導し,転換工事を円滑に進めるためには,市町村が環境省の宅内配管工事に対する補助制度等を活用して,浄化槽管理者の自己負担の軽減に努める必要がある.一部の都道府県においては,すでに単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換において.市町村に対する財政支援に取り組まれているところもある.都道府県は,これらの取り組みとも併せて,管内の市町村に対して,単独処理浄化槽の撤去費や宅内配管工事に対する支援措置制度の活用を促すことで,合併転換が促進すると考えられる.

おわりに

 浄化槽は、国内の生活排水対策のみならず,海外においても持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる日本発の優れたし尿処理技術として官民共に,海外展開を図ってきた.今後,国内外を問わず,ますます浄化槽が発展していくことを切に願う.

2.宇部市における下水道整備計画の見直しと浄化槽普及の促進

若崎真和・小林千晃/宇部市土木建築部下水道経課

 宇部市は、本州西端の山口県の南西部に位置し、西は山陽小野田市、東は山口市、北は美祢市に接し、南は瀬戸内海に面している.北部の丘陵地には豊かな自然があふれ、南部の海は穏やかで、山と海の幸にも恵まれている。北部の小野湖は水源として、常盤湖(国際かんがい施設遺産)は観光地域として、市街地には真締川や厚東川が流れ、快適で美しい水辺環境を有している。
 当市では,戦後の急激な工業化の進展に伴い生じた,ぱいじん降下による大気汚染などの公害問題に対し,産官学民一体となった「宇部方式」による公害対策に取り組んできた.この環境の保護・改善への功績が高く評価され、国連環境計画(UNEP)から「グローノリレ500賞」(1997年)を受賞した.市民一丸となった自治精神の高揚とまちづくりへの情熱は,社会インフラ(上下水道・交通網など)の整備に加え,都市緑化や公園整備など様々な分野に幅広い展開を見せ,宇部市固有の情景を醸成している.本稿では、人口減少と住宅の広域化にともなう下水道整備計画の見直しと浄化槽普及の促進について紹介する.

2.1 宇部市の概況と人口動態

宇部市発展の礎は,明治期以降の石炭産業で築かれた.戦災で市街地の大半が焼失したが,戦後,順調な復活を遂げた.その後,エネルギー需要構造の転換に対応し,近代的な工業都市へと変貌を遂げ,瀬戸内有数の臨海工業地帯を形成している.
 一方で,少子高齢化を背景として,平成12年以降,人口減少が始まり(図2-1),世帯数は増加しつつあるものの(図2-2),人口減少が続き現在に至っている.
 以上の状況を背景に,本市では立地適正化計画による多極ネットワーク型コンパクトシティのまちづくりを推進している.汚水処理施設においては,公共下水道(以下,下水道と略記)の整備を強く望む声もあるが,その整備には長い年数と多額の建設費を要し,その負担が市の財政運営に大きな負担となってきた.このような状況を踏まえ,生活汚水処理手法の特性・効果・経済性等を検討し,住民理解も得ながら地域に適した手法を選択し,過大投資を避け,効率的な整備を図ることが重要課題となった(宇部市下水道事情総合計画).
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図2-1 宇部市人口の推移
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図2-2 宇部市の形態別世帯数と平均世帯人数の推移

2.2 生活汚水処理の状況
 下水道利用生活汚水は,本市の東部・西部・楠の3箇所の処理場を経て周防灘を放流先としているほか,浜田川以東(以下,阿知須処理区と略称)では山口市(旧阿知須町)と共設した阿知須浄化センターにて汚水処理している(図2-3).
 農業集落排水処理地区の生活汚水は各地区処理場を経て,小野湖及び周辺の河川に放流している.
合併処理浄化槽を整備している家庭においては,生活雑排水及びし尿とともに処理している.単独処理浄化槽及び汲取りし尿による処理を行っている家庭の生活雑排水は,未処理のまま中小河川または農業用水路等の公共用水域へ放流されている.
 し尿及び浄化槽汚泥については,し尿は委託業者,浄化槽汚泥は許可業者によって収集されたのち、本市環境保全センター(し尿処理施設)に搬入し、除さ処理を行った上で下水道の東部浄化センターを経て周防灘に放流している。処理施設で発生する汚泥は、脱水等の処理を行いセメント原料化している.

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図2-3 宇部市の生活排水処理の流れ
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図2-4 宇部市の生活汚水処理状況の推移
*下水道整備済み区域内での未水洗化人口(合併浄化槽・単独・汲取り)も下水道人口に含む.

2.3 下水道整備計画の見直し

図2-5に近年の下水道事業費の推移を示す.平成10年度以前は新設事業が主体であったが,平成11年度から改築事業が始まり,年度ごとに増加して平成27年度以降は,事業費の大半を占めるようになり,新設事業への投資は1億円程度まで減少している.このような背景を踏まえると,未整備地区の下水道事業を「継続するのか,あるいは,縮小するのか」が重要な検討課題となってきた.
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図2-5 近年の下水道事業費の推移
*新設の事業費内訳は未普及解消事業費のみを計上
**改築の事業費内訳は地震・処理場・ポンプ場の事業費を計上

検討委員会の設置と提言
 本市では,汚水処理の課題を協議するため,「宇部市上下水道事業検討委員会」を設置(平成29年10月)した.本委員会は12人程度で組織され,具体的には①学識経験者2名,②宇部市議会議員2名,③団体の代表者3名,④上水道又は下水道の使用者2名,⑤関係行政機関の職員3名で構成された.当委員会は,平成30年の1月から令和1年11月にかけて合計7回の審議を行い,「東部・西部処理区の提言」(平成30年11月)及び「阿知須処理区の提言」(令和元年11月)を行った。当委員会の提言は以下のとおりである.
<提言1>(1) 人口減少社会に対応し,持続可能な下水道経営を目指すためには,家屋の密度や合併処理浄化槽の普及状況など,地域の実情に応じて,下水道整備区域を見直し,合併処理浄化槽普及への転換を検討すべきである。(2) 下水道整備計画の見直しに当たっては,広く市民の理解を得る必要があり,特に見直し対象地域については,対話を通じた丁寧な対応に努めて頂きたい.
<提言2>(1) 下水道整備計画の見直しにより合併処理浄化槽への変更区域については,下水道と合併処理浄化槽の差額のうち初期費用について,浄化槽設置補助金の上乗せを検討すべきである。(2) 上乗せ補助については,全体計画を縮小する区域と事業計画を縮小する区域で差別化を図る「二段階の上乗せ補助」を検討すべきである.
下水道整備計画の変更 
 上記検討委員会の提言を受けて,関係地区での説明会,財政状況等を勘案した調整などを行い,第92回宇部市都市計画審議会(令和2年8月24日)の承認を得て,下水道事業計画(排水区域)の変更を行った.

2-4 浄化槽設置の上乗せ補助と浄化槽普及の促進

 下水道整備計画の縮小に伴い,令和3年4月1日より下記の制度を新たに創設し,未処理世帯への浄化槽の普及を図り,水環境の改善を推進するとともに,国の示す10年概成により汚水処理人口普及率95%を目指すこととした.宇部市内の既存の住宅に,汲み取りまたは単独浄化槽から合併処理浄化槽を設置する者に対し,その維持管理及び清掃契約と法定水質検査を毎年受検することを義務付け,補助金を交付することとした。ただし,宇部市内の下水道事業計画区域及び農業集落排水事業計画区域の設置者は補助の対象外としている.
 本市の令和2年度末の汚水処理人口普及率の状況を見ると,全国平均とほぼ同程度である(表2-1).本市では10年概成で汚水処理人口普及率95%を目指しているが,今回の下水道整備計画の見直しと浄化槽普及への政策により,概ね目標が達成されることが予想される.
表1 汚水処理人口普及率 [%](令和2年度末)
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3.広島県における浄化槽管理者への意識調査結果と適正処理の促進

楢原聡子・重野昭彦/広島県環境県民局循環型社会課

 本県は中国地方の中央部に位置し,瀬戸内海をはじめ,緑あふれる中国山地を擁するなど,美しく豊かな環境に恵まれている一方,経済成長に伴う都市化の進展や生活様式の変化等による生活排水等による水質汚濁などの環境問題が発生してきた.
 生活排水の適正な処理による水環境の保全対策は,本県の重要な施策の一つであり,浄化槽は,下水道と並ぶ恒久的な汚水処理施設として大変重要な役割を果たしている.特に近年,人口減少など社会情勢の変化により,下水道等の集合処理施設の整備が地理的・経済的に困難な地域が広がる中,効果的・効率的な生活排水処理対策として,その役割はますます大きくなってきている.
 このような状況を踏まえ,本県は県内の浄化槽管理者(以下「管理者」)を対象とした浄化槽の維持管理に関する意識調査(調査期間:平成25年6月)を実施するとともに,学識経験者・関係事業者・住民代表・行政機関からの委員22名で構成された「浄化槽の適正な管理促進のための検討会」(以下,「検討会」と略称)を開催し,浄化槽の維持管理に係る現状分析や今後促進すべき対応策などをとりまとめた(平成26年3月,概要版).以下に、その概要を紹介する.


3.1 県内浄化槽の現況


表3.1 広島県における汚水処理施設の整備状況と整備目標
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3.1.1 汚水適正処理構想
 本県では,各種汚水処理施設の計画的・効率的な整備を進めるため,各市町と連携し「広島県汚水適正処理構想」を策定するとともに,情勢変化に対応するために,適宜,その見直しを行っている.直近では,令和2年3月に改訂を行った.本構想での汚水処理施設の現況(平成30年度末)と整備目標(令和8年度末)を表3.1に示す.

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図3.1 広島県内浄化槽の設置基数の推移

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図3.2 広島県内の市町村別人口と浄化槽処理人口(令和元年度)

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図3.3 広島県の11条検査受検率の推移と令和元年度の検査結果

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図3.4 広島県内浄化槽管理者の浄化槽や維持管理に対する認識状況

3.1.2 浄化槽の設置状況
 県内の浄化槽の設置基数は,集合処理施設(下水,農業集落排水等)への接続や廃止等によって,2度の減少傾向(平成12年以降,平成21年以降)を示しているが,平成29年以降はやや増加傾向にある(図3.1).令和元年度末における県内浄化槽の設置基数は約171千基(内,単独72千基,合併100千基)である.
 種別設置数を見ると,浄化槽法の改正(平成13年4月施行)により,単独処理浄化槽の新設が禁止されたため,これ以降,単独処理浄化槽は減少しているが,合併処理浄化槽は既設の単独処理浄化槽からの転換や新設によって増加している.
 県内の具体的な浄化槽人口数について,各市町別に見ると(図3.2),人口が少ない市町の浄化槽人口が少ない一方,一定以上の人口の市では必ずしも浄化槽人口は人口に比例している訳ではない.
3.1.3 法定検査受検率
 浄化槽設置後に義務付けられている7条検査の受検率(令和元年度)は100.0%,設置後1年毎に義務付けられている11条検査の受検率は71.8%となっている(図3.3).
 第4次広島県廃棄物処理計画(平成28~32年度)での11条検査の受検率目標の概ね75%をやや下回ったが,全国平均値に比べて,高い受検率となっている.

3.2 管理者への意識調査
 本県内の管理者を対象に「浄化槽の維持管理に関する意識調査」を実施した.県内各市町村の管理者から無作為抽出した調査対象査数2,379名に対して,有効回答者数は1,136名(回答率47.8%)であった.検討会は,この調査結果を分析し,浄化槽の適正な維持管理についての課題を整理した.その概要を以下に示す..
3.2.1 浄化槽や維持管理に対する認識状況
 浄化槽の水環境の保全に果たす役割や定期的な3つの維持管理(保守点検・清掃・法定検査)の必要に対する理解が不足している(図3.4).
3.2.2 維持管理に関する情報源
 管理者にとって,工事業者や各維持管理関係業者が主な情報源となっているが,法定検査の必要性の説明状況は,保守点検・清掃に関連する説明と比較して低い傾向がある.関係業界が連携した維持管理の説明・普及啓発が十分でない.
3.2.3 法定検査の未受検者の未受検理由や受検指導の状況
 法定検査に対する理解が十分でないことや検査業務に対する不信感が,未受検に繋がっている.未受検者に対する指導が十分でない.
3.2.4 自由意見
 法定検査に対する不信・不満が多い傾向にある.維持管理全体に対しては不信・不満がある一方で,肯定的な意見も見られる.

3.3 浄化槽の適正管理促進の取組
 検討会ではこれらの結果から課題を抽出し,対応策の方向性や各主体による具体的な取組案について意見交換を行った.本県はその内容を「浄化槽の適正な維持管理促進のための方策について,~水環境保全と浄化槽の社会的信頼の確立に向けて~(「浄化槽の適正な維持管理促進のための検討会」における意見のとりまとめ)」としてとりまとめた.この「意見のとりまとめ」に沿って、本県における浄化槽の適正管理促進の取組について、以下に示す。

3.3.1 工事業者・保守点検業者・清掃業者の取組
 〇管理者へのわかりやすい説明・普及啓発(管理者の維持管理義務・事業者等自身の業務内容)
 〇技術上の基準に沿った業務の実施(標準的な記録票(保守点検用及び清掃用)の活用など)
 〇業務実務者のスキルアップ(技術講習会等への参加)
 〇法定検査結果が不適正判定となった場合の速やかな対応
 〇管理者の負担にならない日程調整
3.3.2 指定検査機関と行政の取組
 〇管理者へのわかりやすい説明・普及啓発(管理者の維持管理義務・法定検査業務)
 〇事業者等への技術上の基準に沿った業務実施(標準的な記録票(保守点検用及び清掃用)11)の活用など)の周知指導など
 〇浄化槽台帳の精査,台帳整備の促進
 〇法定検査結果が不適正判定となった場合の助言や指導
 〇法定検査未受検者に対する指導
 本県では,管理者の浄化槽維持管理に関する理解促進を図るため,ホームページだけではなく,管理者の高齢化等の状況を踏まえて,手に取りやすさ,分かりやすさ等の観点から広報手段や広報内容を充実することとした.事例としてチラシリーフレットガイドブックなどがある.
3.3.3 広島県浄化槽適正維持管理促進協議会
 検討会意見の取りまとめに基づく,浄化槽の適正な維持管理を促進するための取組について,県,市町,指定検査機関,関係事業者が情報共有,意見交換する場として,平成25年度に浄化槽適正維持管理促進協議会を設置した.本県独自の取組としてスタートしたが,令和元年度の浄化槽法改正に伴い,令和2年度から法定の協議会へ移行した.
構成員は,広島県,県内全23市町,指定検査機関,浄化槽清掃業関係団体,浄化槽保守点検業関係団体,浄化槽工事業関係団体,浄化槽製造業関係団体である. 
活動内容は,浄化槽の適正な維持管理を促進することを本旨とした,次の各号に掲げる事項の情報共有,意見交換の実施である.(1)行政,浄化槽関係者等の連携・協力の促進,(2) 管理者の維持管理に対する意識向上,(3)浄化槽工事業者,保守点検業者,清掃業者及び法定検査機関等関係業者の取組,(4)県,市町等行政の取組,(5)その他,課題抽出・解決方策・今後の取組方策等適正な維持管理の促進に関することである.
本協議会のメリットは,浄化槽の法定検査実施状況,行政・関係機関の取組状況,法改正情報の県内構成員間での情報共有・意見交換を通じて,浄化槽維持管理業務の適正化促進に向けての方向性の認識を共有し,浄化槽行政の円滑な推進が図られることにある.

おわりに
 本県では,管理者へのアンケート調査結果の分析を基に,検討会参加者の意見をとりまとめるとともに,その後の定期的な協議会の開催を通じて.浄化槽の適正な維持管理を促進してきた.一部には未だ不十分な事項があるが,成果の一事例として,本県の11条検査受検率は,全国平均と比較しても,その改善傾向が認められる(図3.3).
 その一方で,浄化槽台帳の精査など,浄化槽法改正に先行して検討を開始したものの,対応が進んでいない内容もあり,今後の課題となっている。

4.浄化槽の技術動向

北井良人/(株)クボタ滋賀工場技術設計課

 近年人口減少社会や低炭素化への対応、さらなる水環境の改善実現目標を踏まえ、近年の浄化槽の課題は、① 省エネ(低炭素化)、② 高性能(安定性能)、③ 維持管理の容易化、④ 遠隔監視の促進などが挙げられる。
 本稿では、最新の小型合併処理浄化槽 KZⅡ型、大型浄化槽 KTZ、KRZ型を紹介し、最新型小型浄化槽と大型浄化槽の技術概要と大型浄化槽を中心に採用されつつある遠隔監視システムの特徴と採用例について紹介する。

最新小型浄化槽

 小型浄化槽 KZⅡを図4-1に示す。本機の特徴は、1) 5人槽の有効容量1.4m3は構造基準容量2.8m3の約2分の1であり、既設単独浄化槽の入れ替えもしやすくなっている。2) 好気ろ床槽で攪拌後の迂回型沈殿分離槽で汚泥を高濃度にスカム等で保持し1年間の汚泥を従来の3分の2の容積で貯留できるようになったことや、二次処理で硝化菌も保持できる高性能スポンジ担体を担体流動槽に採用したことである。3) ブロアの消費電力は35Wと省エネとなっている。

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図4-1 小型浄化槽 KZⅡ

遠隔監視システム

 新しいクラウド型遠隔監視システム(KSIS:KUBOTA Smart Infrastructure System)は、大型浄化槽や小規模排水処理施設の運転状況を監視するシステムで、水環境インフラの施設・機器をクラウドサーバー上の共通プラットフォームに繋ぎ、様々なソリューションを提供できるシステムである(図4-2)。
 各個別機器の運転状況、個別警報状況、水量変動、pHなどの水質変動グラフ表示もPCやタブレット、スマートフォンから監視でき、警報発令時は設定先への警報メール同時送信もできる。日報、月報、年報の蓄積データから、より的確に運転状況が把握でき、診断しやすくなっている(図4-3図4-4)。また、フロートスイッチの作動回数などから、部品交換計画や維持管理計画の提案もできる。2021年には、環境省告示により遠隔監視システムを導入した流量調整型の浄化槽については所定の基準を満たせば、保守点検頻度が2週間に1回から、1か月に1回へ緩和され、より経済的で合理的な維持管理の推進が期待されている。

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図4-2 遠隔監視システム(KSIS)の概念図
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図4-3 処理場詳細画面
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図4-4 トレンドグラフ画面

 浄化槽は農村や市街近郊地では経済的な排水処理システムとして、下水道や農業集落排水処理施設との効率的な整備運用の見直しが図られており、今後もより省スペースで省エネ、高性能な浄化槽の普及は進むと考えられる。また、大型浄化槽の遠隔監視システムの導入は今後も推進されていくものと期待している。さらに、遠隔監視システムKSISではAI予測機能も追加することが可能であり、今後管理情報の共有化と分析により、より予防的で合理的な、維持管理方法の構築が期待される。

5.浄化槽の海外展開の現状と展望

田畑洋輔・酒井利泰/フジクリーン(株)海外事業部

 海外に輸出される浄化槽は年々増加しており、2020年までに49ヶ国に小型浄化槽が35、953基、中大型浄化槽が1,302基設置された。国別に見ると、中国が26,247基で最も多く。オーストラリアの4,581基、アメリカの2,378基。ベトナムの1,325基の順となっている。浄化槽を海外に輸出する際にまず考えないといけないのは、現地の認証制度や基準に適合しているかどうかである。そして、販売された浄化槽の施工が適切に行われ、継続的に維持管理されることを事前に確認しておくことが重要である。
 本論では、主な国における分散型排水処理システムの認証制度や水質基準を整理する。つぎに各市場において日本製浄化槽がどのように使用されているかを具体的な事例を用いて紹介する。そして最後に浄化槽システムの日本および海外における展望をまとめる。
表5-1 各国の性能評価における流入水質(単位:mg/L)
inflow-water-qualities_each-country

表5-2 各国の放流水質基準(単位:mg/L)
water-quality-standards_each-country
表5-3 各国の性能評価試験方法
performance-evaluation-test-methods_each-country
jyokaso-export-record
図5-1 浄化槽の輸出実績((一社)浄化槽システム協会
construction-of-jyokaso_Australia
写真5-1 海外における浄化槽施工の様子(オーストラリア・ビクトリア州ブラックウッド地区)

 豪州、米国、EUには日本と同様に分散型排水処理システムの性能評価試験や認証の制度が存在している。また、施工や維持管理に関わる考え方も国によって異なっている。そのような中でも、日本製浄化槽は各国の認証を取得し、輸出基数を急速に伸ばしている。今後、現地の制度やライフスタイルへの理解をさらに深め、設計を現地に適合させていくことで、日本製浄化槽が海外で活躍する場はますます増加すると思われる。
 一方で、海外の分散型排水処理の制度や現状を見ると、そこから日本が学ぶべき点もある。制度の点では、性能評価試験におけるストレス試験の実施、ブロワや異常水位の警報システム、清掃時期の考え方、施工方法等には参考になるものもあると思われる。また、豪州で費用対効果を考慮して下水道から浄化槽による整備に切替えた事例、米国ニューヨーク州サフォーク郡におけるセスプールやセプティックタンクから認定システムへの入れ替えを促進する補助金制度、米国アーカンソー州における複数住宅からの排水を大型浄化槽で処理する方法等は、単独処理浄化槽の合併処理化を促進し、汚水処理人口普及率をさらに引き上げていくヒントになると思われる。
 日本の浄化槽システム発展の歴史に、海外展開の経験を加えて、日本で発展した浄化槽システムが世界の排水処理インフラの整備に貢献していくことが期待される。

掲載日:2022年07月08日
更新日:2022年08月01日

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